長く続く人類と深海棲艦の死闘。
これまでの戦争で年単位で続くものはどちらも疲弊し、泥沼化する。
しかし不思議というか、頼もしいというか、この戦争は人類側が非常に劣勢だったにもかかわらず、長い時を経て優勢になっていた。
限られた資源に加え、画期的な再生資源の発明……そして何より各国の艦娘たちの奮戦がこの結果をもたらしている。
世界は、人類は、確かな希望をその手に掴んでいるのだ。
「お父さん、それじゃあ行ってくるね!」
世代を越えて――――。
意気揚々と興野提督へ声をかけて埠頭をあとにしたのは軽巡洋艦『あがの』。
あの艦隊の天使だった提督夫婦の愛娘は真っ直ぐに成長し、母の背中を追って正真正銘の艦娘になった。
娘を戦地に送る父提督は内心穏やかな気分ではないが、娘が誇りを胸に海を駆けるならば、父はその親として提督として彼女を支える。
あがのは見た目は母阿賀野そのまんまだが、瞳の色は父親譲りの黒で腰下まで伸ばしている髪の毛先も父親譲りの癖っ毛でウェーブ掛かっている。
他の艦娘たちも変わらず今もあがのと同じく海を駆けるが、阿賀野だけは本格的に艦娘として第一線を退いた。
退いた理由は興野艦隊最強の艦娘として鎮守府警備艦隊の旗艦になったから。
そして――
「お母さん、今度は私も遠征任務に就いてもいい?」
「ん〜、アガノがもう少し大きくなったらね〜」
――このように次世代の教官として新しい任務に就いているからだ。
アガノは興野提督と阿賀野の第二子。あがのとは6歳離れており、まだ学生の身である。
それでも艦娘として将来の目標は決まっており、早く艦娘として海を駆けたいと常々思っている。
見た目はやはり母阿賀野にそっくり。しかしながら強い癖っ毛の天然パーマなので、髪の長さはセミロングにしている。
性格は何でも自分でやりたがる猪突猛進的。周りから可愛がられて来たので少しでも自分を頼り甲斐のある艦娘だ、と周りに示したいのだ。
「え〜、私もう子どもじゃないのに〜」
「基礎がまだまだだからね。それとも大先輩であるお母さんの言うことが信じられない?」
「そういう訳じゃないけど……ねぇ、お父さんはどう思う?」
こうなるとアガノは必ずと言っていいほど父である興野提督へ話題を振る。
これはもう宿命なのか、アガノもあがのに負けず劣らずのお父さん子なのだ。
現に今も埠頭という周りに人の目があるのに、真正面から抱き着いて上目遣いをして父に訊ねている。
「……そもそもアガノの年齢じゃ任務に就けねぇからなぁ。その時が来るまでしっかりとお母さんからコツを学んでほしいな」
愛娘の頭を軽く撫でながら指摘すれば、アガノはほんの少しむくれながらも素直に頷きを返した。
艦娘にとって必要な基礎が身について、学年も最終学年になれば任務に就けてもいいことになっているが、アガノはその基礎がまだ不安が残る。
演習での成績は花丸で同世代の軽巡洋艦候補生たちの中でも群を抜いてトップクラスだが、如何せん単独行動になりがち。その上本人がとても感覚的なので、筆記試験でも中の下なのだ。
よって阿賀野も母親として娘に活躍の場を与えたいのは山々だが、基礎が身についてない者を敵がいる海へはやれない。なので心を鬼にして今日も今日とて娘の訓練に熱を入れる。
「提督、そろそろ会議の時間よ」
「おう、今行く」
そこへ現れたのは艦隊イチの叔母馬鹿矢矧。
矢矧も相変わらず姪っ子LOVEだが、あがのが小さかった頃と比べたらかなり落ち着いた。
何故ならアガノが幼い頃、『どうしてやはぎおねえちゃんはこんなにうざいの?』と面と向かって訊ねられたからだ。
その時はもう大変だった。無表情のまま号泣し、情緒不安定で、約半年もの間何をさせても駄目で任務に支障が出るほどに。
魚雷は外す。回避行動は忘れる。対空射撃も的外れ。大破も目に見えて多くなったので、提督は矢矧に待機を命じることにした。
このまま腐っていく矢矧を見ていられなかったのは、姉妹たちとあがのとアガノだ。
今までの矢矧に戻ってほしい。うざいくらいが丁度いい。出来れば過度なスキンシップを無くしてくれると尚良し。
そうした献身的介護(?)の結果、矢矧は復活し、本来の強さを取り戻したのだ。加えてスキンシップが減った……のはいいものの、ストーカーまがいな姪っ子鑑賞が追加されたのでプラマイゼロである。
それでもこれが矢矧なのだ。興野艦隊でも第三艦隊の旗艦を任されるほどの実力者だが、その原動力は姪っ子LOVEから来ているのである。
――――――
今日も今日とて鎮守府は何事も無く一日を終えた。
興野提督は阿賀野の第二子の妊娠が分かった直後に、鎮守府敷地内に小さな一軒家を建てた。
やはり子どもたち一人ひとりの部屋を用意してやりたかったし、流石に今まで通りの本館の一室では狭くなったからだ。
しかし――
「えへへ、お父さ〜ん♪」
「お父さん、お父さん♪」
――娘たちはいつまで経っても父親離れが難しい様子。
居間で興野提督が寝そべって寛いでいると、必ずあがのは父親の前に陣取って抱きつき、アガノは父親の上に覆い被さるように抱きついてくる。
「お前らはいつまで赤ちゃん気分なんだ?」
「お父さんの子どもだからいいの!」
「お父さんと離れるなら赤ちゃんのままでいい!」
父親としてこんなにも娘に懐かれるのは本望だろうが、それはそれで親としてはこの先不安に思う。
あがのに至ってはもうちゃんとした成人で任務にも就いている。なのにこれだ。
「お前らは父ちゃんが老けて死んじまったら生きていけるのか?」
思ったままを提督が娘たちにぶつければ、娘たちの目からハイライトが一瞬にして消え失せる。
「お父さんが死ぬ……?」
「やだっ! お父さんが死ぬなんて、絶対やだ!」
「いやでもよぉ、俺もいつかは死ぬんだ。そうなった時にお前らが大丈夫じゃないと安心して死ねねぇだろ」
「じゃあ死ななくていい! アガノ大丈夫じゃないから!」
「お父さんが死ぬ……お父さんが死ぬ……お父さんが死ぬ……っ」
嗚呼やっちまった。と提督は内心独りごつ。
余計に父親離れを悪化させた気がするからだ。
「はいはい、二人共〜。もう夕飯にするから、お風呂入って来ちゃって〜。そうじゃないと今夜はお父さんと一緒に寝ることは禁止にするから」
そこへ母阿賀野がやってそう言えば、二人の娘はハイライトを点灯させて瞬く間にお風呂へと直行するのだった。
「すまねぇ、阿賀野。助かったぜ」
「もう少し言い方を考えて言った方がいいよ」
「重ね重ねすまねぇ」
そう言いながら提督が苦笑いで起き上がると、阿賀野がストンと提督の前に膝を突いて抱きついてくる。
「どうした?」
「いつか死んじゃうのは分かってる。でもそんな悲しい時のことの話しなんてしないで」
「……すまねぇ」
「そういうことはそうなった時に考えるからいいの。慎太郎さんはそんなことより、私たちと一緒にいれるように頑張って」
「そりゃあ、俺だって死ぬ気で長生きするさ。先に逝っちまうのは申し訳ねぇが、その分思い出をみんなに残していく」
「……うん。そうして。じゃないと私まで駄目になっちゃうんだから」
「……可愛い脅しだな」
「えへへ、私はいつだって慎太郎さんの前でなら可愛いんだからっ」
満点の笑顔を見せる妻に提督も笑顔を見せ、夫婦は娘たちが風呂から戻ってきて『あー!』と声をあげられるまで、長い長いキスをしていた。
この意志が受け継がれていくからこそ、人類は深海棲艦に負けることなく、営みを続けられるのだ――。
ということで、これが最後となります!
本当はまだ書きたいネタとかあったんですが、このままだらだらと続けるよりはスパッと終わりにした方が個人的にはいいと判断してラストにしました!
最後まで読んで頂き、本当に本当にありがとうございました!