trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」   作:夏目ヒビキ

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シーン6-3「蒼炎」

そこには、何も無かった。

 

比喩では無い。本当に何も無いのだ。どこまでも続く、白という名の無。そんな美しいほど何もない世界に、一つの亀裂が入った。そこから流れてきた異物は、この世界の一角に鎮座した。〈レネゲイド〉。人はそう呼ぶ。

 

それは意思を持っていた。この場を自分一色で染めようと思った。何も無い世界なのだから、塗り替えるのは簡単なはずだった。

 

ーーただ、たった一つだけ、邪魔をしてくる奴がいた。

 

そいつは、元々この世界の主だったのだろう。こんな何も無い世界の、ちっぽけな主だったのだろう。そのくせして、そいつは中々許してくれなかった。

 

「ねぇ、どうしてあなたはこんなところにいるの?」

 

そいつは問う。そんな事考えた事も無かった。ただ世界を塗り替えれればそれでいい。理由なんていらなかった。

 

「ここは私の世界だから。あなたの場所じゃないんだけどな」

 

そんなこと知ったことではない。こんな何も無いところが誰のものだろうと関係はないだろう。そもそもーー

 

再び周囲に気を向けると、今まで何もなかったはずの空間に、沢山のものが浮かんでいた。

 

気づかなかったのではない。それは、〈レネゲイド〉が見ようとしなかっただけのもの。なんにせ、なんの関係もないのだから。

 

「私はね、私のものなの。他の誰にだって蝕まれやしない。ーーまあ、こうしてあなたがいる訳なんだけど」

 

そいつは、浮かんだ沢山のものを懐かしそうに眺めていた。それはそいつの思い出だった。懐かしそうに眺めてはいたが、楽しそうではなかった。

 

中身をよくみれば、そいつの小さかった時であろう姿の少女が泣いていた。部屋のドアを背中にして蹲っている。外側では、男が女を殴っていた。少女はとても悲しそうだった。

 

しばらく、そんな思い出が続いた。いつだって少女は悲しそうで、酷く辛そうだった。

 

こんな思い出、誰が欲しがるだろうか?誰が大切にするだろうか?これごと自分ならば塗り替えられる。〈レネゲイド〉は主張する。

 

「ううん。でもね」

 

そいつは首を横に振ると、もう一度上を見上げる。辛そうな思い出の中に、一つだけ明るい色があった。

 

それは年端もいかない少年だった。閉ざした彼女のドアを、何回も叩いていた。少女は少年を見上げると、抱きつき、声をあげて泣いた。

 

そこからだった。少女の世界に色がつき始めた。度々辛い思い出は混じるものの、そこには確かな明るい色彩があった。

 

「ね?」

 

そいつは嬉しそうにはにかんだ。何が何だかよく分からなかったが、そいつは満足しているようだった。

 

「ねぇーー私に、力を貸してくれない?」

 

そいつは図々しく言ってきた。そんなことしなくても、自分が世界を塗り替えればそれで力はいくらでも手に入る。いくらでも使える。

 

「ーーそれじゃダメなんだ。それじゃ、誰かを守れないから」

 

ーー誰かを、守る。また訳の分からない概念だった。でもそいつは、大真面目に言っているようだった。何を言っても、聞かなかった。

 

「あなたは、この世界を塗り替えていくんでしょ?なら、そのかわりーーじゃ、ダメかな?」

 

世界を塗り替える対価。相変わらずそいつのいうことには納得できなかったが、邪魔をしないと約束してくれるならば安いものだとも思った。

 

「ーーうん。私はどうなってもいいから、まずは皆んなを守りたいから。力を使ってあなたに蝕まれたとしても構わない」

 

それなら、こっちにも文句は無かった。別に力を貸すだけなら対したことじゃない。

 

「ありがとう」

 

そいつは口の端を少しだけあげた。なぜだか、悪い気持ちはしなかった。

ならば力を与えよう。自分が渡せる力は二つだけ。どちらを選ぶ?

 

空間に、燃え盛る赤い玉と冷たく透き通る青い玉が現れる。

 

「うーん。私はねーー」

 

そいつは暫く考えると、やがて答えを言った。その答えは二択のどちらでもなかった。少し、欲張りな答えだった。

 

「じゃあ、私はそろそろ行かなきゃいけないから。ここから出るためにも、あなたの力がいるんでしょう?」

 

そいつの言うことは正解だった。そいつがいても世界の侵食が進まないので、居なくなってもらえるのはいいことだ。

 

そいつを出してやることにした。この世界から消える間際にも、そいつははにかみながら消えていった。口が動いていたようだったが、うまく聞こえなかった。

 

 

また、退屈になる。

 

ーーいや、せっかく力を貸すんだからその行く末を見届けてやろう。世界を完全に塗り替えるのも、ほどほどに。どうせ理由もわからない目的だ。急がなくたっていいだろう。

 

退屈を潰す方法を考えはじめると、悪くない気持ちになった。

 

 

世界の色はほんの少しだけ、()()に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー身体が、動かない。意識もあんまりおぼつかない。鈍い痛みが全身を奔っているようだったが、幸か不幸か意識がはっきりしないおかげで苦痛はそこまで感じなかった。

 

客観的に見て相当ヤバイ状況なのだろう。そろそろ自分は死ぬのだろうか。身体がどんどん重くなっている気がする。感覚すらないのに、そのことだけはなぜか分かった。

 

ーーだというのに、その瞬間はいつまでたっても訪れなかった。それどころか、先ほどとは間逆の感覚すら感じ始めている。血液や、そういう失ってしまったものの隙間をナニカが埋めていっている感覚があった。意識が段々と死の淵から戻りつつある。身体が、動く。

 

まず最初に瞼を開けると、見覚えのある景色が広がっていた。何かを激しく打ち付けるような音が聞こえてくる。身体の痛みはいつの間にかひいていた。口の中に広がった鉄の味はまだ感じる。鼻腔をくすぐるすえた香り。

 

ーーようやく、状況を思い出した。戦闘は依然、継続中だ。

 

白髪の少女がオールバックのメガネと戦っている。コミヤ。早く助けに行かなければ。

 

身体を動かす。動くかどうか少し心配だったが、思いのほか軽々と持ち上がった。手を開いたり閉じたりしてみる。違和感はない。それどころか、力が湧き上がってくるような感覚さえある。これならーー

 

「コミヤ!!」

 

〈ディアボロス〉から飛びのき、蒼羽の呼びかけにコミヤは答えた。顔は依然〈ディアボロス〉のほうを向いたままだったが、その声には安堵の響きがあった。

 

「蒼羽?目覚めたのか?!」

 

「うん。大丈夫。でも私たち、やられたはずじゃーー」

 

「オーヴァードは死なない。皮肉なことに、〈レネゲイド〉に完全に蝕まれるまではな。ーーそんなことより話は後だ。戦えるか?」

 

蒼羽ははっきりと首を縦に振った。それを見たコミヤも口の端をにやっとあげる。

 

「おいガキ!!」

 

「なんだコミヤ」

 

「連携を立て直す。コイツと私で前衛を張るからお前は支援だけぶっ放してろ。いいな?」

 

「了解」

 

シュンはコミヤの言葉に二つ返事でうなずくと、周囲を飛び回っていた魔眼を収束させた。

 

その様子を見た〈ディアボロス〉が口を挟む。

 

「……ほう。こんどは何をするのか知らねえが、一度負けた連中が何回束になっても同じことーー」

 

「うるせえ!」

 

「なっ……」

 

「いいか、よく見ておけ〈ディアボロス〉。僕のシンドローム、〈バロール〉の本当の強さを!!」

 

シュンはそう叫ぶと魔眼を操り、一斉に〈ディアボロス〉へと突撃させた。

 

「ふん。そんな直線的な攻撃ーー」

 

〈ディアボロス〉はそう呟きながら〈イージスの盾〉を構える。一直線に突撃していった魔眼たちはその盾にあえなく弾かれーーない。

 

「〈死神の瞳〉!!」

 

その声と同時に、魔眼は〈ディアボロス〉の腕にまとわりつく。そしてソレは無理やり体内に侵入し、異形の瞳となって〈ディアボロス〉の腕に表れる。腕に瞳が生えた、という形でしか形容しようのないそれは、殺意をむき出しにして宿主の隙を伺っていた。

 

「……な、なんだこれは?!気色の悪いーー」

 

「今に分かるさ。ーー蒼羽!!出番だ!!」

 

シュンは大声でその名を叫んだ。蒼羽は今一度深くうなずくと、己の内の〈レネゲイド〉(なにか)と対話するために瞠目する。

 

(約束したんだからーーその力、私に委ねなさい!!!)

 

蒼羽は右腕に意識を集中させる。相手を焼き尽くす業火でもない。弱弱しく滾る灯火でもない。蒼羽の思い描く、蒼羽のための、ヒーローになるための、蒼羽だけの炎を。

 

「はあああああああああああ!!!!」

 

蒼羽は咆哮する。守らなければならない日々を。今度こそ守りぬくと誓った人々を。ーーそれに、彼を思いながら。

 

高まるエネルギー。生命と決意に満ちた純粋なる意思の力。

 

ーーそして、ついにそれは形を成した。透き通るような澄んだ蒼色の炎。世界を守るための新たなる剣。彼女の右腕には、そんな()()を宿した剣が握られていた。

 

「これでーー」

 

蒼羽の脳内には自分が使える力とやらなければならないことが次々と浮かんでいた。普段の彼女ならばありないことだが、今この瞬間、彼女はその全てを処理し、把握していた。〈コンセントレイト〉〈結合粉砕〉〈氷炎の剣〉ーーさまざまなワードが頭の中で浮かび、消えていく。

 

〈ディアボロス〉はそんな蒼羽の変化に気づいたのか、少し眉をひそめる。

 

「ーー先ほどよりも力が増しているようだが、その程度ではーー」

 

蒼羽はそんな〈ディアボロス〉の言葉まで両断するように、握り締めた〈炎の刃〉を振りかぶる。

 

「……ッ!」

 

「いっけええええ!!!!!」

 

盾を構える〈ディアボロス〉と、それすらも叩ききろうと斬撃をくりだそうとする蒼羽。〈イージスの盾〉は確かに堅牢だったが、〈死神の瞳〉と蒼羽の蒼炎のあわせ技には流石に無力だった。

 

まずは蒼く輝く剣閃が〈イージスの盾〉に衝突した。それと同時に〈ディアボロス〉の腕に生えていた〈死神の瞳〉が破裂し、宿主に甚大なダメージを与える。よろける〈ディアボロス〉。そしてその隙を蒼羽が見逃すはずがない。

 

よろめき、盾が身体から弾かれて無防備になった場所に、蒼羽の剣が迫る。炎の力で加速され、威力を上乗せされた斬撃は、そのまま〈ディアボロス〉の身体に傷をつける。さらに蒼羽の剣は止まらない。炎で無理やりバックブラストを生成し、剣を振りぬいた後の慣性を相殺することによって常識ではありえない速度での剣撃を可能としていた。続けざまの斬撃。

 

斬、斬、斬、斬、斬、斬、斬、斬―――――――

 

 

「グアアアアアアアアアアアアア!!」

 

やがて〈ディアボロス〉は絶叫しながら後ろへ吹っ飛んだ。常人ならば当然死んでいるはずのダメージなのだが、こちらも同じように相手もオーヴァード。回復力と耐久力は尋常ではない。

 

「クッ……やはりこの力――もったいないぞ。今ならまだ間に合う。FH(こっち)に来るんだ……!!」

 

往生際が悪く蒼羽を勧誘する〈ディアボロス〉に、蒼羽はきっぱりと答える。

 

「ーー悪いけどそれはできない。私はUGN(こっち)で戦うって決めたんだ!!」

 

大声で決意を述べる蒼羽に、今度こそ観念したように〈ディアボロス〉は言った。

 

「惜しいねえ……なら、脅威の芽は今のうちに摘んどかないとなあ!!」

 

〈ディアボロス〉は再び立ち上がった。瞳の奥には未だ不屈の眼光を宿してはいたが、当然ながら完全復活とはいかず、先ほどよりは弱っていた。

 

「おい〈ディアボロス〉、さっきまであんなに調子に乗ってたのにそのザマか?やはり大したことはないな」

 

そんなボロボロにやられた〈ディアボロス〉をコミヤは煽る。その真意は、本当に嘲笑の気持ちが入っていたのが半分。もう半分は力を全開で振るう蒼羽の事を心配しての挑発だった。

 

(蒼羽のやつ、いつの間に力を使いこなしてーーまあ、あのガキの見込みも正しかったってことか。私もやらないとな)

 

「まだまだこんなんで勝った気になってんじゃねえぞ!!」

 

戦意を衰えさせず叫ぶ〈ディアボロス〉。コミヤは一瞥し、全身に力をこめる。

 

「〈完全獣化〉」

 

これがコミヤの本当の力。コミヤは常日頃人型で活動しているため、どのようなシンドロームかは判別がし辛い。コミヤのシンドロームは〈キュマイラ〉。獣の力を行使する力。その力のほとんどを使いなることができる形態が、完全なる獣の姿だった。侵食率の上昇もバカにならないため普段なら出し惜しむのだが、今回はそうも言ってられなかった。

 

そして、彼女はその力を行使した。美しい白髪を逆立て、身体が光に包まれる。コミヤが空中で反転すると、その場に現れたのは白銀の狐。日本風にいうならば、妖狐といったところだろうか。口には先ほどまで構えていた剣を咥えている。完全な獣の姿とはなったものの、その秀麗な眉目に宿る知性は消えていなかった。

 

「えっ?!ええ!!??コミヤ!!!!!????」

 

後ろのほうで驚いているのは蒼羽。彼女もコミヤの力のことは伝えられていなかったので、当然の反応だった。

 

そんな彼女の様子など知るよしもなく、二人は戦いを続行する。

 

「ほう……それが本当の力かい。白髪の嬢ちゃん」

 

「ガルルルル」

 

「そうかーーもう言葉は話せないんだったな……来い!!」

 

コミヤが化けた妖狐は跳躍し、口に咥えた刀で〈ディアボロス〉に切りかかる。獣ならではの圧倒的な速度と瞬発力。音速の域に届くかと思われたその一閃は、〈ディアボロス〉の身体をあえなく切断しーー

 

ガキン、と、硬いものがぶつかる甲高い音がした。煙が晴れ、二人の姿が顕わになると、そこには盾で刀を受け止める〈ディアボロス〉の姿。そうとうな衝撃だったのだろう。アスファルトには〈ディアボロス〉の立っている場所を中心にして亀裂が入っていた。コミヤの一閃はまさに音速だったが、同じ〈キュマイラ〉同士動きを見切られてしまったのだろうか。野生の勘ともいえる超常的なリアクションで、コミヤの一撃を防いでた。

 

〈ディアボロス〉はニヤリと笑い、意趣返しをするように口を開く。

 

「……ぬるい太刀筋だな」

 

「チッ……!」

 

コミヤは盛大に舌打ちをすると、お前のせいだといわんばかりに蒼羽の方を睨みつけた。

 

その視線に気づいた蒼羽は少し肩をすぼめた。せめて送ってやれる声援はないかと考えたところーー

 

「コミヤー!!がんばれー!!!一緒にがんばろーー!!!」

 

場にそぐわないほどの能天気な声援。それはそれで腹が立ったコミヤはそっぽをむいて無視する。蒼羽は少しだけしょんぼりした。

 

そんなやり取りを見ていた〈ディアボロス〉は激昂する。

 

「……コケにしやがって。お前ら忘れたんじゃねえだろうな?!さっきお前らは、このオレの一撃によってなすすべもなくやられたんだよ!!!」

 

コミヤと距離をとった〈ディアボロス〉は、異形と化している右腕を再び振り上げた。〈死神の瞳〉で受けたダメージも完全に再生している。

 

 

「ーー来るぞ!!」

 

シュンがそう叫ぶ同時に、〈ディアボロス〉は腕を振り下ろす。先ほどと同じように凝固した血液の棘が縦横無尽に飛び回った。一度受けた攻撃だ。見切れるかとも思ったが、流石にそこまで甘くはない。最初の数発は対処できたものの、背後から、直上から、真下からせまる弾丸はどうしようもなかった。

 

身体に風穴が開き、激痛がはしるがーー今度はなんとか耐え切れそうだった。意識さえ強く持てば、身体は勝手に再生する。気絶することはない。何発か耐えているうちに、その嵐が止んだ。

 

さすがにこの技を使うと〈ディアボロス〉も消耗するようで、肩で息をし始めている。特徴であったメガネもヒビが入り、気がつけば地面に転がっていた。

 

 

「ハア……ハア……〈リザレクト〉か。大概面倒だな。オーヴァード相手ってのも」

 

「その言葉……そっくりそのままお返しするよ。--だけど、今度こそお終いだ」

 

皮肉にも、ここまできてようやく両者の意見が一致した瞬間だった。--まるで呪いのようだーーそう語った研究者が居たそうだが、今ならその意味がよくわかる。死ねない呪いというのは、えてして性格の悪いものだ。

 

「いくぞ……!〈死神の瞳〉!!」

 

再びシュンの周囲に魔眼が集まり、〈ディアボロス〉の方へと一直線に飛んでいく。〈ディアボロス〉はすぐにそれが先ほどと同種の攻撃だと見抜き、避けようとして足に力をこめたがーー

 

 

――ガクッ。

 

 

彼の足は動かなかった。否、動けなかったのだ。先ほどから受けたダメージの数々。とくに、コミヤから受けた地面に亀裂が入るほどの衝撃が不味かった。その一撃は彼の足の組織を内部から破壊し、オーヴァードの再生能力でも追いつけないほどのダメージを与えていた。そして生まれる一瞬の隙。そこに大量の眼達が群がる。

 

結局〈ディアボロス〉がとれた行動は防御のみ。そしてそれはあえなく失敗し、不気味な芽がーーいや、眼が再び生える。

 

〈ディアボロス〉が嫌悪感を示す間もなく、次なる敵は襲い来る。

 

「蒼羽!!ありったけをぶつけろ!!!!」

 

「りょーかい!!!」

 

蒼羽は大声で叫びながら跳躍する。不思議なことに先ほどよりもさらに力は増していた。それが力を使った()()の副産物だとしても、今は―――

 

脳内に浮かぶイメージ。先ほどのような連撃ではなく、より重く、より速い一撃必殺の攻撃。蒼炎は、さらに勢いを増す。

 

「喰らえ!」

 

蒼い光の尾。それは彼女の理想の力であり、思いの集大成。叩きつけるのは、幾人もの幸せを奪い、命を粗末にしてきた罪深き男。断罪の一撃が、平穏を守るための一撃が炸裂する。

 

「いっっっけええええええええええええええええ!!!」

 

今までの全ての思いを乗せて、蒼羽は全力をこめた一撃を放った。

 

 

両手に握り締めた蒼炎の剣を思いっきり振りぬき、〈ディアボロス〉の身体を今度こそ両断する。しかし剣は貪欲だった。斬撃だけでは飽き足らず、衝突した瞬間に解き放たれた蒼炎は、両断された状態のままの〈ディアボロス〉を遥か彼方へと吹き飛ばす。

 

「こ、この力は―――グワアアアアアアアアアア!!」

 

その様子は、偶然かそれともなんらかの意思の介入か。バットを振りぬくようにして放たれた一撃を反映するかの如く、さながらホームランのように吹き飛んでいった。

 

蒼い炎に焼かれながら吹き飛ぶ〈ディアボロス〉はビルの壁面に衝突する。爆音とともにビルにクレーターを作るその様は、誰の目からみても無事ではないのは明らかだった。

 

 

 

 

 

ーーパラパラと、おちたコンクリートが音を立てる。〈ディアボロス〉の絶叫の直後、辺りは不気味なほどの静寂に包まれた。白煙が立ちこめ、視界がほとんど閉ざされた状態だ。

 

しばらくして煙も薄くなった頃、遠くの方でうごめく影が見えた。方向は〈ディアボロス〉が吹き飛んでいった方。十中八九本人だろう。

 

ゆらーりと立ち上がる影。ただ、動作からも満身創痍なのが見て取れる。霧が晴れると、血反吐を吐いてよろめいているのがより鮮明にわかった。

 

そのはずなのに、春日は何故か不敵な笑みを浮かべている。そして、放つ一言。それは蒼羽らにとっての呪詛であり、春日らにとっての切り札だった。

 

「……見たかよーーやっぱり化け物だっただろう?」

 

そういい放ちながら、春日が見やった先。それは夕焼けの差し込む黄昏時の路地。誰も居なかったはずのそこにみえる。一つの人影。

 

それを目にして、蒼羽の顔は驚愕に歪むことになる。そう、彼女が見てしまったもの。それはーー

 

 

「し、森藤ーー?」

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