いつもより短めです。ご了承ください。
「はい、皆さん。しっかりと時間通りに集まったわね……流石だわ」
何の変哲もない、穏やかな昼下がり。
矢矧がとある艦娘たちを会議室に集め、重苦しい雰囲気で言葉を発した。
集められたのは、高雄・天龍・龍田・電の子守り勢に加え、スペシャルゲストあがの(3歳)と矢矧の相談役である能代と酒匂の7名。
ただしあがのはお昼寝の時間なので矢矧におんぶされてお昼寝中。今日は矢矧と同じポニーテールで髪留めは赤いシュシュだ。
集められた高雄たちは矢矧がどうして集合させたのか分からない。なので矢矧の次の言葉を待っていると―――
「それではこれより、矢矧の使いあらへんでハギハギ! 私の超スーパーウルトラデラックス大天使あがのを傷物にしたのは誰だ!? を開催したいと思いま〜す」
―――なんともめんどくさい企画を始めた。しかも相変わらず情緒不安定で、全体的に声のトーンは低かったのに対して超スーパー云々のところだけは無駄にテンションが高かった。
ただ、この場で1番顔色が悪い者がいる。
それは天龍だ。
天龍はダラダラと冷汗を流し、龍田も「天龍ちゃん、大丈夫?」と心配している。しかし天龍はただただ大丈夫と返すばかり。
「昨日、私は長時間遠征であがの成分が枯渇していたので、
完全にア艦ヤツやんと全員が思ったのは内緒だ。
「そうしたら私の可愛い可愛い目に入れても痛くない。寧ろ食べて永久に私の血肉として共存したいあがののおでこに、私が付けたキスマーク以外の大きなアザが出来ていました!」
可愛いのは分かるがんなもんつけんなやと全員が思ったのは内緒だ。
「そんなあがののおでこを見て、私は何を思ったでしょうか!?」
知らんがなと全員が思ったのは内緒だ。
「はい、電ちゃんっ!」
「とても悲しい……のです?」
「大変良く出来ました!」
うっぜぇ……と満場一致なのは内緒……内緒だ。
なので、
「じゃあそんな矢矧と同じく長時間遠征を終えて疲れ果ててるのにめそめそと長時間話しに付き合わされた私と酒匂は何を思ったでしょうか?」
「はい、すっごくうっとしい!」
「正解だっぴゃ♪」
能代の質問に龍田が即座に答え、酒匂が120%のスマイルで言えば、流石の矢矧もガーンとショックを受ける。
「ちょ、能代姉ぇ、酒匂っ!?」
「はぁ、取り敢えず言いたいことは理解したけど、私も電ちゃんも昨日は訓練であがのちゃんのおでこのアザのことは知らないのよ。だから私と電ちゃんは帰ってもいいかしら?」
「なのです。それに電と高雄さんはこれから演習なのです」
「あ、そのことならご心配なく。既に提督に伝えて編成変更してもらってるから」
『えっ!?』
「あがののことはみんなのこと。本当なら鎮守府に所属する全員でこの議案を検討したいけど、みんな訓練や任務があるし迷惑は掛けられないじゃない? だから子守り勢のみんなを集めたの」
変なところは配慮出来るのに、そういうところはお構いなし……しかしこれが矢矧クオリティである。
「で、心当たりある人はいませんか〜? 解決しないといつまで経っても帰れませんよ〜?」
議題を書いたホワイトボードをトントンと叩きながら、どこぞの委員長や生徒会長みたいな口調で問う矢矧。
しかしみんなの心当たりは既に一人に絞られている。
それは、
「………………」
先程から目が泳ぎ過ぎてぐるぐる回り過ぎている天龍だ。
―――
――――――
―――――――――
それはつい昨日のこと。
天龍は龍田と共に忙しい提督夫婦の代わりにあがのの面倒を見ていた。
寒くてもお外で遊びたがったあがののために、天龍はゴムボール(バレーボールくらいの大きさ)であがのとキャッチボールをして遊び、そんな様子を龍田は青葉から没収した(執務室に巧妙に仕掛けられていた)ハンドカメラで撮影していた。
『ほらよ』
天龍が優しく放ったボールをあがのは両手で上手にキャッチする。
キャッチ出来たことで大喜びするあがのだったが、お調子者であるが故に今度は普通のバレーボールでやりたいと言い出した。
天龍も龍田もいくらボールでも顔に当たったりしたら怪我をすると思って駄目だと言った。
しかしあがのは平気だもんの一点張り。なので二人は通信で提督に確かめた。
すると、
『本人が平気だって言ってんならやってやれ。それで痛い思いしたらそこから学ぶ』
とのことだった。
提督も阿賀野も危ないことはちゃんと注意はする。しかし子どもは失敗して学ぶので、命の危険がない場合ならばなんでもやらせる方針。
もしそれで怪我をしても『ほら、言った通りになった』、『ちゃんと言うこと聞かないからだよ』と言えば子どもは子どもなりに次から考え、自分から用心するようになるのだ。
なので天龍は普通のバレーボールを持ってきてあがのに放った。
しかしそれはあがのにとっては想像以上に重く、両手をすり抜けて綺麗にあがののおでこへ落ちた。
あがのは痛がったが泣きはせず、寧ろもう一回もう一回とせがんできた。
天龍も龍田も渋ったが、あがのの屈託ない真っ直ぐな瞳でおねだりされて堕ちた。そういう場面でもないのに二人して『くっころ!』と叫びそうになる程に、あがのが可愛過ぎたのだ。
だから何度も何度も言われるがままにバレーボールを投げた。
投げた結果、あがのがわざと全ておでこで弾き返していたので、アザになってしまったのだ。
―――――――――
――――――
―――
それがこんなことになるなんて……。
天龍は本当に心底震えが来ている。
よりにもよって世界一面倒くさい相手にロックオンされているのだから。
こんなことになるなら止めれば良かった。
しかし仮にタイムマシンであの時に戻っても、あのキラキラとしたあがのの目に勝てる気はしない。
結局のところ、なるべくしてなってしまった事態なのだ。
「な、なぁ、矢矧」
「なんですか天龍。またフフ怖ですか?」
「酒保行ってくるみたいな乗りで言わねぇよ!」
「じゃあ何よ?」
「そのアザ作っちまったのは、オレだ」
「っ!?」
その時、どこからか何ちゃらFセイエイが『トランザ◇!』と叫ぶ声が聞こえた気がし、更にはユニ◇ーン何ちゃらのメインテーマがどこからか鳴り響く空耳が聞こえた。
矢矧は死んだ魚のような目をしながら、壊れたロボットのようにキシッキシッと天龍の側まで来ると、
「お前の罪を数えろ……」
静かに懺悔を促し始める。
「でもちょっと待って矢矧ちゃん」
ギギギッと首を軋ませて龍田の方を向く矢矧。
そして龍田がアザが出来た経緯を教えると、
「んもぉ〜、あがのったらなんてことをしてるの〜! 悪い子なんだから〜! そんな悪い子はお姉ちゃんのハグハグの刑にしちゃうんだからねっ!」
すっかりいつも通りに戻り、眠るあがのを抱きしめてこれでもかと頬擦りし出した。
あがのはとても嫌そうだが、寝ている上に両手もガッチリと矢矧に押さえられているため嫌がれない。
「はぁ、やっと終わったわね」
「相変わらず、矢矧さんはあがのちゃんのことになるとアホになるのです」
「アホなんて生ぬるいわよ、電ちゃん」
「そうそう。矢矧ちゃんはあがのちゃんのことになるとアンポンタンのおたんこなーすになるっぴゃ☆」
アンポンタンのおたんこなーす。酒匂渾身の屈辱的称号なのだろうが、どこかみんな微笑ましくなってしまった……
かわいい
……と。
結局のところ、矢矧は今日も勝手に人騒がせし、勝手に落ち着くのだった。
因みにこの頃から、提督一家の部屋に鍵が付けられたという―――。
相変わらずのやはぎんってことで!
え、バレンタイン?
人の名前ですよね?
んん、バレンタインデー?
ブランデーの方が好き!()
読んで頂き本当にありがとうございました!