trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」   作:夏目ヒビキ

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シーン3 「神宮寺シュン」

昼下がりのUGN支部。ブラインダーから覗く日差しと、デスクの上のマグカップ。よくよく見れば中に入っているのはコーヒーではなくオレンジジュースだった。さらに黒基調のエレガントな会議室には不似合いな小さいコートやカバンがかけてある。

 

そしてその違和感の元凶こそ、これまた不似合いな程大きい椅子に座っている少年。神宮寺シュンであった。まだ地面にすら届かない足をぶらぶらさせ、ココアシガレットを加えている。何を隠そう、彼は小学三年生なのだ。

 

ではなぜ彼がこんな場所に居るのか。理由は簡単だ。彼は小学生でありながら、ここら一帯を管轄するUGN支部の支部長で、探究者(マイクロスコープ)というコードネームを持っているからだ。オーヴァードである彼は、ノイマンと呼ばれる超人的な高い知力を得ることができるシンドロームを有していた。だからこそ、小学生の身でありながら支部長が務められるのだ。

 

彼は今、上司である霧谷雄吾から呼び出しを受けていた。やけにハイテクなスクリーンが明滅する。すると、妙齢の青年の顔がスクリーンいっぱいに映った。

 

 

「時間通り、ですね。探究者(マイクロスコープ)

 

「えー?当たり前でしょそんなの。逆に時間守らないヤツとかいんの?」

 

 

「んー……君くらいの年だと、中々それが普通だとは思いますが」

 

「あったりまえじゃん!!僕は支部長なんだよ?」

 

「あーいや、そうでしたね。失礼失礼」

 

霧谷は苦笑した。だが、シュンが生意気な態度をとるのも、彼なりの大人びた努力の一面なのだ。霧谷自身もシュンが自分の支部長という立場における責任を感じているのも知っていた。だからこそ、彼の生意気な態度はあげつらわず、あくまでも大人として接する。

 

 

「ーーでは、少し火急の用件なので、手短にさせて頂きます。このN市郊外のショッピングモールで、最近頻繁している爆破事件が起きました。そちらの方で、あなたの部下である、銀狐(フォクシー)が近くにいたので対応に当たってくれています」

 

 

「んー。コミヤの事だし、別に問題無いんじゃないの?」

 

 

「ーーまあ、普通の案件なら良かったのですが……どうやら、覚醒者が出たようです」

 

「……ほう」

 

覚醒者。そのワードを聞いた時、シュンの顔色が変わった。声色も先程のどこか腑抜けた感じから、低く落ち着いた声になっている。

 

 

「覚醒者が出た際の通例通り、先ずは支部長である貴方に保護に向かって頂きたい」

 

「ーー覚醒、か。まあわかったよ。支部長の仕事はきっちりやるさ。まかせといてよ」

 

 

「ありがとうございます」

 

霧谷は瞠目すると、もう一つの話題を切り出した。

 

「ーーところで、最近ここ近辺に姿を現している『ディアボロス』ですが、どうやらこの件にも一つ噛んでいるようです」

 

 

「『ディアボロス』……?また出て来たのか。何度も倒しても倒しても蘇ってくるし、逆に脅威に感じてきたよね」

 

 

「ーーまさに『不屈』ですね」

 

 

シュンは一度俯くと、神妙な顔で思案を巡らせた。彼なりに思うところでもあるのだろうか。

 

「ーーあともう一つ。どうやら『ディアボロス』の他に別のFHエージェントの関係が確認されているようです。ですが、こちらについてはまだ掴みきれていません。そちらの方でも調査をお願いします」

 

「りょーかい」

 

「手間をかけますが、どうかお願い致します」

 

「いやいや、任せといてよ」

 

シュンは少し顔を綻ばせる。まだ子供である彼にとって、大人から全幅の信頼を得られるというのは非常に嬉しいのだ。

 

「ーー頼りにしていますよ。探究者(マイクロスコープ)

 

 

その一言とともに、スクリーンの灯りが消えた。机の上のマグカップの中身をがぶ飲みする。

 

ーーさあ、これから仕事だーー

 

 

そう思って壁にかけたコートを取ろうとした時、着信が。

携帯の画面に映し出された名前は、『銀狐』。さて、訃報が吉報か、それともさらなる事件の前触れか。外見にそぐわぬ頭脳で静かに考える。

 

 

ーーそして、シュンは受信のボタンを押すと、そっと耳に携帯を添えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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