【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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シリカ、少女と日常を過ごす

 47層。以前ピナが死んでしまった時、キリトさんに助けて貰って訪れたこの場所にあたしは再び足を踏み入れた。フラワーガーデンと呼ばれているこの場所ではずっと花が咲いていて、前と変わらない綺麗な光景に思わず魅入りそうになる。あたし以外にも当然プレイヤーの人達は数人いて、場所が場所だけにカップル何かも居る見たい。だけどそんな中で少しだけ浮いてしまっている人の姿を見つけた。深めのフードを被って殆どを隠してしまっているその人は、あたしが今日は待ち合わせにした相手。見つけると同時に走り出していたあたしの横を、更に早いスピードでピナが飛んで行く。そして彼女の背後に近づいた時、ピナに気付いた彼女はこっちに視線を向けた。

 

「アークちゃ~ん! ふぐっ!?」

 

「……」

 

 振り返ってすぐだから大丈夫だと思って両手を大きく広げ乍らアークちゃんを抱きしめようとしたあたしは、結局何も抱きしめられずに勢い余って地面に転がってしまう羽目に。見えないけれど、避けたアークちゃんはピナと戯れてるみたいで偶にピナの楽しそうな声が聞こえる。凄く、凄く羨ましい。アークちゃんはピナを凄い可愛がってくれて、それは確かに嬉しい。けどあたしには何時も冷たいから嫉妬もしてしまいそうになる。

 

「あ、アークちゃん……何で避けるの……」

 

「面倒」

 

 痛みを感じない筈だけど、少しだけズキズキと感じる気がする額を擦りながら立ち上がったあたしをジトっとした目で見て来るアークちゃん。フードを被ってるから全体的にその姿を見る事は出来ないけど、あたしはそのジト目に少しだけ……本当に少しだけ、良いと感じてしまう。最近、アークちゃんが見てくれるだけで少し嬉しく感じてしまっているかも知れない。やっぱりピナが羨ましい。

 

 あたしたちがここに来た理由はデートとかじゃ無い。それだったら良いなと思わなくも無いけど、今日の目的はここでレベルを上げる事。以前訪れた時は敵が強くてキリトさんに助けて貰ったりしながら戦っていたけど、今のあたしなら安全にここで戦う事が出来る。アークちゃんはあたしよりもずっとレベルも高くて強いけど、一緒に過ごせる安全な場所としてここが上がった時に嫌な顔1つしないで頷いてくれた。……余りアークちゃんの表情、変わらないけど。

 

「それじゃあ、出っぱ~つ!」

 

『きゅい♪』

 

「……」

 

 温度差を大きく感じ乍らも、あたしとピナは前に出る。アークちゃんもちゃんと一緒に着いて来てくれて、3人で圏外へと出た。当然モンスターが居て、中にはキリトさんの前で恥をかく羽目になった元凶の大きな巨大花みたいなモンスターも。! もしかしたらアークちゃんも以前の私みたいに捕まるかも! 足を掴まれて逆さ吊りにされるアークちゃん。それを颯爽と助けてお姫様抱っこで救出すれば……

 

『シリカ……ありがとう』

 

『良いんだよ、アークちゃん。貴女が無事なら』

 

『……お姉ちゃん、大好き』

 

「えへへ……ふぁ!?」

 

 想像の中でアークちゃんが私の身体に顔を埋めたところで、突然足に何かが絡んでそのまま持ちあげられる。頭が下になってスカートが地面に向いて落ちて、それは以前と全く同じ状況だった。大きな巨大花が口を開く様にその中央を開いて、歯の並ぶその恐ろしい表情にあたしは恐怖した。そしてゆっくりとそこに近づき始めるあたしの身体。

 

「……はぁ」

 

 一瞬だった。目の前に見えていた光景が綺麗な光を撒き散らしながら消滅して、あたしを吊るしていた蔦も消滅。一気に地面へ落下した事で少しだけHPを削りながらあたしは助かった。確認する必要なんて無い。助けてくれたのはアークちゃんだ。

 

「油断、し過ぎ」

 

「あ、あはは……ありがとう」

 

 ジト目で剣をしまうアークちゃんの姿に頭の後ろを掻きながら立ち上がると、ピナが心配した様子で近づいて来る。……忘れてた。アークちゃんはあたしよりもずっと強いって事。捕まったって自力で脱出出来るし、そもそも捕まる事も無いかも知れない。良い所を見せるどころか助けられちゃうなんて、大失敗だよ……。

 

 あたしとピナが1体のモンスターを倒す間にアークちゃんは3体倒してしまう。キリトさんの言うレベルの差を改めて感じ乍ら、あたしはその後も一緒にここで戦い続けた。徐々に明るかった空も暗くなって来て、綺麗な花を茜色の光が照らし始めた頃。あたしはアスナさんに言われた約束を思いだした。

 

『良い、シリカちゃん。アークちゃんはまだ小学生。夜更かしはするかも知れないけど、寝ない日なんて作っちゃいけないの』

 

 アスナさん曰く今まで一緒に居なかった日々の間、アークちゃんが規則正しい生活をしていた可能性は極めて低い、との事だった。あたしも人の事は言えないかも知れないけど、小学生でまだ身体が出来ていないアークちゃんに間違った生活のリズムは絶対に駄目。例え本当の身体じゃ無くても、朝と夜はしっかり守らなきゃ。だからあたしはアスナさんと約束した。必ず夕方の5時過ぎになったらアークちゃんを帰宅させると。

 

「アークちゃん、そろそろ帰ろ?」

 

「……」

 

「!」

 

 言葉にしてから気付く。夜が近くなり始めた頃に帰ろうとして、アークちゃんはあたしたちの前から姿を消した。あの時は何となく夜遅くなるのは不味いと思っただけで、今みたいに規則正しいなんて考えて無かった。だけどあの時、アークちゃんは強くなりたい思いがあった為に早く帰る事を嫌がって、姿を消した。何も言わずに振り向く姿を見て、あたしは不安に感じてしまう。あの時みたいに、また居なくなっちゃうんじゃ無いか……って。

 

 何も言わないアークちゃんの沈黙。あたしが少し怖く思いながらももう1度口を開き掛けた時、アークちゃんは静かに頷いて返した。それはあたしの言葉に対する答え。一瞬で胸の中があったかくなって、嬉しさの余りあたしはアークちゃんの手を握った。ピナもアークちゃんの頭に乗って、あたしはアスナさんの家に付くまでその手を離す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナさんとアークちゃんの住む家の前に着いたところであたしは繋いでいた手を離す。あたしも自分の家があれば、アークちゃんと一緒に過ごせるのかも知れない。だけどまだ気に入ったところも買うお金も無いから当分先の話になると思う。もし家を買えたら、まず最初にアークちゃんを招待するのだけは決まってるけど。

 

「お疲れ様、アークちゃん」

 

「お疲れ」

 

「また明日、迎えに来るね!」

 

『きゅい~!』

 

 普段あたしはアークちゃんをアスナさんの家まで迎えに来ている。今日待ち合わせにしたのは場所が場所だから雰囲気だけでも味わいたくて。……避けられたけど。とにかく! あたしはアークちゃんに言って大きく手を振りながらその場所を離れる。ピナも鳴きながら翼で器用に手を振っている様な仕草をして、一緒にその場所を離れた。この時、あたしは少なくともアークちゃんに嫌われてはいないと確信できる瞬間がある。一緒に居てくれる事もそうだけど、それより具体的な事。あたしたちの姿が見えなくなるまで、アークちゃんはずっと見送ってくれる。少しでも嫌いなら、きっとそんな事はしない。だからそれだけで凄く、嬉しかった。

 

「ピナ! 最近あたし、凄く楽しい!」

 

『きゅいっ!』

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