【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、死の恐怖を知る

 血盟騎士団がとある人物2人の行った決闘(デュエル)の結果で騒がしくなり始めた頃、アスナはその合間を縫って何とか自分の家へ帰宅する。既に空は暗くなっており、何時もなら暖かい光と美味しそうな匂いがアスナを出迎えていた。が、家の中に入ったアスナを迎えるのは薄暗い部屋の景色だけ。

 

「アークちゃん?」

 

 不安そうな表情で中に入るアスナはリビング等に居ない事を確認し、一番可能性の高かった寝室へ入り始める。リビング等と同様に薄暗い部屋の中で、アスナが探す彼女の姿はあった。両腕を抱えて自らを抱く様な体勢で横になり、時折震える姿が。そんな彼女の姿にアスナは苦しそうな表情を浮かべて近づき始める。

 

「アーク、ちゃん」

 

「……」

 

 ベッドの横からその顔を覗き込む様に座り、出来る限り優しくを意識してアスナは話し掛ける。だがその呼び声にアークが返事を返す事は無く、何処か怯えにも似た目を自分に向けるだけだった。すると突然アスナの元にメッセージが1通届き、その差出人がシリカだった事でアスナはそれを開封する。文字だけ故にその感情は伝わる筈も無いが、それでもアスナはその一文に悲しみが籠っている様に感じてしょうがなかった。

 

『アークちゃんの様子は、どうですか?』

 

 今のアークの姿はシリカもリズも知っている。普段なら何方かと一緒に行動するアークだが、シリカからその様な質問が来るとなれば彼女と行動はしなかったのだろう。そしてアスナはここに来る前、武器の修理を求めてリズベット武具店にも寄っていた。そしてその際、今日はアークと会っていないと伝えられていたアスナ。つまり今日1日、アークが家の中に籠っていたのは明白であった。

 

 アスナがふとアークの頭に手を伸ばせば、微かに怯えた様子で震えながらも逃げ様とはしない。それは少なからず心を許しているからであり、アスナはそれを感じて嬉しさと悲しさの間で複雑な心境だった。……アークがこの様になってしまった理由。それは彼女がこの世界で初めて人が死ぬ姿(・・・・・)を見たからである。

 

 つい先日の出来事だ。キリトと再びパーティーを組む事になったアスナは、アークの強さを知っている為に2人で守れば大丈夫と判断してアークもパーティーに入れる。出掛ける間に一悶着ありながらも無事に最前線の74層迷宮区に到着した3人は最奥のフロアボスが居る部屋を確認。少し覗いた結果、その恐ろしい形相に怯えて逃げる等した後にキリトの知り合いであるクラインと言う名の男性が率いるギルド【風林火山】と出会う。その後、続く様に【アインクラッド解放軍】と呼ばれる団体と出会った3人と風林火山の面々は彼らが無謀にもボスに挑む姿を目撃する事になる。……そして、無謀な戦い故の必然的な結末を目の当たりにした。

 

『……あ、ありえん……!』

 

「!」

 

 今の今まで誰かが消える瞬間を見て来なかったのは奇跡と言えるだろう。アークは自分の目の前で恐ろしい形相のまま消えていた男性の最後が忘れられなかった。頭では全て理解した気でいたが、改めて知ったのだ。この世界での死は現実での死に繋がる事を。

 

 アスナは塞ぎこんでしまったアークを何とかしてあげたかったが、何をすれば良いのか分からなかった。相談したリズには『気分転換になる様な事を出来れば良いんじゃない?』とアイデアを貰っているが、今アークを連れ出すのは難しい事だろう。全く同じ様にシリカも考えている筈だが、上手く行ってはいない様である。

 

「アークちゃん、お夕飯。作って来るね?」

 

「……」

 

「大丈夫。大丈夫だよ」

 

 夕食を作る為に立ち上がろうとしたアスナは、アークに裾を握られていた事で今一度座り直すとあやす様に語り掛けて手を離して貰う。そして夕食を作り始めたアスナは簡単に食べれる物を調理して再び寝室へ。状況の全く変わらない光景を前にアークの元へ近づき、優しくその身体を起こして作った暖かいスープを食べさせる。

 

「食べないと、元気出ないよ?」

 

「……」

 

「うん。良い子良い子」

 

 掬ったスープをアークの口元に近づけるが、すぐに彼女はそれを食べようとはしない。だがアスナが心配そうに告げれば、アークは小さく口を開いた。唯の一口だが、それだけでも嬉しかったアスナはアークの頭を撫でながらもう1度。不謹慎だが今の状況も悪くないと僅か乍ら思ったアスナはその調子でアークに夕食を食べさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠征訓練?」

 

 アスナはゴドフリーと言う名の男性から告げられた言葉に聞き返す。傍には決闘に負けて血盟騎士団に入った為に自分達と同じ様な白い服を着たキリトの姿もあり、頷くゴドフリーの姿にアスナは考え始める。ゴドフリー曰く、キリトを連れて55層に挑む遠征訓練を行いたい。との事であった。アスナは血盟騎士団の副団長な為、その人数に含まれている様子は無い。だが彼の話を聞いた時、アスナはリズのアイデアを試すのに丁度良い機会だと思った。

 

「ねぇ。それって私も行って良いかな?」

 

「なぬ!? ですが」

 

「連れて行きたい子が居るの。一緒じゃ無くても良い。後で合流する形で良いわ」

 

「……彼女か」

 

 キリトの問いに頷いて答えたアスナ。ゴドフリーは少し悩んだ末、「良いでしょう!」と了承する。そしてキリトは彼と共に遠征へ出発し始め、アスナは大急ぎで家に戻った。変わらぬ薄暗さの中を寝室へ直行して、アスナは横になるアークを起こす。眠っていた訳では無かった為、アークはアスナの帰還を認識していた。

 

「アークちゃん。一緒に外へ出よ? 何時までもここに居たら、駄目だよ」

 

「……」

 

 その言葉にアークが何かを答える事は無かった。だがその目は明らかな動揺を見せており、アスナは安心させる為かその身体を優しく抱きしめた。

 

「大丈夫。私が、守るから」

 

「!」

 

 動揺しながらもアークは弱々しくアスナの背中に手を回す。するとアスナは小さな声で「ありがとう」と告げてアークを抱いたまま立ち上がった。自分の半分くらいの高さしか無い身体は軽々と持ちあがり、アスナはリビングでその身体を降ろして立たせる。寝室から出ただけでも大きな1歩であり、アスナは身体をピッタリくっ付けて寄り添うアークの身体を片手で抱きながらメニューを開いた。そして家から姿を消した2人は遠征訓練に出たキリト達を追う様にゆっくりと歩みを進め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圏内にも綺麗な風景などは沢山あるだろう。だがその数で比較すれば圏外の方が多く、アスナとアークのレベルでは遠征訓練が行われている55層の敵など危険な内に入らなかった。だがそれでもモンスター達の攻撃はアークにとってまだ恐ろしく、彼女を怯えさせない為にアスナはモンスターが攻撃のモーションを取る前に撃破する。

 

「久しぶりの外は、どう?」

 

「……」

 

 武器をしまい乍ら質問するアスナにアークは何も答えようとはしない。しかし彼女の目は数日振りに外の世界を眺めており、間違い無く気分転換になってはいるとアスナは確信した。そしてそれを邪魔されない為に、アスナはアークが気付くよりも早くモンスターを撃破する様になる。

 

 やがて景色が渓谷に変わり始めた頃、アスナはメニューでキリト達が近くなり始めた事を確認する。現在彼はその場を動いておらず、休憩中か何かだと思ったアスナは今の内に合流する事を決意。アークの手を引いて歩みを続ける。……そこに恐ろしい光景が待っているとは知らずに。

 

「!? キリト君!」

 

 キリト達の存在を目視出来る様になった時、アスナの目に映ったのは1人の男性に攻撃される倒れたキリトの姿だった。その光景に気付いた瞬間、アスナは武器を手にソードスキルを発動して遠距離から男性を吹き飛ばし、キリトの元へ駆け寄り始める。アークも一緒に駆け寄り、アスナが心配する中で攻撃していた男性に視線を向けた。……その男性は数日前、アークが人の死ぬ姿を見た日に見た男だった。現在キリトは麻痺で動けない様であり、この状況を作り上げた人物は明白である。

 

「これはこれは副団長様に……ちっ、餓鬼も一緒か」

 

「貴方……!」

 

 74層を攻略する際にアークはキリトと共に忙しいアスナを待ち続け、現れたアスナを追って姿を見せた男。名をクラディールと言い、彼はアスナの付き人であると出会った際には告げた。そしてキリトへ嫌悪感を隠す様子も無く、アークには見下す様な様子で3人での攻略を認めなかった。だがその場はキリトがクラディールと決闘を行って勝利した事で収まり、付き人を解任された後はアークの知らない事であった。……が、今現在彼の頭上にはレッドプレイヤーを示すオレンジ色のアイコンが映っており、アスナはこの場にゴドフリーの姿が無い事に気付く。既に彼はクラディールの手に掛かり、死亡していた。

 

「!」

 

「ぐぁ!」

 

 その事実に気付いた時、アスナはクラディールへ攻撃を放つ。レッドプレイヤーを攻撃して殺害したとしても、攻撃した人物がレッドプレイヤーになる事は無い。現行犯の現状に弁解の余地は無く、アスナはクラディールを死亡しない範囲で攻撃し続けた。やがて死ぬ数歩手前までHPが削られた頃、怯えた様子でクラディールは土下座と共に命乞いをする。手に持った武器を構えながらもアスナがその姿に構えを解こうとした時、アークは彼の表情に気付いた。

 

『……あ、ありえん……!』

 

「甘いんだよぉ! 副団長さんはぁ!」

 

「!?」

 

 種類は全く違えど、その恐ろし気な形相はアークに数日前の出来事を思い起こさせた。その後前者は本人が死ぬ運命を辿ったが、今回は違う。命乞いをしていた相手が許された途端にその表情を浮かべた。それは何も懲りていない証拠であり、アスナが危ないと思うのは必然な事であった。消えて行った男性の様に、アスナが消えてしまうかも知れない。この世界で最初に出会い、初めて友達(フレンド)になった彼女が。……アークの身体は無意識に動いていた。

 

「あぁ?」

 

「アーク……ちゃん……?」

 

 クラディールが拾って振り下ろした剣の先に居た反応出来ないアスナの身体を体当たりする事で押し退け、その凶刃をアークの身体は受ける。右肩から左の太腿辺りまで大きな斬痕を残し、ゆっくりと後ろへ倒れる姿をアスナは呆然と見る事しか出来なかった。そして地面に音を立ててその身体が伏した時、剣を持ったクラディールは立ち上がる。

 

「邪魔すんなよ、クソ餓鬼」

 

「ぁ……あぁぁぁ……ああぁぁぁぁぁ!!」

 

 吐き捨てる様に告げる彼の言葉を聞いて、アスナは倒れるアークの姿を前に自分がついさっき言った言葉を思い出す。『大丈夫。私が、守るから』。そう言った筈なのに、今現在アークは斬られて倒れていた。それも自分を庇った為に。

 

「アークちゃん! アークちゃん! アークちゃん!」

 

「アスナぁ!」

 

「うるせぇんだよ。じゃあな、副団長さんよぉ!」

 

 アークの傍に駆け寄ったアスナはHPのゲージが見る見る減って行く彼女の姿を前に何度も名前を呼び続ける。だが何とか動ける様になったキリトは剣を再び振り上げているクラディールの姿に気付いた。急いでいけば間に合うかと走ろうとする中、容赦無くクラディールは刃を振り下ろす。……が、それがアスナの身体に当たる事は無かった。腰に差した武器を手に取った彼女自身がそれを防いだ故に。そしてクラディールはアスナの表情を見る。未だ嘗て見た事無い程に、彼女の顔は無表情()だった。しかしその無表情から唯一感じ取れるものがクラディールにはあった。明確な殺意だ。

 

「ま、待ってくれ、うぐぁ!」

 

「よくもアークちゃんを。貴方だけは……貴方だけは絶対に許さない!」

 

 剣を捨てて宥めようとするクラディールの身体に容赦の無い一撃が入り、彼のHPは真っ赤になる。もう2,3撃喰らえばそれは0になる事だろう。その事に恐怖したクラディールは武器を手に近づいて来るアスナの姿に距離を取ろうとする。だが後ろは壁であった。

 

「俺を殺すのか? 副団長さんに出来るのか? ひぃ!」

 

()るわ。貴方は……殺す」

 

 恐怖を感じ乍ら両手を突き出して聞いたクラディールは、その片手を貫かれた事で悲鳴を上げる。僅かにHPがまた減り、既に武器も何も無い彼に抵抗する手段は無い。命乞いも当然効く訳が無く、アスナは顔の横に武器を構えて突きの体勢に入る。もう既に彼女を止められる者は誰も居なかった。まるで何も感じなくなってしまったかの様に無表情のまま、無情にもアスナの手は勢いよく突き出される。ランベントライトの切っ先が目にも止まらぬスピードでクラディールの眉間を貫き、彼は余りにも哀れな顔を最後に消えて行くのだった。

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