提督一家と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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真・夜の艦娘寮

 

 秋が深まってきた泊地。興野一家が過ごす鎮守府も秋色に染まる。

 食堂では連日連夜秋の味覚が並び、任務等で疲れた艦娘たちを癒やし、読書家の者たちは本を片手に時を過ごし、芸術的な者たちは作品製作に時間を費やしていた。

 

 この時期は流石に夜風も肌寒く、湯冷め防止や防寒として多くの艦娘たちが近頃は制服の上に上着やらちゃんちゃんこ、はんてん等を羽織っている。

 中でも海外勢は明石印のはんてんがお気に入りらしく、カラーバリエーションも豊富で明石に頼めば国旗柄にしてくれるのでより目立つ。特にイギリス勢が好んで頼んでいるユニオンジャックや旭日旗模様は遠目でも目を引く。

 しかし一際人目を引く(悪い意味で)のはガチ勢が好んでいるはんてんだろう。以前は阿賀野に悪いからと明石もその注文を拒んでいたが、あがのという確固たる妻の証が誕生した以上、ガチ勢の暴走を緩和しようと明石は阿賀野の了承も得て編み出したのが通称『提督マジLOVE♡ガチ恋はんてん』である。

 

 その名の通りそれは羽織っている者がどんな人格者であろうと雰囲気を痛々しくさせるはんてんだ。

 右の襟に『提督に乗船して欲しい!♡』、左の襟に『ケッコンカッコガチ!♡』という文字が並び、両胸にある控え紋と呼ばれる場所には右に提督のプリント写真、左胸に所有者のプリント写真が貼られている。更に腰柄はハートマークとケッコン指輪を模したリング状の柄が並び、背中の大紋は加工ではあるものの『提督と所有者のキスシーン合成写真』がデカデカとプリントされているのだ。

 これを見て『自分も欲しい!』と願うのはガチ勢くらいだろう。しかししかしここは提督ガチ勢が多くいる鎮守府だ。売れないはずがない。多い者は常用に加えて替え用、保管用、崇める用、『はぁはぁ用』・『ちゅっちゅ用』・『はかどる用』と何枚も所持しているとか。

 大声に出しては言えないが、昼寝中の提督にこっそりとそれを羽織らせ、本人の残り香付きはんてんも高値で取引されているが……そのことも妻は黙認している。

 そんな被害者たる提督はそんなことがあるとも露知らず、寮内でのみなら着用を許している状態だ。提督としては艦娘たちの願いは出来る限り叶えてやりたいからである。

 

 と、ガチ勢事情はここまでに、夜の鎮守府は相変わらず穏やかだ。

 そして一家の過ごす本館の部屋では、いつもよりとても静かな時が流れていた。

 

「慎太郎さん、二人っきりだね♡」

「……そうだな」

 

 今夜は夫婦二人きり。何故ならばあがのは矢矧の部屋にお泊まりに行っているからで、明日の朝まではあがのが戻りたがらない限り夫婦の元へ帰って来ないからだ。

 

 これは矢矧……と言いたいが、高雄と電が考えたこと。因みに矢矧は誰の部屋にあがのを泊めるかで高雄が呆れるくらいごねた。それはもう癇癪を起こした子どものように。床に大の字で背中をつけてまでごねていたのだ。

 

 四六時中我が子の面倒を見るのはその親として当然であるが、たまには子育てを忘れて夫婦の時間を持ってもいいだろうと高雄たちが計画したのだ。

 子は産まれても、夫婦は元から周りが目を逸らすほどの仲。よってあがのも5歳になり、それなりにお泊まりしてもいい年齢として今回のようになった。

 

 なので―――

 

「慎太郎さ〜ん、だぁい好き〜♡ いつまで経っても、とってもとっても愛してるの〜♡」

「俺も同じ気持ちだぜ」

 

 ―――夫婦は前に戻って、新婚さながらの仲睦まじい雰囲気だ。

 特に阿賀野に至っては風呂でも提督を美味しく頂き、今もまだその余韻に浸って、いつも以上に甘い雰囲気を帯びている。

 浴衣も着崩し、いつでも頂いてもらう気満々。一方の提督はそんな妻の状態に若干引き気味。しかしこれだけ甘えてくれるのは男冥利に尽きるということで、自身も存分に妻を甘やかしていた。

 

「阿賀野、酒〜」

「は〜い♡」

 

 なので今夜の晩酌は夫婦仕様。

 阿賀野は日本酒を口に含み、人肌に戻してから、口移しで提督に飲ませる。

 しかしそのまま甘く深い愛に満ちたキスが続くので、晩酌とは言い難い。

 

「んむぅっ♡ ん、ちゅる……しんたろ、うさぁん、これ……むふぅっ、ちゅっ、ぢゅるる……、しゅごい……あたま、とろけひゃう……んんっ♡」

 

 いつもの夜戦(意味深)ならば軍配は阿賀野にあがるが、本日はその阿賀野がキスだけでノックアウトされている。それだけ提督も本気のキスを妻にしているということ。

 よって阿賀野はキスだけで両足がピーンと伸び切った。

 

「おいおい、キスだけでか?」

「だ、だって……♡」

 

 久し振りなんだもん……と息を整えつつ、弱々しく返す阿賀野。しかし提督がすぐにそんな妻の上に覆い被さった。

 

「二人目はカタカナでアガノになるだろうな」

「三人目はローマ字?♡」

「どうだろうな。そもそも二人も三人も作れるのかすらまだ分かってねぇからな」

「じゃあ、私たちが最初になるかもね〜♡」

「そうなったら恥ずかしくて表出れねぇよ」

「私は胸張って歩くよ〜♡ 愛する慎太郎さんとの宝物だもん♡」

 

 愛らしい妻の言葉に、提督も辛抱堪らずといった具合に甘いキスで口を塞いだ。

 こうして夫婦の久し振りの甘い夜は更けていった。

 

 ーーーーーー

 

 所変わり、軽巡洋艦寮の4号室ではーー

 

「きゃ〜、私の姪っ子かわいい〜!♡」

 

 ーー矢矧が読んで字の如く狂喜乱舞していた。

 

 その姿はあの由良ですら引く勢いだ。因みに由良も当然のようにあのはんてんを持っているが、矢矧からあがのに見せたら燃やすと言われたので自身の物入れに厳重に仕舞ってある。

 

 矢矧がどうしてこんなにも荒ぶっているのかは姪っ子LOVEなので説明不要であるが、実はーー

 

「はわぁ、本当にかわいい〜♡」由良も

「天使って本当にいたのね〜♡」夕張も

「今だけは矢矧ちゃんに感謝したいな〜♡」名取も

 

 ーーこのようにメロメロ状態。

 何故なら今、あがのはみんなの着せ替え人形になっているからだ。着せ替え人形となっていてもあがの本人も楽しそうに言われた服を着ている。

 因みに今は矢矧が鳥海に半年前から頼んで編んでもらった真っ赤なセーターワンピースを着ている。本当ならば背中に大きな白のハートマークが来るはずだったが、子どもの成長と鳥海のお茶目な失敗によってお尻にハートマークが来てしまっている。でもこれはこれでいいとのことで、現にギャラリーはメロメロだ。

 矢矧も姪っ子LOVEが鼻から盛大ブッパしそうだが、代わりに今は涙が止めどなく溢れ出ているため血の雨にはならずに済んでいる。

 

「ねぇねぇ、これかわいいけどさむい〜」

「そうだね〜、流石にその丈は今だと寒いよね〜。こっちのくまさんのパジャマに着替えましょ?」

「くまさん!」

 

 この日のために由良が用意していた可愛らしいクマの着ぐるみパジャマ。既製品だがとても良く出来ていて、お値段は相当なものだろう。しかし由良にとって娘(自称)へのプレゼントの出費は蚊に刺された程度だ。

 

「はいあがのちゃん、バンザーイして」

「ばんざーい!」

 

 ワンピースを名取が脱がせ、夕張と由良が甲斐甲斐しくパジャマを着せる。するとその身長から本当に子熊みたいになったので、矢矧はとうとう拳を天(井)高く突き上げて気を失った。その顔はとても安らか且つ、不甲斐なかった。

 

「やはぎおねーちゃん、ねちゃったー」

「寝ちゃったわね〜。でもその内起きるわよ。それよりママが買っておいたパジャマはどう?」

「あったかーい! それにママのいいにおいするー!」

「そう、良かったわ〜♡」

 

 満面の笑みで抱きついてくるあがのを由良は優しく抱きとめる。本当にパジャマを抱っこして寝ていた訳ではないが、同じ空間に袋から出した状態で置いてあったために香りが移ったのだろう。

 

「この着ぐるみパジャマ、良く出来てるわね〜。ほら、この手首のとこのチャックを開ければおてて出せるようになってるわ」

「腰のとこのマジックテープを剥がせばお尻も出せるね〜。これならトイレも平気だね」

 

 夕張も名取も着ぐるみパジャマの構造に舌を巻く。若干、クマの頭のてっぺんにあるどデカいアホ毛が同僚の五姉妹の長女を彷彿させるものの、ツッコんだら負けなのでスルーである。

 そんな二人に由良は「結構奮発したのよ?」と得意気だが、実はそのせいで提督お宝オークションに今月は参加しても何一つ落札出来なかったそうな。

 しかし可愛い娘のためなら母はいくらでも強くなれるのだ。

 

「あがのちゃん、まだ歯磨きしてないし、今日は特別だからアイス食べようか?」

「よるなのにいいのー?」

「お父さんたちには内緒よ? 出来る?」

「できるー!」

 

 こうして由良と指切りをしたあがのは、矢矧がこの日のために予約購入した間宮と伊良湖の最中アイスを与えた。これは完全予約制で前の日に頼んでいないと手に入らない代物。アイスは間宮が丹精込めて作り、最中は伊良湖が水から拘り抜いて仕上げる超一品。アイスを最中で挟むだけでなく、チョコレートソースとウェハースも挟んである結構ボリューミーな物だ。もっと正確に言えば、伊良湖最中、チョコレートソース、間宮アイス、ウェハース、間宮アイス、チョコレートソース、伊良湖最中という順番だ。頼めばソースを他のものに出来るし、ウェハースを小倉餡やこしあんにも出来る。

 

「おいしー☆」

「良かったわね♪」

「うんっ!」

 

 あがのはそんな最中アイスを一生懸命頬張る。口が小さいからか、やはりチョコレートが口の周りに付いてしまってベタベタになるが、そこは由良と名取がその都度綺麗に拭き取っている。夕張はと言えば、未だ復活しない矢矧のために今の光景を動画撮影中。

 

「ママとおねーちゃんたちはたべないのー?」

「んー? あがのちゃんのしかないから食べないわよー?」

「お姉ちゃんたちはあがのちゃんが美味しそうに食べてるとこを見るのが好きだから、気にしなくていいんだよー?」

 

 由良も名取もそう言うが、それで納得するあがのではない。あがのは両親譲りの心優しい天使なのだ。

 なのであがのは「いっしょにたべよー!」と由良、名取、夕張の順に最中アイスを食べさせてあげることにした。

 そのあがのの優しさに由良は胸を押さえて悶絶したが、なんとか踏みとどまって食べせてもらった。名取も夕張も胸がキュンキュンしたが、由良たちほど拗らせてはいないので美味しく一口頂いた。

 残った矢矧とはいえばーー

 

「やはぎおねーちゃんはねてるから、みんなないしょね!」

 

 ーー千載一遇のチャンスを逃した。しかし矢矧ならばあーんくらいはしてもらおうと思えばいつでもしてもらえるポジションなので、誰もが同情しなかった。

 それから食べ終わり、由良があがのの歯を磨き、夕張が矢矧を叩き起こし、今回は狭いが床に布団を敷いて雑魚寝してみんなで夜を明かした。因みに左から名取・由良・あがの・夕張・矢矧の順。矢矧をあがのの隣にやると朝からスプラッター映画の一幕になる。それを避けるため、名取が姪っ子の隣がいいと暴れる矢矧を虫も殺さない慈愛深い笑顔のまま放った手刀で眠らせ、布団に包んだ。

 

 ーーーーーー

 

 次の日の朝。一行はあがのを連れて食堂にやってきた。そこであがのを待っていた両親に引き渡したのだがーー

 

「あのねー、きのうはねー、よるにおとうさんたちにはないしょでアイスたべたのー! おいしかったー! でもないしょだからだれにもいわないでね!」

 

 ーーあがのが昨晩の内緒を堂々と両親に話してしまった。提督も阿賀野もそんな素直な娘に何も言えず、『そっか〜』としか返せなかった。まだあがのは内緒という意味を分かっていない。

 その点、その一幕を見ていた高雄が由良たちに『秘密ねって言うとあの子は言わないわよ』とアドバイスしたそうな。

 

 ただ、次にあがのが矢矧たちの部屋にお泊まりするのはかなり先だろう。何故なら『今度こそ天使を自分たちの部屋に!』と、多くがあがののお泊まりを渇望したからだ。

 因みにあがのはこれ以来、お泊まりがとても好きになったので週に一度のペースでお泊まりに行くようになり、その都度夫婦は甘い夜を過ごしたそうなーー。




そういえばお泊まり会をやってなかったので、書いてみました♪

読んで頂き本当にありがとうございました!
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