黒森峰のヴィットマン   作:ハンバーグ大好き

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クッソ今更ですが

直下さん=アニメ決勝戦でヤークトパンターに乗ってた生徒。ウチの履帯は重いんだぞーの奴

雛芥子さん=十一号車十二号車、脇にヘッツァーがいるぞ!!の子。げしげししてたのでファンからの愛称はげし子=げし=雛芥子(ひなげし)




ぷんすこ事情なエリカさん

 逸見エリカはやきもきしていた。何故なら、最近クルトと、西住姉妹の仲が妙に良く感じるからである。以前買い物に出かけた時も、何故かみほにアクセサリーをプレゼントしていたし、最近では昼に彼女を呼んで一緒に食べる事も基本となっている。

 

「ぐぎぎ」

 

 今もまた、その二人と何か会話をしているクルトを見て奇妙な声を上げるエリカに対し、直下と雛芥子は何事かと困惑と呆れを交えながら口を開いた。

 

「どしたのエリカ」

 

「別に、何でもないわよ」

 

「たぶん愛しの西住まほ隊長がミハエルに盗られるって嫉妬してるんじゃない? もしくは逆か」

 

「違うってば!!」

 

 自分でもよくわからないから余計にイライラする。クルトがまほに話し掛けるのもイラっとするし、その逆もそうだ。みほに話し掛ける事は余計にイライラする。目の前でイチャつきやがって、とどこぞの報われない独身男性もかくやと言わんばかりだ。

 

 そんなエリカはさておいて一方、クルトはまほとみほの両名に、現状の車両整備状況について報告していた。

 

「取り敢えず、パンター全車はチューンアップ完了してます。具体的に見積もったのはエンジン出力を上げる事で移動性能の上昇、これによって以前よりも運動性能が増したのでより迅速に位置状況の対応が素早くなると思います。その他にもサスペンションの改良で主砲精度の上昇、二両を主砲を8,8 cm Kw.K. 43 L/71、その他のパンターを7,5 cm Kw.K. L/100に変えた事での攻撃力の上昇といったところです」

 

「ふむ。この二車は加速性能は上がった分の最高速度がやや落ちた形になるか」

 

「はい。マイバッハエンジンを丸っと変えたので。とは言え瞬間的な行動力は増加したので、瞬時な位置変換の際は静止射撃状態からより素早く動く事での状況制圧もしやすくなるかと思われます」

 

「個性を生み出す事で意図的な凹凸を作る訳か。成程、他のは?」

 

「まず、Ⅲ号戦車ですが、初期型でしたので全部改造キットで変えて後期であるJ型に換装完了してます。偵察車両という事で主砲は7,5 cm Kw.K. 37 L/24に変えて、撃破ではなく履帯や転輪の足回りにダメージを与えて素早く逃げる事を意識したやや口径が大きめの方に変えました」

 

「成程、それは実に助かる。通常であれば攻撃力は足りるが、強豪校となると装甲厚が高い戦車も増えて来るからな。緊急時による相手フラッグ車への強襲を考えても、良い判断だと思う」

 

「ありがとうございます。西住姉妹両名のティーガーも砲塔と主砲を全部変えて、8,8 cm Kw.K. 43 L/71砲にしています。以前よりも砲性能が格段に上がっていると思うので、此方を確認ください」

 

 持っていた小型ボードから紙を剥がし、まほとみほへと手渡す。視線を上下に動かし、以前の主砲との違いがしっかりと数値で現れていて見やすい。

 

「これは良い調整だ。以前の7.5cm砲よりもDPMは下がるがそれ以外は圧倒的な上方修正だな、何処でこんなモノを見つけて来たんだ?」

 

「カリウスさんの知り合いがドイツに居たそうなので伝手を使ったらしいです」

 

「そうか。今度ビールを御馳走しなければいけないな」

 

「未成年なので買う時は先生にお願いしてくださいね。スキャンダルなんて笑えませんよ」

 

「気を付けるさ」

 

 小さく笑うまほの次に、みほへも先ほどと同様の説明を加える。全体的な操作感は以前よりも動かしやすく、主砲が変わったので一応は感触を確かめて置いてくれ、と言えば、何故か砲を撫でて、硬いです! と言い張る。そうじゃないという気持ちがあったが、まほが、実際に撃って確かめろという事だ、と言えば顔を赤くして押し黙った。

 

「えーっと、続けますね。ヤークトパンターは改造案でヤークトパンターⅡにしようか、とはなったんですが、改造キットがどうしても見つからなかったので現状はそのままという形になってます。履帯を少し変えたので走破性能は上がっていますが、運用自体は以前と同じと考えて頂ければ」

 

「ふむ」

 

「フェルディ……エレファントはなんとか砲塔と主砲のキットは見つかりましたが、エンジン部分は残念ながら。12,8 cm Pak 44 L/55に変えた事で、こちらもだいぶ攻撃性能は増したかと思います。ただ、その分エンジン出力がやや足りなくなってしまっているので、移動や射撃の際は少しだけ注意するように」

 

「エレファントはある程度動かしてエンジンを変えるまで癖を把握するしかない、か。分かった。他は」

 

「ヤークトティーガーはドイツ本国でも人気車両なのでキットはすぐ手に入りました。こっちはほぼほぼフルチューンアップですね。見て下さいよこれ」

 

「これは、素晴らしいな」

 

 手渡された書類を見て、まほは思わず声を上げる。攻撃部分では要と言えるヤークトティーガーだが、主砲、精度、移動性能全てが上がっている。ネックだった移動速度が改善された事で、より状況に変化させやすく、自慢の装甲を活かした戦術の幅が広くなるのは間違いない。

 

「主砲は12,8 cm Pak L/66に変えたので、当たればほぼ撃破判定まで持っていけるレベルになっています。マイバッハエンジンもHL 230に変えたので車体重量は増えましたが、その分はサスペンションの改良と履帯を変えた事で問題点はクリアしています。今の所はこいつが一番改造に苦労しましたね、でもその分の性能はきっちり数値に現れているかと」

 

「あぁ、実に助かる。後は実際に試験運用して具合を助かめるばかりだ。演習で性能を確かめるのが楽しみになって来たよ。今度君にも礼をする」

 

「いえいえ、それじゃ、自分達は廃棄パーツバラしてくるんで」

 

 陸軍式敬礼を返し、向かった先は車庫の隅にあるスクラップ置き場。大きなものは基本的に業者に引き渡しているので、細かい部品でまだ使えそうな部分とそうでない物に分ける必要があるのだ。というのも、例えば継続高校の様に、スクラップパーツを集めて一つの戦車を組み立てる様な、強かな学校がいるからだ。

 

 判別した後は一応は資金源にもなるので、校内HPにて、スクラップパーツの張り出しがされ、欲しい学園に格安で送るという訳だ。因みにだが、一番高いのはエンジンである。というのも、メインタンクさえあれば細かいパーツは安く手に入るので当然だ。

 

「ちょっとアンタ!」

 

「お、どうしたエリカ」

 

 きこきことボルトを外して排熱パイプを取り外している中、鼻息荒くエリカが攻めてくる。妙にいきり立っているエリカに対し、当然だがクルトは涼し気な表情で作業を続けていた。

 

「さっき隊長と何を話してたの」

 

「ん~? 全車の整備部分についてかな。何処がどう変わったのかって言うのは伝えないとダメだからね~」

 

「あっそ。それ以外は」

 

「え、特にないけど。どしたの」

 

 本来であれば、何事も無く流すつもりだった。エリカがつんつんしているのはいつもの事であり、これまで何回も見て来た光景だ。だからまたいつものだろうと思ったのだが、微妙に雰囲気が違う。なんとも説明しがたいが、しかし違うというのだけは確信出来る。それが何なのか分からないのが困った点である。

 

「別に」

 

「別にって」

 

 エリカ様か、と言いたくなって、エリカか、とよくわからないオチが付いた。

 

「普段よりそんなつんつんして、何か嫌な事でもあったの?」

 

「別に何もないけど」

 

「それは困った」

 

 聞いても分からないので諦める事にした。意識をエリカから目の前の作業へと戻し、再び仕分け作業を再開する。大きな砲塔やエンジン部分などは外で他の三名が作業をしており、クルトは簡単な方を任されていた。

 

 このジャンク置き場にある物は、ほぼほぼ使われない品ばかりなので、最低限鉄とそれ以外で分ける程度で終わりだ。それ自体も既にある程度終わっているので、後は目についた数個のパーツのパイプや配管を取り除いて終了である。

 

 背後から聞こえるマイバッハエンジンの音をBGMに作業を続けていると、その中にノイズの様に別の音が混じる。見てみれば、かつかつとコンクリートの地面を靴で鳴らしているエリカの姿。動作から見ても苛立っているのは一目瞭然で、話し掛けたら爆発するのは目に見えているので誰も近寄ろうとしない。疑問なのは、何故、クルトの背後にいるかである。

 

「…………どしたの」

 

「何でもないわよ!」

 

「エリカ、言いたくないけど今ものすごーくめんどくさい状態だぞ。俺が何かしら原因で怒らせたなら謝るし、何でそんなに苛々してるのかはわからないけど、八つ当たりされるのは嫌だぞ」

 

「……仕方ないじゃない。なんでこんなにイライラしてるのか自分でもわかんないんだから」

 

「うーむ。取り敢えず作業もうちょっとで終わるし、どうする? 一緒に帰る?」

 

「帰る」

 

「はいはい。それじゃちょっと待っててくれ」

 

 何故イライラするのか分からない、という疑問を吐き出せて幾分か楽になったのか、やや落ち着きを見せたエリカはその場にあったコンクリートブロックを椅子代わりに、クルトの作業が終わるまで待つ。時折、エンジンオイルの強い臭いが漂って思わず離れそうになるものの、目の前に座るクルトはそれに動じず黙々と作業を続けている。最後の一つのパイプを仕分け、更衣室前で分かれた二人は、シャワーで汗を流し、校門前で合流する。

 

「それで、何でさっきはあんなにイライラしてたの? そうなった切っ掛けというか、瞬間は覚えない?」

 

「……アンタが隊長と話してたのを見てた時から」

 

「成程」

 

 これで納得がいった。エリカはまほの事が大好きである、恐らく、書類を交えてのミーティングであり、エンジン音が響く車庫なのでお互いが少し近い距離だったのも猶更だったのだろう、と理解した。

 

「次からは西住隊長との距離感には気を付けるよ。大会前だし、俺の起こした事であんまり気にし過ぎてもだめだからさ、一気に熱が上がった時、すぐに冷静になれる心掛けの練習って事で今回は落ち着こう、ね?」

 

「そう……ね。私もちょっとらしくなかったかもしれない、ごめん」

 

「気にしないで。家に瓶入りのティラミスとコーヒー牛乳あるけど、食べてく?」

 

「食べる」

 

「そっか。甘い物食べれば元気も出るし気分も良くなるよ」

 

 その後は特に会話も無く、ぼんやりと二人でスイーツを食べる。少しだけ開けた窓から差し込む夕陽に混じり、ウミネコの声が響き渡る。クルトはこの静かな空間が好きだった。この世から一瞬だけ隔絶されたかのような静かな雰囲気が心を落ち着かせる。

 

「アンタ、好きな人とかいるの?」

 

 ふと、エリカが呟く。振り返れば、普段より少しだけ目付きが弱い。

 

「え、特にいないけど。どうしたの」

 

「いや、いい」

 

「なんだそれ」

 

 即答で帰って来た時点で本当に居ないのだと即座に察して話を切り上げた。相手が居ない、それは嬉しい事でもあるが、同時になんだか悔しくも感じる。

 

「帰る」

 

「あいよ」

 

 大会前で少しナイーブになり過ぎている、自分にそう言い聞かせ、これ以上は長居しない方が良さそうだと判断して立ち上がる。もう一週間もすれば対戦校を決める抽選会が始まる、その前に気持ちの整理をしなければならない。そうしなければ、その後にやってくるプレッシャーに耐える余裕がなくなってしまうからだ。

 

 高校の戦車道は中学校までの戦車道とはレベルが違う。此処で出した成績が、はっきりとこれから先の進路に関わってくるのだ。自分が足を引っ張り、これまで築いた栄光の道を進んだ、敬愛し尊敬するまほの為にも絶対に負けられない。そう考えれば考える程、気持ちが沈んで余裕がなくなる。

 

 だからなのだろうか、クルトとまほが話していて、苛立った理由が分からない。自分はクルトに嫉妬していると思い込んでいる。そうでなければおかしいはずだ、と。だが、その自問にはっきりと答えられない自分がたまらなく嫌になる。相手の好意に気付いておきながら、もしもを考えて臆病になり、結果恋は冷めて行った。冷めた恋は固まって家族へ向ける親愛になった。

 

 そのはずなのに、みほが付けていたネックレスを見ると、まほと話すクルトを見たときは比べ物にならない程の苛立ちを感じるのはどうしてだろう。

 

 

「…………疲れてるわね、私」

 

 これではダメだと判断したエリカは一人、以前も行ったスーパー銭湯へと足を運んだ。大会前のリフレッシュにはちょうどいいだろう、と。相変わらず賑わっているスーパー銭湯で、体を洗いジャグジーバスへと体を沈める。これで周囲に人が居なければ静かで最高なのだが、公共施設でそれは流石に無茶かと内心笑う。

 

 静かに、お湯に体を揉まれていれば気分もそれなりに楽になる。恐らくは疲れが溜まったせいであんな嫉妬紛いな気持ちになってしまったのだろうと気付いた。気付いて、おかしい、と感じた。先も整理したが、エリカはクルトに恋愛感情を抱かれていたのを気付いておきながら、気付かないフリをして、今に至る。

 

 その当時は正直に言えば両想いだったと思う。しかし、万が一、そうではなかったとしたら、という思春期特有の恋に対する不安が自分の足を掴み取り、一歩前に進む事が出来なくなってしまった。そうこうしているうちに、クルトの優しさに甘えすぎて、その結果は姉と弟、兄と妹の様な感覚で落ち着き繋がってしまった。だからこそ、確かにまほは憧れと尊敬を抱く相手だが、むしろ付き合いの長いクルトであれば、人柄も分かっているし知らない男とまほが結婚するよりならば、自分勝手ではあるが落としどころとして文句はない筈なのだ。

 

(あぁ、ダメだ。深く考えたら戻れなくなる)

 

 この思考は泥沼に嵌る。そう考えたエリカは無理やりに思考をシャットアウトした。落ち着いたからこそ、逆に一つの考えに集中すると止まらない。今は切り替え、戦術や効果的な運用を頭の中で考えて、何とか誤魔化し、さっぱりとした気持ちで帰路へ着く。

 

 運命の幕開けは、既に背後へと迫っていた。




やっぱエリカすこ
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