取り乱していた沙紀ちゃんは呼吸を整え乱れた制服を着なおし深呼吸をすませると私をキリッと見つめる。
「お前らがやべーやつらだっていうのはよーくわかった。 玄関で話してるのもなんだからお前の部屋見せてくれよ」
「お客なのにでかい態度ですね」
隣に立っていたアキがほぞっと呟く。
「言っておくがなアキ、アタシは一人で帰ろうとしたところコイツが背後から近づいてきて口にハンカチ押し当ててきやがったんだぞ」
「それで? ドラマみたいな即効性ある睡眠薬なんて普通有り得ませんからね」
「………あれだよ。 その……」
強気な口調で話していたのに急に弱々しくなり指で顔をかき始めたので私が割り込む。
「沙紀ちゃんはスーパーヒーロー好きなのよ! 大の大好きでね」
「ばっ、………ってこいつらメイドだからお前の部屋事情は知ってるか」
口を塞がれそうになったが自分で気づいたのか腕を組み頬赤くする。
「でしたら、そのお部屋ナンバーは『9』ですね」
「ユキ、アキ部屋までの案内は不要よ。 後は夕食の準備お願いするわ」
「かしこまりました」 「はいっ!」
お辞儀する二人を確認し沙紀ちゃんの腕に絡め一緒に歩き始め、メイドの二人は足音が耳に入らなくなるのを聞き届け同時に顔を上げる。
「不思議な人ですね」
「ユキ姉さんがそれ言う?」
「お嬢様のご友人が来客の際必ず私達の存在に驚くはずなのですが…」
「あー確かに部屋数を言っても無反応だったね。 もしかして沙紀ちゃんのご両親も持ってたり?」
指で丸を作りユキに見せるが表情が変わらぬまま首だけが縦に動く。
「あまり探りを入れるのはお嬢様に反発しているのと同じなのでやめておきましょうか」
「反発で思い出したけど……さっきのゲンコツ痛かったなー"ユキ"?」
声色を変え意地悪な顔を浮かべながらユキの右腕を掴み上げる。
「…………ここではおやめ下さいアキちゃん……」
今まで変えなかった表情に変化が訪れ更に力を強めると眉がピクッと反応する。
「まあまあ夕食の準備まで時間あるしここで"躾"してあげるからさ……マゾのユキ姉さん」
ユキの頬が赤色に染まる頃にはアキは身体を覆い被せていた。
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階段を上がり三階まで行くと長い通路が待っていた。
「随分自分の部屋数があるんだな。 手に余るだろ?」
「そうでもないよ。 沙紀ちゃんの写真部屋が三つで、寝室が一つ…あっ、その部屋には沙紀ちゃんの寝顔写真が沢山あるよ。 それと「もういい黙ってろ」
中学から現在まで約五年間一度も会話した事ない人に対して三日で自然と話せるようになったのはコイツ(春華)の素質もあるのかもな。
「ところで……あのメイド二人は目の色が同じだったし姉妹なんだよな。似てないが」
「うん、私が小さい時からずっとこの屋敷にいるよ。 両親はあの二人以外雇ってないの」
「こんな広い屋敷を二人だけに任せるとかブラックだな。ブラック」
「減らず口はここからかな~? 二人は文句言わないから任せてるの!」
「ふぃてぇよ!!!」
歩きながら右頬を抓られ悲鳴をあげる。
「とにかく二人よりも私に対しての疑問はないのかな」
パッと手が離れつねられた箇所を擦りながら「ない」と答えると足を止めたので、振り返ると顔を俯かせていた。
「やっぱり調教しないと駄目みたいだね沙紀ちゃん」
「調教ってお前…私は競走馬じゃねえ……ぞ…」
ゆっくりと上げた顔の瞳のハイライトが消えたこいつの姿に初めて会話を交わした時の記憶が蘇り唾を飲む。
「お馬鹿要素は残すようにして他の子に目がいかないようにしなきゃ……ふふふ」
「(またこの状態になりやがった…理由がよくわからないが面倒臭いのは確かだ)おい、また変な事するんだったら本気で名前呼ばねえぞ」
「えっ……そんな……名前呼ばれなかったら沙紀ちゃんと結婚した時に「頭大丈夫か?」
とりあえず目のハイライトも戻り一安心だが、コイツの部屋に入り無事に帰宅できるかの方が心配になってきた……。
~つづく~