【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、説得される

 アスナは考えていた。アスナ自身はこの世界から出たいと思い、そしてその為に戦ってきた。だがアークはそんな自分と真逆の理由で強くなることを望み続けていた。明日には攻略が再開され、当然アスナもそれに参加するつもりである。が、アークの思いをそのままに攻略に参加する等アスナには絶対に出来なかった。彼女が戻りたいと思う様にするのは容易い事では無いが、それでもしなければいけないとアスナは決意を固める。例え踏み込んではいけない領域に足を踏み入れたとしても、彼女に真実を理解してもらう為に。

 

 現在アスナの目の前では嬉しそうに抱きしめるシリカと無表情で無抵抗に抱きしめられるアーク、そしてそんな彼女の頭に乗るピナという非常に微笑ましい光景が広がっていた。雰囲気も明るく、だが今から切り出す話はこの空気を変えてしまう。目を瞑って切り出そうか迷い続けていた時、その様子に気づいたアークが先にアスナへ話しかけた。

 

「アスナ……?」

 

「アスナさん、どうかしたんですか?」

 

「えっと……うん。アークちゃんの事、なんだけど」

 

「?」

 

 アークが声を掛けたことでシリカもアスナの悩む姿に気づき、話しかける。そこでアスナは意を決してアークを見ながら言えば、自分の事と言われてアークは首を傾げた。

 

「アークちゃんが帰りたくない理由。昨日それを聞いた時、思ったんだ。アークちゃんはもう、お姉さんの真意に気づいてる……そうだよね?」

 

「!」

 

「多分、最初は気づいて無かったんだと思う。だけどこの世界に来て1年半。アークちゃんはもう、気づいてる筈だよ」

 

 話をしながらアスナが思い出すのは現実での自分の境遇について話をしていた昨日のアーク。姉を庇い、だが最後には姉も離れてしまったと言う話をする中で最後の時、アークが見せた微かな表情をアスナは見逃さなかった。そしてその一瞬が、アークが既に気づいているとアスナに確信させた。何の話をしているのか分からないシリカは難しそうに首を傾げながらも雰囲気から邪魔をしない様に話を聞き続けてた。やがて、アークは目に見えてその瞳に『不安』を抱えながらアスナへ視線を合わせる。

 

「お姉ちゃんは……私を、助けようとしてくれた。……自分から遠ざけて、私を……」

 

 アークの言葉にアスナは大きな重りが無くなった様な感覚を得た。話を聞いていた時、何となくだがアークの話す姉の行動の意味をすぐに理解できたアスナ。幼かったアークはそれを拒絶と受け取り、半ば自暴自棄になってこの世界に逃げ込んだ。愚かに思えるだろうが、幼く傷ついた彼女にそれを理解する余裕は無かったのだろう。だがこの世界で肉体が成長しなくても、心は成長する。1年半と言う成長の中でアークは姉の言葉の意味を理解することになったのだ。

 

「私は……私は、お姉ちゃんの味方でいたかった! 皆が離れても、嫌われても、お姉ちゃんは悪くないから……なのに」

 

「アークちゃん……」

 

 今まで1人気づいた事で抱え続けていた思いを今、話す相手が居た事もあったのだろう。普段の姿からは想像出来ない様子と共に声を上げ、そのまま徐々に力無く落ちていく様子を前に見ていたシリカは掛ける言葉が思いつかずに唯その名前を呼ぶことしか出来なかった。だがアスナはそんなアークの傍に寄り添うと、肩に手を置いて優しく声を掛ける。

 

「一緒に帰ろう、アークちゃん。現実に帰って、お姉さんと話そうよ」

 

「話す……でも、何を話せば良い……?」

 

 アスナの言葉にゆっくりと顔を上げたアーク。だがその瞳に不安はまだ映っており、彼女の質問に答え様とするアスナより先にシリカが抱きしめていた手を少しだけ強くして声を上げた。

 

「アークちゃんが思った事、そのまま! あの、あたしは詳しい事分からないけど……でも本心を言われて嫌なお姉ちゃんは居ないと思うんだ。た、多分」

 

 最初は強かった口調も徐々に弱くなっていき、最後には自信の無い様子を見せながらシリカは告げる。そんな彼女の姿にアスナはシリカの言葉に微笑みながらもアークへ視線を向ける。今までずっと戻らないことを考え続けていたアークにとって、今までの考えを急に反転させる事は難しい事であった。しかし揺れているのも間違いなく、アスナは更に言葉を掛けようとする。だがそんな彼女の視界に突然届いたメッセージでそれは止められた。

 

「ちょ、ちょっと御免ね!」

 

 アークとシリカから離れてメッセージを確認するアスナ。差出人はキリトであり、血染めの襲撃者について上手く誤魔化せた事の報告であった。アスナは安心しながらキリトにお礼のメッセージを送り、振り返った。しかしそこに居たのはシリカだけでアークの姿は何処にも無かった。

 

「シリカちゃん。アークちゃんは?」

 

「その、1人になりたいって……あ、でも安心してください! またフレンド登録も出来ましたし、場所も分かりますから!」

 

 アスナの質問に少しだけ言い難そうにしながらも答えたシリカ。だがすぐにメニューを出してフレンドの画面を見せれば、その中にはしっかりと『Ark』という名前が存在していた。また消されてしまえば無意味だが、流石にそんな事はしないと信用する2人。そしてその思いは裏切られること無く、無事にアークはしばらくした後に宿屋へ帰ってくる。その後、アークは普段と変わらずに。しかし何処か晴れた様子を見せたため、2人が話を蒸し返す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。宿屋から外に出た3人は転移門の前で話をしていた。

 

「それじゃあ、シリカちゃん。アークちゃんの事、お願いね?」

 

「はい!」

 

「アークちゃんも、また夜に。ね?」

 

「ん……」

 

 攻略組として攻略に参加するアスナをアークとシリカは見送る。その途中、アスナの言葉にシリカは元気良く。アークは静かに頷いて答え、アスナはそのままその場から姿を消した。現在居る61層はシリカがまだ安全と判断出来ない場所であり、アークは笑顔で手を引くシリカに連れられて下へと向かう。現在シリカは43~45層で過ごしており、遥か前に行っていた2人で過ごす時間を前にワクワクを隠し切れないシリカ。ピナもシリカの頭の上でやる気を見せており、アークはそんな彼女達の姿を前に小さくため息を吐きながらも逃げる事無く共に過ごすのであった。


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