「素晴らしいねぇ……久々にいい物を見させてもらったよ」
洞窟の外に立ったアレクシスが嬉しそうに呟く。
彼が見ている彼方に広大な火の海が上がっていた。今さっきメカゴジラシティがあった場所だが、アンチ達の奮闘により跡形もなく破壊されている。
その火の海の中で、咆哮を上げている巨大な怪物。あれがかのゴジラだと分かった途端、アレクシスが静かにほくそ笑む。
「あの怪獣もまた強い情動の持ち主……この世界は本当に面白いねぇ」
「私は全然面白くなかったですけどぉ~」
隣にいるアカネちゃんが膨れ顔になっている。
この距離からでは戦闘はおろかメガゴーヤベックの活躍すら把握出来ないからだ。ツツジ台にいた頃はドローンで解決していたが、今はそれがない。そもそも用意したとしても電波の影響で撮影する事が出来なかった。
「まぁ、それは仕方がないさ。でもゴジラが大きいおかげで破壊シーンが楽しめたと思うよ?」
「……霧とか炎のせいであんまり見えなかったけどね。大体大き過ぎるゴジラなんてナンセンスだよ。期待しちゃって損しちゃった」
「ううむ、難儀だねぇ」
アカネは怪獣に対してこだわりが強い。だからこそメカゴジラシティを憎み、あれほどの破壊を行ってくれた。
結果的にメガゴーヤベックは負けてしまったが、アレクシスにとっては勝ちも当然。強い情動に満たされた彼は大変満足していた。
「……ん? おおアンチ君、お帰りなさい」
アレクシス達へと人間体のアンチが戻ってきた。頬や服装に傷が出来ているが、逆にこれといった重傷はしていない。
「目的は果たせた。だが結局、グリッドマンを仕留める事を……」
「いやいや、シティ破壊に貢献したんだからめっけものだよ。グリッドマンはまた後で戦えばいい。ねぇ、アカネ君?」
「……まぁそうだね。とりあえずご苦労様」
それだけ言って洞窟の中に戻るアカネ。素直じゃない一面にアレクシスがやれやれと首を振る。
するとアカネに代わるように、メトフィエスが外に出てきた。彼もまた燃え盛るメカゴジラシティを見て、その口元の角を少し上げる。
「君達のおかげでメカゴジラシティは破壊された。改めて礼を言わせてもらう」
「いやいや、私も十分楽しめたからね、お互い様だ。ところでシティを破壊した後はどうするつもりだい?」
「どうするか……私としてはただ神を祈るだけの事。その為には偶像であるメカゴジラシティを排除する必要があった……まぁ、単なる気まぐれだと思って欲しい」
「……気まぐれねぇ……」
そう答えるメトフィエスに対して、アレクシスは気付く。
彼は何かを隠している。今さっきの台詞もどこか他人事のようで、本心から言っているようには聞こえない。となると他人に言えない『何か』を隠しているという事になる。
「メトフィエス君、やはり君も私と同じだと思うね」
「……何の話だろうか?」
隠していると言えば……アレクシスにはある確信があった。
その根拠として以前に見たビジョンがある。それがメトフィエスに関わっているのは間違いない。
「怪獣だよ怪獣。君にも私と同じ怪獣の匂いがする。それを利用してこの世界で何かを起こしている……違うかな?」
「……それなら君はどうするつもりかね?」
「いや、何も。私は見ているだけでも満足でね。君の怪獣がどういった存在なのか、考えるだけでもワクワクするよ」
例のビジョンからして、恐らくはアカネの怪獣以上の脅威と見て間違いない。
むしろ脅威が未知数だからこそ興味深いとアレクシスは思っている。あの怪獣がゴジラと共にどのような活躍を見せてくれるのか――それがアレクシスにとっての楽しみになっていた。
「……確かに我々は同じかもしれない」
メカゴジラシティを見ていたメトフィエスが、アレクシスへと振り返る。
小さい石板を丁寧に指で持っており、まるでアレクシスに見せ付けるように掲げていた。
「だがハッキリ言おう。私は君が思っているような人間ではない。君が楽しみにしているという……その怪獣も……」
「……!」
メトフィエスの言葉の後、全く見知らぬ世界が広がっていた。
森に満ちたあの場所とは違い、光だけしか視覚出来ない謎の空間。アレクシスは何故にここにいるかと、怪訝に思いながら辺りを見回す。
やがてそうしていた彼が、ふとその動きを止めてしまった。
光の中から出現する、三体の龍の影。
「……これは……」
龍は身体を持っている。身体から長い首と巨大な翼、そして二本の尾が見える。
先ほど垣間見た幻影の存在だと、アレクシスはすぐに分かった。龍の影がゆっくりと、獲物を狙うようにアレクシスへと迫る。
長い首が彼の周囲を囲んでいき、逃げ場をなくしていく。
禍々しい三体の顔がアレクシスを見つめる。その目が、口が、牙が、アレクシスという獲物を狙っている。
そうしてアレクシスへと、ゆっくりと近付き、口を開け……
「……っ!?」
気付けば元の場所が広がっていた。目の前にはメトフィエスが未だ穏やかな笑みをしている。
一見すれば、幻影の事に気付いていないようにも見える。だがその笑みが、幻影に翻弄されたアレクシスを嘲っているかのようだ。
「……本当に面白いね。メトフィエス君は」
だが彼のやり方に、アレクシスはどこかそそられる物があった。
#SSSS#
あの戦いから数時間が経った。
裕太は部屋の中で壁に寄りかかり、体育座りをする。ツツジ台の時とは比べ物にならないメカゴジラシティとの激闘には、さすがの彼も疲労感を覚えた。
「大丈夫か、裕太?」
「うん……ちょっと疲れているだけ。しばらくはこんな感じかな……」
「さっきのは本当に危なかったもんね……本当にお疲れ様、響君」
内海に返事すると、今度が六花が言ってきた。
彼女の微笑んだ顔を見て、裕太は少し耳が熱くなってしまう。軽く「うん……」と言って真正面を向く。
「これ……よかったら……」
そんな彼の元にマイナとミアナが近付く。さらにミアナが壺のような物を差し出してきた。
中身は見る限り透明な水。ちょうど喉が渇いたので、裕太はそれを口にする。
水はかなり冷やされており、枯れた喉を優しく癒してくれる。
「ぷはぁ! ありがとうミアナちゃん、マイナちゃん」
「…………」
二人は何も言わなかった。ただ口元を綻ばせてコクリと頷く。
彼女達の姿を見て、裕太自身本当に頑張ったと自己評価する。もちろんそこには新世紀中学生の助力があってこそ。
なお新世紀中学生は近くでアダム達と話し合っていた。彼らからお礼として携帯食料をもらったりと、それなりに楽しそうである。
「うむ……今の所は休眠しているね。今までから察するに数サイクルはこのままかな」
「……そうですか」
するとマーティンとユウコがやって来た。
マーティンの機器からある場所の立体映像が表示されており、二人して見ているらしい。裕太がよく見ると、文字通りの不毛の土地にゴジラが佇んでいる。
今いる場所は燃え尽くされたメカゴジラシティ跡。ゴジラはそこで休眠をとっているようだ。
「マーティンさん、あれからゴジラは動いていないんですか?」
「ああ、今回の戦闘でかなりのエネルギーを消耗したみたいだからね。しかも捕食なんかせずとも、休眠をとるだけでエネルギーを蓄えられる……完全無欠とはまさにこの事だよ」
「……完全無欠……」
以前マーティンが『助け合いの共生をいらない存在』を示唆していた。それがゴジラの事だったと裕太は確信する。
グリッドマンの中にいた時、彼もまたゴジラの姿を目にしていた。あの攻撃の規模、脅威、そして存在感――どれもツツジ台の怪獣とは比べ物にならない。
そして何と言っても、彼がハルオにとっての宿敵らしい。もし仮に戦う事になったら、果たして勝ち目があるかどうか。
「ああ後、メカゴジラの頭部が破壊された影響で全ナノメタルが機能停止した。後はそのままただの金属に変わるはずだよ」
「そうですか……よかった」
「うん、だからありがとう響君。私達の為にここまで戦ってくれて……」
「いえ、そんな……」
ユウコに礼を言われて、裕太はこそばゆく感じる。
彼の様子に微笑むマーティン達。と、その二人へと壺を持ったミアナが駆け寄る。
「はい……」
「……!」
渡されたユウコが少し動揺したのを、裕太は見逃さなかった。
すると彼女は恥ずかしそうにしながらも、「あ、ありがとう……」と壺を受け取る。その行動に疑問を持つ裕太。
(タニ曹長、以前はマイナ達を苦手にしてたんだけど、鱗粉で助かって以来考えを変えたらしいんだよ)
(へぇ……)
裕太の疑問に察しただろう。マーティンが小声で説明してくれた。
ユウコの方はぎこちなく壺の水を飲んで、それでぎこちなく笑みを浮かべる。彼女なりにミアナ達に歩み寄ろうと頑張っているかもしれない。
そう考えるとどこか微笑ましい。
そんな事を思っていた裕太が、ふとある事に気付く。
「ところでサカキさんは?」
「ああ、外のヴァルチャー整備場にいるはずだよ。今頃はどっかに座ってぼんやりしていると思うよ」
「外ですね。俺、ちょっと行ってきます」
ハルオがどうしているのか気になったので、裕太は言われた場所に向かう事にした。
長い洞窟を経て目的地に着くと、空が夜の漆黒に染まっている。星は霧の影響かほとんど見えない。
その夜空の下で、ハルオがヴァルチャーの上に座っていた。彼は戦闘服を脱ぎ捨てた軽装姿で、星のない夜空を見上げている。
「あの、サカキさん」
「……! 響……」
気付いた彼がヴァルチャーから降りる。
相変わらずの鋭い目付きで、裕太を見つめる。最初はどこか強気な印象が拭えなかったが、今の裕太にとってはそれほどでもない。
「ありがとう。俺達の為に頑張ってくれて……君達がいなければメカゴジラシティに対抗出来なかった」
「いえ、これは他人事じゃないって思っただけで……それにサカキさんがいたからこそ、ここまで来れたんです」
「ここまでか……君が言うと、その言葉が悪くない気がする」
上の空のように呟く。そんなハルオを見て、自分のした事はよかったかもしれないと裕太は思う。
だがどうしても引っ掛かる。それは自分が思っているだけで、本当はよくないのではとも勘繰りたくなる。
『後悔するぞ。その考えが間違っていたと、必ず思うようになる』
理由があるとすれば、ガルグの言葉だ。
まるで裕太達の行動を否定するような感じ。それが今でも彼の脳裏に焼き付いている。
だから……
「サカキさん」
「ん、どうした?」
だからこそ、言葉にしたい。
ハルオに、それを伝えたかった。
「俺は……信じます。例えあなたがどんな事になっても、どんな事が先に待っていても、俺はあなたを信じます……信じたいんです」
「…………」
裕太の言葉を聞いて、ハルオは沈黙する。
次第に場が静かになっていくにつれて、裕太は少し恥ずかしそうになる。頬が熱くなるのを感じながら、無性に頬をかく。
「えっと……ちょっとかっこつけましたね……」
「……いや、俺は嬉しい」
「えっ?」
もう一度ハルオを見る裕太。
彼は少し前を歩き、その背中を見せるように立った。
「ガルグ達の件で、俺は自身というのを信じられなくなったかもしれない。自分のしてきた事が今まで間違っていた、やっている事なんて無駄だった、そんな言葉が脳裏に浮かんでくる事もあった」
「…………」
裕太は何も言えない。ただハルオの背中を見つめるしかない。
「でも君のその言葉が、また俺自身を信じるという勇気をくれた。君のおかげで報われたとも言っていい……君という存在がいて、俺は今嬉しく思う」
しかし一呼吸入れてからの言葉が、裕太の心に深く突き刺さる。
そしてハルオが彼に振り返ってきた。鋭い目つきを穏やかにして、微笑みを見せながら。
「俺は響を……宝多達を信じたい。俺の事を信じてくれた、別世界の仲間として」
「……はい、よろしくお願いします。サカキさん……」
自分の言葉で救われた。それを知った裕太もまた嬉しく思う。
お互い別世界の住人で、それでいて過去の事を何も知らない。何もかもが正反対……でも信念だけは同じのはず。
だからこそ確かにそこに感じる友情。それが裕太とハルオの間に、芽生えようとしている。
そんな二人の間に吹くそよ風。それはまるで、世界の誓う二人に微笑むかのようだった。
裕太はこれからも信じ続ける事だろう。ハルオがこの先、どんな道に歩んでいても。
そして彼もまたこの世界において、さらなる困難に見舞われる。困難を退けた時、彼らの前に姿を現すだろう。
――来たれ金色の、その名は―――――
――来たれギ――よ、終焉の翼――
――来たれギド―よ、我らに栄えある終焉を――
――来たれギドラよ、我らに栄えある終焉を。血肉を糧に究極の勝利を――
To Be Continued……?
これにて「GODGRID ─決戦機動電光超人─」は完結となります! ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!!
この作品に関する事を活動報告で語りますので、ぜひともお越しください!