trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」 作:夏目ヒビキ
キーンコーンカーンコーン。
幾度と聞きなれたチャイムの音。音がなるやいなや、クラスから一斉に廊下へと人々がなだれ出る。
幸いなことに、今日一日はなにも起こることは無く、いつもどおりの平穏な時間が流れた。あんなことがあっても日常は日常でいてくれたのだと改めて感慨深くなる。
森藤も帰りの支度が終わったようだ。今日は一緒に帰ると決めていたので、鞄を持って、森藤の側へ。
ーーふと、肩をつかまれた。
「おい、お前は残れ」
「へ?」
気の抜けた声で後ろへ振り向くと、そこに居たのはコミヤだった。
「話がある。最優先だ」
「いや、でもこれから森藤とーー」
「ガタガタ言うな。お前はもう一般人ではないのだぞ」
もう一般人ではない。その言葉が重くのしかかる。この現実を正面から突きつけられたような感じがした。私はもう、本当の意味での日常には帰れないかも知れないというのだと。
「ーーわかった」
神妙な顔でうなずくと、森藤の方へと向き直る。残念ではあるが、仕方が無い。
「ごめん森藤。この後ちょっと用事できちゃって。先帰っててくれる?ごめん!!」
「あ、ああ。わかった」
急な申し出に若干困惑したかにみえたが、それは幼馴染の関係だ。朱のことはちゃんと理解してくれる。
「じゃあ、さき帰ってるわ」
そう鷹揚に手をふると、一人で教室を出て行った。教室に再び静寂が戻る。気がつけばもうコミヤと朱の二人しか残っていなかった。
コミヤは一旦ドアから外へ首を出し、あたりに人気が無いことを確認すると、虚空に向かって語りかけた。
「おい神宮寺。出てきていいぞ」
「......?」
首をかしげる朱。だが、その反応はすぐに驚嘆へと変わることになる。
目の前の何の変哲もない学校机。その中から、ド○えもんよろしく人の頭がにゅっと飛び出てきたのだ。
「えっ?!えっ?!!」
そしてそれは頭から首、首から体と順々に現れる。数秒もたたないうちに、人一人がすっぽりと出てきてしまった。あまりにも信じがたい光景だったので、コミヤを方を向いて助けをもとめるがーー
「......きもちわる」
そう微かに呟いたのが聞こえた。
一方の机から出てきた彼はーー
「やあ、またあったね」
「またあったねもなにも......そういうところから出て来るもんじゃないでしょお?!」
「......いやまあ。これが僕の能力だから」
「あっ。うん。そうだね。そうだったね......」
一応はうなずく朱だったが、状況に頭がついていかないらしい。まあ、それこそアニメで見るような光景なので、驚くのも無理はないのだが。
このシュンの能力は〈ディメンジョンゲート〉というオーヴァードの力の一つだ。任意の空間にワープする扉を作る事ができる。俗に言うどこでもドアのような物だが、侵食率をそれなりに喰うためそこまで気軽に使えるわけでもない。
なにはともあれ、放課後の教室にこうして昨日の面子3人が集ったのだった。
「さてと、今日は昨日の事件についての調査をするんだけど......蒼羽?」
最初に話を切り出したのはシュンだった。先日から調査を続けているディアボロスと関連のある事件に巻きこまれた当事者が身内にいるのだ。またとないチャンスだろう。
「昨日の爆発事件の詳しい状況を教えて欲しい。なんでもいいんだ。......例えば、直前に怪しい男を見た!とか」
シュンの問いかけに、朱は首を振った。
「それは......本当に覚えがないんだ。記憶がおぼつかないのもそうだけど、本当になんの前触れも無く起こったから」
「......そっか。ごめん。まだ辛いだろうに」
「いや。全然大丈夫。--それに、私も許せないんだ。そのーー今回事件を起こした[ディアボロス]って奴のことが。あの場に居た沢山の人の幸せを奪うだなんて許せることじゃないと思う。だから私のほうから協力させて欲しいんだ」
そう言い切る朱の瞳には、確固たる決意が灯っていた。
「ーーわかった。じゃあ、このまま話していても埒があかないしーー情報収集から始めようか」
「情報収集?」
「うん。本来なら僕一人の仕事なんだけど、恐らくもうほとんど時間の猶予が無い。せっかくだし、3人で分担すれば速いと思うんだ。必要な情報は三つ。昨日の爆破事件のこと。さっき蒼羽も言っていた、[ディアボロス]こと春日恭二のこと。そして最後にーー君の友人、森藤涯のこと」
森藤。その言葉を聞いて朱の顔つきが少し変わった。彼はもう事件とは無縁になったものだと思っていたのに。
「ーーど、どうして森藤を?私が本人に聞けばいいだけのことじゃーー」
「あの爆破事件に居合わせた生存者はすごい貴重なんだ。君はもちろんのこと、一緒に生き延びた森藤涯も例外じゃない」
「で、でも森藤のことを色々内緒で嗅ぎ回るなんて私ーー」
「彼には平穏に過ごして欲しいといったのは君だろう?だったら、なおのこと本人に伝えるわけにはいかない」
シュンの小さな体躯から紡がれる言葉は正論だった。朱は自分の考えの甘さを叱責する。
「ーーそうだったね。ごめん」
「いや、別に責めてるわけじゃないんだ。謝らなくてもいい。どうする?森藤のことは僕たちが担当してもいいけどーー」
「ううん。私がやるよ。目を背けるのが、一番よくないと思うから」
「わかった。.......おい、コミヤ!」
シュンは、先ほどから黙りこくっていたコミヤのほうを向いた。
「ん。私はディアボロスの調査を続ける。お前は昨日の事件のことでいいな?」
「ーーだよな。まあ、なんとなくわかってたよ」
最小限の言葉でやり取りをするコミヤとシュン。仲が悪そうに見えて意外と相棒的な立ち位置なのだろう。ーー以心伝心、という奴だろうか。
「じゃあとりあえず収集開始だけどーー蒼羽には、これを」
そういいながらシュンが渡してきたのは、人の名前らしきものがずらっと並んだリストだった。
「これは?」
「UGN関連組織の人事リストだ。僕たちの支部の人間ではないが、そこに協力的な人間が載っている。森藤のことはそいつらに片っ端からきいたら少しはつかめるはずだから、参考にして。この学校にも潜入してる人間が居るはずだから、そいつらへの聞き込みから始めよう」
「わ、わかった」
朱は神妙な顔でうなずいた。
「おっけー。じゃあ、ある程度区切りがつき次第ここに戻ってくるってことで」
「うん」
「了解」
3人はうなずくと、それぞれの場所へ動き出した。
♢
「おっけー。じゃあ情報を出し合おう」
情報収集のために解散した3人だったが、数時間後には各々の情報を持って再び教室へと戻ってきたのであった
「じゃあまずは僕から」
シュンはそういうと、手帳を胸ポケットからとりだした。ノイマンの彼にとって、本来ならば必要の無いものなのだ。だが、それ以上の意味があると言い張って、シュンは常日頃から手帳を持ち続けている。
「僕は爆破事件のことについてだね。今回の事件は、最近よく起こっている一連の爆破事件として捜査されているんだ。報道では死傷者だけで生存者は無しってことになってるけどーーまあ、現状を鑑みればフェイクだってことがわかるね。他のケースでは行方不明扱いの人もいるみたいだけど、今回はいないみたい」
凄惨な事件のその後。当然聞いてもいい気持ちはしなかった。やりきれない気持ちの行く先になやんでーー机にぶつけた。
「クソッ。人が死んでるんだよな。やっぱり」
「ーーうん。そうだね。だからこそ、僕たちが止めなきゃいけない」
シュンも苦々しい顔をして、地面を見つめた。彼自身の胸にも、救えなかった人々への無念が渦巻いているのだ。
「ーーよし。じゃあ、私の聞いてきた情報を出すね」
コミヤとシュンは、うなずいて朱をうながす。
「私は、森藤についてだったね。大した情報は得られなかったけど、気になるのがひとつ。ねえ、森藤の記憶ってなくなってるの?」
シュンは、その問いに少し唖然とした。仕事をなれさせるための一環として朱を派遣したので、大した成果は期待していなかったのだがーーまさか、そんな情報を拾ってくるとは。しかもあまり朱に知られたくない情報だ。うかつだった。
「ねえ?UGNが消したって本当?あなたたち、本当にーー」
「い、いや。そのとおりだけど、悪意があってのことじゃない。オーヴァードの存在を秘匿するための措置なんだ。嘘じゃない。別に彼に異常は無かっただろう?疑わしいかもしれないが信じてくれ。頼む」
「ーーそう、なんだ。まあ言いたいことも分かるけど。なんとなく変だなって思っただけだから」
「すまない」
朱はシュンの言葉をとりあえずは信じることにした。小学生を責めるのもあまり気の進むことではなかったし、言い分も納得できる。ただ、友人のーー特に森藤の記憶を操作されているなんて、気持ちのいいことではなかった。
「ーーじゃあ、最後にコミヤの報告で」
先ほどから黙りこくっていたコミヤがようやく口を開く。
「私か。じゃあ、こいつだな」
コミヤはおもむろにポケットに入っていた封書を出した。まだ開けてはいないようだ。
「ある人からの伝手で手に入れた。まだ私も確認はしていないのだがーーその人によると、仲間と一緒に見るようにと」
「......そうか。じゃあ読み上げてくれるか?」
「分かっている。どれどれーー」
封書の中には、質素な紙が丁寧な三つ折りで入っていた。コミヤが机において、そのまま開く。
「[ディアボロス]こと春日恭二は、最近ここ近辺に出没しており、不穏な動きを見せている。ここからが調査の最大の結果だが、[ディアボロス]は賢者の石と呼ばれるものを探し出すため、爆破事件を起こしてきたようだ。今回は、遭遇者a(蒼羽朱)と、共に居た友人(遭遇者bと呼称)の二名が覚醒が確認されており、遭遇者bが賢者の石保有者の可能性が高い。また、そのためにFHから狙われているとも推測され、今後の扱いの検討が必要ーー」
この場にいる全員の表情が凍りついた。蒼羽朱と一緒に居た友人。つまりーー
「森藤がーー?う、嘘ーー」
朱は地面に崩れ落ちた。顔をおさえて、肩を震わせている。森藤が狙われている。この事実に、蒼羽は冷静ではいられなかった。
一方、こちらも文面を見つめて驚愕していたコミヤは、すぐさま声を張り上げた。
「おい蒼羽!!おい!!返事をしろ!!」
「......え?わ、わたしーー」
「ああそうだお前だ。森藤涯はどこにいる?!今どこで何をしている?!」
コミヤの凄まじい剣幕に押されながらも、朱は必死で言葉を搾り出した。
「森藤は私より先に帰ったから、今はきっと家にーー」
「バカ!!家に無事に帰った保障なんてどこにもないんだぞ!?もしかしたらもう既にどこかでーー蒼羽、森藤涯の番号はわかるか?!」
「ーーう、うん。私も心配だから。連絡、とってみる」
「頼む.....!」
朱は慌てた様子で鞄からスマホを取り出した。幸いなことに、森藤の履歴は上のほうにあった。画面をタップして、電話をかける。
静まり返った教室に、電話のコール音だけが響く。とても長い間。そしてーー
ガチャ。
繋がった音は聞こえた。だが、その後に空虚に続いたのは、〈着信拒否〉の文字。
「し、森藤に切られた?わ、わたし......今まで一度も森藤に拒否されたことなんてなかったのにーー」
「......帰り道は?」
教室に響く朱の号哭。
「森藤涯の帰り道はどっちだ?」
「...........っ」
「森藤涯の帰り道はどちらだと聞いている?!」
泣き叫ぶ朱に、容赦なく怒鳴りつけるコミヤ。震える指で朱は、森藤の家の方を指差す。
「......クソッ!!」
コミヤは悪態をつくと、乱暴に教室の窓を開けた。そしてそのまま、窓から飛び出し、三階のベランダから跳躍をする。オーヴァードならではの芸当。だがーー
「待て!!」
そのコミヤの行動は、すんでのところで阻止された。忌々しげにコミヤが後ろを振り返ると、両手をかざしてコミヤを空間につなぎとめているシュンの姿があった。
「なんだガキ?!離せ!!時間がないんだぞ?!」
「落ち着けコミヤ。どう考えても僕の
コミヤは観念したように力を抜くと、そのまま室内へと帰ってきた。
「やれやれ。コミヤ一人で見るなって意味が分かった気がするよ。--蒼羽、立てるね?」
「ーーう、うん......」
「時間がない。急ぐよ!!」
そう叫ぶと、シュンは目の前の空間に人一人入れる程度の黒い空間を作り出した。
それをみたと同時に、コミヤはそこへ飛び込む。後ろを見れば、続くように促しているシュンの姿。
意を決して、朱はそこへ飛び込んだ。