提督一家と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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お姉ちゃんは誰の?

 

 とある日の昼下がりの鎮守府。

 この日も艦娘たちはその責務に全力を出して取り組んでおり、ある者は任務、またある者は訓練、またまたある者は遠征……各々がそれに誇りを持ち、自信に満ち溢れている。

 

 だがーー

 

「………………っ!」

 

 ーーこの矢矧という艦娘だけは悔しさや嫉妬心で己の拳を力強く握り、ある一点を射抜んばかりの眼差しで見ていた。

 その一点とはーー

 

「たかいたか〜い!」

「あはは、今度はこのまま走るわよ!」

「わ〜☆」

 

 ーー矢矧にとって可愛い可愛い目に入れても痛くなく、寧ろお願いしたいくらいの大天使姪っ子のあがのだ。まあそれはいつもと変わらないが、どうして矢矧が嫉妬に狂っているのかというと、あがのをコロラドに奪われたから。

 因みに今あがのはコロラドに肩車されていて、髪型は今日は母親と同じで纏めずに流している。

 

 コロラドとはあのアメリカ戦艦、そして長門や陸奥、ネルソンと同じくビッグ7として名を馳せるコロラド型一番艦の艦娘。

 着任当初はそのプライドの高さから提督の飄々とした態度が気にくわず毛嫌いしていたが、提督本人のこれまでの戦果や歩んできた道を知り、その上で自分の功績などを鼻にかけない人格者と理解し、尊敬を込めて態度を改めた。ただ、提督が独自にコロラドに付けた愛称「コロちゃん」または「コロラドン」は呼ばれたら悪い気はしないが、照れ臭くてくすぐったい気持ちになるそうな。

 今では何かと忙しい提督やその奥様の力になれればと、あがのの面倒を見るにまでなっている。

 阿賀野もコロラドはガチ勢と違って、娘に変なことを吹き込まないので高雄たち同様に安心して任せられる存在だ。

 

 だが、矢矧にとっては大問題。

 何故ならあがのがコロラドに懐き、今この瞬間も矢矧の手から離れてコロラドの元へ行ってしまっているから。

 あがのはまだ4歳。あがのはただ単に遊んでくれるお姉ちゃんが増え、みんなで遊べばより楽しいと思っているだけだ。

 たがしかし、矢矧は駄目だった。

 何しろ今日は常日頃あがのために侍ってくれている高雄たちが訓練等で抜けており、矢矧にとってはあがのを独り占め出来る絶好機……なのにコロラドがわざわざそれを聞きつけて休暇を返上して参加してきた。

 そう、矢矧にとってコロラドは邪魔なのだ。とてもとても邪魔なのだ。お呼びではないのだ。

 

 しかもーー

 

「どれ、今度は余がおんぶして高速スピンをしてやろう♪」

「それが終わった今度は私が陸奥とキャッチボールしてやろう」

「たくさん遊びましょうね、あがの♪」

 

 ーーチームビッグ7のネルソン、長門、陸奥まで連れて来たので、余計に矢矧の出る幕がなくなっている。

 そもそもこの4人は揃って休暇であり、のんびりとアフタヌーンティーでも嗜もうとしていた。

 しかしコロラドが高雄たちのことを聞きつけ……というより、阿賀野から「あがのと遊んであげてほしい」と頼まれてみんなを引き連れてきたのだ。

 阿賀野としては娘のことを考えてのことなので、仕方ない。だから矢矧もこの嫉妬心をなんとか消化させようと、一点にコロラドを睨むことは止めず、解いた手では近くにあった雑草をブチブチと引っこ抜いていた。

 

(あがの……私の可愛い姪っ子が……戦艦たちの虜になっている! あがの、早く私のところに帰ってくるのよ!)

 

 そうは思っても、無邪気に遊ぶあがのの邪魔をするのは愚の骨頂。よって矢矧は心の中であがのに訴えるしかなかった。

 

「草むしりですか、矢矧さん?」

「?」

 

 声をかけられた矢矧が後ろへ振り返るとーー

 

「草むしりなら、漣もお手伝いしましょうか?」

「暇だから子日もお手伝いする〜!」

「ではこの不知火も」

「うーちゃんもお手伝いするよ〜!」

「は、春雨もお手伝いしますっ」

 

 ーー漣、子日、不知火、卯月、春雨の5人がおり、更にはーー

 

「お、ならアタシと姉貴も手伝うぜ?」

「えぇ、私たちでよろしければ」

 

 ーーガリバルディとその姉アブルッツィも居た。

 

 アブルッツィとガリバルディはイタリア軽巡洋艦姉妹。アブルッツィが一番艦で落ち着いた艦娘。ただちょっと妹に過保護なため、どことなくその雰囲気は龍田に似ている。因みに提督の生き様に尊敬の念を抱いており、妹共々心から尽くそうと思って行動している。

 そしてガリバルディが二番艦。姉と違って口調や態度が少々荒いものの、摩耶や天龍と同じだ。それに可愛いぬいぐるみや動物に目が無い可愛い子。提督からは「ガリバー」と呼ばれ、みんなからも親しまれるきっかけとなったのでとても懐いている。因みにアブルッツィのことは「ルッツ」と呼び、アブルッツィ本人はとても気に入っているとか。

 

 場所は中庭なので誰が来てもおかしくないのだが、矢矧は首を傾げる。

 何故なら今いるメンツ全員の髪色がピンクだからだ。

 

 そんな矢矧の疑問を汲み取り、卯月と漣が何故かドヤ顔をした。

 

「これはピンク髪同盟なんですよ♪」

「さっきまでみんなで食堂でお菓子食べて交流を深めたんだぴょん♪」

 

 なるほど、矢矧は納得したようにコクコクと頷く。

 

 ピンク髪同盟……それはその名の通り、髪色がピンクの者のみが所属することを許される同盟である。

 同盟と言ってもただの仲良しグループで、やることは定期的に集まってお茶会をしたり、お泊り会をしたりと他のグループとやることは変わらない。

 因みにだが、ピンク髪同盟の他に金髪同盟、銀髪同盟、黒髪ロング同盟、ポニーテール同盟、ツインテ同盟、特殊髪型同盟、奇抜髪色同盟(紫や緑や青)……などなど数多くのグループが存在し、それぞれが仲間たちと交流を深めている。ただ何故頭髪で括っているのかは不明。

 

「? でもアークさんとか江風はいないのね」

「あの二人も誘ったけど、二人共『私(江風)は赤髪だ』って」

「お二人はワ〇ピースのシャ〇クスが大好きなので、意地でも赤髪でいたいそうですよ」

 

 矢矧の疑問に子日と不知火が答えると、矢矧は苦笑いした。

 拘りは人それぞれなのでこればかりは本人の気持ちが優先だろう。ただ一人で複数のグループに入っている者もいるため、基本的に個人の自由なのだ。

 

「それで、中庭のどの辺まで草むしりすればいいんだ?」

 

 ガリバルディがどうすればいいのか指示を求めると、矢矧は「そもそも草むしりしてないから大丈夫よ」と返した。

 

「あん? ならなんだって草むしってたんだ?」

「ガリィ、あのせいじゃない?」

 

 アブルッツィが指を指した方をみんなして確認すると、付き合いの長い卯月たちだけでなくガリバルディも『あぁ、なるほど』と口を揃える。

 

「もっともっと〜!」

「そ~れ〜!」

「きゃ〜☆」

「よいしょ〜♪」

「きゃ〜☆」

 

 皆の視線の先では長門が陸奥に向かってあがのを放り投げ、優しくキャッチした陸奥が長門へまた放り投げ返すのを繰り返していた。普通の人間がやっているなら危険だが、艦娘であり戦艦の二人……しかも陸奥に至っては自称"ママ"なので娘に怪我をさせることは絶対にない。

 

「……ふふ、可愛いでしょう? あれ、私の姪なの……」

 

 矢矧がやさぐれ気味に言うと、言われた面々は『知ってるよ』と心の中だけでツッコミを入れて、口では『可愛いね』と返した。みんながみんなこういう時の矢矧は面倒くさいと知っているからだ。

 アブルッツィやガリバルディはこの矢矧しか知らないが、他はあがのが生まれる前の矢矧を知っているため、今と前との差が激しいとつくづく実感した。

 

「? 草むしってねぇなら、矢矧も交ざればよくね?」

「何言ってるの! あがのがあんなに楽しんでるのを、この私に邪魔しろって言うの!? そんなの無理よっ!」

 

 ガリバルディの言葉に食い気味で反論する矢矧に、みんながみんな『あぁ、始まった』と思ったのは言うまでもない。

 こうなると矢矧による"あがのの幸せ論"が止めどなく垂れ流されるので、不知火が指をパチンと鳴らしてある合図を出した。

 その合図に反応したのは卯月と子日と春雨の三名。

 何をするのかというとーー

 

「矢矧さん、ぎゅ〜っ」

「元気になれ〜っ」

「ぎゅ〜っ」

 

 ーー矢矧に抱きついて癒やすためだ。この三名は今いるメンバーの中でも相手に甘えてみせることで、相手が自分たちを構ってあげたくなる雰囲気を作れる。

 なので矢矧は三名のお陰であがのを構えない寂しさを埋めた。

 

「ありがとう」

『いいえ〜♪』

 

 矢矧を慰めることが出来、自分たちも矢矧から頭を撫でてもらえる。正にWin-Winである。更には矢矧の訳の分からない持論を聞かずに済むのでWin-Win以上の達成感だ。

 

 そんなことをしているとーー

 

「あーーーっ!」

 

 ーー突然、あがのが叫び声をあげた。

 あがのが長門に下ろしてもらうと、一目散に矢矧のところまで走り、撫でられている卯月たちを押しのけて矢矧の胸に抱きついた。

 矢矧が突然のことに目をぱくちくりさせているとーー

 

「やはぎおねーちゃんはあがののおねーちゃんなの! みんなおねーちゃんいるでしょー?」

 

 ーーだからとっちゃめっ!と言ってあがのはギューッと矢矧に抱きついて固辞した。

 

 あがのは今は一人っ子。そして姉妹や兄弟がこの先出来たとしても、自分には姉も兄も出来ないと知っている。だからこそ、矢矧という"姉"は自分だけの姉だと思っているのだ。

 子どもらしい、可愛い持論。これに誰もが目を細め、その表情により深い慈愛が込められる。ただ一人を除いて。

 

「あ、あが、あがあが、あがのののの……」

 

 壊れたレコードのようにあがのの名を繰り返し口にする矢矧。そんな矢矧にあがのは「やはぎおねーちゃんはあがのだけだよね?」なんて愛くるしく上目遣いで訊ねると、全員が戦慄するーー

 

 

 

 

 

 これはヤバイ

 

 

 

 

 

 ーーと。

 

 すぐに行動を開始したのは陸奥だ。

 島風も目を見張る速さであがのを矢矧から引っ剥がすことに成功すると、今度は不知火と漣がどこからともなく取り出した傘をあがのを守るようにして矢矧に向けて差す。

 この間、ほんの1、2秒。

 そしてーー

 

「私は誰がなんと言おうとあがののお姉ちゃんよぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 ーー雄叫びの如く叫んだ矢矧は鼻から真っ赤な姪っ子LOVEを噴き出して地面にその身を預ける。

 不知火たちのお陰であがのにそのLOVEが降り注ぐことはなかった。そして矢矧を今の状態にした張本人はーー

 

「えへへ、うれしい〜♪」

 

 ーー幸せそうに陸奥の胸の中で満足していた。子ども故なのか母親譲りの天然遺伝子によるものなのかは分からないが、あがのはどうして矢矧が鼻血を噴き出しているのか分かってない。

 それはあがのにとってはそんなことよりも「矢矧が姉である」ということの方が重要だから。

 

「またコイツは鼻血を噴き出してるのか……」

「仕方ない、ドックへ運ぶわよ」

 

 ネルソンとコロラドに担がれ、幸せそうな顔で鼻血を流す矢矧はドックへと消えていく。

 その間、ドックまでの道程には矢矧の鼻血の跡が生々しく続いてしまったため、卯月たちが本人の名誉のために掃除したというーー。




やはぎんの扱いが鼻血要員になりつつありますが、ご了承ください。だってこのやはぎんも私としては可愛いんだもん←

そしてあがのは相変わらず天使であるマル

読んで頂き本当にありがとうございました!
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