周りと同じように自由に生きてたら何故かヴィランになっていた   作:鰹節31

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無個性

 ヴィラン連合とかいう泥船の乗組員になってから数週間がたった。俺を黒さんと一緒にヴィラン連合に連れてきた口だけマンからお金を貰い現在はぶらついてる。そういや口だけマンのこと弔っちと黒さんが先生とか呼んでたな。俺もそう言った方がいいのかな? のっぺらぼうの亜種って言ったら最高に笑ってたけど。

 

「しっかし此処どこだし。適当にぶらつきすぎたなぁ」

 

 周りを見れば静岡県と書いてある。いや、どこだし。そもそもが適当にぶらつくんじゃなくてルートぐらい決めておくべきだった。

 

「公園で休むかぁ」

 

 休息は大事である。俺はぶらついてる日々でそれを学んだ。幾ら人造人間でも限界が存在する。そもそも“個性”を意図的なものになっているだけで他の人とあまり変わりないのかもしれない。

 

「……次はどこに行こうかなぁ」

 

 二日に一回のペースで生存確認という名目で黒さんから電話が来る。その度に何処にいるのか聞かれるので応えて居るのだが何故か驚かれる。昨日の電話では珍しく弔っちが掛けてきたけど怒ってたような?

 

「まぁ、いいか。さて出発だ」

 

 ぶらつくのに目的などないのだ。そもそも行きたい場所が分かっても行き方知らないし。最近になって漸くホテルに泊まることと電車に乗ることを覚えたのだ。目的地に向かうことは俺にはまだ早いのである。

 

「わっ!」

「おっ?」

 

 考えながら歩いていたら人とぶつかった。いけない、いけない……周りが見えてなかった。

 

「これは失礼、周りを見てなかった。怪我はないか?」

「だ、大丈夫です! こちらこそ周りを見てなくてすみません!」

 

 倒してしまった人に手を差し伸べる。そばかすのある緑色の縮れ毛の男の子。男の子を立たせた後、転んだ拍子に落としたであろうノートとペンを拾う。

 

「ヒーロー分析……?」

「あ、はい! 僕、ヒーローに憧れてて。その、色々纏めてるんです」

「へぇ~かなりオタクなんだな。でもすげぇよ。見ても良いか?」

「は、はい!」

 

 ページを開けば色々な情報が書かれている。ヒーローの“個性”からなにまで。考察を交えたり、技を書いてたり。いずれヒーローと対峙することになるであろう(ヴィラン候補)にとってこれは最高の資料だった。

 

「ありがとう。こんなに細かく考察出来るなんてすげぇよ。思わず読み入っちまった」

「ありがとうございます! こんなに褒められたのは初めてです」

「そうなのか。良ければ色々教えてくんねぇか? ほら、近くに公園あるし」

「僕で良ければ是非!」

 

 公園に移動し、そばかす君もとい緑谷出久君にヒーローについて話し合った。分かんない俺は相づちをしながら考察を頭に入れる。それから少し経った後、俺達の“個性”の話になった。

 

「翡翠さんはどんな“個性”なんですか?」

「ん~? ああ、俺の“個性”ね~なんつったらいいのかな? 簡単に言えばこれ」

 

 公園の砂に干渉して操り犬の模型を作る。我ながらかなり良い線いってる。前に暇潰しで色々な模型を作ってた甲斐があるな。

 

「砂を操る“個性”! 凄い“強個性”だ! もし砂鉄とかも操れたとしてそれを纏めることが出来れば簡易的なナイフにもなるし砂で敵を拘束とかも出来るし身の危険を守りやすくなるでも逆に言えば砂がない場所じゃ不利だし水を砂にかけたら操れなくなるんじゃないか? だったら予備に少量の砂とか持ち運べば弱点とか補えるしもしそうだとしたら──」

 

 “個性”を見た瞬間めっちゃめちゃブツブツと独り言をいってる緑谷出久君。ちょっと怖いが、それよりも恐ろしいのは既に“個性”の特徴を踏まえて考察してらっしゃるところ。あれじゃん俺の本当の“個性”教えたらヤバいやん。砂を操っといてよかったぁ。

 

「取り敢えず戻ってこいよ出久君。んで、出久君の“個性”ってなに?」

「え……? えっと、その、僕は“無個性”なんです。他の人と違って“個性”がなくてそれなのにヒーローに憧れて、なりたいって、おかしいですよね……みんなにも“無個性”なのに無理だって笑われて」

「そうだねぇ……。確かに“個性”ねぇのは他の奴らより劣ってるってことだもんなぁ。でもさ──」

 

 なにも“個性”に縛られることはない。干渉とかいう意味分からん“個性”持ってる俺が言うのは違うかもしれないが……あくまでも“個性”は偶々ついてきたもので、必要なのは本人の意志。なりたいならなればいいし、やりたくなけりゃあやらなきゃいい。本人の自由を奪う原因が“個性”でそれをダシに嘲笑う奴らがいるなら……この社会をそのクソ野郎共を、泥船に乗りながら壊すしかないのだろう。

 

「関係ねぇだろ」

「え?」

「確かに“個性”ねぇのは“個性”を持ってる奴と戦うのは難しいだろうな。それでも憧れて、なるんだって決めて目指すなら投げ出すな。お前には相手を分析する事が出来る、その“個性”では何ができて何が出来ないか。弱点はなんなのか。それをさっき見ただけで瞬時に考えれただろ?」

「でもそれは」

「でもじゃねぇ。戦うことは出来ずとも味方に戦略を伝えることができる。もし君のそれが他の奴より優れているとするならそれは立派な“個性”だ。万人がそれは違うと言おうが俺はそれを“個性”って言い続けてやる。一人がお前に“個性”があるって言ってんだ。胸張ってそれ活かしてなっちまえよヒーローに」

「……」

 

 出久君は黙って下を向く。自分から敵を作るなんて弔っちに馬鹿とか阿呆とか殺すとか言われそうだけど関係ない。俺は出久君の自由を守りたいだけなのだ。

 

「と言ってもヒーローになるのも、それを決めるのもお前の自由だ。周りに言われたからとか自分は劣ってるからっつーくだらない事で諦めることやめろ。夢を見るのも目指すも素晴らしいじゃねぇか。いいか、俺は面倒くせぇ奴でな。人が何しようが俺は知ったこっちゃない。でもな、他の奴の自由を根こそぎ奪うような奴は俺は絶対に許さねぇ」

 

 自由は美徳なのだ。行き過ぎた自由は俺のような存在を生み出してしまうが、それでも全てを制限されて出来ないことが多いなんてのはおかしい話。

 

「だからお前を縛るクソ共を許さない。だが、それに縛られ続けるお前も許さない。他人に用意された選択に身を委ねんな。その選択を振り切ってやりてぇこと叫べ。縛られんならお前を縛ってるそれを強引に破れよ。もっとわがまま言って自由に生きろよ!」

 

 出久君の肩を少し振って顔を近づける、未だに下を向いたままの出久君の目を見るようし顔を少し下に下げて俺はニッと笑う。

 

「そうすればお前はヒーローになれるじゃんか」

「う……」

「う?」

「うわああああああ!」

 

 え? 出久君めっさ泣いてんだけど。なんかおかしいこと言ったかな俺?

 

「え? どしたどした!?」

「初めてヒーローになれるって言って貰えて、僕に“個性”があるって言ってくれて。それが嬉しくて」

「……そっか。ま、ヒーローになってまた会ったら最高の笑顔でヒーローになったぞって言ってくれよ。俺はこの後予定があるから失礼するわ」

「あ、はい! 励ましてくれてありがとうございます!」

「別に、俺は思ったこと言っただけだ。あ、お礼に会った時になんか奢ってくれてもいいよ?」

「アハハ。そうさせて貰います」

「おう、そんじゃな~」

「ありがとうございました!」

 

 公園から遠ざかり、スマホを取り出して電話を掛ける。電話を掛ける相手は弔っちだ。

 

「どうした、死んだのか?」

「いやいや、死んだら電話かけれないじゃん」

「なんの用だ?」

「あ~、それなんだけどね弔っち。朗報と悲報どっちが先がいい?」

「悲報」

「即答かい。まぁ、悲報だけど敵、一人作ちまったかもしれない。しかも直ぐに“個性”について瞬時に考察出来る奴」

「は?」

 

 スマホ越しから殺意に満ち溢れた声が聞こえる。まぁ、そりゃそうだよな。

 

「かっかすんなよ。んで朗報、そいつの考察が書いてあるノートを見せてもらった。ヒーローの“個性”とか弱点とか書いてある。殆ど全部覚えてきたから今後に役立つんじゃねぇの?」

「……っち。朗報がなかったら直ぐにでもお前壊してたよ」

「うわ怖。黒さんに伝えといて迎えに来て欲しいって。覚えてること全部お前等に伝えるからさ」

 

 口角を吊り上げて俺は笑った。

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