【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
あの時、倒れる彼女を見て私の世界は何時かの様に灰色に染まって、全てが無価値に見えて仕方なかった。唯
『アスナ! アークはまだ生きてる!』
彼の声に振り返った私は灰色の世界で唯一色のある彼女の身体を見つけた。私が殺した彼の様にその身体が消える事無く残り続けていて、その瞬間世界はあの頃と同じ様に一瞬で色付き始めた。彼女は生きてくれた。生き長らえてくれた。残りの体力を僅かに残して、それでも私の前から消えないで居てくれた。急いで駆け寄って、万が一の事が無い様に急いで回復させて、私は彼女の身体を抱き上げた。もう、あんな場所に居たく無かったから。キリト君は私の気持ちを分かってくれて、私達は2人で血盟騎士団の本部に戻った。そこには当然血盟騎士団の仲間達が居て、クラディールとゴドフリーがフレンドリストから消えた事でキリト君に怒鳴り始める人も居た。
「待ちたまえ。……何があったか、話してもらえるかな?」
だけどそこに現れた団長が怒る人達を抑えて私達に聞いて来た。私の腕に居るアークちゃんも見て、何かがあったと察してくれた様子で。だから私達は説明した。あの場所で起きた出来事を。私は彼女に救われた事を。他の人達はどう思ってたか分からない。だけど冷静に考えればキリト君が2人に危害を加えてない事はすぐに分かる。だって、彼のアイコンは今も緑色だから。私も当事者の1人だから殆どの人が信じてくれて、ゴドフリーの死を悲しんでいた。クラディール? 知らない、そんな人。
「ごめんなさい。今日は、もう」
「あぁ、分かっている。キリト君、少し話がある。良いかな?」
私はすぐにでも
次の日、キリト君から連絡を貰ったらしいリズが私達の家を訪ねて来た。もうアークちゃんに危険は無い筈だけれど、あの出来事のせいで彼女は余計に怯えてしまっている。リズには「あんたも休みなさい。酷い顔よ」と言われて、鏡に映る私の顔は……良く分からなかった。自分が普段どんな顔をしてたかも、思い出せなかったから。
また次の日、キリト君が家に訪ねて来た。団長と話をして、しばらく私は攻略に出なくて良い事になったらしい。そしてアークちゃんの事も気に掛けてくれた彼は、危険の無い様な場所で別の家を買うのはどうか? と提案して来た。今度こそ平和でちゃんとした気分転換が出来る様な場所を、と。良い場所があるとも教えてくれて、最後にキリト君は自分も攻略から外れて私達を守ると告げた。最初は彼に迷惑を掛けるつもりは無くて、大丈夫だと断ったけど……今の私じゃモンスターが出て来ても上手く戦えないかもしれないと言われてしまった。そう、なのかも知れない。
もう今のアークちゃんを置いて何処かに行くのは嫌だった。だからキリト君に先導して貰って私は彼女と手を繋いで彼の言っていた家を見に行く事にした。22層の森にある小さな木造の家。大きな湖が見える今の家も良いけれど、その場所も確かに良さそうだった。彼女と一緒に過ごせるなら、何処でも良いかも知れないけれど。
必要な
「俺は適当に顔を出すよ。何かあったらすぐに連絡してくれ」
キリト君は私達の事を考えてくれたのか、そう言って同じ家で寝泊りする訳では無かった。改めて、キリト君には感謝してもし切れない。アークちゃんを見つける事が出来たのも彼のお蔭で、こうして私達の事を考えてくれる。今度、何か絶対にお礼をしようとアークちゃんに話し掛けたら彼女も頷いてくれた。私が思う様に、アークちゃんも彼には感謝しているみたい。
それから2日程して、アークちゃんは完全に元通り……とまでは行かないけれど、大分良くなって来た。でも一緒に街へ出かけた時、彼女は目に見えて
その翌日、私はキリト君と一緒に家の周辺を散策する事にした。前々から何があるのか詳しく知って置いた方が良いって話はしていて、アークちゃんの様子も大分戻って来たから良い機会だと思って。だけど特に特別なものは何も無くて、偶に小動物が居るくらい。とても平和な場所で、それでも圏外である為に完全な油断が出来る訳では無かった。もう少し良くなったら、アークちゃんと散歩しても良いかも知れない。そう思いながら家に帰った時、そこで私達は見知らぬ女の子と話すアークちゃんの姿を見る。
「お帰り」
「アークちゃん、その子は?」
「……知らない」
「ぉねぇ、ちゃん。この人、達……だれ?」
「怯え無くて、良い。私の……何だろう?」
説明しようとして首を傾げるアークちゃん。そこは、家族とか言って欲しかったなぁ。アークちゃんの話によると、ご飯を作っていて振り返ったらリビングの椅子に座っていたらしい。普通、人の家の中に勝手に入る事は出来ない筈。見た目からして年齢は二桁に達していない様に見えて、そんな子がどうして家の中に居たのかは分からない。キリト君は頭の上に私達と同じ様なカーソルが無い事が気になっている様子で、話し掛けようとしても彼女はアークちゃんの後ろに隠れてしまう。唯一聞き出せたのは、ユイと言う名前だけだった。
年端もいかない女の子を放り出す何て出来ない。それはキリト君も同じ思いだったみたいで、私達は彼女を歓迎した。食事時、アークちゃんとユイちゃんはピッタシくっ付いて居て、その姿が少し羨ましくも感じた私はアークちゃんの反対側にくっ付いて。そんな私達をキリト君は笑って眺めていた。アークちゃん、自分よりも小さな女の子と会ったのは初めてみたい。『お姉ちゃん』って呼ばれると少し嬉しそう。小さな声で『シリカの気持ち……分かった』って呟いてたのも聞いたから……シリカちゃん。もしかしたら今度、お願い聞いてくれるかも知れないよ。
たった1日だけど、ユイちゃんは私とキリト君にも懐いてくれた。唯私をママと、キリト君をパパと呼ぶのはちょっと複雑。私達、夫婦じゃないから。でも家族って感じがして、嫌って訳でも無い。その日はユイちゃんと一緒にアークちゃんを抱いて眠った。
翌日、キリト君がユイちゃんの家族を探したいと提案する。どんな方法で私達の家に入ってしまったかは分からないけど、もしかしたらこの世界の何処かに家族や知り合いが居るかも知れないって。ユイちゃんは何も覚えて無いみたいで、キリト君は最悪の可能性も視野に入れてるみたい。家族や知り合いが亡くなって、そのショックで……そんな可能性を。そう考えると、私も探してあげたいと思う。でもアークちゃんを連れて行くのは躊躇わずにはいられない。街に行けば、男の人が居る筈だから。
「1人で……平気。待ってる」
「お姉ちゃんは、行かないの?」
「ん……お姉ちゃんは、お留守番」
アークちゃんの言葉に私とキリト君は顔を見合わせて、結局2人でユイちゃんの家族を探しに行く事にした。念の為にしばらく連絡だけで会ってなかったシリカちゃんやリズに家の場所を伝えて、アークちゃんが大分良くなって来た事も伝えて置く。こうすれば多分、2人とも、或は何方かが家に来ると思う。あ、シリカちゃんから『すぐに行きます!』って返事が来た。アークちゃんに伝えて置かないと。
「お姉ちゃんに……アークさんに伝えてください。1日だけでしたが、とても楽しかったですと」
「そんな! ユイちゃん!」
「ユイ!」
私とキリト君の目の前でそう言って消え始めてしまうユイちゃん。彼女は全てを思い出して、私達に教えてくれた。自分がAIである事。この世界のメインシステム、【カーディナル】にサービス開始と同時に権限を封じられて閉じ込められていた事。徐々にバグを抱えて、外の世界を眺めている内に……アークちゃんの元に現れていた事。ユイちゃんは知りたかったらしい。アークちゃんと一緒に居る人達が笑顔になれる理由を。
「作られた心でも、とても温かくて穏やかな気持ちを感じられました。だから、ありがとう。と」
「違う! ユイちゃんの心は本物だよ! だから自分で言わなきゃ駄目だよ、ユイちゃん!」
「くそっ! 何でも思い通りになると思うなよ! カーディナル!」
貴女が消えたら、たった1日でも幸せに思えたあの時間は二度と戻って来ない。また、アークちゃんは塞ぎこんでしまうかも知れない。キリト君が消えて行くユイちゃんの姿を前に傍にあったコンソールで何かを始めて、私は彼女に手を伸ばした。だけどその手は掴む寸前で消えてしまって、やがて彼女は私達の前から居なくなってしまう。私は膝を突き嘆く事しか出来なくて、だけどキリト君は必死な形相で手を動かしていた。……そして彼は小さな雫を出現させる。確証はないけれど、私にはその中でユイちゃんが眠っている様に見えた。
キリト君はユイちゃんをアイテム化させる事で救ってくれた。だけど彼女が今すぐこの世界に戻ってくるのは不可能で、あの幸せな時間を取り戻せるのはずっと先との事。思わず涙が零れてしまう。ユイちゃんが無事だった事が嬉しくて。彼女は、消えて無い。
「ありがとう、キリト君」
彼は私の言葉に優しく笑った。あぁ、帰ったらアークちゃんにどう説明しよう。