黒森峰のヴィットマン   作:ハンバーグ大好き

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やっぱエリカすき。好きすぎてみほエリまほエリ尊過ぎてなんでミハエリとかいうのを書いてるのか分からなくなってきたけどそれはそれでいいかと諦めたので初投稿です。


馴れ初めと出会いのお二人さん

 すっかり気落ちしたエリカを伴って学園艦に戻り、向かった先はクルトの部屋だった。エリカは俯いたまま何も言わず、彼の後を着いてくるのみ。帰らないのかと尋ねても、首を横に振るだけだった。

 

 家に着いた瞬間、エリカは玄関に座り込んでしまう。その場から動きたくないと縮こまるが、此処にずっと居られてもどうしようもない。

 

「エリカ、取り敢えずこっちに行こ」

 

 肩を控えめに叩けば、無言で差し出されたエリカの手。少し考え、一度躊躇し、そして優しく掴む。普段はあんなにも勝気で凛々しく見えるエリカの手は、歳相応の女の子らしく、柔らかく暖かかった。軽く手を引けば立ち上がり、ゆっくりと部屋へと到着する。ベッドに倒れこみ、枕を内側に抱えたエリカを見て、コーヒーでも淹れよう、と離れようとする。

 

 しかし、クルトが離した手を後ろから、手首を掴む姿を見て、そのままベッドへ腰かけた。

 

「……エリカさ、今日はなんであんなに怒ったの?」

 

 エリカは何も答えない。ただ、握る手は少しだけ強くなる。

 

「俺が隊長さんや副隊長と話したり仲良くするのは嫌?」

 

 少しだけ、小さく頷いて返す。

 

「俺がみほさんと仲良くしたり、応援のつもりで送ったアクセサリーも、嫌だった?」

 

 握る力が強くなる。体は小さく震え、ゆっくりと、しかし確実に頷いた。何かを言おうと口を開閉させているが、踏ん切りがつかず、やがて口を真一文字に結んで再び静寂が訪れた。

 

「……そっか」

 

 ふと、横を見ればエリカと視線があった。涙を一筋流し、普段の強気なエリカとは思えないほどに弱弱しく、儚げで、故にそれが普段以上に綺麗だと思ってしまった。

 

「分かった、気を付けるよ。でも、俺は別にみほさんと特別仲が良くなりたいとかそういう訳でもないし、整備関連の会話はどうしても必要になるからさ、そこだけは分かって欲しいなって」

 

 普段以上に弱気なエリカを見て、どうしてこうなってしまったのだろうかとクルトは考える。彼の知るエリカは常に気丈で気位が高く、心の芯が強い女性な筈だった。食事をしていた時も本当ならば、あの程度でこれほどまでに参ってしまうほどのダメージなど受けないはずなのだ。

 

 もしクルトに勇気があれば、彼女に真意を尋ねたかった。だが聞けない。もし想定していた事と違っていれば、立ち直れそうも無いからだ。それならば、今の関係のままの方がずっとマシだと。だがそれでも、もしかして、と考えてしまうと止まらない。一度諦めた筈なのに、意識してしまうと頭から離れない。故に、ただただ、静かで重苦しい空気のまま、顔に手を添えて頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリカとクルトの出会いは小学生の頃だ。戦車道の名は広まっていたが、やはり国民の中では女性が戦車に乗るのはおかしいと考える人も居る。だがそれは乗るなという否定的な物ではなく、軍人が乗る物なので、なんで女性が乗るのだろう、という疑問から来る意見であった。だが、子供というのはそういった深さを考えず、それはおかしい、おかしいから変だ。変な事をしている、と無意識の言葉の暴力を生み出してしまう。

 

 そんな言葉の暴力がエリカに向けられていた時が二人の出会いだった。

 

 

 

「なぁ逸見、お前戦車乗ってるんだろ? なんで戦車乗ってるんだよ」

 

「な、なんでって言われても……戦車道やってるから…………」

 

「女が戦車乗るっておかしいぜ! あれって軍人が乗るもんだろ? じゃあ男が乗るのが普通じゃん!」

 

「こいつ普通じゃないんだよ! 戦車道とか名前もダサいし…………待てよ? もしかして逸見って男なんじゃね?」

 

「確かに! そもそも戦車道ってありえないよなー! 皆女装してる男だったりしてな」

 

「じゃあ逸見も女装してるんじゃね? 確かめてみようぜ!」

 

 何気ない一言から、どんどん尖っていく言葉の暴力。それはやがて物理的な暴力にすらなりえる。幼く道徳観が薄い子供ならば猶更だ。

 

「ちょっと、こっちこないで……やめてよ! 離して!!」

 

 数人がかりでエリカに近寄り、腕を抑えつけたその時だった。

 

「あれ、みんなして何してんの?」

 

 放課後、掃除当番を終えたクルトが教室にやって来た時、その光景を見て彼は一瞬だけ瞳を吊り上げ、大きく息を吐いた時には既に普段通り、柔和な笑みを浮かべた状態に戻る。幼さはあれど、同年代の生徒よりも渋みのある顔立ちはそれだけでも威圧感があるので、自然と笑みを浮かべる様になっていた。しかし、今の彼は無表情で、男子はそれに気付く事はない。

 

「お、クルト君! 逸見、戦車道やってるんだってよ」

 

「戦車道? あ~、なんか聞いたことある奴。それで?」

 

「戦車って男が乗るもんだから、もしかしたら戦車道やってるやつってみんな女装してるんじゃないかって話してたんだよ。今から確かめてみようぜって」

 

「なるほど」

 

 この時点でエリカは絶望した。小学生で人気者になる秘訣は、足が速く運動が得意な生徒だ。勉強は二の次で、次に面白さが勝る。クルトの場合、小学生ながら身長も高く、運動もそれなりに出来て顔も広い。絶大な、というほどではないが、同学年の男子生徒に遊びに誘われる人気者なのは間違いなかった。もし、彼が周囲にいる男子に同意したら、この先の展開は絶望的だ。とても嫌な事をされるのは間違いなかった。

 

「でも、別にいいんじゃない?」

 

「……え?」

 

 クラスの男子から言葉が漏れた。その発言はどういう意味なのだろう、と。

 

「例えばさ、みんなってアイスクリーム好きだよな? 甘いものとか」

 

 当然、と皆が頷く。夕飯よりも大好物とすら言えるスイーツは子供にとってお宝も同然だ。

 

「でも、そういうのって普通女子が食う物じゃない? じゃあ俺らってもしかして男の恰好した女かもしれない」

 

「いやいやいや、それはないだろー」

 

「そうそう。ちゃんとついてるしな!」

 

「こら、いきなりそういう事いうなばかやろー。逸見さんいるだろ」

 

 唐突な下ネタだが、エリカはそれどころではなかった。しかし、雰囲気が変わり始めている事は理解した。

 

「じゃあさ、逸見さんが戦車道やってるからって女装してるって事にならないんじゃない? それに、好きでやってること、バカにしちゃだめだよ。俺たちがアイス食ってる時、そんなのおかしいしお前ら女子じゃーんって、女子に言われるのすっげー嫌だしムカつかない?」

 

「……確かに」

 

「お前ら、そういう事逸見さんにしたんだよ? しかも、男子数人で女子の事いじめるって、すっげーかっこ悪いじゃん。それこそ男じゃないよ、そうじゃない?」

 

 ばつが悪そうに頷く男子達は、エリカを抑えていた手を離した。なんとも言えない空気が漂う中、クルトの柏手に皆が振り向く。

 

「それじゃあまず、逸見さんに謝ろう? そして俺たちのお小遣いで一人一回ずつ、逸見さんにアイス奢ってあげよう」

 

「えー!! そりゃないって!」

 

「うるせー! お前ら酷い事したって先生に言うぞ! いい加減に素直に謝らないと俺も怒るぞ! 具体的には毎日サッカーボール蹴っ飛ばしてぶつけてやる!」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 その言葉を聞いて、一斉に男子達が謝り始めた。人気者のクルトを怒らせれば、むしろイジメの対象となるのは彼らだ。加えて小学生にとっての最終兵器、先生に言いつけるぞ攻撃は防御手段など無く、素直に頭を下げる事でその場は解決した。

 

 その後、戦車に興味を持ったクルトとエリカが仲良くなった事で、彼女を揶揄う生徒など出てくるわけもなく。加えて、徐々に若い世代、特に子供にも戦車道が広まり、その白熱した試合がマイナーチャンネルから全国チャンネルで放送されると人気が爆発。元々親や姉が戦車道をやっていた家系のみならず、一般生徒の志望率も大幅に増えた。

 

 戦車に乗ってみたいクルトではあったが、男子の戦車道など存在するわけもなく、しかし仲良くなった事でエリカから借りた戦車図鑑を見てすっかりハマってしまったクルトは、エリカの乗る戦車を整備する、という約束の元勉強を始め、彼女と同じく黒森峰中学校へと入学。

 

 子供の頃の興味に対する熱中というのは強く、ひたすら小学校の頃から戦車について調べたクルトは、この時点で天職を見つけていたのだろう。近くの工場に入り浸って、若い世代が少ない職人達に孫の様に可愛がられ、実物に触れる事でより熱が爆発した。

 

 

「あの、逸見さん」

 

「ん?」

 

 中学校二年の時だ。戦車道が存在する学校を選んだ為、必然的にそちらに入部したエリカ。一方で、黒森峰中学校が部活に入る事が義務付けられていた為、後を追う形で同じく入学したクルトだが、バドミントン部を選んでいた。戦車に関する部活が戦車道以外になく、なんとなくで入部して気に入ったからだ。

 

 そんなある日、エリカに声を掛けてきたのは席が近いだけで友達でも何でもない生徒だ。

 

「どうかした?」

 

「逸見さんって、見入君と仲良いけど、付き合ってるの?」

 

「は、え? 私が? そ、そんなことないわよ! 別に何でもないただの幼馴染ってだけ!」

 

「……そっかぁ、良かった。実は、見入君に告白したいんだけど、手伝ってくれない?! お願い!」

 

 その言葉を聞いた時、何故か強い衝撃を受けた。今までは一切意識していなかったこと、思春期であるが故に、誰にでも訪れる恋愛への、異性への興味。エリカからすれば付き合いが長いせいで考えても来なかったが、此処でふと考えてしまうのだ。もし、クルトが目の前の全く知らない女子の告白を受け入れてしまったら、と。

 

 急激に体が寒くなり、冷や汗が湧き出した。どことなく胃も痛く感じてしまう。

 

「ダメ? あれだけ仲良くて付き合ってないって事は、別に好きってわけじゃないんだよね?」

 

 違う、と言いかけて、どういう事だと自問する。なんで違うと言おうとしたのだろうか。別に好きだと思った事は一度もなかったはずだ、と。

 

 (あぁ……そういう事だったんだ)

 

 逸見エリカは見入クルトの事が好きである。これは、気付かないフリをしていただけで、ずっとずっと想い続けていた気持ちだったのだ。目の前に現れた恋敵によって、それを理解させられた。でも、今更素直にそんなことが言えるほどエリカは器用な少女ではなかった。だからこそ、恥ずかしいという気持ちが強くなり、目の前の女子生徒に協力すると頷いてしまった。頷いて、家に帰ってただただ深く後悔し、不安になり、泣きそうになった。彼が離れて行ってしまったらどうしよう、と。

 

 初恋の時はそれこそ、クラスの男子から助けて貰った時からだ。故に他の女子生徒の一時的な気持ちよりも遥かに強く、だからこそ悔しくて、不安になる。

 

 

 

 今思えば、彼は中学校でも多少は女子から人気があった。ジャーマングレーの髪と、同年代の中では少し落ち着いて大人びた雰囲気。身長は町工場へ通っているせいか食事も多くなり、中学生ながらに170cmに到達するなどその時点では大分大きい方になる。人当たりも良いし、運動も特に苦手な物はない。そして何より、顔立ちは平均よりも上であった。勿論彼よりも端正な顔の男子も多いが、そういった男子は既に彼女が出来ており、逆に何故売れ残っているのか、といった具合だ。

 

 その理由は単純に、常に彼がエリカと居るので、恋人なのだろうと周囲が思い込んでいたのだ。だが、ある時クルトが、彼女はいないと言った事から広まり、彼を狙う女子はその為にもまず、エリカを排除するために、自らの告白を応援させるという方法に至った。

 

 そして、クルトの好物、嫌いな物や嫌いな事をエリカから聞き、アプローチを続け、顔を合わせれば挨拶しあう仲へ至った時、その女子生徒はクルトに告白を試みた。

 

 

「ごめん。確かに仲は良いけど、今は彼女を作ろうって思えないんだ」

 

 それは、ハッキリ言ってしまえばクルトの告白に近い物だった。彼の本心では、エリカの事が好きだったのだ。だからこそ、彼の発言は大事な言葉が抜けてしまった。それは、エリカ以外の女性と付き合うつもりはないという意志である。

 

 しかし、それが抜けていた彼の発言はエリカすらも対象になってしまう。例え幼馴染のエリカですらも、恋人という枠に見られないという意味にとられてしまうのだ。

 

「ダメだった。見入君、今は彼女作る気ないんだって。残念だなぁ」

 

 少しだけ泣きそうな顔をしながらも、その女子生徒は伝えなくていい事までもエリカに伝えてしまった。それは、クルトに一番近い彼女に対しての妬みもあった。その台詞を聞いた時、エリカは安心すると同時にショックを受けた。つまりは、エリカが意識したクルトへの思いはただただ一方通行だったのだ、と。

 

 本来であれば両想いのソレは悲しい事にすれ違い、平行線を辿ってしまった。その後は、自分の思いを告げて断られ、この関係が失われる事を怖がるあまり、戦車道に熱中するエリカと、彼女の事が好きで、しかしエリカと同じくこの関係を壊したくないと思ったクルトの思いは平行線になり、結果的に今に至る。

 

 

 もはや忘れてしまい、お互いが家族同然の付き合いとなったからこそ、恋愛の気持ちは冷めたとエリカは思っていた。思っていただけで、その炎は常に燻っていただけ。意識しようとしなかっただけであった。だが、その気持ちを思い出すきっかけは、あまりにも不意打ちだった。

 

 街中で、戦車道の知り合いで友達だった雛芥子が、普段は見ない私服を着飾ってクルトと二人で居た。喫茶店で話し込む二人は楽しそうで、加えてクルトもエリカが見た事のない服――その時は新しく買った服なので当然だが――を着て、まんざらでもなさそうな雰囲気だった。

 

 その瞬間、ただただ心がザワつき、今すぐ何かを殴りたくなるほどの怒りと嫉妬心が込み上げた。そこからだ、エリカがおかしくなったのは。

 

 その後、買い物を全員で行こうと提案したのは、これ以上二人きりにしたくなかったのと、彼と一緒に居たかったというのもある。だというのに、洋服を見ている隙に、みほとクルトはいなくなり、戻ってくればみほの首には見慣れないアクセサリーと手に持ったショップの袋。クルトの手にも同じロゴがプリントされた袋があり、猶更嫉妬の炎が燃え上がる。なぜ、よりによってお前なんだ、と。

 

 

 中学生の頃、当初、エリカはみほの事が嫌いだった。頼りなさげで声も小さい、敬愛するまほの妹なのかと疑いたくなる。加えて、まるで依怙贔屓の様に副隊長となった時は当然、渋々従ったが反感の気持ちは戦車道履修生の中では大勢が持っていた。

 

 その後、エリカは考えを改めたが、その時のライバルが、今度はクルトまでもっていくのか、と考えた瞬間、頭が真っ赤に燃え上がりそうになる。対抗して洋服を送り、大会直前、外出し、食事をして、楽しそうにしている二人がただただ許せなくて、まるで八つ当たりの様になり、今に至る。

 

 エリカは悩んだ。あんな姿を見られて、滅多にない口調で本気で怒られた。失望された。その相手が、再び意識した好きな人であれば猶更ダメージは大きい。

 

 

「エリカ、コーヒー飲む?」

 

「……飲む」

 

 ある程度時間がたって、気持ちはいくらか落ち着いた。そう考えるとエリカからすれば恥ずかしさが勝る。勝るが、今まず彼女が行うべきだと判断したのは、彼に自分の気持ちを悟られない事だ。そう、告白するのはタイミングの良い瞬間、今年の優勝のタイミングにしよう。そう決断すれば気持ちも和らいだ。

 

「さっきは、ごめん。取り乱した」

 

「だね、らしくなかったよ」

 

「大会前でちょっと気持ちが苛立ってた、ごめん」

 

「ま、愚痴ならいつでも聞くからさ。今はリラックスして、大会に挑もうよ。継続高校って相性悪いんでしょ? なら油断せず頑張らないと」

 

「ごめん、助かる」

 

 今は、静かに待とう。落ち着けばいい、アドバンテージは自分にある、決心も強く本心から好きだといえる。なら、些細な事で心を揺さぶられて失望されない様にしなければならない。

 

 一つ、女性として強くなったエリカの内心に気付く事はなく、しかし、クルトの中に確かに燃え始めたソレにもまた、彼はまだ気付かない。いや、気付かないフリをするだけに留めて置いた。

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