提督一家と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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前回同様短めです。
ごめんなさい。


お出掛け

 

 春のとある日のよく晴れた朝。

 鎮守府では珍しく全艦娘に待機命令が出た。

 

 何故かといえば、あがのが4歳になったこともあって今日は夫婦があがのを連れて遠足に行くからだ。

 

 あがのは普通の家庭とは違う環境下に身を置く子ども。

 おいそれと両親と共に遠くへ出掛けることは出来ないのが普通なのだ。

 しかしそれはあまりにも不憫。よって大本営はそうした家庭に対して特別休暇を与えることにしている。

 その間は鎮守府に残った艦娘が留守を預かり、大本営から派遣されてきた護衛艦隊が鎮守府の警戒警備にあたる。

 

「じゃあ、夕方には戻るが何かあったら連絡してくれ。留守を頼んだぞ、山城、扶桑」

「はいはい。それより気を付けてね」

「あがのちゃん、楽しんで来るのよ?」

「はーいっ♪」

 

 扶桑に言われたあがのは手を挙げて元気に返事をした。

 遠足ということであがのは矢矧が用意した赤いリュックサックを背負い、とてもご機嫌。

 両親が一緒ということでリュックサックの中には水筒、お手拭き、ちり紙が入っている。

 そして遠足の醍醐味、お弁当もしっかり入っている。

 わざわざ阿賀野が苦手な早起きをして作った力作だ。

 因みに今日のあがのの髪型はリュックサックのこともあって阿武隈のようなツインテール。リボンは白でフリルの付いたレースのもの。

 

 そして―――

 

「さぁ、あがの、行くわよ! 遠足地までお姉ちゃんが抱っこしてあげるわね!」

 

 ―――あがのよりも元気満点な叔馬鹿も一緒だ。

 何せ残るように伝えたらこの世の終わりのような絶望感マックスの顔で、無言でボロボロと大粒の涙を流していたのだから提督も『じゃあ、来いよ』としか言えなかったのである。

 しかし矢矧が行くとなれば当然―――

 

「矢矧、あがのが疲れたらしてあげて」

「自分の足で歩いて行くのが遠足だよ」

 

 ―――ストッパーとして能代と酒匂も付いていく必要があった。

 ガチ勢もここぞとばかりに同行させろと猛抗議したが、優秀ママン高雄の一言であっさりと引き下がったのだ。

 

 とまあ行く前から色々と問題はあったが、阿賀野としては妹たちが来れば夫とイチャイチャ出来るだろうと思って寧ろ喜んでいる。当然、娘のことは大切だが、阿賀野にとっては夫との時間も大切なのだ。

 

 ―――――――――

 

 提督御一行が鎮守府を立つと―――

 

「はい、それではお集まりの皆さんっ! 提督お宝オークションを始めますっ!」

 

 ―――地下広場で提督マーケットが開催されていた。

 

 そう、高雄はこれが出来るから身を引きなさいと言ったのだ。

 ガチ勢からすれば千載一遇の大チャンス。何せ絶対的奥様阿賀野と率先して止める矢矧が揃っていないのだ。それに加えて高雄からのお許しが出たとあればやるしかないだろう。

 

 現に青葉の宣言で集まったガチ勢たちは雄叫びを上げ、今か今かとお宝が出てくるのを待っている。

 

 因みに高雄と電の検閲の元で出していいものとそうでないものとは既に決まっていたりする。

 

「まずトップバッターです! それもオータムクラウド先生の『生提督素描スケブ10冊セット』です!」

 

 わぁぁぁぁぁっ!

 

「いやぁ、出来ればお高く買って頂けるとありがたいねぇ。それで次のやつ出せるし、画材も揃えられるからさぁ」

 

 秋……オータムクラウド先生の一言にガチ勢は狂喜乱舞だ。

 当然、それは始まったと同時にうん万円という金額になり、オータムクラウド先生は悪い意味で怖くなったという。

 

 因みに他にも提督が捨てた穴の空いてしまったシャツや、ボロボロになった衣服類、激写写真(1枚ずつ)が出され、それはもう大盛況だったらしい。

 

 ―――――――――

 

 ところ変わり、提督御一行はというと、バスで隣町へとやってきた。

 そしてそこから更にバスに乗り、着いた先はいちご農園。

 本日、御一行はいちご狩りにやってきたのだ。

 

 料金は既に予約した際に払っているので、農園の人から説明を軽くいちごの知識と説明を受けたら、あとはいちごがあるビニールハウスへ向かう。

 

「………………」

 

 あがのは感動で声が出なかった。

 何しろ一面いちご尽くし。今回は貸し切りということもあり、この1つのビニールハウス中のいちごを狩り尽くしてもいいと言うくらいだ。

 大きな目はより大きく見開かれてキラキラと輝き、目の前に広がるいちご畑に大興奮しているのが分かる。

 そんな娘の様子に両親は優しく目を細めるが―――

 

「私の天使が余計に天使になって超天使なんだけど!」

 

 ―――約一名は謎の言葉を発している始末。いや、通常運行中であるが、農園のおじさんの笑顔が引きつっている。

 能代と酒匂はとても、心底他人のふりをしたかったが、同じ服装ということでどうしても他人ではいかず、泣く泣く矢矧の口を押さえ込み、静かにするよう告げるのだった。

 

「あがの、能代お姉ちゃんたちと一緒に大きないちご探しましょ♪」

「赤くて美味しいの見つけて、練乳付けて食べようね♪」

「っ!」

 

 能代たちの提案にあがのは何度も何度も頷いて、能代たちに手を引かれて奥へと向かう。

 当然、今回撮影係の矢矧はハンディカメラを回してあとを追った。ぐふふと怪しい笑みをこぼしながら。

 

「……俺たちも行くか」

「うん。あ、慎太郎さんは危ないから阿賀野の手を離しちゃダメよ?」

「いや、これくらないなら―――」

「だーめ。それで転んだら私もあがのも泣くからね? それでもいい?」

「……分かった」

「素直でよろしい♪ それにせっかくあがのは能代たちが引き受けてくれてるんだから、私たちは夫婦らしくラブラブしよ?♡」

 

 ね?♡―――と可愛く言われたら、その夫としては頷くしかない。

 当然、それを目の当たりにした農園のおじさんはこっそりとビニールハウスの外で砂糖を吐いた。

 

 ―――

 

「やはぎおねーちゃん! おおきいのみつけた! みて!」

「いやーん、大っきいー♪ ほら食べて食べて!」

「これはやはぎおねーちゃんの! あーんして!」

「あがの……!」

 

 早速やってきた鼻血ブーシチュエーションに能代と酒匂はすぐさま行動を開始する。

 能代が手早く矢矧の頬に赤くならない程度の衝撃で平手打ちをかまして矢矧の意識を一瞬だけ真っ白にし、酒匂が何食わぬ顔で「矢矧ちゃん、あがのちゃんがお口開けてだって♪」と笑顔で促す。

 するとあら不思議。矢矧は「ありがとう、あーん♡」とまるで姪っ子にデレデレする普通の叔母みたいに口を開けるのだ。

 

「おいしい?」

「あがのからのだもの、美味しいに決まってるでしょ?」

「えへへ、よかったぁ♪」

 

 ああ、もう次が。そう思い、能代と酒匂は再び行動開始。

 これが2時間も続き、夫婦は能代たちに敬礼しつつ、イチャイチャ(いちごを食べさせ合うことが)出来たという。

 

 その後はみんなでお弁当を広げ、いちご畑をバックに記念撮影し、鎮守府で留守番中のみんなへいちごジャムを大量購入して遠足は無事に幕を閉じ、一家も能代たちも笑顔で鎮守府へ戻るのだった。

 

「あれ、私そういえば、今回は何か所々忘れてるところがあるような?」

 

 ただ不思議そうに首を傾げる矢矧である―――。




読んで頂き本当にありがとうございました!

コロナで行楽シーズンが台無しなので、少しでも癒やしになるのでしたら幸いです。
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