ダイニングキッチンにて長方形の木材で作られたテーブルの上に並べられた半分は白いごはんそのもう一方はカレーがかかった皿を並べ終えた沙紀は一息つく。
テーブルを挟み向かい合って座る春華と紗香。春華はニコニコしているがもう片方は食事が置かれたことすら気づかないほど気まづそうに俯いていた。
アタシは数時間前に合鍵を作ったとかぬかしてたヤツの襟を掴み隣の席に移動させ、紗香の向かい側に腰掛ける。
「おい、せっかくカレーを作ったんだ冷めないうちに食べろ」
「はーい! いただきまーすっ」
「お前はどうして当たり前のように居座ってんだよ」
「沙紀ちゃんの手料理が食べられる機会なのにまさか帰ると思った?」
「言っとくが前にお前のところで出してもらった料理ほど美味くないからなっ」
キャビアだの金粉を使った料理を毎日食べてると考えるとやっぱりお嬢様はどこか狂ってそうだ。 ……人の事は言えないが。
「嫌だな~あれは沙紀ちゃんが来るから腕をふるってユキとアキが作ってくれたの。 美味しそうに食べたの写真に撮ってるんだから。 行儀はあまり良くなかったけど」
サラッと指摘されたが聞き流し正面に座る首の下がった紗香の頭を両手で掴み無理矢理顔を上げた。
「お、お姉様? どうなさいました……いたっ」
おでこに人差し指を押し当てグリグリし少し口を尖らせる。
「紗香、お前の悪い癖まだ治ってないのか。 そうやって一人で背負い込んで解決出来ないまま何日も食事を取らない癖が」
「えっ…それは…」
「顔を下げるなっ!」
春華がいつもチャチャを入れて出す怒鳴り声とは違く真剣な顔で妹の目を見つめていた。
「アタシがいなかった一年間寂しいのは分かったがそれでお前は自分から何かやろうとしたのか?」
「ちょっと沙紀ちゃ……」
涙目になる紗香の様子を見て割り入ろうか考えたがこれは姉妹の問題だと理解し春華は黙って二人を観察していた。
「それは今回の入学の件です……」
紗香は目を赤くしながら重く口を開いた。
「なんで自立しようとしたんだ? 明らかに日常知識が不足してると自覚なかったのか?」
「……あの、それは……お姉様にお会いしたくて……」
「結局アタシの後をつけて来たって事か。 それじゃ一人で行動したとは言えないな」
「違いますっ! いえ…全て否定すると嘘ですが、お姉様の行動に憧れたんです。 使用人達がいる中お姉様が全て一人でこなしている姿が輝いて見えて…何だかわたくしだけが取り残されているような気がしたんです」
「………別にアタシのやってた事はそこら辺を歩いてるヤツらが毎日日課でやってる行為で、特別なんかじゃない」
「わたくしは特別…なんだというのも分かりました。 だからこそお姉様がいなくなった後わたくしはわたくしなりに勉強しました。 ……ですが、勉強不足だったようですね」
(沙紀ちゃんと紗香ちゃんが私と同じ待遇なのは調べたから知ってたけど、紗香ちゃんはお嬢様扱いに違和感を覚えたのね)
二人から視線を離しながら耳だけで二人の会話を聞いていた。
「要するに紗香、お前も普通の人になりたいって訳か」
「は、はい」
沙紀は背もたれにかかり手を頭の後ろに回し天井を眺めた。
「………お前だけは巻き込みたくなかったんだけどな。 そのまま屋敷にいた方が幸せだったかもしれないぞ」
「いえ今十分に幸せです」
「?」
紗香の顔を見ると頬赤くしテーブルの上に戻した手をとりニッコリと眩しい笑顔を見せた。
「お姉様と一年ぶりに再会を果たしたのですから…!」
「おいおい、アタシは別に戦場に出向いてたんじゃないんだからな? 大袈裟なヤツだ…」
照れくさそうに手を離し誰もいない方向に顔を向け頬かいた。
「さ、沙紀ちゃんっ!」
たまらず声を上げた春華に二人は驚く。
「い、いいま笑ったでしょっ!? なんで私の前だと見せてくれないのっ!!」
「近い近い! 鬱陶しいっ!!」
「やん。 冷たい…心も冷たい……胸はない」
身体を寄せてきたと思ったら人の胸を撫でて来たので頭上にゲンコツを喰らわせた。
「とにかく無理だと思ったらすぐに屋敷に戻すからな紗香」
「は、はい」
「慣れるまでは一緒にいてやる。 寝る時は流石に自室でな」
「えっ……どうしてですか?」
変な台詞を言ったかと復唱してみるが言ってないと分かり首を傾げる紗香に軽くチョップする。
「いやこっちがその台詞だよ」
「あ、ベッドが小さいからですね! お屋敷では大きなベッドでいつも二人で「紗香ッ!」
大声を出し割り込みつつ春華の耳を手で強くて押さえていたが筒抜けだったようでニヤニヤとし始める。
「はーんふーん。 仲良しなんだね二人とも」
「はい、春華さん……うっ」
目が合っただけで顔色が悪くなったが何とか押さえ込んだようで一息つく紗香にアタシと
「中々大変だね紗香ちゃん…」
「い、いえ…本当に申し訳ありません。春華さんとは仲良くなりたいのに…この様な悪い癖が…」
「三年間で極度の人見知りを直していけばいいんだ。 時間は結構あるからゆっくりな」
「ありがとうございます、お姉様」
「それと他のやつがいる時は別の呼び方してくれ」
「わ、分かりました……姉御」
「それは違う。 お前また変な漫画読んだな」
「あ、あはは………沙紀姉さん」
「私の事は春華お姉様でもいいからね~」
割って入ってきた春華が浮かれた声で答えたが紗香は深刻そうな顔して小さく呟いた。
「………春華さん」
「えぇ……紗香ちゃんそこは冗談でも言ってよ~」
「春華さん」
断固として譲らない姿に絶望的な顔をする春華に対し横で吹き出しそうな顔をする沙紀がいた。
────────────────
食事を終えリビングでくつろぐ沙紀と紗香の後ろから春華が声をかけた。
「そろそろ帰るね。 ご飯ありがと沙紀ちゃん」
「二度と来るなよ」
ソファーに座っていた身体を起こしながら気だるそうに答えると笑顔で手を振り
「じゃあ明日もよろしく~」
「………てめぇ「あの質問していいですか春華さん…」
遮るように恐る恐る手を挙げた紗香に反応し二人は口を閉ざし顔を見るも視線は床を見ていた。
「あ、えっとですね…二人は友達以上の関係です…よね?」
「よく分かってるね紗香ちゃんっ! そうだよ私達は……」
「やっぱり親友ですよね! マブダチとも言いますが!!」
「落ち着けよ紗香。 しかも質問に答えたのはアタシじゃなくてコイツなんだが」
紗香に手を握られたが相手を間違えているというかまだ慣れていないのだろう。 目をキラキラさせているのは分かったが。
「ん、ま、まぁ親友以上でもあるかな」
「アタシはそう思っちゃないが、でそれがどうかしたか?」
「春華さんと…二人きりでお話したいのですがお姉様よろしいですか?」
手を離れそのまま払う動作をしまたソファーに腰掛けた。
「私も構わないけど、ここでいいの?」
「外でもいいですか?」
──────────
靴を履き玄関の扉を二人で抜けすぐに紗香は頭を深々と下げた。
「紗香ちゃん、どうしたの?!」
「わたくしに友達の作り方を教えてくださいっ! ご迷惑かもしれませんがわたくしに出来ることなら何でも致しますので!!」
意外な言葉に顎に手を当て悩む春華をそっと上目遣いで前髪の隙間から覗く。
(入学してまだ間もないから少ないのは気にしないでと言いたいけど今日ほんの少し様子を観察して感じたのは…人見知りで自分からは声をかけづらい性格。 でも勇気を振り絞って震えながら私に……ここは私も力を貸した方がいいかな)
「入学してすぐの時はまず隣の席だった子とお話したよ。 沙紀ちゃんじゃない子だけど今も同じクラスで仲良しだからさ。 まず会話から始めないと相手の事なんて理解できないでしょ?」
「……は、はい」
「そうすれば自然と一緒に帰宅したり周りの子達が集まったりで友達はすぐにいっぱいになるから」
(しまった。 ハードルが高かったかな…。 友達作りに気にかけた記憶がないからこれくらいしか言えない…)
慌てて次の言葉を考えていると今日初めて紗香の青色の瞳を見る。
「ありがとうございますっ! 明日隣の方とお話してみようと思います」
純粋な瞳に見入ってしまい数秒頭が真っ白になったが頷き笑顔で答える。
「うん。 紗香ちゃんならきっと大丈夫だよ! 何かあればすぐ相談してくれて構わないから」
何度も頭を下げる姿を後ろに春華はマンションを後にした。
すぐ近くの有料駐車場にてメイドの迎えが来ていると携帯電話にメールが入り車を探す前に暗闇から人が姿を現した。
「お疲れ様ですお嬢様」
見慣れたメイド服で白髪の女性が両手でスカートの裾を軽く掴み背筋を伸ばしたまま一礼する。
「悪かったわねユキ。 急な予定を入れて」
「滅相もございません、友人との交流は大事ですから存分に楽しんで下さい。 ……どうやらそのお顔だけでも十分に結果が分かります」
「ふふ、そう? ……ねぇユキ、姉妹っていいものね」
「えぇ、ごもっともです」
ゆっくり歩きながら車の前で止まり助手席に乗り込むと春華は左右の口角を上げ、
「姉妹両方食べてるのも悪くないわね…」
流石姉妹だけあって反抗的な態度が似ている上今後の成長によっては紗香ちゃんは姉に似るかもしれない。 そう考えただけでもワクワクする。 一匹狼子に寄り添う子犬両方を味わえるなんて最高じゃない…。
──────────
翌週の朝自分のクラスに入り近くにいる人に挨拶をしながら、紗香は昨日言われた通り隣の席に座る人の様子をチラッと見る。
教卓から一番遠く窓の近くに座る、前髪が目までかかっているダークブラウンで耳元の左右の髪がはねている。 腰までかかる長い髪は朝日に照らされ少し眩しくも見えた。
携帯電話を眺めている横顔をじっと見ていると少女はため息を小さく吐きゆっくりとこちらに顔を向け目が合う。
「あっ…」
「あのさ…やたら視線を感じたんだけど…気のせいじゃなかったみたいね」
ボソボソと喋る少女から思わず視線を逸らして目をつぶっていたがバレてしまった。
「(目を合わせて話さなくては…)ごめんなさ……い」
勇気を出して目を合わせたがいつも起きる気分の悪さに襲われずしっかりと視線を合わせられる。
彼女の瞳が前髪がかかっているせいなのか半目の下にクマがうっすらあるのも分かるほどまでじっくりと見れている。
「顔になにかついてる? …あ、クマさんはいるか…ひひ」
「ぷっ」
思わず吹き出してしまい手を当て笑っていると彼女は照れ隠しの為か頭をかく。
「つまらないギャグに笑うなんて相当つまらない人生か真面目な人生を送ってるの?」
「え? それはもちろん真面目な人生を歩んでるつもりですが……」
「はぁ……。 この学校の生徒はやたらお金持ちが多いと思ってたけどアナタもそっちの方か……名前は」
「紗香です。 お名前を伺ってもよろしいですか?」
「『
「は……うん。よろしくね結依さん。 その…私達はもう友達かな?」
何故かまた頭をかきそっぽを向く。
「高校一年にもなって友達って言葉恥ずかしくないのか……お金持ちはみんな紗香みたいなのかな」
「皆さんはきっと私よりも経験豊富で天と地ほどの差があるはずです…。わたくしは屋敷での勉強だけでしたから」
「ひひ…わたくし…箱入り娘で生娘か。 本当にいいのわたしが友達で? 他の人達の方が波長が合うんじゃない」
意地悪そうな顔で人差し指を立て四方八方へ指すがわたくしは首を傾げその問へ疑問を抱く。
「結依さんはわたくしと波長が合いませんか?」
「い、いやそういう訳じゃ…ひ、ひひ(こうまで真面目な子相手に冗談言うのはキツイ…)」
お互いしどろもどろしていると何やら廊下が悲鳴やら歓声で騒がしいのに気づき二人は廊下へ出れる扉へ身体を向けるとこの学校に似つかわしくない小柄な女の子が太めの眉毛を上げクラスの中に入りキョロキョロしだした。
「あの方この学校の制服を着ていますね。 それにしてもわたくしより幼い…」
「左腕に付けてるワッペンを見れば分かるけどあの子この学校の生徒会長よ。誰か探してるけどわたしには関係なさそ」
「生徒会長様でしたか…こちらに向かってきましたが」
「ふーん」
「いやー一年生はみな初々しいのう!」
見た目とは裏腹に声は高いが口調に違和感を感じたが勢いで迫ってきた少女は紗香の肩をポンポンと叩く。
肩まで垂れる桃色の髪の左右に紅いリボンを付けたツイテール少女の視線を避けたが視界に入り目が合う。
(我慢しなきゃ…うっ)
クラスと廊下から熱い視線がこの生徒会長に当てられていると理解はしているが大人数に人混み酔いを起こしそうだ。
モヤモヤしていると後ろから結依が腕元を引っ張り気が逸れる。
「は? 生徒会長と知り合いなの紗香」
「いえ、本日が初対面…」
「お主は初対面じゃが、わちはじっくり観察させて貰ってたぞー! わははー!!」
「紗香、アナタ意外にも問題児なの…? 人は見た目によらないとはこの事か」
慌てて立ち上がり否定しつつ少女の顔が見えなくなり首を下に下げると顔を上げてはにかんでいた。
「ようやく友達が出来たのだな、お主もあの姉と似て引っ込み思案なのだな」
「沙紀姉さんをご存知なのですか?!」
腕を組み近くの空いていた席に座り上着のポケットから一枚の紙を取り出す。
「余は入学式の挨拶をしていたがお主は緊張してかずっーーと下を見ていたからのう知らないのも仕方ない」
「申し訳ありませんっ!」
「学校生活のイメージで頭パンパンだったようじゃな、よろしい。 自己紹介しておこう。 余の名前は『
自己紹介しただけでクラスと廊下から歓喜が湧き上がり紗香は冷や汗をかく。
顔色を見て察してくれた有栖はすぐに立ち上がり先程出した紙を紗香の胸に押し付ける。
「っと、辛そうじゃから退散するぞ。 それを姉に渡しておくのだぞー」
追いかける者やその場で盛り上がる人達が多い中紗香は試練を乗り越えたような息を吐きながら席に座る。
「まぁ緊張するのは当然だよね。 あんな子がここの生徒をまとめる会長だから」
「いえそれで緊張したのではなく…人見知りで…目を合わせるのも苦手な身で……」
「………ん? わたしとは平気なの? 今も合ってるけど」
「結依さんの瞳は……少しお姉様に似てるので…ふふ」
似ている点は色が黒というだけだが、寄り添っても怒らないそんな雰囲気が感じ取れた。
予鈴のチャイムがなり慌ただしく席に座る人達の中わたくしと結依さんはお互いにさっきまでの騒がしさを微笑んでいた。
(お姉様と有栖様の関係が気になりましたがこの紙はお姉様宛の物ですし見ずに渡さないといけませんね…)
~つづく~