【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
今日の攻略組としての活動を終えた私は転移門へ直行した。今攻略している70層から離れて向かった先は61層。アークちゃんと再会した迷宮区もある巨大な湖に囲まれた街、セルムブルグ。私はこの街に自分の
家がある建物の扉の前に立って、中へ入る為に必要な僅か乍らの操作を手早く済ませた私はその場所から姿を消した。そして次に私の視界に見えたのは、他の何処にも無いだろう私が決めて配置した家具等が並ぶ家の中。真っ直ぐに進めばセルムブルグの広大な湖がベランダから見えるけど、私はそれよりも見たいものがあった為にベランダには目もくれずに奥へと向かった。聞こえて来る物音と漂ってくる良い匂いが彼女の存在を教えてくれる。
「お帰り」
「ただいま、アークちゃん」
キッチンに辿り着いた私の前に居たのは、エプロンを付けたアークちゃんの姿だった。彼女は私に気付くと手を止めて振り返りながら静かに迎えてくれて、私がそれに返せば頷いてから作業を再開する。そんな光景が私には凄く幸せな事だった。
ここは私の家。だけど私だけが住んでいる訳じゃない。あの日再会してアークちゃんの話を聞いた後、私は彼女と一緒に過ごせる場所を手に入れる決心をした。気になっていた家の購入を決めて、安心してアークちゃんと一緒に過ごせる場所を用意。この世界から一緒に出るって約束して、私はこの家から毎日攻略へ向かう。アークちゃんはもう攻略組を邪魔するつもりは無いみたいで、一緒に攻略に参加しようとするのを私は止めた。アークちゃんには危険な目に遭って欲しく無かったから。
「もう少しで出来る。寛いでて」
振り返らずに告げるアークちゃんの言葉に私は返事をして、椅子に座ってその姿を眺める事にした。アークちゃんは一緒に攻略出来ないって分かった後、こうして私の家で料理を作ってくれる様になった。データで出来た世界だけど、味覚が無い訳じゃない。料理スキルは私の方が高いけど、アークちゃん曰く『何もしないのは嫌』って事らしい。私が見つけた現実世界で食べられる調味料と似た味の作り方を聞いて勉強しているアークちゃんは、今頑張ってスキルレベルを上げているみたい。気にしなくて良いのに。
「? 何?」
「ううん、何でもないよ」
「……そう」
見ていた事で私の視線に気付いたのか、アークちゃんが今度は振り返りながら私に話しかける。だけど本当に理由は無かったから笑顔で返せば、少し黙った後に気にしない事にした様子。そう言えば、アークちゃんと再会してから1つだけ驚いた事がある。それは私が愛用しているレイピア、ランペントライトを作ってくれた親友だと思っている鍛冶屋のリズがアークちゃんの知り合いだったって事。アークちゃんを紹介した時、リズは凄い驚いていた。何でも子供だから印象的で、何時も武器をボロボロにして来る定連さんだったらしい。後、店の床に穴を開けた犯人とも言ってた気がする。もしリズにアークちゃんについて詳しく教えていたら、もっと早くに見つかったのかな?
「出来た」
アークちゃんが私の目の前にあるテーブルの上に置いたのは、見た目だけで言えばポテトサラダに鳥の唐揚げだった。だけどこの世界の料理は現実世界での料理とは全くの別物。例え見た目がそうだとしても、味がそうとは限らなかったりする。私は向かいに座るアークちゃんを待って、一緒に手を合わせた。そして最初に鳥の唐揚げに見えるそれに箸を伸ばして掴み、口の中へ。すると口一杯に広がったのは餃子の様な味だった。次にポテトサラダに見えるそれを食べれば、野菜炒めの様な味が。面白いのは間違い無いと思うけど、現実に戻った時に違和感を感じてしまいそうで不安になる。
「うん、今日も美味しいね」
「そう。……思いだした」
見た目と味の差異はあれど、美味しさは本物。だから私が感想を言えば、静かに頷きながら返してくれたアークちゃん。そして突然何かを思いだして立ち上がると、キッチンに立って軽く作業をした後に戻って来る。その手にはお皿があり、中には胡桃の様な物が入っていた。
「それは?」
「シリカが見つけた。食べてみて」
アークちゃんの言葉に私は言われた通り食べる為に手を伸ばす。堅さも胡桃みたいで、それを口に入れた瞬間。広がったのはさっぱりした甘さのまるで林檎の様な味だった。驚いてアークちゃんを見れば、アークちゃんもそれを食べていた。心なしか僅かに無表情が崩れた……そんな気がする。
「林檎、好きなの?」
「ん……」
もしかしてと思って聞いてみれば、次のを手に持ったまま頷いて肯定したアークちゃん。彼女の事をまた1つ知れた瞬間だった。今度、これを見つけたシリカちゃんにお礼を言わなくちゃ。基本的に毎日夕方近くまではシリカちゃんと一緒に過ごしているみたいだから、会おうと思えば何時でも会える。メッセージでも伝えられるけど、会えるならちゃんと会ってお礼を言いたい。多分だけど、シリカちゃんも必死なんだと思う。どうしてもアークちゃんに『お姉ちゃん』って言って欲しいみたいだから。
その後、作ってくれた料理を食べ終わった私はお風呂に入る為の準備をする。と言ってもメニューを開けば脱ぐ事も着る事も出来るから準備と言う準備は無い。だけど絶対に用意するべき事が1つだけある。それは片づけをしているアークちゃんが自由になれるまで入らないって事。理由は簡単、一緒に入るから。
「後で入る」
「大丈夫。待ってるから」
「……」
1日1回はこの会話を行っている気がする。確かに初めて出会った時に比べれば、データの身体でもちゃんとお風呂に入って身体を洗う様になったアークちゃん。だけど1人で入れるって私と一緒に入るのは拒もうとする。でも私にとってアークちゃんとのお風呂は1日の中に存在する楽しみの1つだから、譲れない。料理後の片づけだって大変な事じゃ無いし、数分で全部終わらせられる筈。私の言葉にジトっとした目になるアークちゃんだけど、私は笑顔で待ち続けた。
お風呂から上がった私はパジャマ姿のアークちゃんを前にその髪を梳かし乍ら時間を過ごしていた。お互いに少し大き目なサイズのベッドに座って、傍にはアークちゃんの前側が映る姿見もある。アークちゃんは今の様に髪を梳かしたりしている時、僅かに目を細めて気持ちよさそうな表情をする時がある。本人は気付いていない様子だから無意識だと思うけど、私はその姿が凄く愛らしくて毎日見たいとすら思った。だから姿見を買って、ベットの傍に自然と用意した。
「はい。お終い」
「ん……ありがとう」
名残惜しくはあるけれど、何時までも梳かしている訳にもいかない。今日1日分としてアークちゃんの姿を堪能した後、私は櫛を置いて終わらせる。細めていた目が元に戻って、姿見越しにお礼を言うアークちゃんに私の表情は自然と笑みを浮かべた。そして寝る準備をすれば、電気を消して私とアークちゃんは一緒のベッドに横になる。寝る為のベッドは1つしか無くて、その代わり少しだけ大きいサイズを購入した。アークちゃんは最初布団を敷けば良いって言ったけど、それじゃあ何の為に態々大きいサイズのベッド1つを購入したのか分からなくなってしまうから即座に却下。今では慣れたみたいで、一緒に寝る事を受け入れてくれている。
「おやすみ、アークちゃん」
「おやすみ」
腕の中にアークちゃんを感じ乍ら、私は目を閉じる。偶に不安になる時がある。それは目を覚ました時、今までの出来事が全て夢で嘘なんじゃ無いかって事。この世界に囚われた事が夢であれば、それは嬉しい事なのかもしれない。だけどそれはアークちゃんとの出会いも夢って事。他にもこの世界で出会ったシリカちゃんやリズ、キリト君との思い出も全部夢って事になってしまう。そんなの、絶対に嫌だった。
「ねぇ、アークちゃん。貴女は今、ここに居るよね?」
「……ん。居る」
気付けば口に出ていた質問にアークちゃんは不思議がる様子も無く、唯私の腕の中で頷いて答えてくれる。短い返答だけど、それだけで私が感じていた不安は何処かへ消え去っていた。そして代わりの様に来る眠気を感じて、私は眠ってしまう前に少しだけ腕の力を強めた。
「ありがとう」
その言葉を最後に、私は眠りに就いた。