trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」   作:夏目ヒビキ

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シーン9-3「絆」

飛び交う無数の腕。

 

身体にはいくつか痣ができていた。――あの時を、思い出す。

 

幼い頃、父に虐げられて、泣いていた母も、似たような痣を作っていたかもしれない。

 

視界が霞む。もうあと少しで手が届くはずなのに、彼はやけに遠く見えた。私は怖いだろうか?目の前の「彼」が。怪物に見えるのだろうか?あの日の父と同じように?

 

 

――いいや、違う。

 

 

決意した。もう迷わないと。

 

あの日手を差し伸べてくれた彼に、今度は私が手を伸ばす番なのだ。だからもう迷わない。

 

私は、まだ、諦めてない。絶対に諦めてなんかやるもんか。

 

 

「――森藤?私がわからないの?」

 

 

彼の顔がようやく見えた途端、私は必死に叫んだ。彼との距離はそこまで遠くない。声は聞こえたはずだ。

 

だが、彼の表情は依然変わらないまま。獣のように牙をむき出し、その眼光には破壊の色が宿ったままだ。

 

 

きっと、こんなのじゃだめだ。

 

直感的にそう思った。彼の心には、まだ私の言葉は届いていない。もっと違う、もっと別の言葉をかけなければ――

 

 

暫く悩んだ――と言っても、時間にしたらほんの数秒だっただろうが――末、私は結局――

 

「森藤!!!」

 

気がついた時には、彼のことを抱きしめていた。両腕で、ぎゅっと、つつみこむように。・・・・・・少しだけ、縋るように。

 

全身で、彼のことがわかった。彼の拍動が、よりダイレクトに伝わってくる。

 

流石に森藤も驚いたのだろう。少しビクッっとした感触があり、その後、少しだけ後ずさった。もちろん、私は離す気など毛頭無かったので、そのまま抱きしめたまま。

 

少しの間。ほんの少しの時間だっただろうが、その一瞬は永遠のように長く感じられた。

 

耐え切れなくなって、彼の顔を見上げる。困惑したような顔。そしてその瞬間、閉ざされていた彼の口が開くのが分かった。

 

「森藤――!」

 

――だが、それは、期待通りにはいかなかった。彼の口から言の葉は零れない。代わりに襲ったのは、肩口に走る激痛。

 

「――ッ!!」

 

彼の牙が、肩を抉る。それは想像を絶する痛みで――直視すれば赤い液体が流れ落ちていた。彼を包んでいた手の力が緩む。腕の力が、感覚が失われていく。そのままそれに身をゆだねれば楽だったかもしれない。

 

――でもこの手は、彼を包んでいる手だ。

 

痛む腕に全ての意識を集中させて、無理やり動かす。そのまま、離れかけた腕を再び彼の背へ。

 

絶対に離さない。ようやく、私にもこの時がやってきたのだから。

 

あの日、彼が私を救ってくれた、ヒーローであったように。

 

私も、彼を救うヒーローになってみせる。

 

「森藤・・・・・・森藤・・・・・・!!!!!」

 

彼の反応は依然変わらない。だが、そんなこともう関係なかった。

 

「大丈夫・・・・・・もう、大丈夫だから――!!」

 

背中にかかった手を動かす。優しく、優しくなでつづける。安心させるように。昔、彼にしてもらったように。

 

「森藤。私のこと・・・・・・わからないよね。うん。――じゃあさ、私が話してあげる」

 

言葉は、自然に零れた。

 

「小っちゃい頃とかさ、一緒に手を繋いで、公園とか遊びにいったじゃん?小学校で仲良くなってからずっと。」

 

思い出が溢れる。もう、理性じゃ止められなかった。

 

「森藤ってさ、最初、みんなから顔怖いって言われて、なかなか友達できなかったじゃん?――でもね、私は、森藤と沢山話して、優しいとことか、沢山、沢山知れたんだよ?ずっと一緒に居てくれた。それに、私が家族のことで悩んだときも、森藤にしか、打ち明けれなかったし・・・・・・今森藤は、私のことが何も分からないかもしれないけど――でも、分からないなら、私が全部教えるよ」

 

目元が潤んでくる。声が震える。でも、泣けない。私は、私は――

 

「――だから、思い出してほしいの。・・・・・・あの、爆発にまきこまれたときもさ、フードコート一緒に行こう、って話してたけど、結局行けなかったじゃん?だからさ、一緒に脱出して、フードコートとか、ゲーセンとか、行けなかったとこ行こうよ。ねえ、森藤――」

 

嗚咽と、涙をこらえるので必死で。言葉が出てこなくて。ひたすら、背をなで続けた。

 

――永遠とも思えた時間の刹那。自分の肩の痛みが、ゆっくりとやわらいでいく。彼の力は緩み、その牙が離れる。獣のような身体は、段々と人の形を取り戻しつつあった。

 

「森・・・・・・藤・・・・・・?ねえ、私のことがわかる・・・・・・?」

 

彼の顔をもう一度のぞきこむ。瞳に、恐怖と破壊の色は、もう、無かった。

 

彼の表情が緩み、口元が開く。

「――昔話とかよお・・・・・・恥ずかしいんだよ」

 

少しだけ震えて、恥ずかしそうに目を逸らす。その表情はもう、蒼羽のよく知る森藤だった。

 

「森藤・・・・・・!思い出したの・・・・・・?蒼羽だよ?分かる?」

 

「分かるっつーの。恥ずかしい話をグダグダグダ――」

 

その言葉を聞いた途端、蒼羽の目から大粒の涙が零れた。先ほどまで気丈に彼に手を伸ばし続けた姿は少しなりを潜めて、少女らしい姿に戻っていた。

 

「森藤ー!!!!!!!!!!!!」

 

その様子に困ったように、森藤は声をかける。

 

「・・・・・泣くなよ!」

 

「でも、私、全部わすれられたのかなって思って――思い出したんだよね?」

 

「だから思い出したって」

 

「ありがとうー!!!うん、そうだよね。ねえ森藤、大丈夫?ほら、ちょっとまだ怪我とか――」

 

キリがないので、森藤は蒼羽の言葉を無視しながら独りごつ。

 

「あー、まさかあんな胡散臭いメガネに騙されるとは・・・・・・ったく。俺としたことが」

 

ばつが悪いように頭をかく森藤を、蒼羽がのぞきこむ。

 

「・・・・・・大丈夫。味方も沢山いるから、一緒に倒そう?それで、ここ出て、またショッピングモール、行こう?」

 

そんな様子を見て、森藤も笑みをこぼした。

 

「・・・・・・ああ、そうだな。まだ競馬のやつもやってねえし」

 

「け、競馬・・・・・・?う、うん。そうだね・・・・・・・」

 

森藤は少し悪い顔をして、もう一度顔を引き締める。

 

「ああ。さっさとブッとばして、行こうぜ、また」

 

「――うん。そうだね。一緒に戻ろう。日常に・・・・・・・うう、しんどぅー!!!!!!!!」

 

「くっつくなよ!!!」

 

泣きつく蒼羽と、あしらう森藤。彼女が取り戻した「日常」は、とても暖かく、優しかった。

 

 

――だが、それを当然、快く思わない人間が居るのも、ここの空間だ。

 

 

「・・・・・・くだらないですねえ」

 

当然、白衣を着た、パラケルススである。

 

「友情ってやつですか?そんなもん、犬にでも喰わせておけばいいんですよ」

 

パラケルススは、嫌味っぽく肩をすくめて、メガネをかけなおした。心底不快そう、といった様子だ。

 

「まあいいです。貴方達三人とも倒して――私には、彼さえ居ればいいのですから」

 

邪悪に顔を歪めるパラケルスス。だが、当然蒼羽も黙っちゃいない。

 

「――絶対にぶっとばすからな!」

 

横に並びたつ森藤も同様に、啖呵を切る。

 

「ああ、ぶっとばそうぜ」

 

並び立つ少年と少女。

 

燃え上がる朱と蒼は、ただただ激しく燃え盛る。元の日常へ帰るため。目の前の邪悪を打ち倒すため。

 

――そしてヒーローとして、自分を証明するために。

 

炎は、咆える。

 

「ボッコボコにしてやんよ!!!!!!!」

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