提督一家と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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かわいいいきもの

 

 夏真っ盛りの泊地。

 そして今日も猛暑日となり、訓練や任務に赴く者たちは塩飴等を用意して臨んでいる。

 訓練の場合は適度に日陰で休めるが、任務ではそうはいかない。しかし艦娘とは人間であって人間とは身体の造りが違うからこそ、暑くても寒くても海の上を駆けられるのだ。

 

 でもーー

 

「おそとであそぶ〜!」

「お父さんが帰ってきたらね〜」

 

 ーーあがの(この時3歳)にとってはどんな日でも関係なく遊びたい。今日のあがのの髪型はツインテールで、フリフリの白いリボンで結ってある。

 あがのは絵本やお絵描きやお人形遊びも大好きだが、どちらかと言えばアウトドア派。そして今に至っては外で遊びたい気分なのだ。

 しかし、今はダメだと母阿賀野に言われ、少々不貞腐れながらも大人しくそのお膝の上に留まっている。

 

 提督は今、義足の定期点検のため明石の酒保へ行っていて、二人はお留守番。

 今日はいつもより仕事が少なく、午前中の内に終えてしまった。

 幸い、今日はガチ勢が揃って任務と訓練中なので、いつも以上に平和な昼下がりを過ごしている。

 

「おとーたんおそいね〜?」

『うん、おそいね〜』

 

 あがのの最近のマイブームは鳥海作の黒い犬のぬいぐるみとお話しすること(お話しと言っても自問自答していて、犬の声はあがのの裏声)。鳥海が丹精込めたことでクオリティの高い可愛らしいぬいぐるみなので、たちまちあがののお気に入りになったがーー

 

()()()もおとーたんおそいねって!」

「そっか〜」

 

 ーーぬいぐるみの名前が「お肉」なのだ。

 

 阿賀野や鳥海が何度『犬だ』と説明しても、あがのの目には狼に見えた。なので狼の主食は何かと父親に訊ね、父親は『狼なら肉じゃないか?』と答えると、その瞬間からこのぬいぐるみの名前が『お肉』となった。

 あがの曰くーー

 

『すきなもののおなまえがいいとおもうから!』

 

 ーーらしい。

 

 因みにあがののお気に入りはこのお肉だけでない。提督が去年のクリスマスにプレゼントしたシャチのぬいぐるみ(サイズはラグビーボールくらい)の「パンダ」も大好きで、今も持っている。

 なのであがのは両手にぬいぐるみを抱え、一人で色々とお話して暇つぶしをしているのだ。

 そんなあがのをーー

 

「可愛いわねぇ♪」

「うん、可愛い♪」

「姪っ子サイコーッ!」

 

 ーー叔母たちは微笑ましく見守っている。一人だけテンションが無駄に高いが、これはもうデフォである。

 

「矢矧は相変わらずね」

「矢矧ちゃんだからね」

「私としては能代姉ぇも酒匂も、どうしてそんなに平然としていられるのか不思議だわ」

 

 矢矧の言葉に二人は『いや、寧ろどうしてそこまで興奮するのか?』と思ったが、訊くだけ無駄なので二人は華麗なるスルーを決める。

 すると矢矧は我慢の限界が来たのか、ぴょこぴょことあがのの元へ擦り寄った。

 

「あがの〜♡」

「なぁに?」

「今度は矢矧お姉ちゃんが抱っこしてあげるわ♡」

「いま、ふたりとおはなししてて、だっこしてるから、あとでね?」

「っ!!?」

 

 振られた……と3人の姉妹が思う中、振られた本人はガックリとその場に両膝を突く。

 子どもは夢中になると周りを気にしない。なのでタイミングが悪かっただけだ。

 

「わ、私の方が柔らかいでしょ〜? あがの、抱っこしてるといっつも私のおっぱい揉んでるじゃない?」

「いまはいい。ふたりの方がふかふかだもん」

「っ!!!?」

 

 諦めの悪さが更なる惨劇を生み、矢矧のハートはまさにズタズタにブレイクされた。

 そんな矢矧を姉妹たちは苦笑いで見つめるが、当の本人はそれどころではない。

 母である阿賀野が大好きで負けるのは知っているし、高雄にも勝てないと矢矧は思っている。でも他には勝てると思っているので、あがのの中の抱っこしてほしい人ランキングでは堂々4位に入ると自負している。因みに1番が提督で2番が阿賀野。

 なのにその4位を差し置いて、あの喋れもしない、触れ合えもしない布と綿の塊(ぬいぐるみ)に負けた。

 それが矢矧は悔しくて仕方なかった。

 

(おのれ、人工コットン100%! 滅せよ、毛玉!)

 

 嫉妬心メラメラで矢矧が唸り出すとーー

 

「……ばぁっ☆」

 

 ーーあがのが膝から降りて、すぐ矢矧の目の前まで来ておちゃらけてみせたのだ。あがのにとっての『あとで』とは結構早いらしい。

 ただそれが直撃した矢矧は即座にあがのを抱え、床なのに寝転がってしまう。しかも言葉にならぬ声を出して、盛大に身悶えていた。

 

 一方、それを見ていた姉妹はあがのの行動が提督にそっくりだったので、同時に『んんっ』と咳払いして胸キュンに耐えるのだった。

 

 ーーーーーー

 

「ふぃ〜、あっちぃな〜……」

「本当だね〜……」

 

 あのあとすぐに提督が戻ってきたので、一同は揃って埠頭へやってきた。

 邪魔にならない場所へパラソルとベンチテーブルを設置し、夫婦はパラソルの下で夏の暑さを恨む。

 

 一方ーー

 

「右手をご覧くださーいっ」

「はーい!」

「海です!」

「わーい!」

「左手をご覧くださーいっ」

「はーい!」

「海です!」

「わーいわーい!」

 

 ーーあがのは矢矧と一緒に海上散歩中でその後ろには能代と酒匂もいる。

 艦娘だけにしか扱えない浮遊ユニットは当然あがのも扱える。歩けると同時に海上にも立てるようになるため、暑い日なんかは涼しい海の上を散歩するのだ。

 それに埠頭は広く、潜っても浅いため、あがのにとっては大きな庭みたいな感覚。仮に溺れても叔母が即座に助け出すだろう。

 

 ただ、矢矧のなんちゃってガイドの薄っぺらさには能代たちも苦笑いだ。

 

「海なんて当たり前よね」

「だって海の上に立ってるもんね〜」

 

 そう、一面海のこの場で、右も左も海なのにガイドなんていらないのだ。

 もしあがのがそれなりの年齢なら「お姉ちゃん、何言ってるの?」なんてツッコミをされただろう。

 

「あがのの成長は嬉しいが、やはぎんのあの姪っ子バカは増す一方だなぁ」

 

 そんな矢矧を見ながら、提督は苦笑いでこぼすように言った。それは阿賀野にもちゃんと聞こえていて、阿賀野は「一生ああなんじゃないかなぁ」と返した。

 

「一家で楽しく海水浴?」

 

 そこへ飛鷹がやってくる。飛鷹は酒保で買い物の帰りで、手には紙袋を持っていた。

 

「おう、飛鷹じゃねぇか。今日は暇だからな、こうして遊んでるんだ」

「ただ慎太郎さんは義足の関係で今は入れないんだけどねぇ」

 

 阿賀野がそう付け加えると飛鷹は「あら、残念ね」と笑う。飛鷹の性格的にこういう場合は前向きな言葉を返すのだ。

 

「そうなんだよなぁ。防水加工の義足を点検に出しちまってるからよ」

「まあ、幸い埠頭にはクラゲも入って来ないし、まだまだ暑い日は続くから間に合うでしょう」

「だなぁ。デブにはキツい季節だ」

 

 提督の最後の言葉に飛鷹は「ならダイエットしたら?」と鋭いツッコミを入れる。

 しかし提督は「俺は泳げる豚だからいいのさ」などと謎の反論をするのだった。

 

「飛鷹さんは何を買ってきたの?」

 

 阿賀野の質問に飛鷹は「あぁ、これ?」と言って、紙袋からある物を取り出して見せた。

 

「…………貝?」

「しじみか」

 

 提督の回答に飛鷹は正解と言う意味で笑みを浮かべる。

 

「しじみで何かするの?」

「お味噌汁作るだけよ。私、しじみのお味噌汁が好きなの」

「なるほど♪」

 

 飛鷹はそう言うが、実は飛鷹がしじみの味噌汁を好んで飲むようになったのは提督の影響が強い。

 

 まだ鎮守府に間宮も伊良湖も着任する前、提督と料理の出来る艦娘たちがここの厨に立っていた。

 その際、提督がしじみ汁をかなりの確率で作っていたため、飛鷹に限らずここにいる艦娘たちの中でしじみ汁を好む者は多い。

 しかも今になっても根強い提督のしじみ汁ファンはいるため、提督が定期的に作る『男の丼飯』シリーズの汁物は決まってしじみ汁なのだ。

 

「作ってって言やぁ作ってやるぞ?」

「それはまた今度でいいわ。今は家族との時間でしょ?」

 

 その時間を削らせるほど、私はわがままじゃないの……と飛鷹が付け加えると、提督は「ホント、お前はいい女だな」と返した。当然、阿賀野にはちょっと睨まれたが……。

 

「それに時期的にそろそろ提督の丼シリーズやるでしょ? その時に堪能させてもらうわ」

「ならそうしてくれ。今回も美味いもの作るから」

「えぇ、楽しみにしてる。それじゃ」

「またね♪」

「またな」

 

 こうして飛鷹はその場をあとにしたがーー

 

「慎太郎さ〜ん、お嫁さんの目の前で他の女の人を褒めるのって良くないと思うな〜」

 

 ーー早速阿賀野が行動を開始。

 阿賀野は提督の隣にすすすと移動してきて、ピッタリと肩をくっつけて笑顔というプレッシャーを与える。

 でも阿賀野はそこまで怒ってはいない。ただ単にちょっと嫉妬しただけである。その証拠に阿賀野は提督の手を恋人繋ぎで握り、お顔はニコニコだ。

 端的に言えば「阿賀野のことも褒めて♡」という催促である。なので提督は「阿賀野よりいい女はいない」と耳元で囁いてから、妻の頬に軽く口づけをした。

 するとーー

 

「あぁぁぁぁぁ!」

 

 ーーあがのが飛んでくる。

 

「おかーたん、おとーたんし(ひ)とりじめしてる! めっ!」

 

 独り占めはダメだと言い、あがのは二人の間に無理やり割って入ってきた。

 あがのは両親が仲良くしてるのは見てて嬉しいが、お父さん子なのでちょっとヤキモチを焼いてしまう。流石母娘。似るものである。

 

「独り占めしてないよ〜? あがのが遊んでたから、お母さんがお父さんとお話ししてたの〜」

「でもちゅうってしてたもん! しとりじめだもん!」

「お父さんがお母さんのこと好き〜ってしてくただけも〜ん♪」

「むぅ〜!」

 

 張り合う母とその娘。当然、父は苦笑いだが、娘から「わたしにも!」とせがまれるとするしかない。

 

「ちゅっ」

「んへへへ〜♪」

 

 大好きな父から頬にキスしてもらうと、あがのはもうご機嫌。両手で自身の頬を押さえ、頭を振って喜びを爆発させる。

 

「おとーたんもあがののことすき〜って!」

「良かったね〜♪」

「うん!」

 

「は〜、姪っ子が天使過ぎて辛い」

「本当に矢矧はブレないわね」

「矢矧ちゃんだもんね〜」

 

 こうして一家とその妹たちは平和な午後を過ごしたが、夕方にガチ勢の帰還によっていつもの騒がしさが戻るのだったーー。




ちょっと短めですが、平和な鎮守府の夏の風景を書きました♪

読んで頂き本当にありがとうございました!
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