trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」 作:夏目ヒビキ
UGNチルドレン、霧谷コミヤ。彼女はオーヴァードと呼ばれる異能力者であり、UGNというオーヴァードが集まった組織に属している。今の彼女の目的は、敵組織である、FHのエージェント『ディアボロス』を追うことだ。彼は最近ここ近辺でいくつもの爆破事件をおこしており、UGN側からもかなり問題視されている。しかし、そう易々とは見つからず、手をこまねいているのであった。
(チッ。どこに行った……?先ほど見かけたあの影はーー)
そんな思考は、一瞬にして遮られることとなる。代わりに辺りを支配するのは、大気を揺るがす轟音。何事かと思って空を見上げると、付近にある巨大な建物ーー確かショッピングモールだったかーーから煙が上がっている。今の音の原因はそれで間違いなさそうだ。
続いてさらに爆発音。内部は恐らく大惨事になっているだろう。よくよく建物の出入り口を見てみれば、悲鳴をあげる人々の波が押し寄せていた。運良く逃げだせた者たちなのだろう。
(ーーこの手口、間違いない。ディアボロスか)
コミヤは跳躍し、常人離れしたスピードでショッピングモール二階の割れた窓ガラスから侵入する。
彼女のこの以上な身体能力も、全てオーヴァードの異能力によるもの。一度力を使えば相応の代償を得るのだが、そんなことは気にしていられなかった。
燃え盛るショーウィンドウ、灼け爛れ落ちそうになる梁。まさしく地獄絵図というのに相応しいのが中の状況で、あちらこちらに燃え盛るヒトのようなものでさえ転がっていた。
「チッ」
胸糞悪い風景に舌打ちすると、コミヤは少しでも生きている者がいないか探すため跳躍する。
しばらく探し回ると、瓦礫に囲まれて気絶している男女二人組を発見した。
即座に近寄り、意識があるかどうかを確認する。
「おい、大丈夫か?」
「……ッ!!」
コミヤが声をかけると、女性の方が目を覚ました。少しは苦痛に呻くかとも思ったのだが、なぜかそんな様子は見られない。それどころか今の状況を不思議そうに眺めているようだ。
「おいお前、ケガはないのか?何か身体で痛むところはーー」
その瞬間だった。コミヤが声を掛けた女性は、急に呻き、苦しみだす。やはりケガの痛みが気の緩みとともにハッキリとしてきたのだろうか?いや、そんな感じではない。むしろこれは力が洪水のように溢れ出るようなーー
「ウァァァァァァォァォォォォォア!!!」
女性は、耳をつんざくような絶叫をあげた。彼女の身体から溢れる力を抑えきれないようだ。
あきらかな危険を察知したコミヤは飛びのいた。瞬間、女の周囲を囲んでいた瓦礫が吹き飛んだ。黒煙があがり、視界が一瞬閉ざされる。強靭な精神力で目を開いたコミヤの瞳に映ったものはーー
ーー先ほどの弱々しい面影などどこにもない、炎熱を纏うヒトの姿だった。
周囲のものを瓦礫ともども吹き飛ばし、暴虐の限りを尽くす。ある程度満足したのか、単に視界に映っただけなのかーーようやくコミヤに反応すると、顔を向けてきた。
「おい、テメェは誰なんだ?」
凶暴な眼差しでこちらを見据えてくるその女を、コミヤも睨み返す。そして、言葉を返さずーー
一閃。
だが、その直後にコミヤの顔は驚愕に歪むことになる。UGN内でもかなり上位に入るはずの最速の一閃が、女の手によってーー正確には、そこから溢れ出る炎によってーー受け止められたのだ。
「おいおい活きがいい奴だなぁ?もっとかかってこいよ!!!」
そういうと女はコミヤの刀ごと彼女を吹き飛ばした。だが、コミヤも簡単にやられるタマではない。即座に飛びのき、片足で難なく着地する。
さぞ愉快そうに破壊衝動に身を任せ、あちらこちらに無差別に攻撃し高笑いをする姿には、狂気すら感じた。
「アーッハッハッハッハッ!!」
「チッ。めんどくさい女が出てきたもんだーー」
悪態を吐くコミヤ。だが、女は間髪入れずに炎の連撃を繰り出してくる。
(流石に抑えきれん。援軍を呼ぶか?あのガキは若干不愉快だがーー仕方ない)
コミヤは攻めから逃げの姿勢へと転じた。背後を度々振り返りつつも、縦横無尽に飛び回る。それでもなお追い縋る女に、少しの恐怖すら感じながらも、内ポケットにしまってあった旧式の携帯を取り出した。
「おい!神宮寺!!」
「はいもしもし。こちら支部長」
携帯の向こうから幼い小学生のようなーーというか実際に小学生なのだがーーの声がした。
「ガキィ!!こっちに今すぐ支援を寄越してこい!!」
「ん?なんだコミヤか?全く、いつも支部長に話すときは敬語を使えとーー」
「分かったからつべこべ言わず早く寄越せガキ!!ショッピングモールで女が暴れてる!!いいから早くなんとかしろ!!!」
「あーはいはい。電話越しでも音聞いたらわかるよ。大丈夫、もう向かってる」
怪訝そうに話す電話の向こうの声だったが、仕事はきちんとするはずなのでとりあえずは大丈夫だろう、だが、肝心の女がーー
「なあ、足の一本くらい切ってもいいよな?!」
「いや、それはダメだ。だが急ぐ。待ってろ。10秒で着く」
その声を聞いた瞬間、コミヤは携帯を投げ捨てる。今電話を掛けた支部長は空間転移ができるからたいして時間はかからないと思うが、肝心の男女二人組の男の方がヤバイ。
(どう止める?どう食い止める?もはや事態は一刻をーー)
途端に、背後に悪寒。
「お嬢ちゃん?ねぇねぇアタシと遊ぼうよぉ?ねえ、なんで電話なんかしてるんだ?」
「いいか、お前みたいな女と遊んでる暇はーー無いんだよ!!」
振り向きざまに一閃。だが、軽く回避されてしまう。得意げな顔をする女に腹を立てながら、もう一撃。今度は峰打ちだ。倒せくても、気絶程度ならーー
ーーだが、それもあえなく避けられる。
「あれぇ?何にも痛くないよぉ?」
「チッ。めんどくさい女だーー」
「足りないんだよ。まだ足りないんだって!!」
狂気の瞳でこちらに問いかける。もうその顔には、理性の残滓すらも残っていなかった。
(……ここは一旦離脱をーー)
もはや暴走する女を止められないと悟ったコミヤは、倒れていた男女二人組の男の方を抱えて、ガラスを破って飛び出した。
だが、女も黙ってはいなかった。つんざくような笑い声を上げながら、外まで追ってくる。
それでもコミヤは逃げ続ける。生き延びる算段は一つだけだったが、今はそれに賭けることにした。
(まだ、こんなところではーー)
市街地のアスファルトには、灼け爛れたような痕跡が作り続けられている。