ハルオは今、グリッドマンとユウコと共に中枢にいた。
彼の目の前には、ナノメタル全体を制御しているメカゴジラの頭部がある。ここを出る前とは変わらず、まるで打ち首のように転がっていた。
また頭部の近くには二つの人型ナノメタルがある。
「……ガルグ……ベルベ……」
共にゴジラと戦った二人のビルサルド。ナノメタルを喜んで受け入れた彼らの成れの果てだ。
危険なナノメタルを受け入れるなんて普通はおかしい。ただシティの存在を知った時には歓喜し、ナノメタルが同胞を取り込んでいる事を当然とばかりに説明していた。
彼らにとってメカゴジラシティとは、それほど特別な存在だったという事かもしれない。
それは十中八九移民船に残っているビルサルドも同じだろう。もしシティを破壊した場合、彼らの逆鱗に触れるのは間違いない。
「それでも俺は……」
だがそんな事に構っている場合ではなかった。
これを破壊すれば全てが終わる。そしてここまで戦ってくれたグリッドマン達の為に、ハルオは火器をメカゴジラ頭部に向けた。
『巨大不明生物、データ解析完了』
「……何?」
コックピットのモニターに、突如として無機質な文が表示された。
戸惑うハルオだが、そこにユウコの声が届く。
『先輩、私のモニターにも文が……』
どうやら彼女のヴァルチャーにも同じ事が起こっているようだ。
二人が呆然としている間にも、文が次々に表示される。
『コードネーム:グリッドマン 所属:不明 身長:現時点で約50m
未知の光学兵器及び僚機との接続を確認 メカゴジラに対する危険度:未知数 ただちに「レパード」での排除が求められる
グリッドマンニ死ヲ グリッドマンニ死ヲ グリッドマンニ死ヲ
グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ
グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ
グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ
グリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲグリッドマンニ死ヲ……』
「レパード……?」
ハルオが怪訝に思った時、天井から軋み音が響く。そこのハッチが徐々に開けられるのだ。
ハッチの奥には、刺々しさを持った巨大な影が見える。
完全にハッチが開けられたと同時に、謎の影がハルオ達の前に落下してきた。逆関節の両脚で着地し、まるでハルオ達に見せ付けるように身体を持ち上げる。
『ヴァルチャー!?』
ユウコの言葉通り、それはヴァルチャーに酷似していた。
おおむねのシルエットは翼を取り除いたヴァルチャーといった所か。しかし全身が刺々しい装甲で覆われ、手足には鋭い爪が生えている。身長は今のグリッドマンとほぼ同等。
そして何より頭部がヴァルチャーと全く異なり、獰猛な獣の造形をしていた。
「いや、違う。ヴァルチャーに改造予定だったパワードスーツを元に造り上げたんだ。かつてのメカゴジラの要素を加えながら」
レパードと呼ぶ機体には、かつてのメカゴジラの面影があった。
そして元になったパワードスーツはベルベの物で間違いない。ヴァルチャーは三機分開発されており、それぞれハルオとユウコ、そしてベルベに割り当てられていた。
しかも脱出する時にベルベ機を置いてきたままになっている。その間に機体に改造を加えたのだろう。
つまりこの機体はメカゴジラシティにとっての、ガーディアンという事になる。
「……ガルグ達が俺達を止めようとしているかもしれないな」
ベルベ機が敵として現れたのを、そんな意味があるのではないかと思うようになる。
複雑な気分になるハルオだが、一方でレパードがこちらへと駆けてくる。考えている余裕はなさそうだった。
「全員散開!!」
鉤爪を振るってくるレパード。
ハルオ達は散開しつつ火器を発射。するとレパードが跳躍し、射撃を回避してしまう。
レパードが降り立った場所はフルパワーグリッドマンの目の前だ。やはり鉤爪で攻撃しようとする。
対しフルパワーグリッドマンはキャリバーで受け止める。迸る金属音と火花。
そのままグリッドマンがヴィットで構成された足で蹴り飛ばす。吹っ飛ばされるレパードが壁に張り付き、身体中の棘を発射。追尾しながら迫りくる棘を腕でガードするグリッドマン。
ハルオとユウコも火器を発射。しかし敵はそれすら回避。
レパードが目に留まらぬ速さで、二機のヴァルチャーに接近。鉤爪がユウコ機に襲い掛かるのを、ハルオは見逃さなかった。
「ユウコ、よけろ!!」
『……っ!』
ユウコ機が宙返りでかわした。
だが突如としてレパードの頭部が伸び、ユウコ機に喰らい付く。
『しまった! キャアア!!』
頭部に振り回され、壁に叩き付けられるユウコ機。
ハルオは愕然するも、すかさず火器を発射。今度は背中に直撃し爆炎が起こる。
──だが爆炎の中からレパードが現れ、タックルを喰らってしまう。
「グアアアア!!」
ヴァルチャーが地面へと倒れ込む。衝撃で操縦席に叩き付けられ、ハルオの頭から血が流れる。
激痛が走りながらも、彼は重い頭を上げた。そのモニターの奥で、フルパワーグリッドマンに襲い掛かるレパードが見える。
『この化け物め!! バスターグリッドミサイル!!』
ボラーの声と共にミサイルが発射。
それらをかわしながらフルパワーグリッドマンに接近。グリッドマンが拳を振るおうとするが、その隙を付くように攻撃してくる。
『グアアアア!!』
よりにもよって強固な装甲の関節を狙う形で。
関節に入り込んだ爪が、グリッドマンに苦痛を与える。さらに彼がキャリバーを振るうのを察知して、右腕の関節に攻撃。そのダメージでキャリバーを落とすグリッドマン。
隙を入れず、なおかつ合理的。そんなレパードがグリッドマンに蹴りを入れて転倒。さらに倒れるグリッドマンの首を掴み、高く持ち上げていく。
このままでは彼らがやられてしまう。モニターに起こった蹂躙が、ハルオにそう感じさせる。
#SSSS#
――ブォオオオオオオオオオオンン!!――
難攻不落怪獣メガゴーヤベックの口から、空気を震わす咆哮が響く。
背中の火口から火球を発射させ、メカゴジラシティの砲台を破壊尽くす。燃え盛る炎、木霊する爆発。さらには進撃し、ドームを巨大な脚で叩き潰して粉砕。
それはまるで、このシティの存在を許さない新条アカネその物を表しているかのよう。
などと思いながら、メガゴーヤベックの上に乗ったアンチが腹のミサイルを発射する。以前バスターグリッドマンからコピーしたそれで、次々とシティの一部を焼き尽くす。
『あまり時間がない……早く行かせろ……!!』
シティの中心にあるメカゴジラの頭部を破壊すれば停止する。アンチはメトフィエスからそう聞かされている。
頭部の居場所は分からないが、逆にグリッドマン達は匂いで把握済み。彼らもまたシティの破壊を目論んでいるはずなので、その場所に行けばたどり着けるはず。
そうしてシティを破壊した後、グリッドマンを倒す。
例え体力や制限時間が消耗していても構わない。残り少ない時間で宿敵を叩き潰すまでだ。
『喰らええええええ!!』
さっきのように黙らせるべく、発光部のエネルギーを収束させる。
その時、メカゴジラシティから金属粒子が舞うのをアンチが気付く。それでもかまわないと、エネルギーを収束させた極太の光線を放つ。
レーザーがそのままシティに直撃……はしなかった。金属粒子に当たった途端、レーザーが明後日の方向に飛んでいく。
『何っ!?』
メガゴーヤベックも尻尾から光線を放つも、同様に跳ね返されてしまう。
どうやら金属粒子が光線へのバリアになっているようだ。だとするならば実弾攻撃しか通用しないという事になる。
歯がゆい思いをしながらも、アンチはミサイル攻撃に転向。するとその時、彼やメガゴーヤベックの周りの地面が爆ぜる。
数本の巨大なアームが出現。それらが内側に稼働し、メガゴーヤベックを挟む。
そうして身動きが取れなくなったメガゴーヤベックへと、アームから無数の槍が伸び、刺し貫いた。
――ボアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!――
苦痛の悲鳴がシティに上がる。さらにアームの力によって、メガゴーヤベックの体表が砕かれていく。
ここにいたら巻き込まれると、アンチがメガゴーヤベックの上から脱出。メガゴーヤベックはまるで助けを求めるように腕を伸ばすが、やがて鈍い音を上げながら潰されてしまう。
バキッ!! ボキボキッ!! バキッ!!
もはや怪獣であったそれは原型を留めず、単なる巨大な残骸へと化してしまった。
呆気に取られるアンチ。しかし立ち止まっている訳に行かないと、メカゴジラシティへと跳躍する。
だがメカゴジラシティが再生させた砲台で一斉射撃。アンチは両腕で防いだが、そのまま地面に転がってしまう。
『ぐう……!!』
すぐに腕を見るとナノメタルが侵食している。アンチは光弾で強引に除去。腕に痛みが走るが、体表に這っていたナノメタルを焼く事が出来た。
その時、頭部の発光部からサイレンが鳴る。そう時間が掛からない内に人間体に戻ってしまうサインだ。
逆に言えばかなりの時間戦っていたという事になるはずだ。しかし目の前の都市はいくら損傷を負ってもすぐに再生してしまい、逆にこちらを消耗させてくる。勝てない戦いを常にやっているような物。
悪態を吐きたくなるアンチだが、目の前の都市が武装を向けてくる。
もはや逃げられはしないだろう。グリッドマンを倒す事を叶わないまま、散っていくのだろうか。
そう思っていた時、周辺が青白い光に包まれた。
『何だ……?』
アンチが見上げると、一筋の光が飛んでいた。
光が金属粒子を通過すると無数に分離し、屈折。しかしそれが逆に広範囲に渡り、シティの所々に着弾していく。
光の余波を喰らうシティ。アンチはどこから来たのか、それを確かめようと背後を振り向く。
――グルウウウウウウウウウウ……――
『……あれは、さっきの……』
遠くにある森の中を、それは動いていた。
山のように巨大で、獣の顔と手足を持って、背中から青白い電撃を纏わせた存在。それが大木のような脚を踏み鳴らしながら、シティにゆっくり迫ってくる。
アンチはメトフィエスから、あの存在の事を聞かされていた。
この世界における怪獣の頂点であり、地球の生態系の霊長、そして破壊の王とも言われている存在。
その名は――『ゴジラ』。
――オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!――
ゴジラが高らかに咆哮をする。同じ怪獣であるはずなのに、アンチは言い知れない威圧感を感じ始める。
ドン!! ドン!! ドン!!
だが呆然としている間、シティがゴジラへと砲撃していた。
雨あられと無数の弾幕が襲い掛かる……のだが、ゴジラは全く意を介さず突き進んでくる。もはや誰にも止められないと言わんばかりの進撃。
やがて一旦立ち止まると、その背ビレに大量の放電が放たれる。
放電が口元に収束した瞬間、ゴジラの瞳孔が鋭くなった。