学園艦とは文字通り艦、つまりは船である。日本各地の土地や場所をなぞっているだけあってその数は多い。此処で気になるのは当然、食糧事情についてである。陸地にて購入したとして、そもそもそれが消費されるのは一般家庭。学園艦に於いて肉の備蓄はどうなっているのか、と言えば、答えは簡単、畜産でしっかりと補っているのだ。
学園艦は空母の形をしており、それぞれ各ユニットごとに役割が変わる。最上部の表面ユニットは言うなれば居住区、つまりは一番わかりやすい学園艦の表の顔と言えるだろう。更にもう一つ下層のユニットに進めば、人工的な太陽光などを取り入れた畜産ブロックとなっており、最上部ユニットだけで一つの市の人口と同じ、もしくはそれを上回る人が生活できるのだ、その土地をまるまる畜産に使用出来るため、肉の供給自体はしっかりと整っているのである。当然、冷凍された肉なども保存されているので万が一の場合の備えもある。
もう一つ下に向かえば魚類の養殖を行っており、更に下はエンジンやブロック、ユニット整備などをしている専門の人間がおり、普通に学園艦に暮らす人間は関わる事のない場所であった。
なので、陸から孤立したという理由だけで物価が上がる事も無く、また、生徒一人一人がアルバイトを行ったり、国の人間の面談や診断を受けて適正とされる仕事が割り振られたりされているので一人暮らしも可能となっているという仕組みだ。レストランでも、厨房には成人だけでなく学生の姿も多く、スーパーやデパートの店員、美容院等々、若い人間であろうともしっかりと労働力になっている。
こうして培われた技術は本土に戻っても活かす仕事となり、再就職を斡旋される事もあれば、そのまま学園艦で今度は成人として仕事をし、新たに加わった後輩を教育する道もあるのだ。
勿論国からの支援もあり、学園付属の寮は基本的に家賃は取らず、最低限の水道光熱費といった部分の支払いのみの場合や全額免除など地域ごとで変わって来る。そうでなければ学生の一人暮らしなど基本は無理だ。仕事をしていない生徒に関しては、親からの仕送りだったり、国から配布された簡単な内職をクリアする事で報酬が支払われ、それをもって支払いとする。
故に少し苦しい生活になる事もあるが、基本的に、衣食住に困る事はなく、娯楽に少しだけ我慢が必要になる程度、といった貧困具合でむしろ恵まれた場所と言っても過言ではないだろう。
だからこそ逆に、専門職に就いている生徒は、忙しさはあれど支払われる報酬は多く、学生であれば家賃を必要としないので大分余裕のある生活が可能となってくる。
「おいす~、ミハエル」
「雛芥子さんおっすおっす」
待ち合わせ場所のモノレール駅前にいたのは、やや黒みがかった茶髪の雛芥子。白のチュニックに首元はトレードマークの赤いスカーフを巻いている。ボトムはジーンズで健康的な彼女のイメージにぴったりの服装。
「お~、ミハエルの私服って初めてみるかも。いつも制服とツナギだから新鮮だぁ」
一方のクルトは白のメンズシャツをオープンにし、首にはドッグタグ型のネックレス。ボトムはベージュのチノパンに黒の革靴。資金に余裕がある為つい最近買ったばかりの服である。
「まぁちょっと前に買ったばっかりだからね~、どうせなら着ようかなと」
「似合ってる似合ってる、それじゃあ行こうか」
歩き出した二人を見れば、まぁ誰が見てもカップルだろうと判断する。通りがかった独り身の女性が、若々しいカップルに微笑ましさとほんのわずかな嫉妬が混じった目線を向けた点からもまず間違いない。だが二人は当然そんな関係ではなく、お互いを別にさほど意識もせず、単純に買い物に出かける為に向かったのだ。
ことの発端はつい昨日、部品が届き、全国大会に向けたパンターの改造キッドを二日掛けて整備し、漸く終えて大きく溜息を吐いたミハエルに、普段から世話になっているから、と雛芥子が呼び出したのが発端だ。彼女にとっても買い物の用事もあったし、そのついでに労えるのであれば一石二鳥。
クルトとしても気分転換に良いだろうと言う考えでそれに賛成し、最初はエリカを誘おうと思ったのだが、女子が多いと気まずいという点、期待が込められ次期副隊長として目を掛けられている分、より練習に力を入れている。休みの日くらいはゆっくりして貰おうと考えた結果、今に至る。
とは言えエリカからすれば別に呼び出しは気にする事でもなく、実を言えば彼女も彼女で気分転換に外出していた。彼女を気にかけているまほからの呼び出しとなれば飛び起きてでも向かうべきという判断だ。
「映画でも見に行く? 午後は買い物したいな~って思ってたんだけど、どう?」
「別に大丈夫だよ。見る内容は雛芥子さんにお任せしようかな」
「任された!!」
映画館に向かい、上映中の内容を確認した雛芥子は、これだと目を付けてカウンターへと向かった。選んだ映画は、第二次世界大戦中、第三帝国の指導者だった人物が、死んだ筈なのに現代へとタイムスリップしてしまうという内容。以前から興味はあるという話を雛芥子としており、まぁこれだろうなと確信しながら戻って来るのを待っていれば、やはり案の定ソレである。
次に向かった先はフードコートの売店だ。映画と言えばやはりという事で欠かせない。
「雛芥子さん、どれにする?」
「ん? え? いや、いいよ、逆にウチが出すからさ」
「大丈夫、こうして外に連れ出してもらってるだけで充分労って貰ってるから。それにチケット代、出してくれたんでしょ? これぐらいは払わせてくれないと立場が無いから、ね?」
「うーん、分かった。ここで問答しても雰囲気悪くなっちゃうもんね。そうだなぁ……ジャーマンポテトとホットドッグにスタウトで!」
「結構ガッツリと食べるんだね?」
「朝、遅刻するかもって急いでたから実はお腹ペコペコなのです。お昼前だけど充分入るよ!!」
「そっかそっか」
雛芥子の分のジャーマンポテトとホットドッグ、ノンアルコールのスタウトを購入し、クルトは定番のポップコーンとミニピースのピザ、そしてスタウトを選択。これであれば、雛芥子とシェア出来ると判断したからだ。上映まで残り一分という所で購入したのでどちらとも出来立てで熱々、座席は広い間取りを取れるツインソファなので、トレイを置くスペースにも余裕があり、ちょうど二人の間に置く事が出来る。
「雛芥子さん、食べたかったら勝手に取って食べてもいいから」
「ん、ありがと。こっちのも、食べていいからね」
「サンキュー」
お互いのフードをシェアしながら映画を見て、隣からポップコーンを摘みながら雛芥子は横目でクルトを見た。顔は悪くない、むしろ良い方であり、学園に来た雰囲気の暗い男子生徒よりもマシと言える。根は真面目だし人当たりも良く、気配りもきちんと出来ておまけに戦車に関わる同士。整備士なので支払われる給料も多く、エリカの話を聞けば大型PCを買う資金だけでなく、電化製品もきっちり揃っているという状況。間違いなく、学生寮を出ても一人暮らしを出来るだけの余裕は間違いなくあり、普通であれば女子からすれば人気物件は確定であった。
(……でもやっぱり、良い友達って所で止まっちゃうんだよね~)
雛芥子も、考えなかったという訳でもない。しかし、彼と付き合えば付き合う程、恋愛という枠を飛び越え、親友といった、友情に近い方を強く感じてしまうのだ。故に今日出掛ける事も、デートというよりは友達と遊びに行く感覚でしかなく、逆にデート扱いするのは彼に対して失礼だと感じてしまう。それに。
(どうせなら、エリカと付き合って欲しいよねぇ)
彼女とも顔馴染みで、つっけんどんな癖に素直になれない典型的なツンデレ系女子、エリカと上手く結ばれて欲しいと考えてしまう。雛芥子はエリカも、クルトも大好きなのだ、だからこそ、その二人が恋人になったとなれば心の底から嬉しく思える。
(ま、今は無粋な事考えない様にしとこ)
こういった邪推も彼にとっては失礼な事かもしれない。雛芥子は映画に集中しながら、フードメニューをすらすらと口に運びながらしっかりと堪能するのであった。
「いやぁ、面白かったね~」
「途中、ドキュメンタリーみたいに人に話を聞いて今の政治について尋ねるシーンとかすごかったね。あれ実際に、エキストラとかでも何でもなく、通りがかりの人との問答を撮ったシーンをそのまま使ってるんだって」
「成程、だから中指立てた自転車のおじさんとか居たんだね」
「ある意味で、あの作品自体が、登場人物がプロパガンダとして作ろうとした映像作品って考えれば納得かな。そういう所も面白かったね」
お互いに映画の感想を話しているところなど完全に恋人が行うソレなのだが、二人からすればそんな考えなど皆無なのだから疑問である。喫茶店の窓際席でやっているのも中々に悪目立ちだ。故に、ふと喫茶店を向けば彼らが映るのだが、街中を歩いていたとある三人組は、それを目にしてしまった。エリカ、まほ、みほの三人である。
同じタイミングに外を出ていた彼女達がそれを見て何を思うか、当然一つである。エリカを除いて。普通であれば、此処は声を掛けず何も見なかった事にしようという考えが起きる。だというのに、何故かエリカはずんずんと大股で近づいていく。何故か、何処となく、小さな怒りも見てとれた。
「それでさ~……ん?」
こつこつ、と控えめに窓を叩く音が聞こえて、横を見る。腕を組んで立つワンピース姿のエリカ。だが此処で一つ言いたいのは、この喫茶店は入り口が下、つまりは若干地面から降りる形となる。故に高さの関係から彼女を見上げる事になるのだが、隠すつもりもないおっぴろげな状態に、雛芥子は思わず拍手を送りたくなる。
取り敢えずクルトはメールで手早く送信。水色、とだけ送って、指を下につつくジェスチャーをすれば漸く意味を理解したのだろう。何事も無かったかのように、すっと足を閉じて店に入って来る。淀みなくクルトの隣に座り、まるで最初から一緒だったかの如くコーヒーを注文していた。
それに困惑するのは西住姉妹である。そこで介入するのか、とか、何で少し怒っているのか、とかいろいろあるが、考えた結果、取りあえず仲に入ろうと決めたらしい。
白いシャツにデニムととてつもなくシンプルなまほの服装に対し、みほはキュロットスカートに三分丈シャツのラフな格好。とは言えワンポイントで白い帽子をかぶっているのでそれなりに意識はあったのだろう。
彼女達は、すまない、と一言添えてから雛芥子の側に座る。
「んで、何で二人で出掛けてたのよ」
「パンターの整備終わったからその労いに遊びに行こうって雛芥子さんに誘われた」
「何で私を呼ばないのよ」
「練習で疲れてるかなって」
「どうだか。本当は女子二人と出掛けて浮かれてたんでしょ」
「ちょっと、俺は良いけどそれは雛芥子さんに失礼でしょ。せっかく善意で呼んでくれたのに」
唐突に険悪な雰囲気になる二人、さて、置いて行かれたのは三名である。唐突に痴話喧嘩が始まったので仕方がない。二人の会話は出来立てのカップル同然、しかしこいつら、付き合っていないのである。ふざけんなこいつらと言いたくなった気持ちを雛芥子は何とか奥に追いやり、ミルクカフェオレを飲みこんで、なるべく落ち着いた声色を意識して口を開く。
「まぁまぁお二人さん落ち着いて、まるでカップルみたいなやり取りになってるけど」
「え、何処が?」
「カップルではないでしょ」
次の演習はティーガーⅡの履帯とエンジンを徹底的に狙ってやろう。そう決心する雛芥子であった。
「エリカ、それぐらいにしておけ」
「た、隊長……?」
「ミハエルはお前の事を気遣って声を掛けなかったんだ、そこを汲み取れば感謝の言葉はあれど、罵倒する理由にはなるまい。それに、二人で出掛けている事を咎める理由もお前にはない、そうだろう?」
「うっ」
「ミハエルも、責任は無いとはいえ、男女で出掛ければこういうトラブルも起きる。特にエリカと付き合いが長いんだろう? まぁ、恋人ではないにしろ、やはり知り合いにそういう関係らしき相手が出来ると気になってしまうものだ。一応、覚えておいてほしい」
「よくわからないけどわかりました」
「どっちやねん」
雛芥子の突っ込みにみほは乾いた笑いを返す。彼なりの落としどころという事なのだろう。取り敢えずドリンク一杯で喫茶店を切り上げ、此処からは五人で行動する事になった。こうなると気まずいのはクルトである。そもそもエリカを呼ばなかったのは、彼女を呼べば必然的に直下も呼ばなければならない。そうなると男女比が偏って気まずい思いをする。
そうならない様に、顔見知りである雛芥子だけに絞ったのだが、それを今更言い出せばまた面倒な事になりそうだと思い口に出来ない。女性陣がきゃっきゃと話す中、一歩後ろに下がった位置でなるべく気配を消してついていく。
「あの、大変でしたね、さっき」
「ん? あぁ、みほさん。いやまぁ、仕方ないって言うしかないですね」
そんな中、みほも同様に一歩下がりクルトに合わせた。彼女としても、この組み合わせは少し緊張したらしい。1対1の方がいいと考えての行動。
「みほさんは良いの? 俺なんかと話してて」
「えっと、その、まだ緊張しちゃって」
そういえば、とクルトは思い出す。一年生になっていきなり副隊長に任命された彼女だが、実は彼女に関しては黒森峰高校以前から知っている。中学校でも戦車道を行っていたエリカに付き合う形で、よくまほの話とみほの話は聞かされていたのだ。その当時はまだ整備士ではなく、街の工場で時折触らせて貰う程度だったために直接関与する事は無かった。
しかしエリカからは、当初は、妹というだけで優遇しているのではないか、声に張りが無くて自信の無さそうな所が副隊長として相応しいのか、などと愚痴が漏れていた。彼女と同じ考えの生徒も多かったのか、二年生ぐらいの時までは皆にそう思われていたらしい。そこから、まほに憧れると同時に嫉妬を覚えた一部の生徒が、彼女を嫌っていたのも記憶にある。
そういった生徒もほぼ丸ごと黒森峰に移ったので、多少の変化はあれど、ほぼ同じ面子と言っても過言ではない。そういった境遇から、年下に副隊長をかっ攫われた形となる上級生からすれば面白く無いのだろう、故にやはり一年生という立場では居心地が悪いという事なのだろうと察する。
中学三年、高校二年の部ではまほが居たので直接的な嫉妬の声は無かったが、やはり三年生が存在するとその時を思い出してしまうのだ。
「みほさんはもうちょっと自信持ってもいいと思うよ。総隊長の妹だからって理由じゃなくて、みほさんが優れているからこそ副隊長に任命されたって殆どの人は分かってる。それを知らないのは単純に、理解していないか、みほさんがどれだけ頑張って考えているかを分かってないアホなだけ」
「あ、あほ……?」
「アホでしょ。目先のどうでもいい事に眩んで本質を見抜けない人間なんてそもそも人の上に立つべきじゃない。そういう人間はね、必ず自分の下に立つ人間も巻き添えにするんだよ。これまでの歴史に存在した暗君や愚昧な宦官、将軍が証明してる。優れた人間は必ず嫉妬されて、足を引っ張られてもなお、それを振り払って輝くからこそ認められて英雄になる。みほさんも、振り払う自信を持つといいですよ」
「振り払う、自信、ですか」
「優しすぎてもダメって事ですよ。みほさんの優しさは美徳だけど、そこに付け込んで、調子に乗るだけですから。厳しさがあるからこそ優しさがより際立つ、あなたのお姉さんがそうじゃないですか?」
「お姉ちゃんが?」
「えぇ。まほさんはよく人を見ています。一人一人の名前を憶えて、何が得意で何が苦手なのかをしっかりと把握しています。隊長として厳しい一面を見せながら、それと同時に西住まほという一個人として、それに向き合う優しさもあります。だからこそ隊長になっています。
人の上に立つ人間に必要なのは人徳、カリスマです。みほさんにそれが無いとは思えません。だから、自信を持ちましょう。間違っていたらそれを次から正せばいいんです、ちゃんと、間違った事は間違っていると言ってくれる仲間はいる筈ですから。守ってくれる人が近くに居ないなら呼べばいいんです、少なくとも俺とエリカはすぐにすっ飛んでいきますよ。大丈夫です、戦車持ち出して来たらエンジンバラして動かせない様にしてやりますから」
確かに、とみほは思う。姉であるまほは、何かあった時は必ず一人一人を呼び出して面談を行っていた。何処が良くて、何処が悪いのか、そういった事を話していたのは何度も見た事がある。悪い点には改善方法や代案を示し、良い点についてはしっかりと褒め、その部分を伸ばす為のアドバイスも行っている。
だが、自分はどうか。副隊長と言っても、演習の際に作戦を述べた時、こうした方が良いのではないかと言われた事がある。だが、それは既に織り込み済みで、相手はむしろその点を突いて来るのは間違いないからこそ立てた作戦だ。しかし、その咎める声に同意する者が増えれば、徐々に自信が無くなり、本当は危ないんだと分かっていてもそれに後押しされ、採用し、負ける事がある。
そして決まって上級生に言われるのだ、普段強く言われているから副隊長の立場を利用して、私達を意図的に貶めようと作戦を採用したんだ、と。
そんなつもりはない、むしろ最初の作戦に口を出す形で被せて来たのはそっちじゃないか、と思っていても言い出せない。上級生だから、先輩だから、押し通せなかった自分が悪いから、と強迫観念に追いやられ、言い返せない。そうして黙っていると、やはり貶める気だったんだ、と更に強く言われる。違うと訂正しようとしても後の祭りで、それに同調した、みほを好まない生徒が更に声を強める。
悪質なのは、まほは相手チームであり、状況終了後の軽いミーティングを行っていて、彼女をカバーする生徒が偶然いなかったという所だ。これに関してはチーム割りが偶然こうなってしまったのだが、だとしてもみほからすれば辛かった時間には違いない。
整備士なめんな、とレンチを握る素振りを見せながらボルトを外す動作を見て、みほは小さく笑う。何気ない会話だが、今日は外に出て良かったと思えたのだ。
「……ありがとうございます、ミハエルさん。そういう所が、あのエリカさんと恋人になれた理由なんですね」
「え、今そういう話の流れだった? あと普通に違うからね?」
「大丈夫です! 私はちゃんとわかってますから」
「分かってないね? あと話聞いてる?」
「聞いてます!」
「聞いてないねこれ」
今日、漸く心の底から笑えたみほに対し、困惑するクルト。本当に話を聞いてくれているのだろうかと何だか不安になるものの、駆け出す彼女に置いて行かれない様に後をついていく。
彼女達が向かったのは洋服店。此処に関してはクルトの仕事は一切無いので店の外で待機するばかりである。はてさてどうするか、と座っていれば、再び隣にみほが座り出す。
「あれ、中で買い物しないんですか?」
「私は今は欲しい物ないから。ミハエルさんは何か欲しいものとか無いんですか?」
「んー、アクセサリーとかちょっと見たいかなぁ。後は戦車の中身について詳しく載ってる本」
「じゃあ、見に行きましょうか?」
「へ?」
すっと離れたみほが、ややあって戻って来る。にこにこと笑顔な一方、クルトの表情は困惑の色が一切離れない。むしろ、何で? という気持ちが強まるぐらいだ。
実を言えばみほ、黒森峰に来てから学友に恵まれる、という事も無く、少しだけ寂しい生活を送っていた。エリカや雛芥子、直下や同車に所属する赤星など会話をする相手はいるが、友達の様な関係とは呼べず、顔見知り程度で軽く挨拶をする程度。
おそらく、この黒森峰学園で姉の次に会話量が多いのはミハエルであった。以前食堂での一件以来、整備状況についての会話をしたり、ティーガーの改造キッドの会話などを挟んだのも切っ掛けだろう。それに、整備した後の性能を把握するのも副隊長としては重要な役目であり、そういった点から次第に、彼女からすれば仲の良い友達として認定されてしまっている。そうなると、本来は人に懐きやすい彼女の行動力は強い。
気付けば彼女に連れられて、アクセサリーショップへといつの間にか到着していた。あれれーと思う間もなく、ぐいぐいと引っ張られて今に至る。こんなに行動力あったっけと思うのもつかの間、まぁ良いかと諦めて中を見た。
アクセサリーショップは値段がピンキリではあるが、やはりピンと来る品は少しだけ値段が張る。買えない物は別に無いが、もうちょっと安い物は無いかと探せば、更に好みな物が見つかり、そして値段が吊り上がって行くのである。カードを持っているので支払いは問題無い。報酬が振り込まれるのも数日後でかなり余裕はある。
取り敢えず数個ほど候補を決めた所で、店内をうろうろしているみほへと声を掛けた。
「どう、みほさん的にはなんかお気に入りの奴とかあったの?」
「これとか良いかなぁとは思ったけど、ちょっと高いからまた今度にしようかなって」
見てみれば、ペアリング型のネックレスだ。男女どちらが付けても問題無いデザインとなっており、シンプルだが輝いているステンレスのリングと、洋風の彫刻が入ったリングが組み合っており、悪くない。値段も9000円程と確かに、学生が買うにはややお高い。
「ちょっとお会計してくるから、外で待ってるか、さっきの所に行ってても良いよ」
「わかりました」
とととっ、と小動物の様な足音が響きそうなくらいに気軽な足取りで去っていくみほを見て思わず笑いそうになる。だが、あれくらい明るくなれば、彼女の不安の種も無くなるだろうと思えた。
クルトが気になっていたのはプレートタイプのネックレスで、ややくびれがある形にロジウムメッキがコーティングされて色気のある艶が出ていた。15000円程だが買えない品でもないので思い切って購入する事となった。
袋を『二つ』持って出たクルトは、店の外で待っていたみほと合流。
「あぁ、そういえばこれ忘れ物」
「へ?」
持っていた袋を一つ渡し、そのまま先ほど三人が入って行った洋服店へと向かう。一方のみほは歩きながら、袋を開けてみれば何やら小さめの箱が一つ。まさか、とは思って開けてみれば、その予感は的中していた。彼女が選んだネックレス、実を言えばそれなりに気に入っており、しかし値段が値段なだけに手が出せなかった。ケース入りで限定品なのも後を引いたが、別の機会に似た物を選べば良いかと諦めていたものだ。
「あ、あの! これ!!」
「あぁ、気にしないで。少し前にもエリカに贈り物したし、みほさんにはこれからも頑張って貰わないといけないからさ。エリカの事も宜しくお願いしますって事で」
「……ありがとう、ございます。その、これ、付けて貰っていいですか?」
「ん? 良いよ、ちょっと待ってね」
みほからアクセサリーを受け取り、後ろの髪を上げて貰ってネックレスを通す。ふわりと漂う女性特有の甘い香りが鼻をくすぐるのだが、やはりエリカで耐性があるのか何ともない。爆発しろと言いたくなる光景に、奴一人だけ限定で爆破させられる小型爆弾は無いのか、と言いたくなる状況。
「はい、オッケーだよ」
「大事にしますね」
「まぁ、粗雑にはしないでほしいよね。普通だけど」
「あはは」
仲睦まじい様子に、周囲からほっこりとする視線を受けつつ三人の所へと到着した二人。当然ではあるが、エリカと雛芥子から物言いたげな視線を受けつつも、そしらぬフリを決め込むクルトであった。
徐々にアニメ第一話の下準備。
あとミハカスはジャーマンポテト案件なので良い方法を思いついた方は武装親衛隊第ⅠⅠⅣⅤⅠⅣ局へご一報を