【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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今話より後日談となります。タグの通り、今まで以上にキャラ崩壊注意です。


後日談【全3話】
少女、現実を生きる


 久遠が目を覚ましてから半年。彼女は2年以上動かしていなかった身体を動かせる様になるまで、毎日リハビリを続けた。2か月程で身体が違和感を感じ乍らも動かせる様になり、4か月程で自由に動ける様になって退院の許可も降りる。そして半年でもう完全に大丈夫だと言われた久遠は姉と共に喜びを分かち合った。

 

「久遠、そろそろお風呂に入りましょ?」

 

「また、一緒?」

 

「勿論。姉妹だから当たり前よ」

 

 目を覚ましてからの日々は久遠にとって辛い事の方が多かった。それは身体の事だけでなく、自分がSAOの中へ逃げ込む原因になった周囲の問題もあった故に。だが姉に自分の思いを告げた事が切っ掛けとなり、姉は周りからの冷たい言葉に見向きもしなくなった。決してそれは自らのした事に何も感じなくなった訳では無い。唯、妹を救ったと言う事実を受け止めると共に前へ進もうと決意したからである。

 

「私、もう……中学生」

 

「? そうね」

 

「お姉ちゃん……高校生」

 

「えぇ。……?」

 

 SAOで2年の時を過ごした久遠は小学校を卒業する年になっており、姉も中学の卒業を控えていた。リハビリの間久遠が学校に行ける訳も無く、姉である彼女も学校が終われば自分に何かを言う生徒達など無視して病院へ直行。そんな日々を過ごした後、義務教育故に卒業出来た2人は新しい学校へ通う事となった。そこで、久遠はSAOから生還した者達が通う専用の学校が創設される事を姉から知らされる。そして、それと同時に1つの提案をされた。『一緒にこの街を離れよう』と。

 

「普通、入らない」

 

「そんな事無いわ。お風呂に年齢なんて関係ないもの」

 

 冷たい目を向ける街から離れる良い機会であり、創設された学校へ通う為にも久遠はその提案に頷いた。姉は高校生になる為に出来る限り近い場所を選び、そして2人は共に新しい街で住み始めた。だが、2人の悩みの種である事件の話は例え街を離れても追い掛けて来る。姉の高校では既に彼女がした事が広まっており、中には心無い言葉を掛ける者も居た。が、大きな心の支えを持つ彼女は何を言われても折れる事等無かった。

 

「ほら、入りましょ?」

 

「……」

 

 自分がした事で妹と母親は救われた。今までその事実に気付けなかった彼女は久遠から本音を聞かされた事で、自分を責め続ける事を止めた。小さな感情の変化だが、その変化が齎した影響は大きく、彼女はトラウマと向き合う勇気を手に入れた。事件の際に使った銃が原因で指を使って形を作るだけでも震えてしまっていた彼女だが、今ではその形を見てもモデルガンを用意しても思い出しはすれど身体は震えない。それはトラウマを克服出来た証であった。

 

「髪、洗ってあげるわ」

 

「平気。自分で、洗う」

 

「じゃあ身体を私が洗ってあげる」

 

「自分で……洗う……!」

 

 新しい街の新しい家で、姉と向き合った妹と妹に勇気を貰った姉は今日も仲良く同じ時間を過ごし続ける。

 

「ふぅ……」

 

「ふふ、気持ち良い?」

 

「ん……でも、やっぱり狭い」

 

「2人で入るには確かに狭いわね。まぁ、でもこうして密着すれば良いだけの話よ」

 

 最近、姉による必要以上のスキンシップが悩みなのは久遠だけの秘密であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アークちゃ~ん!」

 

「!」

 

 学校へ到着した久遠を出迎えたのは見覚えのある少女の抱擁であった。ツインテールにしてある髪が喜び故かピョコピョコと動き続け、彼女は腕の中に入る久遠の身体を抱きしめて髪の毛に頬擦りまでする。突然の事にされるがままだった久遠だが、その身体を両手で押して何とか抱擁から脱出するとジト目で相手を見始める。

 

「……珪子……先輩」

 

「う~ん、ねぇ、アークちゃん。やっぱり『お姉ちゃん』って呼んで! 1回だけで良いから!」

 

「嫌」

 

「ねぇ、お願い! お願い!」

 

「またやってるのね、あんた達」

 

 両手を合わせて何度もお願いし続けるその姿は紛れも無いシリカであった。珪子というのは彼女の本名である。そしてお願いするその姿を前に断る久遠は既に学校内で見慣れたものであり、髪色は違えどリズベットと同じ姿の少女が久遠の頭に手を乗せる様にして背後から現れる。

 

「リズさん! おはようございます!」

 

「おはよう。……里香……先輩」

 

「おはよう、珪子。久遠。にしても、何度聞いても取って付けた様な先輩呼びね」

 

 リズベットこと里香は乗せていた手を動かして頭を強めに撫でながら告げると、久遠は2人から視線を逸らして明後日の方向へ向ける。SAOの世界では何も気にせずに呼び合っていたが、今現在の現実世界における立場は先輩後輩の関係であった。まだ中学1年生の年代である久遠は元々余り喋らない事も相まって、相手の事を先輩呼びするのに苦労している。今まで考えもしていなかった故に尚更だ。

 

「慣れない」

 

「お姉ちゃんって呼んでくれれば簡単だよ?」

 

いや(・・)

 

「諦めなさい。もう久遠には姉が居るんだから。っと。そろそろ厄介なのが来るわよ」

 

「……」

 

 珪子の言葉に同じ言葉ながら強い意志を込めて答えた久遠の姿を見て里香が告げた時、微かに聞こえる足音と共に3人は同じ方向へ視線を向ける。その足音の間は短く、走っていると気付くのに時間は掛からない。徐々に遠くから見える様になり始めるのは、長い茶髪を揺らす同じ制服を着た少女。そして彼女の隣を何とも言えない表情で並走する少年の姿だった。やがて少女と久遠が目を合わせた時、校内にまで響き渡りそうな声が少女から発せられる。

 

「くーおーんーちゃーん!!」

 

 猛スピードで近づいて来た少女は久遠の元へ辿り着くと、その身体を轢く様に抱き締めて勢いを殺しながらも珪子と里香から僅かに距離を作る。彼女を追い掛けて来た少年……キリトこと和人は少し疲れた様子で珪子と里香に挨拶すると、久遠を抱いたままモゾモゾする少女の背に視線を向けた。

 

「はぁ~、3日ぶりの久遠ちゃん!」

 

「明日奈……苦しい」

 

 自分よりも遥かに小さい久遠の身体を抱きしめる少女……明日奈。珪子とも差がある久遠の身長で明日奈に抱きしめられてしまえば、その足は宙に浮いてしまう。当然苦しむ事になり、だが明日奈はそれを聞いても久遠の身体を離そうとはしなかった。実は昨日、一昨日と休日だった為にこの場に居る面々は2日間誰とも現実では合っていなかったのだ。それは明日奈にとって大きな問題であり、既に慣れた光景だった故に他の3人はそれぞれ首を横に振りながら見守る事しか出来なかった。

 

「何時見ても休み明けのアスナさんは凄いですね」

 

「もう病気の一種何じゃないの? 久遠症候群ってところね」

 

「否定し切れないのが怖いんだよな」

 

 里香の言葉を聞いて和人が思い出すのは数か月前の出来事。SAOがクリアされて現実に戻って来る人々が居る中、明日奈を初めとした数百人が目覚めないという事件があった。久遠や珪子達は話に聞いただけ故にその事件に関わっていないが、明日奈を始めとした人々はとある人物によって囚われの身になっていたと、後に解決した和人や救われた明日奈本人は語る。そしてその際、和人は囚われていた明日奈の姿を当然目撃していた。

 

『アークちゃんアークちゃんアークちゃんアークちゃんアークちゃん…………』

 

 淡々と同じ名前を呼び続けるアスナの姿は余りにも恐ろしいものだったと後に和人は語る。余りの恐怖に彼女を捕らえた張本人も手が出せなかったとの事。無事に目が覚めた時、アスナは弱る姿で『アークちゃんに会いたい』と告げ、和人は現実世界の久遠を探し出した。因みに明日奈と久遠の再会には久遠の姉も同席している。故にもう既に明日奈と久遠の姉は顔見知りである。……仲は良好と言い難いが。

 

「久遠ちゃん、まだ詩乃さんは許してくれない? 私、遊びに行きたいよ」

 

「駄目、だって」

 

『この家は私と久遠の愛の巣なんだから、誰かを部屋に入れるなんて絶対に駄目よ』

 

「じゃあじゃあ、久遠ちゃんが泊まりに来るのは? それも駄目なの?」

 

「ん……同じ」

 

『私から久遠を取り上げようなんて、認めないわよ。一昨日来なさい』

 

 詩乃、とは久遠の姉の名前である。明日奈は何時か休日に久遠の家に遊びに行くか久遠を家に招く事を計画していた。だがそれは尽く拒否され続けているのだ。久遠の保護者代わりと言っても良い存在が相手故に、明日奈も強引な手段には出られない。何よりも久遠がSAOに入った原因であると共に、一緒に居たかった存在である事を知っている為に引き剥がす選択肢は明日奈の中に無かった。

 

 久遠と手を繋いで校舎へ歩き始めれば、後ろにいた3人も慌てて後を追い掛ける様に校舎へ入る。一時足りとも離さないとばかりにその手を繋いだまま、明日奈は正常な思考になった頭で考え始める。……その後明日奈や和人が入る教室に到着するも、久遠は違う教室故に明日奈が駄々を捏ねるのは何時もの事であった。

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