trpgダブルクロス:天開司卓「Certification of Hero」   作:夏目ヒビキ

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シーン6-2「人を超えた力」

燃え盛る夕暮れ。空は彼ら(オーヴァード)の力に呼応するが如く煌々と照り輝いていた。

 

対峙する二つの力はとどまるところを知らない。感情と感情のみが、ただそこでひしめき合っていた。

 

〈ディアボロス〉は暗闇からはっきりと姿を現した。右腕は異形と化しており、紅く、どす黒い禍々しいオーラを放っている。

 

シュンとコミヤはその光景をいたって冷静に見ていたが、問題は朱。一度決意したのはいいものの、明確に形を持って迫る彼女にとっての〔非日常〕に戦慄しているようだった。

 

「おい、蒼羽」

 

コミヤが〈ディアボロス〉から視線を逸らさず、声だけをかけると、朱はビクッとして反応する。

 

「は、へ?」

 

「……いいか、これから私の話すことをよく聞け。お前は戦闘はおろか自分の意思で力を行使したことすらないと思うが、そこは心配しなくていい。お前の力はもうお前のものだ。身体は勝手に動くだろうし、強く念じれば〈レネゲイド〉は必ず応えてくれる。ただ、そいつはお前の味方じゃない。使えば使うほどお前を蝕もうとする。決して飲まれるな。ーーお前の望む世界を、守りたいのならな」

 

普段の突き放したような言い方ではあったが、その言葉に含まれた朱への感情だけは本物だった。朱は、その言葉を飲み込むように、ゆっくりと、確かに頷いた。

 

「わかった」

 

そんな二人の様子を見ていた〈ディアボロス〉は、先ほどより多少強い語気で語りだす。

 

「さあて、そろそろ準備はすんだか?まずはお手並み拝見といこうーーっか!!!」

 

〈ディアボロス〉はそう叫ぶと同時に、地面を蹴って蒼羽達の側へ接近してくる。距離にして約五メートル。その差を瞬時に詰め、己の右腕で命を刈り取ろうとするがーー

 

ーーその一撃は、コミヤの一閃によって防がれた。どこから取り出したのか両腕には日本刀が握られており、カタカタと刀身を震わせている。その先で、鋭い刀身に不似合いなほど図太い〈ディアボロス〉の右腕を確かに受け止めていた。

 

「なかなかやるなあ。お嬢ちゃん?」

 

「……」

 

にやけながら挑発する〈ディアボロス〉を無言で無視し、コミヤは刀で腕を弾くと、そのまま横なぎの形で一閃する。後ろに飛びのく〈ディアボロス〉。間髪いれずにもう一振り。だが、その一撃は盾によって阻まれる。

 

「〈イージスの盾〉……卸したてだが、意外と使えるな」

 

そう呟くと、右腕に溜めた紅い球体を続けて放つ。当然のように回避するコミヤの背後の壁で、球体は紅い()()を撒き散らしながら弾ける。

 

「血……?ディアボロスお前、〈ブラム=ストーカー〉か」

 

能力を一回見ただけで能力を看破するコミヤに少し驚きながら、それでも〈ディアボロス〉は不気味な笑みを絶やさない。

 

()()()()()()()()()()()()ではーーないもんでねっ!!」

 

「……ッ!!」

 

悪寒を感じて身構えるコミヤだったが、振り向いたときには既に遅かった。背後で破裂したはずの血液が凝固し、凶弾となってこちらに向かってきたのだ。飛びのくにはあまりに時間が足りなかった。だがそれでも最後までーー

 

 

「させるかあっ!!!」

 

 

ーーそのときだった。強烈な熱波がコミヤの顔面を襲った。流石にたまらず眼を瞑る。数秒も経たないうちに瞼を開けると、そこには愕然とする〈ディアボロス〉の姿。身体を貫く痛みはなかった。

 

「はあ、はあ……で、できた……?」

 

そう息を切らしているのは朱だった。肩を上下させつつも、右手を前にかざし、わずかな炎の残滓をまとわせている。間違いない。今のをやったのは朱だった。

 

「ほお?流石にいくら素人とはいえオーヴァードを放置するのはまずかったかな?まあいい。とりあえずおとなしくしてーー」

 

〈ディアボロス〉は先ほどと同じように手をかざす。今度は朱の方へ向かって。止めようと割って入ろうとするコミヤだったが、流石に〈ディアボロス〉の方が速かった。

 

狙い過たず放たれた一撃は、朱の身体へ向かって飛んでいく。朱の強化された身体能力ならば回避行動くらいならばできる筈なのだが、足がすくんで動かない。ーーしかし、それは一瞬空中で静止する。慣性を失った弾丸はそのまま地面へ。棒立ちの朱に迫る凶弾を防いだのは、これまた両手をかざすシュンと黒い魔眼だった。

 

「僕も忘れてもらっちゃ困るよ?〈ディアボロス〉!」

 

「ククッ。ガキもガキでなかなかやるようじゃないか。しかし残念だ。お前たちは一人の荷物を抱えて戦わなきゃならない」

 

〈ディアボロス〉は朱の方をみやる。視線に気づいた朱だったが、ひるむことはない。

 

「……荷物?--確かにそうかもしれない。けど!!」

 

朱は語気を強めると、そのまま拳に炎をまとわせて跳躍する。()()の残滓を纏ったそれは〈ディアボロス〉に直撃しようとしてーー

 

「そういうところが素人なんだよ!!」

 

〈ディアボロス〉はひらりと身をかわす。全力で振りぬかれた拳は空を切り、勢いをぶつける相手の消えた朱の身体はバランスを崩す。

 

それを〈ディアボロス〉が見逃すはずもなく、振り向きざまに朱とは正反対のベクトルで強烈な裏拳を放った。自身の勢いと前方からの衝撃をモロに喰らった朱はそのまま後ろ側に吹き飛び、路地の壁面に叩きつけられる。

 

これもオーヴァードの能力なのか、めだった傷は何一つついていなかった。だが、強烈な痛みが朱を襲う。

 

「カハッ……」

 

血反吐を吐く朱。それを見かねたコミヤが声をかける。

 

「蒼羽!!力に使われるな。お前が力を使え。()()()()はそんなものか?ウイルスに打ち勝て!これ以上被害を出さないと誓ったのだろう?」

 

「わ、私のーー炎?」

 

「おっと。それ以上はいけねえぜ?あんまり余計なおしゃべりをしてるとーー」

 

割り込むようにして〈ディアボロス〉が口を開くと、今度は跳躍して右手の禍々しい爪を振りかざしてきた。どうやら話の続きをさせたくないらしい。今度狙ったのはシュン。だが、そこはコミヤが割り込んで防ぐ。

 

「ガキィ!!ぼさっとするな!!」

 

拮抗する二つの力。だが、そこへもう一撃ーー

 

「はあああああ!!!」

先ほどより強く赤々と滾る炎が〈ディアボロス〉に迫る。直撃ーーしたかにみえたが、盾によって阻まれる。

 

「おいおいおい。多対一とは卑怯だなあ?」

 

〈ディアボロス〉はすがる二人を弾くと、そのまま追撃。上側へと弾かれたコミヤは、空中でバランスをとって難なく着地。対する朱は少しバランスを崩す。

 

ーー多対一ではあるが、結果的にコミヤが二人をカバーしながら戦う形になっているため、攻撃時の有利は変わらないがそこからが上手く繋がらない。互いにジリ貧を迫られている状況となっていた。

 

 

戦況が動いたのはそのように拳を交えて数回目。互いに疲れが見え初めてきた頃だった。

 

「ーー女子供相手だろうが、こんな大勢に苛められちゃあ本気を出すしかないよなあ?」

 

唐突に口を開いたのは〈ディアボロス〉だった。先ほどとは比べ物にならないほどの不気味なオーラと鉄の匂いに3人は怯む。

 

「お前、急に何をーー」

 

「まあなかなか頑張ったほうだとは思うがーーやはりこのオレには届かない」

 

〈ディアボロス〉の周囲にさらに赤黒く濁ったナニカが収束する。明らかに異質な雰囲気を放つそれは、死の香りをはち切れんばかりに纏っていた。

 

「……ッ!!蒼羽、シュン、早く逃げーー」

 

いち早くその異常性に気づいたコミヤが叫ぼうとするが、〈ディアボロス〉は当然、それを許すはずがなかった。

 

「……もう遅い!!」

 

その一言と同時に、天高く異形と化した腕を振り上げた。

 

「〈血の宴〉」

 

〈ディアボロス〉がそのまま腕を振り下ろすと、辺りを漂っていたオーラは一瞬で意思を持ったかのように飛び回り始める。それは先ほど〈ディアボロス〉が放った血の弾丸と酷似していたが、決定的な違いは速度と数だった。四方八方から襲い掛かる凶弾は、たとえどれだけ優れた能力を持つ生物でも一瞬にして動かぬ肉塊にしてしまうだろう。

 

ーーそして、その生物というのは、オーヴァードも例外ではなかった。人間の常識を遥かに上回る速度で飛来するソレは、流石にさばききれるものではない。

 

避けれなかった。弾けなかった。防げなかった凶弾は、彼らの身体に孔を穿っていく。どう見ても致命傷。辺りに飛び散る鮮血は、果たして〈ブラム=ストーカー〉のものなのか、はたまた傷からあふれ出る赤い液体なのか。

 

朱の目に映る景色も、既に真っ赤になっていた。身体中から走る激痛のせいで、もはや自分が立っているかも怪しい。駄目だ。今度は赤色さえも映らなくなってきた。意識が朦朧とし、段々と視界も薄暗くなっていく。

 

ーーいやだ。いやだ。

 

そんな言葉すらももう口からでない。抗おうとする朱の意思とは裏腹に、世界は確実に遠のく。

 

 

 

意識は、深い深い闇の底へと堕ちていった。

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