住む地域で特性というのは変わる。同じ生物でも環境の違いが多様性を生むように、戦車道もまた各校の特色がある。例えば黒森峰、真正面からの面制圧で蹂躙するタイプ、サンダースの様に物量で押し切るタイプ、聖グロの様に一歩一歩しっかりと駒を進めて有力な展開を盤石なものにするタイプ、プラウダの様に縦深防御で敵を誘い込み包囲殲滅するタイプ、知波単の様に大和魂で突撃するタイプ、アンツィオの様にノリと勢いで突っ込んで流れを生むタイプ。
このように各校の特性を活かす戦術の根幹には、それを可能とする性能を持つ戦車を使うからこそだ。性能が良ければ当然、多少の不利な状況も強引にねじ伏せることが可能。黒森峰はそういった形で、バランスの良いパンターが下地を作り、攻撃力のあるティーガー、ティーガーⅡ、ヤークトパンター、ヤークトティーガー、エレファント、マウスが粉砕していく。
今回の初戦の対戦相手は継続高校。艦の規模もそれなりに大きく、フィンランドをモチーフとしている為に森林等の自然が豊かな学園艦だ。何度か黒森峰と練習試合をしているが、森が多い学園艦の出身であるため、基本的にゲリラ戦法を得意としており、マニュアル戦法を得意とする黒森峰に対して上手く立ち回ることが可能な相手だ。
平地での戦闘では圧倒的に黒森峰側が有利だが、森に囲われた場所での戦闘は個人個人の持ち味を生かした戦法を得意としており、西住流とは対極に位置する島田流のようだとも言われていた。はっきり言ってしまえば相性の悪い明確な学園であり、次の対戦場所も丘陵のある森林地帯となっている為、相手のテリトリーといっても過言ではない。
現在、クルトは港にて待機している学園艦から離れて、試合会場近くの街を歩いていた。エリカ達は既に雛芥子、直下と共に街へと遊びに出ており、二日後の試合へ向けての息抜きをしている最中だ。その為、珍しく一人となったので、誰の目も気にせず街を遊び歩いているのである。
今回の服装はカジュアルスーツタイプで、上はカーキ色の背広に白黒のチェック模様シャツ、下も同じくカーキ色のズボンで揃えており、雰囲気としては大人っぽさが際立つ。今回この服装にしたのは、エリカからプレゼントされたからである。あまりに唐突だったが、ソレをもらったので直下や雛芥子がそれを見てみたいという連絡があり、どうせならと夕飯はいつもの面子で外で食べようという約束をした。それまでの時間つぶしにと外に出たのだった。
本来は特に用事もなかったが、気分転換目的で外に出れば、意外とやりたいことや目的が増え始める。
現在向かったのは紅茶の茶葉を売っている店。デザート作りも良くするので、コーヒー以外でも紅茶は良く飲む方だ。愛飲しているのはフォートナムメイソンのアッサムで、ミルクティーの相性は抜群である。それ以外にも挑戦してみようと思い、店の人に聞きながら選べば間違いないと踏んだのである。
(これは間違えた奴かな)
店に入った瞬間、それを確信した。店内にいるのは殆ど女性、テーブル席もあって紅茶専用の喫茶店としても利用出来る店であった。しかし、問題はその客層である。一発で分かるその服装、というのも、聖グロの制服を着た生徒が多数居たのだ。女性が多いのもあまり得意ではないので後でまた来よう、そう考えていた時だった。
「あら?」
「ん?」
横からの声に振り向けば、そこに立っていたのは見覚えのある生徒の顔。
「偶然ですね、ダージリンさん」
「……こんな格言をご存知? 運命の中に偶然はない。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれを作っているのだ」
「アメリカ大統領、ウッドロウ・ウィルソンですか」
「博識ね」
であるならば、彼女がいるのも当然と言えた。口に手を添えて小さく笑うダージリンは楽しそうに表情を輝かせている。一方で、その隣には見覚えのない生徒も居た。彼女と同じくブロンドヘアーだが、髪型はダージリンの様なギブソンタックではなく、前髪を後ろに、それを黒いリボンで止めておでこがキラリと輝くモノ。髪の長さもそれなりで、緩やかなウェーブがかかり背中の真ん中まで届こうという具合。深い青みが混じった薄紫の皮の様な綺麗な瞳をクルトへ向けて、お前は誰だと言葉にしなくても悠々と語っていた。
「ダージリン、この方は?」
「そういえばアッサムはあの時は風邪で休んでいたわね。以前、我々の戦車を一斉整備したでしょう? その時に招いた整備士の一人よ。黒森峰学園一年生、見入クルト、同じ黒森峰整備部での愛称は苗字の読み方を捩 ってかの有名な戦車乗りのミハエル」
「ずいぶんと調べてますね」
「えぇ、狙っていますから」
は? と、呆れと疑問を浮かべながらアッサムは僅かにクルトを睨む。アッサムが睨んだのは何も怒りによるものではない。アッサムはクルトと初対面であり、加えて言うならばダージリンとは二年の付き合いがある。だがこれまでを思い返しても男の気配もなければ出会いも当然なく、そもそも聖グロは今は女子高なので出会いがないのは当たり前とも言えた。
だからこそ逆に、狙っているという、普通に聞けば好意的に感じるその台詞を聞いた時、いったいいつからの付き合いなのか、と勘繰ってしまうのだ。アッサムとて乙女だ、色恋沙汰に興味がないわけではない。加えて友人が気になっている相手ともなれば当然だ。
しかし当然ながらクルトもそんな事を言われる覚えはない。クルトは馬鹿ではないからこそ、その台詞を、ダージリンの発した台詞の本当の意味はともかく、一般的な解釈で言えば好意を持たれていると受け止める。だが彼女とのコンタクトは非常に短い時間で、むしろあんな出来事があったのならば嫌われていることの方が自然である。
故に、アッサムと同様、困惑気味の表情をダージリンへ向けていた。
「え、あの時の無礼打ちとかでヒットマンでも雇ったんですか?」
「ヒットマン? 貴方それだけの悪事をダージリンに働いたの?」
とんでもない言葉にアッサムの睨みが強くなる。女の敵という意味でヤバイ奴なのではないか、とポケットの携帯電話へ手を忍ばせて非常事態に備えた。
「人によってどう捉えるか分からないんですけど、恐らく狙われる理由はあの時俺が……」
「ゴホン! そうではなく、整備士としての腕を狙っている、という事よ」
流石に、あの時のトチ狂った誘惑方法はダメだと後で冷静になってから考えたダージリンは、淑女にあるまじきあの時の行動を秘匿するべく、訝しんでいるアッサムへ説明するための台詞に割り込んだ。
「違うんですか、てっきり俺はダージリンさんの下……」
「その件はもう良いです。逆にこれ以上語るのであれば……ね?」
「……はい」
この時のダージリンは、背後にかのウィンストン・チャーチルを顕現せんばかりの威圧を放っていた。取り敢えず、あの事は秘密にした方が良いのだろうと判断して押し黙る。取り残されているのはアッサムで、何なんだこれはと顔を右往左往するしかない。
「という訳で、どうかしら? 我が校も共学の話が出ているのだけれど、そのテストケースという事で転校手続きをしてみないかしら?」
「いやいやいや」
これが相手が男であれば、なんでやねんとツッコミを返す所である。ドーバー海峡の様に話の流れが素早く変わったことに疑問点しかない。
「まぁ、そうでしょうね。それより、立ち話もいいけれど、向こうにテーブルがあるから、どうかしら? ティータイムに付き合って下さらない? 勿論殿方ですから、断りませんよね?」
「まぁ、それぐらいなら」
結局のところ、落ち着いて話を聞かなければ意味がないとクルトは判断した。ダージリンがアッサムを伴っている姿は普段通りだ。しかし隣に男を連れているのは珍しいを通り越して異常事態である。テーブルへと向かう三人に向けられる視線は多く、ほぼ聖グロの生徒で埋め尽くされているこの場で、アウェイなのはクルトのみ。
「……落ち着かない」
「当然でしょう。貴方がダージリンとどういう関係なのか分からないけど、私も驚きだもの」
「あら、どういう意味かしら? アッサム」
「殿方を連れて歩く、その行為が注目されるなんて当然分かっているんでしょう? ダージリンなら猶更の事よ」
「失礼ね。そんなに色恋沙汰から遠く見えるかしら」
「見えるわね。殿方と付き合うというよりも上手い事利用してそうなイメージだから。いざ会話してみたら殿方から離れていきそうだもの」
「酷い言い草ね。そう思いません? えっと、どちらでお呼びすれば?」
「え? あ? お好きな方でどうぞ」
「じゃあ、私もミハエルと呼ばせていただきましょう。ミハエルさんも、酷いと思いませんか?」
「……そうですね」
「ふふん、どうやら彼も私と同じことを考えているみたいよ」
「あら、違うと言葉にしているけれど?」
「そうですね、とはダージリンの言葉に賛同しての発言とは限らないもの。それに表情を見ればすぐに分かるわよ、遠慮して合わせてあげてるのよ」
「酷いですわ、こんなに純粋な乙女ですのに」
「フヘッ」
「今鼻で笑いましたね? ミハエルさん」
「いや全然」
「笑いましたよね?」
「いや全然」
鋼の意志でハッキリと答えた。短いやり取りからミハエルがダージリンに対して抱いたのは、水面下で暗躍する政治家、もしくは裏の世界の組織の代表、といった感じだ。一つでも弱みを握られると、そこから傷口を抉じ開けて情報を抜き取り自分の有利な状況に動かしていく、故に主導権を握られると間違いなく面倒な事になると考え、ハッキリと誤魔化した。
「その話はどうでもいいから、何故ダージリンか彼を狙うのか、理由を聞きたいのよ」
これ以上の茶番は見ても無駄だと感じたのだろう。小さくため息を吐くアッサム。とはいえ事情を知っているのはダージリンのみ、会話のやり取りを聞いても、彼女が一方的に狙っている事しか情報を得られないのだ。
女という武器を使って彼の秘密を引き出すならともかく、そういった何か秘密があるわけではない。ではダージリンが彼に惚れたので落としたいのか、という訳でもなかった。ならば変に間延びするよりも直球で尋ねた方が早いと判断した。
「あら、つれないのね。彼を狙う理由はただ単純に、チームに莫大な益を齎す素材になるからよ」
「素材?」
「あの整備を終えて以来、貴女の大好きなデータに基づいた結果、細かい部分ではあれど性能が上がっていたでしょう?」
「……確かに。クルセイダーもリミッターを外した後の持久力も良くなって故障も無い、チャーチルも超信地旋回がスムーズになった事での砲撃移行の具合も良くなっていましたね」
「マチルダも、若干攻撃不足だった主砲をそっくりそのまま3インチ砲に変わった事で、それだけでも大きな利益よ。もしそれを、一回一回陸地の工場に送ったり、新車を買う手間を掛けずに少ない資金で行えたら?」
「余剰分を新たな戦力に導入できる、という事ね」
「えぇ。それに、我が校はOGが伝統を重視するせいでもっと力のある戦車を使えないという致命的な欠点があるでしょう? ならば、戦車を購入せず、パーツのみを集めて整備士に組み立てさせたならどうなるかしら?」
「…………なるほど」
ダージリンが言いたいのはつまり、一個丸々戦車を購入するともなれば、これまでの伝統を重視したOGに気づかれて即座に購入を止めろと抑え込まれ、顧問もその圧によってそもそもの購入が取り消されてしまう。
加えて、いかにお金持ちな聖グロといえど、戦車一台を気軽に用意出来るかといえば実際はそうではない。戦車はそもそもの残存数が限られており、イギリス本国で使われていない車両を輸入しているので、数の限界が来ると打ち止めになってしまう。新規パーツ製造から再度組み立てるラインも国内には数が殆ど無いので受注したとしても相当な時間が掛かる。故に、基本的に海外から輸入するのだが、そうなると異常なまでの資金が掛かる。
黒森峰が強豪校の所以が此処であり、強力な戦車をしっかりと多く保有し、加えて海外とのコネクションも強いからこそ、パーツや戦車の安定した入手ルートを所持しているのだ。
そして、整備士の技術を高めるための一環として、さまざまな戦車に触れさせるという名目でパーツを買い、それを組み立てる事が出来るのならば、それは途轍もなく大きな力となるだろう。一台丸々購入するのにも馬鹿みたいに金は掛かるが、一台組み立てられるパーツ自体は存在しており、それを完成させる事が出来るのであればコストも安上がりで、戦力も増強出来る。
当然、組み立てラインが可能な場所や人員が必要になるが、その程度であれば聖グロの学園艦に幾らでも存在する。新規パーツを製造する工場はなくとも、簡易的な整備をするための施設は当然必須である。そして、出来上がった戦車が正しく動くか試験的運用させるという名目で、実戦で使い、成果を上げればOGだって何も言えないだろう。より勝利に近づける為には、下らない意地を続けても意味がないのだから。そして、ダージリンには革命を起こす意思がある。
「そうなると、我が校にもセンチュリオンを始めとした戦車が加わる事で、黒森峰に対抗することだって可能よ。悔しいけれど、我が校の戦車は真正面からぶつかっても、そもそもスペックが劣っていて戦術を駆使しなければ勝ち目は無いわ。だというのに、どこぞの誰かさんが加わった事で整備が向かい風になった結果、強力な戦車がより強くなっているもの」
視線を向けられ、アッサム漸くダージリンの目的を理解した。そう考えると彼を求めるのも理解出来る。学園艦に在籍する整備士というのは少なく貴重だ、それが女性ともなれば特に数が限られてくるだろう。そして、聖グロに入学する生徒でその道を目指す生徒など、まず皆無である。となれば、外から風を取り入れるしかない。そんな中、若くして整備士として確かな力を発揮している彼は是非とも取り入れたくなる。
聖グロははっきり言って、全国大会で実績はあるが、輝かしい栄光を手にした事はなかった。準決勝や決勝で止まり、優勝旗を持ち帰った事などそれこそずっと前の一回きり、そこから伝統が始まって今の戦車のラインナップで固定されている。
そんな場所に整備士を募集したところで、確実に重用され、結果が繋がる事で次へと斡旋する力が強い黒森峰の様な強豪校や、学園艦という不便な場所ではなく陸地に留まるのは当然の事である。
「俺はただ戦車が好きで整備してるだけなんだけどねー」
一方で、評価してくれるのは嬉しいが、その数値が高すぎるとクルトは思う。若い芽を育成すればいいじゃないかとも考えるが、状況は深刻であり、整備士をより欲する側の気持ちは理解出来なかった。
「貴方の様な方が来て、実際に整備した戦車を使われて、それで優勝し、雑誌等に載ればそれこそ、後に続こうという人も増えます。だけど普通はそこまで気を配る事なんて無いわ」
「でも、私達なら貴方の活躍をしっかりと表に出して後釜を育てる用意もありますし、その気があるのであれば、次の総隊長は私ですから、本気で掛け合ってそれなりの見返りは用意致しますわよ?」
「……そっかー。でもごめん、嬉しい誘いだけど今年中は間違いなく無理かなー」
「それはどうしてかしら?」
「まだ成果出てないからね。大会で整備した戦車が例年と比べての成績の違いが出たってなるのであれば、短期留学とかも考えるし、俺だってスキルアップのチャンスは掴みたいからね。それに今は見守りたい人もいるから、気持ちに踏ん切り付けないと答えにくいねー」
「……そう。でも、可能性が無いというだけで十分です…………こちらを」
ダージリンは懐からメモ用紙を取り出し、何かを書いてクルトへ手渡す。
「私の電話番号とメールアドレスよ。可能性があるのなら、私は今日から既に動いて、貴方がいつでも我が校へ来られる様に準備をしておきます、最低でも一か月は時間を戴くけれど、それ以降であればいつでもどうぞ」
「ありがとうございます、一応は受け取っておきますね」
電話を1コールだけ鳴らし、次にメールを送ることで交換は完了した。クルトとしても、選択肢が広い事は良い事だと考えている。黒森峰には幼馴染のエリカもいるし、仲の良い友人もいる。だが、自分が成長するステージがあるならばそこに貪欲に噛み付いていくのもまた、黒森峰の生徒らしい考えと言えるだろう。
「ただ一応念のために言いますけど、自分はダージリンさんが評価するほど大した人間でもないですし、あの時一緒に居た三人に声を掛けた方が良いと思いますよ。俺はまだまだ素人ですからね、求めている事が確実になるという考えは捨てて置いた方が良いと思います」
とはいえ、クルトはダージリンに、これだけは伝えておきたかった。自分自身、やってみたいという気持ちもあるし、自分で出来ない事にはイエスと言わない芯だけは強く持っている。とはいえ、相手が望んだ成果と、自分が発揮出来る成果が同じ方向性を向くかどうかは確実ではない。
故に、下手に期待されて想定外だと抗議されるのも嫌だしそれこそお門違いで、そういった衝突は自分自身のやる気の炎を消してしまうのを強く理解している。
「でも、私はやれる方だと確信していますわ。自己評価の低い方にも二種類います、仕事は出来るけれどそれに慣れて大した事をしていないと思う人、本当に大した事が出来ない人。自己評価が低いというのはつまり、内心では自信がないだけです。けれど貴方の場合はどちらかといえば、自分は未熟だと考えているように感じました。
であるならば、貴方は未熟なりにステップを踏んで、確実に仕事を熟すこと意識し、次へと成長していく意欲がある。そういう人間でなければそもそも、あの整備士の三名も貴方に一人で仕事を任せる事なんてしないはずです。だからこう考えてくださいな、自分でラインを見極めるのではなく、他者からの評価もまた貴方の実績なのだと」
だが、ダージリンはそれも踏まえた上で受け入れると強く言い放った。まっすぐと向き合い、彼の実力を見込んでの本気のスカウトだった。
「難しいですね、意識の差って」
「主観で見るのと客観から見るのでは違いが出るのと同じです。貴方自身が思うほど、周りは低く見ていないという事です」
「そんなもんですか…………難しい話はこれぐらいにして、紅茶の相談してもいいですか?」
「あら、別に良いわよ。どういった内容かしら」
「実はアッサムが好きなんですけれど、どれがいいかなぁ、と」
「んなっ?!」
此処でクルトはすっかり忘れていた事に気づく。目の前にいる彼女たちは、本名ではなく愛称として、茶葉の名前を冠している。これもまた聖グロの伝統であり、イギリスらしいと感じると同時に、いきなり好きだと言われて平然としない訳がない。聡明な彼女たちだ、茶葉の話をしていることなど即座に理解するに決まっている。
だとしても、異性から好きだと言われれば、よほど恋愛に慣れている相手でもなければ驚くのは当然だ。クルトも、目の前でクルトンが好きだと言われれば一瞬驚き、なんだクルトンかと冷静になる。それと同じ事だ。
「…………あぁ、すいません。茶葉の話です、紛らわしくて申し訳ない」
「……いえ、不意打ちで少し驚いただけだから大丈夫。それで、メーカーの拘りなんかはあるの? 名前を関しているだけあってアッサムについては詳しいわよ? 実際に向こうに行って見てみる? 気になったのなら注文して飲み比べれば良いし」
「なるほど、お願いします」
三人はテーブルから立ち上がり、茶葉が置かれた棚へと向かう。所せましと並ぶラインナップに世界の広さを垣間見ながら、アッサムが並んでいる場所へと向かった。そこには普段愛飲しているフォートナムメイソンの特徴的な優しいライトグリーンの缶も置いてあった。
「そうねぇ。日本人向けというのであればまずはこのリプトンは安定していると思うわよ」
「あ、コンビニでよく見る奴。ちゃんとしたブランドだったんだ」
置かれていたのは、学生から大人まで愛飲されているであろうリプトンという銘柄の茶葉だ。主にコンビニ等でミルクティーの紙パックを見る機会があるだろうが、ソレのブランドである。
「えぇ。香りが豊かで味も良い、かと言ってコンビニで見るからと侮ってはダメよ。しっかりと確立したブランドなだけあって評価されるべき味わいよ。むしろ、コンビニで売っている物と飲み比べればその差も分かりやすい物よ」
「成程。これは候補に入れておこう」
「あとはそうねぇ……色々ある中でこれといえばエディアールもオススメしたいけれど、一番はこれかしら」
アッサムが手にしたのは高級感のある薄炭色の缶で、王冠が目を引くモノだった。
「ロイヤルコペンハーゲンのブレンドティーね」
「ブレンド? アッサムじゃないんですか?」
「ダージリンとアッサムがブレンドされているのよ。今日の出会いに良い品だと思わない? 味も香りも格別に違う、間違いない高級品と確信出来るモノよ。その分少し値段は張ってしまうのがネックね」
値段を見れば、100gで二千円弱、とはいえ毎日飲むわけでもなければ十分な量といえるだろう。一回分の茶葉が3gほどと考えれば30回以上も飲めるのであれば十分だ。
「じゃあ、これにします」
「そう。お返事、期待してるわよ」
包んで貰ったソレを受け取り店を出る。その後も街を散策していれば、徐々に空は薄暗くなる。時計を見れば時間も丁度よく、エリカの電話番号を呼び出し鳴らす。3コールほどで、彼女の声が届いた。
『もしもし』
『エリカ今どの辺? 時間も丁度いいしそろそろ夕飯時にいいかなって』
『今駅前よ、待ってるから』
『あいよー』
人の流れに沿って駅へと向かう。この時間帯は人も多く、帰宅中の社会人から遊びに出ている若者、数日後の戦車道大会を見る為に旅行に来たのかトランクケースを走らせる者と様々だ。至る所に大会の開催場所が大きく宣伝されており、それを指して大会の場所を探す者もいる。
そう遠くない駅前へと到着すれば、三人の姿は即座に分かった。黒森峰の制服に身を包んでいたからだ。現在九連覇中で注目されている黒森峰の生徒であるという点で、やはり周囲の注目を集めている。道行く人の足は止まらないが、視線を向けては大会の事を噂していた。
「おいっす、お待たせー」
「おぉー、ミハエル大人っぽいね~」
「軽く化粧とかヘアメイクしたら結構モテそうだねぇ」
「男って化粧するの?」
「え、全然するよ? というか芸能人って基本的にそうだよ?」
「また一つ賢くなってしまった」
雛芥子からの情報に、うんうんと頷くクルトを見て呆れ顔のエリカ。何をやっているんだといわんばかりにため息を吐いた。
「ほら、バカやってないでいくわよ。イタリアンの良さそうなお店見つけたから、隊長達も待たせてるし」
「隊長さん達もいるのか」
達、という言葉で恐らく姉妹で待っているのだろうと察する。基本的にあの姉妹二人で動く事が殆どだからだ。とはいえ、どちらかといえば、みほが気楽に居られるのはまほの隣ぐらいであり、一方のまほもみほが最初の一歩を踏み出すまでが長い事を知っているからこそ居場所になっているのだろう。
エリカの後を追って向かったイタリアンには案の定、姉妹二人が店の前で待っていた。
「どうも」
「やぁ、見入。いい服装だな」
「ミハエルさん、こんばんは。似合ってますね」
「どうもこんばんは、ありがとうございます」
「それじゃあ、入ろうか」
堂々とした足取りで中に入れば、内装は清潔感もあって高級そうな雰囲気があるが、人でそれなりに賑わっており、メニューを見てもさほど高いという訳でもない。店内に置かれたボードのおすすめメニューの中には当然値段が張る品もあるが、目玉メニューという事なのだろう。
テーブルに案内された一同は席に着くのだが、此処でまた一つ少しだけ問題が起きた。普段であれば、まほの隣にみほが座り、その隣にエリカ、といった感じになる。だがここにクルトがいるのであれば、まほの正面にエリカが座り、そしてクルトの隣もきちんとキープするのが無意識のうちに当然となっていた。
何も考えていない直下がエリカの隣に座った事で、まほの隣にみほが座り、すでに雛芥子は席についていたので必然的にみほの隣にクルトが置かれる形となった。この時点で一同は急に少しだけ重くなった、なんとも言えない雰囲気を感じ取った。当然、エリカ本人もそれに気づいていない。
「取り敢えずどれを注文します? これだけ人数がいるから、それぞれ食べたい物を注文してシェアすればちょうど良さそうかと」
「そうだな……」
テーブルに置かれたメニューは二つ。となるとそれぞれ座った側で見る事になる。真ん中に置かれたメニューを見る為に少しだけ体を寄せるのも必然で、クルトとみほの距離が近くなった瞬間、それを見たエリカは急に苛立ちを感じた。
「エリカ、どれにするー?」
「私はどれでもいいわよ。二人で勝手に決めて」
「ん? そう? ……どしたのエリカ」
「別に」
隣に座る直下は、何となく不機嫌になったエリカに気付いて声を掛けるが、エリカは膠も無く返すだけ。一方対面の三人はそれぞれ、どれにしようかと会話に花を咲かせている。普段あまりしゃべらないまほも、どういった物なのかとクルトに尋ね、内容を聞いて考えている様子だ。
「この、牛ひき肉のトマト煮のゼッポリーネってなんですか?」
「ゼッポリーネは生地を丸めて揚げたピザだね、たぶん中にトマト煮にしたひき肉を詰めてるんだと思う」
「へぇ~、じゃあじゃあ、これはなんですか?」
「ポルポッティアフォガードはタコをトマトソースで煮込んだ奴だね。ナポリの郷土料理だよ」
すらすらと答えていくのは、一人暮らしで料理のレパートリーを増やす為に調べて得た知識のおかげだろう。なんだろう、と思った品も答えていく様にみほは顔を輝かせ、一方のまほも頷きながらメニューを決めかねてしまっているようだ。
ある程度考えたが、ひとまずは基本的なメニューにしておこうと考え、パスタはペンネのアラビアータ、マルゲリータ、チーズリゾット、サルシッチャ、ハモンセラーノのメロン巻き。そしてクルト個人が食べたくなったのでベジョータのローストを注文する。
ドリンクは全員が未成年なのでソフトドリンクで、エリカ、雛芥子、直下はノンアルコールのサングリア、まほ、クルトはノンアルコールのリモンチェッロソーダ、みほはクルトにオススメされたサンタルというメーカーが出している、アランチャロッサという、ブラッドオレンジジュースを選んだ。
それぞれが普段あまり口にしない品をチョイスしたおかげで会話も弾み、本来ならばエリカの気分も良くなる、筈だった。
「これ、美味しいです! ミハエルさんが飲んでるのはなんでしたっけ?」
「これはリモンチェッロだね。レモンの皮を蒸留酒とかに漬け込むんだけど、これはノンアルコールだから少し甘さが強いレモネードって感じかな、飲みやすいしさっぱりするからオススメだよ、飲んでみると良いかも」
「それじゃあ、いただきます!」
「え」
何も考えず、みほはグラスを受け取り、口を付けてない部分から一口飲んだ。口の中にレモンの酸味が広がるが、しかしあまり強さはなく、ほんのりとした甘みの中に僅かな苦みがあって、具合が悪い時に良さそうだ、という感想を抱く。
「……あの、俺飲んでたんだけど」
「……あぁ! ごめんなさいごめんなさい!」
そして、みほも気付く。目の前にいるのは女ではなく男、同性ではなく異性だ。つい勢いのままやってしまったが、普通であれば彼の発言は、新しく注文して飲んでみろという意図だ。顔を赤くしているみほに対し、クルトも思わず顔が赤くなる。彼女はエリカと違って知り合って間もない。そんな相手にこんなことをされては流石に恥ずかしく感じる。すると。
「ちょっと! 流石にそれはダメでしょ! アンタも女なんだから気を付けなさい!」
途轍もなく不機嫌になったエリカからの発言に、顔を赤くしたまま俯くみほ。エリカの発言は注意ではあるが、しかしハッキリとした怒りが混じっているのは周囲から見れば明らかだ。
「まぁまぁ、みほさんは少し抜けてる所あるから、許してあげなよ。俺は気にしないから」
「そういう訳じゃないでしょ! 仲が良いからなんて言ってたらそのうち、汗掻いたからシャワー行きましょうとか無意識に同性相手に言うような事も言い始めるわよ!?」
「そういや実際に言ってたね、すぐ気付いて顔真っ赤にしてわたわたしてたけど」
直下からの爆弾発言に場が固まった。お前まさか、という視線がクルトに向けられるが、勢いよく首を振って否定する。
「はぁ……みほ、流石に気を付けろ。見入がお前に優しいからと友達の様に甘えるのはいいが、過ぎた行動は恥知らずになる。みほは少しうっかり屋だから、気を付けないとだめだ」
「うん……ごめんお姉ちゃん」
「悪気が無いのも分かるし、それだけ見入を友達と思う事は良い事だ、だが線をきちんと見分けなければ相手を不愉快な気持ちにさせる、気を付けて」
「うぅ……」
普通に考えればあり得ない事だろう。だが、みほはこれまで友達と真っ当な会話をした事は少なく、こうして外に出かけて皆と食事をするというだけでもただただ嬉しかった。加えてみほの年頃ともなればこうした一つの事が新鮮で、故にらしくもなく、気分が舞い上がってしまっていた。
年頃の男子との会話も無ければむしろ同性との会話も少ない。そんな中、一年生で副隊長をしているというみほに対して、分け隔てなく接してくれる皆がいて、おまけにクルトはどこか兄の様に感じられた。些細な相談にも乗ってくれる、否定から入らずしっかり話を聞いてくれて、おまけに中学生の頃から実はエリカを通じて密かに知っていた。極めつけは、応援という事で送られたアクセサリー。
だからこそ、彼女にとっては最早身内同然であり、もし彼が困っていたら本気でそれを解決するために努力する気概すらある。
みほの意識からすれば、クルトは姉に近いようでそうではない、昔からお世話になっている人といった感覚。とはいえ、仲が良い相手にはとことん懐いてしまうみほだからこそ起きてしまった事故だろう。
「まぁまぁ、それぐらいにしておきませんか? 隊長、みほさんはほら、ちょっと天然だから……」
「まぁ、そうだな。見入もすまなかった、悪気がある訳じゃないんだ」
「別に気にしてませんって、そんな大事だと思ってませんし、たかだか飲み物飲まれたぐらいですから、ね?」
「ふぅむ、普通は年頃の男性であれば気にするのではないか? 人によっては嫌がると思うのだが」
「エリカで慣れたから特には。それにみほさんだったら別にって感じですね、嫌っている相手でもないので」
「ふむ、そうか。これからもみほを宜しく頼む」
おや? と一同は思う。その台詞はちょっと変な方向を向いてないか、と。
「仲のいい友人としてなら、当然です」
だがクルトが正しいルートに戻した事で安心した。もしそうでなければ隣のエリカが今にも爆発しかねない状態だったからだ。
ひとまず料理が運ばれてきたことで雰囲気はいくらか柔らかくなった。料理自体に罪は無く、味も良くて腹が満たされれば気持ちも落ち着いたのだろう。先ほどの少しだけ尖った雰囲気はなくなり、皆に笑顔が戻る。
あらかた料理が運ばれ、最後に来たのはクルトが頼んだベジョータの香草ロースト。ふんわりと香りが広がり、肉厚な身が非常に食欲をそそる。表面はカリっと焼き上がり、中は柔らかくじんわりと肉汁が流れている。それをナイフで切り分けた後、小皿に乗せてエリカへと渡した。
「はい、エリカも食べるでしょ? ベジョータ」
「ん、ありがと。ベジョータって何?」
「イベリコ豚のランクみたいな物って思えばいいよ。普通のイベリコ豚と育成方法を変えてるから、海外のオージービーフの赤身と国産の高い和牛の赤身との違いって考えるとわかりやすいかも」
「成程ね…………! お、美味しい」
「もう一切れ食べる?」
「いいの? ありがと」
もう一切れ渡したとき、雛芥子と直下の二人と視線が合った。それを見て、四等分に切り分けた後に、残る四名にもきちんと分けた。クルトの元に残ったのは、他よりもやや脂身が多めな部分でお世辞にも良い場所とは言えない。それでも、美味しそうに食べる姿を見て、表情をほころばせていた。その時だ。
「あの、見入さん、良いんですか?」
「ん?」
「だって、残った場所って……」
「気にしなくていいよー。ほかの人がおいしそうに食べてるの見てるだけで十分だし、それに…………ん、美味い」
本来であれば彼が会計は別のつもりで頼んだ品で、安いかといえばそうではない。ほかの料理と比べても、単品で六千円ほどする。その分量は多く、三百グラムあるのでボリューミーだが、こうして分けてしまえば結局残った量は少ない。最初に、高いから会計は分けると言って頼んだ品を、満足に食べる事もなく、余った場所を食べる姿がみほには気になった様子だ。
「……本当に良いんですか?」
「ソイツが良いって言ってるから良いのよ。あまり何回も言ってると逆に嫌われるわよ」
そんな時、エリカから声が届く。付き合いが長いからこそ、彼は気にしていないというのをエリカは分かっている。だが、その一言はみほにとって看過出来なかったものだった。
「……でも、エリカさんは二切れ食べました」
「……何よ」
ほんの僅かに火花が飛び散ったテーブルで、またもや雰囲気が悪くなりかけた。
エリカからすれば、分けてもらったぶんは幾らか出そうと最初から考えていた。値段も値段で、人を優先する彼の事だ、微妙な部分を自分に分配するに決まっていると最初から理解していたからこそ、最低限食べた分は出すと頭の中で決めていたのだ。
しかしそれを知らないみほからすれば、他人が負担する料理の美味しい部分を貰っていながら、自分だけ良い思いをしてその台詞はあまりにも自分勝手過ぎるのでは、と思ったのだ。
「見入さんが食べた部分、脂身が多くてお肉も少なかったです。見入さんは優しいですから、エリカさんに渡した時点で他の人にも渡すと思いました。なのに、その言い方は酷いんじゃないですか? 少なくともエリカさんが二切れ目を催促せずに断れば美味しい部分を食べられたと思います」
「何が酷いのよ。そいつは頼んだ時点で皆と分けるつもりで頼んだにきまってるじゃない。本当に食べたかったら二切れ目は残った脂身の多い場所を渡すわよ。そうじゃないなら、ソイツはそれで充分満足したってことよ、付き合いの浅いアンタがどうこういう事じゃないわ」
徐々にヒートアップする様相に雛芥子と直下はおろおろと首を右往左往するばかりだ。そろそろ止めるべきだ、と口を開きかけたまほより先に、ナイフとフォークを置いたクルトが静かに口を開いた。
「あのさ、二人ともいい加減にしようよ」
普段聞いたことも無いような、圧のある言葉に場は静まり、クルトへと視線が集まった。普段はにこにことして穏やかな表情を浮かべるクルトはおらず、明らかに怒っていると言った雰囲気で爆発寸前であった。
「まずエリカ、言い方が悪い。付き合いも長いし、食べたからにはその分ちゃんと後でお金出そうって思ったんでしょ? まぁ思わなくてもいいけど、実際は出すつもりでしょ、そういう所はちゃんとしてるからさ」
「えぇ、まぁ……」
「だったらまず最初にそれをみほさんに言わないと、ただただ自分勝手な奴って思われて怒っても当然じゃんか。それにさっきからいきなり不機嫌になったりして、感じ悪いし折角美味しくご飯食べてるのに台無しだって、分かってんの?」
「だって……」
「だってじゃなくてさ、分かってんの? って聞いてるんだけど、そこの所はどう答える訳? 隣で不機嫌な人が居て雛芥子さんも直下さんも満足に楽しめる訳ないでしょ、怒るんだったら他の四人に迷惑にならないところで俺に向かって八つ当たりでもすればいいでしょ、ハッキリ言ってかなり不愉快だからそういう事するなら俺、他の人と一緒の時は二度とエリカと飯食いに行かないし出掛けたくない」
「……ごめんなさい」
「謝るのは俺じゃないでしょ」
普段は強気なエリカが、今にも泣きそうなほどに表情を歪めて、しっかりと頭を下げた。
「…………隊長、副隊長、直下、雛芥子、気分悪くさせてごめんなさい」
「という訳で、エリカを許してあげてくれないかな? 原因は分からないけど、多分俺が悪いと思うし、俺も自分なりに考えて気を付けるから。ごめんなさい」
「ちょちょちょ、二人ともそんな謝らなくていいから!」
「そ、そうだよ。もう気にしてないから、ね?」
泣き出しそうなエリカを見て慌てた直下と雛芥子は取り繕い、気にしてないと愛想笑いを浮かべて何とか場を誤魔化そうと考えた。
「ん、ありがと。みほさんも、気にしてくれたのは嬉しいけど、俺も分かっててやってる事だし、嫌な事は嫌っていうから深く気にしなくていいよ。エリカの言い方は悪かったけど、付き合いも長いしどう考えてるかはお互いにある程度分かってるから、ね? 口調が強くてエリカに怒ったかもしれないけど、許してくれないかな?」
エリカの言い訳を一切許さない口調だが、こうでもしないと彼女が素直になれないのを分かっているからこそだ。一個一個丁寧に、何が悪かったのかを告げないと彼女は観念しない。退かずに食い下がる芯の強さも彼女の美点だが、今回はそれが裏目に出てしまった。
「……私もムキになってごめんなさい、見入さん、逸見さん」
「よし、これで終わり。料理冷めちゃうからまだあったかい内に食べちゃお? あ、何か飲み物頼む?」
「えっ、あっ、ウチ、リモンチェッロってやつ飲んでみたい!」
「あ、私もそれ」
流れを変える為の機転だと気づいた直下と雛芥子によって雰囲気は落ち着いた。エリカとみほは未だに気にして引き摺っている様子だが、それを言及すればまた悪い流れになるのは目に見えていた。
その後は特に衝突することもなく食事を終え、会計に向かう。メニューを頼んだ時点である程度の金額は目星がついていたので、纏めてまほへと手渡す。クルトも自分が頼んだベジョータの分を出そうとして、レジの前でまほに止められた。
「見入、今日の分は大丈夫だ、私が出す」
「え、なんでです?」
「普段は整備で世話になっているからな、これぐらいしかできない。それにさっきはみほと、私の部隊のエリカが失礼をしたからな、その分の詫びもある」
「別に良いですよ、そんなことしなくても」
「こうでもしないと私も収まりが付かないんだ、私を立てると思って、頼む」
「……むぅ、そう言われたら何も言えないですよ。今日は御馳走になります」
「あぁ。私はみほのケアをするから、エリカを頼んだ。それと、みほと仲良くしてくれるのは私としても嬉しい、学園では寂しそうにしていたから。でも、エリカの事もちゃんと見てやってくれ、たぶんアイツは……いや、これを言うのは野暮か」
「はぁ」
「とにかく、エリカとは付き合いが長い分、見落としている所もあると思う。今日はその辺をきっちりと話し合った方がいいと思う」
まほに言われて、クルトは考える。そもそもどうしてエリカは急に不機嫌になったりしたのだろうか、と。思い返せばその機会は、大体まほやみほが居る時にもあったが、それ以前にも一度だけあった。そう、雛芥子と外出していた時だ。
あれは自分を仲間外れにしたから怒ったのだと考えたが、その時の怒り方と、つい最近の不機嫌になった時の態度が実に似ている。いうなれば、嫉妬に近いソレだ。
だがこれは半ば自惚れに近いと同時に、今更何を言うのかと考えてしまうのだ。クルトの中で、エリカに対しての恋はすでに終わってしまった。だからこそ、今では彼女をサポートするために頑張っている。
そんな中、今更エリカに対して恋心を抱く事も無ければ、彼女もそんなことを思っているわけがないだろうと。だが、最近のエリカは何処かおかしいのは確かだ。まほやみほと話していれば急に不機嫌そうになったり、他の女子生徒と整備について話していると妙に威圧的にその生徒を追い払う素振りを見せる等々で、そこから感じるのは何とも言えない嫉妬心。付き合いが長いうえに、普段はツンツンしているエリカだからこそ、感情が混じった時の様子は逆に分かりやすい。
では何故嫉妬されるのだろうかと考える。特に顕著なのはまほとみほと話しているときで、考えうる限りその嫉妬の方向性には一応だが二つある。
一つは、まほを敬愛しているので、クルトと仲良く話している姿を見てクルトに嫉妬したという点。これはまほを尊敬しているからこそ、何を話しているのだろうかと気になったり、やきもきしてクルトへ嫉妬するという所、これは分かる。ではみほと話すときも同じような感情を向けられるのはなぜだろうかと考え、もう一つの部分に繋がる。
それは、クルトと話すまほやみほに嫉妬している可能性だ。もしそうだとすれば、まほだけでなくみほを交えた際の彼女の態度にも納得出来る。それに、最近ではみほに応援の意味を込めてアクセサリーを送った所、明らかに見せた怒りの感情。故に本日の服装はそれに対抗する形で送ってきたのだとすれば話は繋がるだろう。服を送った理由を尋ねた所、みほにアクセサリーを送ったから、というその時はよく分からない事を言っていた。
このことから判断すれば、エリカはクルトが女性と話すのを面白くないと感じている事になる。その理由は何故だろうと考えるのだ。家族として付き合いが長いからこそ、他人が仲良くしていることに嫉妬しているのか。もしくは、既に通り過ぎてしまった感情が、今になって繋がってしまっているのか。
「どうした? 見入」
「すいません、ちょっと考え事をしてました」
会計を終えたまほに促され、四人が待っている外へと向かう。頭の中で整理した結果、クルトが出した可能性は……。
【もしかしたら、エリカに男性として意識されているのかもしれない】
【付き合いの長い家族的な相手だからちょっかいを出されて不満になっただけだろう】
エリカルート、よーいスタート。
みぽりんは何ていうか、男の人を勘違いさせるのが凄い上手そうで、そんなことしてる間に本当に惚れちゃいそうな天然さがすこ。良い感じにライバルキャラな雰囲気でエリカを立てられていいゾ~これ。
という訳でなんか選択肢みたいな感じになりましたが、今回は最初から決まっていた上の選択肢でエリカルート。オリキャラのミハカスの分際でエリカルートに入るとは何事か、と思うかもしれないけど許し亭許して……。
あと活動報告に武装親衛隊第ⅠⅠⅣⅤⅠⅣ局駐留所あるので、もしやミハカスのこんなルートがあるのでは?とか感想とか、エリカルート終わった後の別ルートのアンケ的な感じも取るので良ければオナシャス。
因みに自分はオリキャラが原作キャラとキャッキャウフフするのは、けしからん私が罰を与えてやる派だったりもするので友情ルートが一番すこです。でも物語の仕様上ルート入ってキャラが可愛くなるのもオッケーです。
という訳でこれから先、長くなるとは思いますが、不定期更新ながら宜しくお願いいたします。