trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」   作:夏目ヒビキ

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ミドルバトル
シーン6-1「敵との対峙」


日の傾いた頃。踊る影は三つだけ。ときおり立ち止まりながらも、縦横無尽に駆け巡る。

 

「そっちは?!」

 

「ーーいないな」

 

「待て、こっちに人影がーー」

 

募る焦燥。1分1秒の遅れが致命的な事態を招きかねない。

 

 

ーーそんな彼らの祈りに応えるようにか、はたまたそれすらも踏み躙るようにか。探し求めていた姿はようやく現れた。

 

そこは、ちょうど一目にはつかず、それなのに絶妙な加減で陽の光が差し込む袋小路だった。ビルの作る斜影に隠され、おぼろげに存在が分かる程度だったが、確かにソレはそこにいた。

 

「よお。忌々しき……UGNの皆さん」

 

陽光に照らされ、不明瞭だった顔の輪郭が明らかになる。

オールバックに、縁のある眼鏡。全てを見下したような下卑た眼差し。間違いない。彼こそがーー

 

コードネーム、[ディアボロス]。またの名を春日恭二そのものだった。

 

その姿を見た瞬間、すでにコミヤの手には刀が添えられていた。今にも飛びかかりそうに身をかがめる彼女に、朱が耳打ちした。

 

「……ねえコミヤ。あの人誰なの?」

 

その朱の問いに対して、コミヤはイライラを露にしながら答える。

 

「聞いてなかったのかお前?アレが森藤涯を狙ってるかもしれないんだ!!」

 

「……ッ!本当?こんなところに出てくるなんてーー」

 

唐突に訪れた危機に絶句する朱の言葉を遮るように、春日が口を挟んだ。

 

「おいおいそこのお嬢ちゃん。どうか気を荒げないでくれ。--今日オレは戦いに来たわけじゃないんだ」

 

ゆったりとした口調でのうのうとしゃべる春日に不快感を覚えながらも、コミヤは手にかけた刀を離した。

 

「ーーじゃあ何しにきた?どうしてこんなところに居る?」

 

「なあに。最近覚醒したばかりの()()()()()をな。少し導きにきただけだよ」

 

「ほう。--その面でか?」

 

苛烈する二組の雰囲気。だが、春日は論点を変えてきた。

 

「ーーおいおいおい。お宅UGNとFH、何が違うっていうんだ?可笑しいよな?」

 

あざ笑うかの如くこちらを辟易する春日。その口ぶりには、たっぷりの皮肉が込められていた。

 

「……ああ、確かにそうかも知れんがーー」

 

例によってコミヤが言い返そうとする。しかしシュンが口を挟んで、一言。

 

 

「予算が違う」

 

 

シュンの言葉に少し目を丸くする春日だったが、ようやくこめられたニュアンスを理解したのか苦笑した。

 

「クックックッ。それは痛いところを突かれたな。……まあいい。決めるのはそこのお嬢ちゃんだ」

 

春日は蒼羽をゆっくりと指差した。それに対して朱は怪訝そうに眉をひそめる。

 

「ーーなんだよ」

 

「そこのガキと嬢ちゃんに何を吹き込まれたかは知らないがーー此方にくれば、その力の使い方、()()()()()()教えてやろう」

 

 

辺りを風が通り抜けた。宙を舞う木の葉が再び地面に落ちる。朱は、やたらと上から目線な男を不振に思いながら言葉を返した。

 

 

「なるほど。お前達……は、UGNとは違う組織なのか?」

 

「ーーああ、そうだな。こっちはお前らみたいな仲良し団体とは全く違う。FH(ファルスハーツ)。それがオレの組織の名だ」

 

「FHーーそれは聞いたことがある。二人から教えてもらった」

 

 

春日はその言葉を聞いて口の端を上げた。行けるーー春日はほくそ笑む。

 

 

「オレ達は特別な人間なんだ。--いや、もう人ではないな。そう、特別な()()。まあ大方、そこの二人にやれ力を抑えろだの面白くもないことを言われたんだろうが、そんなんじゃつまらないだろう?」

 

 

「ーーでも、力を抑えないと、壊してしまうものも、失ってしまうものもあるんじゃないのか?」

 

 

よわよわしい声で反論する朱に、春日はさらに畳み掛けた。風は先ほどよりも強くなっている。

 

 

「そんなもの気にするな?得られるものだっていっぱいある」

 

朱は葛藤した。彼の言葉を信じていいものか?だが、その言葉に委ねれば今抱えている日常への不安もすべて拭ってくれるのでは?

甘い誘惑が、朱を誘う。

 

「確かに得られるものも多いかもしれないけど、私は、私はーー」

 

 

風の唸る音がさらに大きくなる。吹き飛ばされた空のゴミ箱の音が市街地に響き渡る。ーーそして、その末に。

 

 

「私は、できるだけ多くの人を助けたいんだ。もう犠牲者を出したくない」

 

 

朱は、真正面から春日の目をはっきりと見て言い放った。春日は少し固まっていたが、やがて堪忍したかのように肩を落とした。

 

「ーーなるほど。お前はそちら側か」

 

その言葉の中には侮蔑的なニュアンスもあったが、朱は全く気にしない。

ーー風は、いつの間にか止んでいた。

 

 

そんな朱は、遂に本題へと切り込んだ。到底許すことのできる相手ではないが、彼のことさえ聞ければ今は争う必要は無い。

 

「ところで、森藤はーーお前のところに居るのか?」

 

暫しの間。だが、春日は大仰な調子でかぶりをふった。

 

「はて?……誰のことかな?」

 

「しらばっくれてたらただじゃおかないぞ。ちゃんと教えてくれないか?」

 

朱の愚直なまでの問いにも、春日は真面目に答えなかった。

 

「んー……いやいや。わからないなあ?」

 

「駄目だぞ蒼羽。コイツらはな、言えといってそう言うようなバカではないーーいや、バカなのは確かか。うん」

 

沈黙を破り、間に割って入るコミヤ。続けてシュンも口を挟む。

 

「……おい。ーーまあ、わかったよ」

 

シュンは一度瞠目すると、再び話を切り出した。

 

「なあ、ディアボロス」

 

「なんだ?ガキンチョ」

 

「んなっ……!ガキンチョっていうんじゃねえ!!」

 

シュンは顔を真っ赤にしながら反論するが、ディアボロスは我関せず、といった調子で飄々とまくしたてる。

 

「おいおいおい。穏健なUGNさんが、そんなに青筋たてていいのか?」

 

「……うるさいな。おい!コミヤ!」

 

シュンはコミヤに助け舟を求めた。だが、返ってきた言葉はーー

 

「なんだ?()()()()()

 

シュンはその場で歯軋りをして今にも暴れだしそうな勢いだったが、今回はどうにかこらえたようだ。

 

「……今のガキンチョだけは許してやる。だからコミヤ。さっさとコイツをぶっとばして、吐くもの吐いてもらおうぜ?」

 

「ーーああ。もちろんそのつもりだ。私の仕事はコイツを捕まえることだからな」

 

二人そろって睨みつけてくる状況だったが、春日は肩をすくめておどける。

 

「おー怖いねえ。ついにUGN様も手を出す時代になったか?」

 

高まる緊張感。朱はその状況を見ながら問いかけた。

 

「……コミヤ。戦うの?」

 

「ああ。もちろんだ」

 

朱は俯いた。自分の中のなにかと対話するように。時間にしては数秒もなかっただろう。そして、目を見開いた。

 

「コミヤが戦うならーー私も戦う」

 

その瞳には確固たる意思が灯っていた。だが、シュンはそれでも朱を制止しようとする。

 

「それは待ってくれ。君はまだ覚醒したてでーー」

 

言葉に詰まる青羽。だが、そこにコミヤが口を挟む。

 

「なあに。コイツが暴れたら、手足の一本や二本や三本ーーいや、コイツの場合は二本かーーをぶった切ってやればいい話だろう?」

 

「……バッ、またそういうことを言うとUGNの信用がーー」

 

「そのためのお前だろう?」

 

「……」

 

コミヤに言いくるめられ、手も足もでなくなったシュンは、やけくそで髪を掻き毟る。どうやらもう止めることは無理だと判断したらしい。

 

「あーもう!!ーーあんまり僕かコミヤの側を離れるんじゃないぞ?!」

 

その言葉と同時に、シュンの周囲が歪んだ。一瞬不穏なもやに包まれたかと思ったソレは、序々にその姿を現していく。

 

ーー気がつけば、辺り一面に無数の黒い球体が浮かんでいた。いや、球体と呼ぶには相応しくない不自然な凹凸がある。そう、いうなればソレは『魔眼』としか形容しようのない何かだった。言い知れぬ不気味さと不吉さが漂っていたが、幸いなことにその敵意は春日恭二にのみ向けられていた。

 

ふと冷静になってみれば、その魔眼を操っているのはシュンのようだった。そう、これ自体も、彼のオーヴァードとしての能力の一種なのだ。魔眼と重力を操るシンドローム。その名も〈バロール〉の。

 

春日に向けられるシュンの敵意は、先ほどよりも確実に増していた。戦闘体制。まさにこの言葉のとおりだろう。

 

対する春日も黙っては居なかった。彼を覆うビルの影が、より一層濃くなっていく。

 

「ふむ。こうなってしまってはーー」

 

その暗闇の中から、紅く、禍々しい灯りが明滅した。

 

 

()()()()()()ーーだよなあ?」

 

辺りを包む不穏な気配。血と闇と混沌の香り。戦いのゴングが今、静かにーー故に力強く、響こうとしていた。

 

 

 

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