trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」   作:夏目ヒビキ

12 / 16
シーン8「作戦準備」

「クソッ……!」

 

コミヤはソファにドカッと腰を掛け、その足を乱雑にテーブルの上へと投げ出した。表情から――というか、後ろ姿だけで殺気立っているのが良く分かる。

 

森藤を逃がした後、一旦東京タワー内のN市支部に戻ったコミヤ達一行。しかし、当然いい気持ちのする帰還ではなかった。

 

敗走。嫌でもその単語が頭にチラつく。森藤涯。彼をみすみすと逃がしてしまい、結果的になにも為せなかった事実事態がどうしても許せないのだ。

 

そんなコミヤの横で俯いている蒼羽とシュン。彼らの胸にも同じくなんともいえない感情が渦巻いていた。

 

重苦しい雰囲気の中、蒼羽がはじめに口を開いた。

 

「あの・・・・・・シュン君?」

 

「なんだい?」

 

「森藤の姿を見て色々思ったんだけど・・・・・・あれっていわゆる、私みたいな力を得てしまった――ってことなのかな?」

 

「まあ、そうだろうね」

 

「――だよね。でも、あんな森藤初めて見たし・・・・・・」

 

蒼羽は俯いた。彼の様相を反芻し、ただただ考える。

 

「元に戻す方法って、あったりするのかな?」

 

「残念だけど。オーヴァードが元の人間に戻った事例は、僕の知る限りでは一つも無い」

 

「そう・・・・・・だよね」

 

一縷の望み。だが、それも即座に砕かれる。無常にも彼は有識者だ。どうしようもない。それでも。

 

「――どうやったら助けられるかな?」

 

シュンを真っ直ぐに見つめる蒼羽。澄んだ瞳には曇りは一点も無い。それに応えるようにシュンも言葉を返した。

 

「彼を元に戻すことはできないが――僕やコミヤをみてもらえれば分かるように、こうして普通に暮らすことだってできる。だから後は気持ちの問題だ」

 

そういいながらシュンはコミヤを、そして窓の向こうを一瞥する。

 

「さっきは彼も、ああいう風に逃げ出してしまった。僕には止められなかった。だが、君なら――話せば、分かってくれるんじゃないか?」

 

自分よりも背も年齢も下の少年の言葉。だが、その言葉は確かに重みをもっていた。私なら――そんなこと、できるのだろうか?もう一度拒絶されてしまったら?

 

「でも、私は力を使ったところを見せてしまったから――」

 

言い訳が口から溢れてくる。こうやってまた、自分には何もできないのだろうか。

 

「私が行ったら、また森藤は怯えちゃうんじゃないかって――」

 

もううんざりだった。結局こんなのばっかじゃないか。

うじうじするのはもう止めにしようって思ったはずだ。ヒーローに、なるんだろう?

 

「んー!!!!しっかりしろ蒼羽!!!!」

 

自分で自分の言葉を遮るように、自分の頬をペシペシと叩く。気合が足りてない。

 

「森藤と私は友達だから、ちゃんと話し合ったらわかってくれるし、気持ちも変わると思う!!!多分!!!」

 

息を大きく吸い込んだ。もう一度シュンの目を真っ直ぐ見据える。

 

「私は、森藤を守るためにも変わらずついていくよ」

 

シュンはうなずいた。

 

「――だから、今後どうするかを話し合いたいな」

 

揺るがない決意。迷いはなかった。

 

「君は強いな・・・・・・」

 

そんな風にシュンはボソッと独り言つと、椅子から立ち上がった。

 

「よし。じゃあそうと決まったら作戦会議だ」

 

「うん!・・・・・・あっ、コミヤもちゃんと参加してね!」

 

唐突に――というか自然な流れのはずなのだが、一人悪態を吐き続けていたコミヤに会話が飛ぶ。当然のように苛立っていたので、つっけんどんに返事をした。

 

「私もなのか?関係ないだろう」

 

「えー!仲間じゃん!一緒に頑張ろうよ!!!!」

 

「なっ・・・・・・仲間――」

 

狼狽するコミヤに、シュンが追い討ちをかける。

 

「はい支部長命令でーす。参加してくださーい」

 

「――はいはい」

 

不満そうにも、しぶしぶうなずくコミヤ。なんだかんだ言って、コミヤもここのことは嫌いではないのだ。

 

必要な面子も揃ったので、シュンが早速話をきりだした。

 

「――さて、まずは森藤を追いかけるのが先決だけど・・・・・・情報が少なすぎるからまずはそこからだね」

 

そういうと、デスクの上に置いてあったメモとペンをとり、見た目相応の若干崩れた字で文字を書きだした。

 

・蒼羽の友人について

・黒幕について

 

そんなことが箇条書きで書いてある。

 

「多分突き詰めるとこの二点が今必要な情報になると思う。蒼羽の友人・・・・・・っていうのは、もちろん彼、森藤涯のことだね。行方とかを探ることになると思う。そして、もう一つの方なんだけど――」

 

「黒幕、か」

 

コミヤが口を挟んだ。

 

「そう。あの〈ディアボロス〉の様子から察するに彼に指示を出してる人間が居るはずだ。おそらくそいつが、今回の事件の黒幕になると思う」

 

「なるほど。役割分担は?森藤のことなら私が調べるけど・・・・・・UGNでも手を焼いてるんでしょ?」

 

「ああ、それなら僕がなんとかするよ。データベースとかにも探りを入れてみるし・・・・・・()()()もある」

 

「――そっか。わかった。コミヤは?」

 

「・・・・・・好きにしてろ」

 

コミヤはそっぽを向いた。

 

「な・・・・・・」

 

「とりあえずほっといてやって。そのうち機嫌も直るから」

 

「はーい」

 

すこし残念そうにする蒼羽。この中で一番冷静なのがシュンという絵面もおもしろい。

 

「とりあえず行動開始としようか。コミヤは別件を任せるから蒼羽は気にせず行ってきてくれ」

 

「りょーかい」

 

蒼羽は頷くと、扉を背にして出て行った。残ったのはコミヤとシュンの二人だ。

 

「いいのか?蒼羽を単独で動かして」

 

「うん。・・・・・・それに、好きにしろって言ったのはコミヤだろ?」

 

シュンはそういいながら、デスクに座り、パソコンを立ち上げる。

 

「なっ。それは――」

 

その横でコミヤがうろたえると、シュンは少し微笑んだ。

 

「ハハッ。冗談だよ。蒼羽なら安心――というか、多分敵の狙いは蒼羽じゃないから、危険は無いと思う」

 

「・・・・・・ほう?」

 

「ああ。なんとなくだけど、敵の本当の狙いは彼、森藤のほうだと思うんだ。根拠は――まあ、直にわかるよ」

 

「・・・・・・」

 

コミヤは少し唸ると、再び腕を組み目を瞑った。シュンはノイマン。思考では完全に常人の域を超えているので、度々このように推理において置いていかれることがある。もうなれっこなので何も言わないのだが、どれだけ賢くてもガワは小学生だ。コミヤのプライド的には複雑な気分である。

 

「ああ、そうだ。コミヤに頼みたいことなんだけど・・・・・・」

 

「ゲッ」

 

「そこで寝てて言い訳ないだろ。とりあえず物資の買出しを頼む」

 

「マジで言ってるのか?ウチの支部の予算って確か――」

 

コミヤが言ってはいけないことを言おうとしたので、当然シュンは遮るように言葉を被せる。

 

「あんまり働かないと、日本支部長に――」

 

「ああ分かったよ!行ってくればいいんだろ?!行ってくれば!!!」

 

コミヤは逃げるように支部の扉を乱暴に開けて出て行った。反動で勢いよく閉じたドアが景気よく音を立てる。

 

「ハハハ・・・・・・」

 

今のはコミヤを動かすときにちょくちょく使う常套句である。普段誰に対しても傍若無人な態度をとるコミヤだが、霧谷雄吾――またの名をリヴァイアサン、あるいはUGN日本史部長――には別である。理由は割愛するが、彼はコミヤの大恩人であり、特別な感情を抱いている。

 

(さあ、仕事をしようか。時間ももう無い)

 

シュンはそう言うと胸ポケットのココアシガレットを出し、口に咥えた。

 

 

 

「ただいまー!」

 

その言葉と同時に扉が開いた。快活そうなこの声の主は――間違いなく蒼羽だ。

 

「おかえり。どう?成果はあったかい?」

 

パソコンに向かって座っていたシュンが顔を上げた。手元に置いたオレンジジュースの水面が静かに揺れている。

 

「うん!それなりに!!ついでに怪我用のガーゼとかも買ってきたよ」

 

「おお、ありがとう」

 

シュンが鷹揚にうなづくと、再び事務所の扉が開いた。先ほどよりかなり乱雑だ。

 

「おい神宮寺。どういうことだ?予算下りなかったぞ」

 

「だよねえ・・・・・・お疲れ様」

 

コミヤは先ほどよりも苛立っているようだった。

 

「だよねえ・・・・・・じゃない!お前支部長だろう?!どうにかならないのか?!」

 

蒼羽が口を挟んだ。

 

「え?なに?どうかしたの?」

 

シュンはなんとも言えない表情で目を逸らした。

 

「いや、なんでもないよ。なんでもないんだ。なあ、コミヤ」

 

「ああ。ウチの支部は死ぬほど貧乏だからな。どうやら医療器具もまともに買えないらしい。本当にこれだからUGNは――」

 

「はいコミヤさん失言はやめましょーねー」

 

「チッ・・・・・・」

 

コミヤは例によって例の如く舌打ちをすると、そっぽをむいた。

 

「――さて。時間も無いので情報の共有からいこうか」

 

ようやくシュンは椅子から立ち上がり、中央の机へとやってきた。

 

「どうしようか。とりあえず――そうだね。蒼羽からでいいかい?」

 

シュンの言葉を受けて、蒼羽は真っ直ぐにうなずく。

 

「おっけー。私は森藤について調べてきたんだけど・・・・・・そんなに対したことじゃないけど、一応。オーヴァードに覚醒する可能姓があって、そのFH?ってのに狙われてる――らしいよ。まあ、分かりきったことだけど。それだけ」

 

「ありがとう蒼羽。まあ憶測が確証に変わったくらいだけど、情報が多いに越したことは無い。さて、次は僕だね」

 

シュンは特になんの資料をみることもなく、すらすらと言葉を紡いだ。

 

「じゃあ、一番大事な今回の事件の黒幕だけど――パラケルススっていうFHエージェントの仕業っぽいんだ。結構陰湿なやつらしくて、裏から春日とかを使って色々手を回してたらしい。蒼羽には言っても分からないかもしれないけど、賢者の石っていう特別な結晶が目当てらしいね。だから、森藤が狙われた理由は恐らくその――」

 

蒼羽が神妙な顔で口を挟む。

 

「――賢者の石?」

 

シュンは頷いた。

 

「ああ。それの鍵を彼が握ってるっぽいんだ。それが渡るのはUGN側としてもいろいろ不味くてね。なんとしても奪還しなくちゃならない」

 

「分かった」

 

蒼羽が応えると、コミヤが思い出したように口を開いた。

 

「――で、肝心の敵の場所は分かってるのか?」

 

「もちろん。町外れに潰れたボーリング場があっただろう?そこの地下らしい」

 

「了解」

 

シュンは二人とも他に異論が無いのを認めると、先ほどよりもさらに真面目な顔で話した。

 

「――と、いうわけで。いまから僕たちはそこに向かう。森藤を取り戻し、やつらの作戦を食い止めるためだ。コミヤはいいと思うけど――蒼羽、本当に大丈夫かい?この先は間違いなく戦闘になる。覚悟がまだきま――」

 

「大丈夫。覚悟はできてるよ。私が、森藤を助けるんだ」

 

シュンはその言葉を受けて目を丸くし、瞠目した。

 

(蒼羽。君は本当に――)

 

「・・・・・・ああ、そうだね。じゃあ、行こうか」

 

「うん!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。