提督一家と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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前作完結以降で実装された艦娘を登場させます。着任して数年経ってる設定ですのでご了承ください。


ん?

 

 湿気が泊地を覆い、日本特有の夏を感じさせる7月直前。

 興野提督が指揮する艦娘たちは、変わらず今日も力みも緩みもせず、任務に訓練にと精を出す。

 

 ただ今日は暇な者たちが何やら食堂に集まっているようだ。

 

「はいはい、皆さん。それでは鎮守府の名物パンである、()()()本仕込を協力して作りますよ〜」

 

『は〜いっ!』

 

 間宮の声に集まった者たちは元気に返事をすると、各々行動を開始。

 

 この"雑パン本仕込"とは、食パンやコッペパンに入り切らない程の具を捩じ込む鎮守府名物の惣菜パン。そのパン自体は見た目があれだが悪くないといった具合で昼食時はもちろんのこと、小腹が減ったおやつ時や夜食時に大人気のメニューなのだ。

 考案者は言わずもがな興野提督本人で、こんなのあったら面白いだろうという理由で提供したのがきっかけとなった。

 

 雑パン本仕込はその名の通り、パンへ雑に具を捩じ込むだけのなんちゃって料理なので、具は各々が好きな物を好きなだけ捩じ込むのがマナー。具がパンからはみ出していても、ちゃんとパンにその具を捩じ込んであることが雑パン本仕込だと認めてもらえるらしい。

 

 作り方は至ってシンプル。しかし量が量なので今回はみんなで作る手筈となったのだ。

 

「何度作っても、このメニューは楽しいですね〜♪」

「分かる〜♪ もうパンがおかずみたいになってるわよね〜♪」

 

 1つの調理場では朝潮型姉妹の面々が楽しげに作業しており、その中でも峯雲はとても楽しそう。

 峯雲は朝潮型の八番艦。おっとりしてるように見えてしっかり者。姉妹の中ではバランサー的立ち位置にいる子だ。提督に対してとても献身的に尽くしており、長女の朝潮に負けず劣らずの忠誠心を持っている。

 

 そんな峯雲は山雲が用意するコッペパンに焼きそばを捩じ込んでいる。因みにコッペパンは上の表面に包丁で縦に切れ目を入れるだけ。

 

「パッと見は『ん?』ってなるけど、食べてみるとアリなのよね、これ」

「それに作り方でその子が何を好んでるのか分かるわよね〜♪」

 

 朝雲と荒潮の言葉に他の姉妹たちもうんうんと頷く。

 この場の場合、朝潮・満潮・霰・霞はイチゴジャムなどのスイーツ系。残りの姉妹たちが焼きそばや卵ソース、ウインナーといったおかず系をチョイスしている。

 

「厚切りの食パンを三角に二等分にして……」

「その中に切れ目を入れて……バターを塗る!」

「そしたらそこにジャムジャムジャムジャムジャムジャム!」

「仕上げは生クリィィィィィム!」

 

 まさにバターとジャムと生クリームのジェットスクリームアタック。傍から見ればくどいかもしれないが、どれも間宮や伊良湖の印が光る一品なので胸焼けする者も出ないなのだ。

 ただ、食べたら手がベタベタになってしまうのでフォーク必須である。

 

「ふふふっ、みんな楽しそうでなんか嬉しいですね」

「分かるわ〜♪ この時だけは満潮ちゃんも霞ちゃんも目をキラキラさせるから〜♪」

 

 笑みをこぼす峯雲に荒潮も笑みをこぼす。荒潮が言うように満潮も霞も普段は自他共に厳しめなので、この時に見せるその見た目相応の行動は微笑ましいのだ。更に言えば、普段真面目な(たまに奇行に走るが)朝潮までもが楽しそうに料理をしているのは、妹たちからすれば微笑ましい。

 料理とは楽しく作らなければ美味しい物は作れない。間宮と伊良湖の料理の心得第一にあるように、このように楽しく料理することが美味しい料理を作る秘訣なのだ。

 

 ーーーーーー

 

 朝潮型姉妹が和気あいあいと料理をする隣の調理場では、

 

「これでアミラルはリシュリューの虜になるはずよ……くふふっ♡」

「鹿島の愛がたっぷり捩じ込まれたこの赤いパンを食べれば、提督さんはきっと……ふへへへへ♡」

 

 リシュリューと鹿島というガチ勢が自身の溢れる提督LOVEをパンにこれでもかと捩じ込んでいる。

 

「なぁ、龍驤」

「なんや、日進?」

「ありゃあのままでええの?」

 

 そんな二人と奇しくも同じ調理場に居合わせてしまった日進は、この場の良心である龍驤にあの二人は大丈夫なのかと訊ねた。

 

 この日進という艦娘は日進型水上機母艦の一番艦。浦風と同じく広島弁で話す方言女子。見た目はちっこいがその中身はでっかい肝の据わった頼もしい艦娘だ。提督に対してとても従順であり、提督のためなら例え火の中水の中といった感じ。日進曰く『出会ったのが早ければ本気で狙った』という程のLOVE勢であるが、一家の安泰を心から願う見守り勢であり、高雄たちと共に一家を守る守護者勢である。

 

 日進の質問に対し龍驤はと言うと、

 

「ん〜? 別に怪しい薬とか入れてへんからノータッチで十分やん。というか、わざわざ必要ない時にまで首突っ込まんくていいんやで」

 

 至って冷めた言葉を返した。

 

「でも、わし……心配で……」

「それはよう分かる。でも言ってることが物騒なだけで、危険なもんは何一つ二人は入れとらんで〜」

 

 龍驤はそう言って「ほら、よう見てみぃ」と顎をしゃくって指示する。

 日進が言われた通り見てみるとーー

 

「このリシュリューが朝から丹念にグリルしたチキンをそれに合う野菜でこれでもかと捩じ込めば……私の愛が伝わるはず!♡」

 

「提督さんは最近何かと忙しいですから、このトマトソースをたっぷり捩じ込んで焼いた鹿島特製赤パンと共に、何日も前から試行錯誤して完成させた最高に合う味付けをしたツナマヨを捩じ込めば私のことも美味しく頂いてくれるはず!♡」

 

 ーー先程までの言葉とは裏腹に料理は寧ろこの上なく美味しそうに仕上がっていた。

 それを見た日進は「わしの心配した時間を返してほしい……」と嘆いたそうな。

 

「ガチ勢はやることは過激やけど、司令官に絶対害を及ぼさないからなぁ。だからこういう場合、心配するだけ無駄やで」

「じゃが万が一ってことも……」

「ないない。それで万が一司令官が倒れでもしたら、仕掛けた本人らが自害するで」

「そ、そうか〜……」

 

 龍驤もLOVE勢で見守り勢だが、守護者勢ではなく達観勢。達観勢とはガチ勢の行動に危険はないと悟っているグループで、龍驤の他には大鳳や那珂、足柄といった面々が揃っている。

 

「んなことより、うちらも具ぅ捩じ込むで〜。お好み焼き」

「生地と具を混ぜたらいけんけぇのぉ。そがいしたら戦争する」

「ほんなら両方捩じ込むから戦争不可避やな〜」

「それなら協定結ぶ」

「どっちやねん!」

「えへへ♪」

 

 この二人の雑パン本仕込……それは大阪と広島のお好み焼きの両方をコッペパンで挟むという物。カロリーのお化けになるが鎮守府が誇る赤い空母が生み出した『餅ピザ』というカロリーのハデスと比べたら可愛いものだろう。

 因みに『餅ピザ』とはパン生地をピザのように丸く伸ばし、その上に餅をこれでもかと乗せ、好きなトッピングをし、焼くといったシンプルな物だ。しかし赤い空母がしたトッピングは『わたしがかんがえたさきょーのとっぴんぐ(はーと)』で、味は素晴らしいがトッピング内容を聞いたら誰もが次の日から早朝マラソンをする程度の内容だったという。しかししかし大食い三銃士たちはそのハデスを軽く五十人前食べてもケロッとしていたとか……。

 

 ーーーーーー

 

 一方、最後の調理場には、

 

「あがの〜、何入れるの〜?♡」

「う〜んとね〜、おさかなさん!」

「いいわね〜、どんなお魚さん入れる〜?♡」

「おいしいやつ!」

「は〜い♡」

 

 あがのと矢矧が立っていた。あがのに至っては身長が足りないので専用のお立ち台に上がっている。この時、あがのは5歳。

 勿論、あがのが使う包丁は子ども用の刃が無い物。これならパンくらいの柔らかい物は切れるので、持たせてもらえるのだ。

 因みに今日のあがのの髪型はイクと同じトリプルテールでリボンは白。

 

「美味しいお魚さん……」

 

 ただ同じ調理場に居合わせている電はどうしようと頭を悩ませている。何しろ子ども故に説明が雑なのでイメージがし難いのだ。

 

「ねぇ、あがの。お魚さんは白いやつ? それとも赤いの?」

 

 しかしそこは高雄ママンがしっかりとカバー。あがのは高雄の質問に「しろいのー!」と答え、それを聞いた上で高雄は「焼いたの? グツグツ煮たの?」と訊ねる。

 

「う〜ん……やいたやつ!」

「分かったわ。電ちゃん、白身の魚を焼いてくれないかしら?」

「はい、なのです!」

「矢矧ちゃんはあがのと一緒に挟みたいパンを選んで切っておいて」

「了解」

「はーい!」

 

 高雄ママンの見事な指揮に脱帽する電と矢矧。母親の阿賀野や父親の提督が卒なくこなしているあがのの扱い方も見事であるが、高雄もやはり流石であった。

 

「あがの〜、どのパンがいい〜?♡」

「う〜ん……」

 

 それなのに矢矧はただもう姪っ子がいると猫なで声しかあげないダメ叔母となっている。本来なら矢矧は執務室で補佐艦の務めを果たさなくてはいけないが、あがのが自分も料理をしたいということでお目付け役(建前)として夫婦がその任を与えた。夫婦の本音のところはあがのがいないと『あがのあがの病』が発症するからで、矢矧のお目付け役として高雄と電がいるのだということを当の本人は知らない。

 

「これ!」

「コッペパン?」

「うん!」

「じゃあ、これをどういう風に切るの〜? 矢矧お姉ちゃんにお手本見せて〜?」

「いいよー!」

 

 あがのはそういうとコッペパンを半分にする。それも縦に半分ではなく横に……。これには矢矧も思わず「ん?」と首を傾げた。どう見てもここに焼いた魚なんて捩じ込めないからだ。

 

「あがの〜、これでいいの〜?」

「ううん、まだ」

「あ、そうなの?」

「うん。あとはね〜、パンにあなをあけるの〜」

 

 あがのは説明しながらスプーンでコッペパンの中を取り出していく。しかしあがのは子どもであり、手先が器用な方ではないので上手く穴を開けられず、表面が破れてしまった。なのであがのは「しっぱいしちゃった〜」とつぶやいて、その失敗作に「ごめんなさい」と謝ってそれをモグモグと食べ始める。

 

(可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!)

 

 それを見て悶える叔母。しかし小さなお口で一生懸命モグモグと食べる姿はまさに癒やしであり、その場にいる全員が大天使の尊さに胸を打たれた。間宮や伊良湖に至っては通信機でその一部始終を動画に収めていたので、提督をはじめとする多くがその動画を見て癒やされたという。

 

「あがの〜、難しいから矢矧お姉ちゃんが穴を開けてあげるわね?♡」

「うん!」

 

 未だモグモグとコッペパンを頬張る愛くるしい姪っ子に助け舟を出す叔母。しかし姪っ子が側にいると決して失敗をしない矢矧は、時折「こんな感じ?」とあがのに確認を求め、あがのが思う通りにスプーンを使って穴を開けることに成功するのだった。

 

「お魚さん焼けたのです〜」

「熱いから少し冷ましましょうね」

「はーい!」

 

 電が焼いてきたのはスズキ。それをあがのに言われて身をほぐし、シンプルに塩のみで味付け。

 

「これをそのパンの穴に入れるの?」

「うん!」

 

 高雄の問いにあがのは力強く頷くが、高雄も電も『これではパサパサで唾液が持っていかれそう』と思った。因みに矢矧は何も思わず、ただただあがの考案パンの神々しさに震えている(感動で)。なのでそれを見た電は矢矧にだけはこのまま出そうと決意した。

 

「あがの〜? ママ、このままでもいいと思うけど、もっと美味しくしたいから改造してもいい?」

「いいよー!」

「ありがとう」

 

 本人の許可も得たので高雄は早速一手間二手間加えることにした。

 そのままではパサパサで食べ難いだろう……なので高雄はそこにバターで炒めたエリンギ(輪切り)を入れることに。こうすることでパサパサ感は軽減され、好みで七味唐辛子やマヨネーズを加えたりすれば楽しみ方は広がる。

 これにはあがの本人も大満足したようで、その証拠にお昼ご飯にはその雑パンを食べておかわりまでした。

 

 ーーーーーー

 

 因みに両親の反応はというと、

 

「七味唐辛子と粉チーズが合うな〜♪」

「お醤油も合うよ〜♪」

 

 この通り大好評。

 両親の反応にあがのはご満悦で、自分が考えたものを更に美味しくしてくれた高雄ママにあがのは「またいっしょにつくろうね」と提案していた。

 

 因みにガチ勢が作ったパンも好評ではあったが、二人が提督に寝所へ招かれることは一切なく、二人して寮の自室で朝まで放心状態だったと同室の者たちが話していたというーー。




雑パン本仕込は語呂が良かったので使ってみた感じです!←

読んで頂き本当にありがとうございました!
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