道明寺ここあ「兄に彼氏ができたと告げてみた」 作:バーチャルナマクラ
「は? ここあ! その選曲はまだ早い!!」
私の兄は過保護である。
例えば今だってそう。カラオケでラブソングを歌ってみたら、こうして顔を真っ赤にして激怒している。
具体的に例を挙げるとキリがないけれど、私の兄という生き物は事あるごとに私に様々な干渉をしてくるのだ。
「ここあが一番楽しいのは俺と遊んでいる時だけだ……」
他の人と遊ぼうとすると、こうだ。
ここまで来ると、シスコンを通り越して最早病んでいる。今はまだ「妹」を見る目でいてくれているが、もしかしたらそのうち「女」を見る目で私を見てくるかもしれない。
多感な思春期であることを差し引いても、兄は少し病気で気持ち悪い生き物だと思うのだ。
だから、少し距離をとってみよう。兄弟にしては近すぎる私達の距離を、少しばかり普通な距離にしてみよう。
きっかけは、そんな軽い気持ちだった。
兄との二人カラオケを終え、撮影した私の歌動画をニヤニヤして眺めている兄。実は私はY●uTuberをやっており、いつも兄が撮影した動画を編集してアップロードしている。
「あ、お兄ちゃん。ちょっと聞いて」
「どうかしたか、ここあ!」
家に帰りついた後。兄は、カメラを充電しパソコンを立ち上げようとしている。今がチャンスだ。
それは、何でもない軽い出来事の様に。私は自然な笑顔を作りながら、機嫌良く兄に語りかけた。
「実は今日、彼氏ができたんだよ」
その日、兄は全治三ヶ月の重症で精神科に緊急入院しました。
「そんな事が有ったんだね~」
「ハルカスらしい末路と言える」
「本当、ハル君らしいなぁ」
緊急入院してしまった兄の後始末のため、私は翌日にゲーム部の部室に行って事情を説明する事にした。兄が入院したという噂が広がり、兄と同じ部活の面々が私を呼び出したのだ。
因みに私は兄の1件に責任を感じてなどいない。妹に彼氏ができたから入院って、アホか。
「ハル君の容態はどうなの?」
「昨夜私が見舞いに行った時は……虚空を見つめて、『ここあ、ここあ。俺だけのここあ……』と呟いていましたね」
「それ、完全に末期ぽよ」
そう言って呆れ果てながらピンク色のツインテールを揺らすのは、兄の同級生の桜樹先輩。
『ぽよ』等と変な語尾をつけて色々あざといけれど、比較的まともな感性をしている人だと思う。あと、よく兄と仲良くしている印象の人だ。
「今日『嘘だよ、彼氏なんていないよ』って言ってあげなくていいの? それはちょっとハル君が可哀想だよ」
「そんなこと言ったって、私だっていつか恋人が出来るんですから。いい予行練習になるでしょう」
「まぁ妹離れする良い機会ぽよ」
「ただ全治三ヶ月は困るなぁ。ゲーム部、暫く3人で活動しないといけなくなるし」
そう言って困り顔をする大人びた雰囲気の先輩は、夢咲先輩。兄が所属するゲーム部の部長で、ちょくちょくゲーム部が壊滅する原因を作る人だ。
兄を含めてもこの部で一番の危険人物だと思う。
「部長、今日はみんなでハル君のお見舞いに行きましょうよ。みんなの力を合わせれば、きっとすぐ快復してくれます」
「ダメよリョウ君、病院内でポケモンするのはマナー違反だと思うわ」
「ポケモンする前提で話が進んでるし……」
そして、今兄の見舞いを提案したのが風見先輩。一見まともな女生徒に見えるけど、その正体はメロンパンから産まれた神話生物だ。
そして彼は女性に見えるけど、兄と同じく立派な男子部員である。
「と言うか良いこと考えた! ねぇねぇリョウ君、ここあちゃんとちょっと並んでみて?」
「ん? どうしたのみりあちゃん」
「二人並んでー、並んでー、はいチーズ!!」
そんな風見先輩を眺めていたら。何故か桜樹先輩が私と風見先輩を並べて写メを撮影し始めた。
いきなりどうしたんだろう。
「みりあちゃん、その写真どうするのさ?」
「ここあちゃんの彼氏はリョウ君だって書いて────送信!!」
「何て事をしてるの、みりあちゃんは!!?」
うわ、何て事を。
「りいいいぃぃぃぃぃよょょょょょおおおおおおううううう!!!!!」
数秒後。部室の窓ガラスを粉砕し、兄が入院着のままゲーム部内に射出されてきた。きっと、精神病院の病室にも大穴が空いていることだろう。
「うわぁぁぁ!? もう来たぁぁぁ!?」
「お前の事は仲間だと、信じていたんだがなぁぁぁぁぁ!? そうかぁぁぁぁ、貴様はこの俺の敵だったかぁぁぁぁぁ!!!」
「ひぃぃぃぃぃ!! ご、誤解なんだよハル君! ほら、そこ、ここあちゃん居るから本当の事を聞いて!」
なんて気持ち悪い生き物だろう。妖怪のようにおどろおどろしい顔で風見先輩にまとわりつく兄に、私は思わず溜め息を吐いた。
「ここあぁぁぁ、どこまでされたぁぁ? どこまで汚されてしまったぁぁぁ!? 全部全部、今から俺がリョウにやり返してやるからぁぁぁ!!」
「最後まで汚されたって言ったら、風見先輩と最後までヤるのかこのバカ兄」
「最後までだとぉぉぉう!!?」
「だから、僕は何もしてないよ!!」
兄の思考回路が理解できない。何がしたいんだこの馬鹿は。
「安心するぽよ、ばっちり撮影しておくぽよ」
「んー、私はそう言うのを楽しむ趣味は無いかなぁ」
「僕の周囲には敵しかいない!!」
そして、ゲーム部の仲間は既に風見先輩を見捨てている。この人達に情と言うものは無いのだろうか。
「お兄ちゃん。風見先輩は彼氏でも何でもないから」
「…………なにっ!?」
これ以上、兄が人に迷惑をかけるのを見過ごすわけにはいかない。風見先輩を救うべく、私は兄に語りかけた。
「風見先輩とのツーショットは桜樹先輩の悪戯。私の彼氏は別の人だよ」
「…………ここあに彼氏など百年早い!!」
「もういるもーん」
百年も経ったらお婆ちゃんになってるだろうが、私。
「た、助かった……、もうダメだと思った」
「ち、もう少しで面白いものが撮影できたのに」
「後で覚えておいてねみりあちゃん」
兄と無言で睨み合うこと、数秒。やがて、兄は再び白目を剥いて痙攣を始めた。
また、病院に搬送するか。
「待て。ここあ、頼む……。俺が、俺が正気を保てている間に一つだけ確認しておきたいんだ」
「……まだ意識あったんだ。何が聞きたいの?」
「お前の彼氏は……、良いやつなのか?」
だが。兄は失神する間際、なんとか倒れ込まず踏みとどまって。再び虚ろな目を私に向け、話を続けた。
「お兄ちゃんには関係ないでしょ」
「……ある。だって俺は、お前の兄なんだ。兄は妹の幸せを何より願う存在なんだ!!!」
そう言うと。兄は私の両肩をつかみ、血の涙を流しながら絶叫した。
「騙されてないよな!? 優しい男なんだよな!? 嫌なことされてないな!? 大事にされているんだな!?」
「ちょっ……、お兄ちゃん、近い」
「教えてくれここあ!! お前は……、俺と一緒にいるより、その男と居た方が幸せなんだな!!?」
それは、魂の慟哭。
大の男がみっともなく鼻水を垂らして大泣きしながら、私に抱きついて咽び泣いていた。
「……お兄ちゃん」
「ここあ、ここあぁぁぁ……」
流石に、ちくりと罪悪感が胸を刺す。でも、これも良い機会だ。
ここで、兄が私に彼氏が出来たことを納得してくれれば。次に本当に彼氏が出来た時も、きっと受け入れてくれるはず。
「うん、素敵な人だよ。お兄ちゃんよりずっとイケメン」
「……そうか」
「お兄ちゃんより背が高くて、優しくて、頭がよくて。それで真っ直ぐな人だよ」
「そうかぁぁぁぁ……」
気まずいので、私は少し目を逸らしながら。兄に、理想の彼氏の特徴を述べて、はにかんでおく。
これで、きっと兄も納得して────
「俺の同級生にここあを知っている人間は少ない。いや、むしろ徹底的に秘匿してきた。ここあと付き合うとしたら、恐らく同じ一年生同士」
キラーン、と兄の目が怪しく光り。そして変なことを言い出した。
「俺より背が高い一年生男子……該当人数、23名。一年生の時の俺より成績がよくてかつ、背の高い一年生男子……該当者5名。かつ、この中で彼女持ちでない男子……3名」
そして、何かの計算を終えた兄は。しゅた、と立ち上がって一年生の教室へと走り出した。
「一年生3人ぶっ殺せば確実にここあの彼氏を亡き者に出来るぜぇぇぇ! ひゃっほぉぉおおおお!!!」
「お兄ちゃんちょっと待ってぇぇ!!?」
探っていやがった。あの馬鹿兄、私の彼氏の正体を探っていやがった。
居ないから、その人たち無実だから。私の彼氏は空想上の存在だから!
「ハルカスを止めろぉぉぉ!!」
「ハル君待って!!」
ダバダバと奇怪な動きで走り続ける駄兄。このままでは死人が出てしまう……、そうだ!!
「私の彼氏は同じ学校の生徒じゃないよー」
「何ぃぃ!?」
兄は私の言うことを盲信する。なら、私が違うよと否定してあげれば良いだけ。
「なら、この町に住む学校に在籍していない男を皆殺しにするか」
「規模がとんでもないことになってる!!」
一躍、兄が大量殺人犯になりかねない大事に。どういう発想をしているんだ、あの駄兄。
「が、外国の人!! 私の彼氏は黒人さんだよ!!」
「何ぃぃぃぃ!!?」
「チョイ悪ルックで硝煙の香り漂う、怪しい黒人男性なの!」
「ここあぁぁぁぁぁ!!? 騙されている、絶対に騙されているぞここあぁぁぁぁぁ! 今すぐにそんな危ない奴とは別れるんだぁぁぁ!!!」
……確かに。どれだけ怪しい人なんだ、私の彼氏。
これはもう、無理かな。そろそろ、彼氏は私の狂言だって告白するか。結局、兄のシスコンは矯正出来なかったと言う事で────
「……道明寺ぃー」
その時。
兄と仲が良いらしいダークエルフの森に住むという肌黒い男が、部室のドアを開けて入ってきた。
「……黒人」
「どうしたんだ道明寺。そんな怖い顔して」
「背が高い。硝煙の香りがする。怪しい男……」
「ど、道明寺?」
「お 前 か あ あ あ あ ! ! !」
直後、ゲーム部の部室は大爆発を起こした。兄がおもむろにロケットランチャーを床下から取り出しケリンを爆殺したのだ。
「ぶるああああああああああああああああ!!!」
その凄まじい爆風に巻き込まれ、私達の学校は半壊する。そして凄まじい断末魔の声と共に、ダークエルフは空の彼方へと吹っ飛んでいった。
「……道明寺の奴、いきなりどうしたんだろうな」
ダークエルフのケリンは慣れた態度で吹き飛びながら、友人の豹変ぶりをいぶかしむ。随分と落ち着いているが、それは彼にとって、爆発して吹き飛ぶのは日常茶飯事だからである。
「何にせよ、一人で吹き飛ぶのは芸がない。い●ながぁ!! た●しぃ!! 今からお前んちに墜落してまた爆発するから、準備しといてくれよ!!」
手慣れた様子で、ケリンは自らの仲間達にLINEで空爆を予告した。二人の爆発仲間を連れて、ニ●ニコ本社を爆発させるのがお約束なのだ。
だが、しかし。その返答は……
『いわいわいわ(ハーメルンの規約で実在の人物を登場させることは出来ないから、今回は遠慮します♪)』
「何ぃぃいいいいい!!?」
そう。このサイトで実在する人物や組織をネタにしたり、フルネームで出したりしてはいけないのだ。運営している方に迷惑がかかってしまう。
「なら……なら、ニコ●コ本社を爆発させることも出来ねぇじゃねぇか!!」
ケリンは頭を抱える。そもそも彼に、二次創作サイトで爆発オチなんてする予定なぞ無かった。だから、ネタを用意し忘れていたのだ。
「こうなったら仕方ねぇぇぇぇぇ、オチは弱くなるが許されそうでかつ、あんまり迷惑かけそうにない所に突っ込むかぁぁぁぁぁ!!!」
そう言って彼は、吹き飛ばされながらも自らの目的地を変えて──────
「ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!!」
ハーメルンの運営に突っ込み、大爆発を引き起こしたのだった。