【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
少女、姉に修学旅行へ行く様に告げる
それはアークがALOの家で過ごしていた時の事。膝の上に小さなユイを乗せて一緒に寛ぐ姿にリーファが悶えるのを尻目に、アスナはふと思い付いた事を質問した。それはどうにかしてアークと、久遠とお泊り会をしたい彼女が思い付いた小さな希望。
「ねぇアークちゃん。思ったんだけど、お姉さんは修学旅行とか無いの?」
「? ……知らない」
アスナの質問に少し明後日の方向へ視線を向けた後、目を合わせてから首を横に振って答えたアーク。まだ姉であるシノンはINしておらず、アークは彼女がやって来たら聞いてみる事を決意する。そしてしばらくの時間が経った頃、4人の目の前にシノンが姿を見せた。
「お姉ちゃん……お帰り」
「ただいま。今居るのはアスナとリーファ。それにユイちゃんね」
「こんにちは、シノンさん!」
彼女の登場に迎えるアークと手を振るアスナ。そしてリーファが話し掛ければ、アークとアスナはお互いに目を合わせてから頷き合った。そして何を言うでも無くアークはシノンに向けて指を差し、続けて対面に位置する椅子へ指を差す。一瞬首を傾げたシノンだが、すぐに『そこに座って』と意を汲み取れた事で彼女は対面の椅子へ。
「お姉ちゃん……修学旅行、ある?」
「っ!…………無いわ」
「嘘」
「一瞬で分かっちゃうんだ」
アークの質問に僅か乍ら肩を反応させ、答えたシノン。だが疑う間もなくそれが嘘だと断言するアークの姿にリーファは感心した。その場に居るシノン以外の全員がアークの嘘と見抜いた内容を信じ、一瞬で気付かれてしまったシノンは僅かながら額に汗を流し始める。
「答えて」
「……あるわ。来月。でも安心しなさい。行かないから」
「何で……?」
「そんなの、アークを1人にして行ける訳無いじゃない」
冷たい視線での言葉に到頭自白したシノン。だが続けられた言葉にアークは首を傾げ、更に続いた言葉に……アスナの眼元がキラリと光る。そしてそれに気付いたシノンがアスナの喋る前に口を開こうとするが、そんな2人よりも先に口を開いたのはアークだった。
「私は平気……だから」
「っ! 駄目よ。修学旅行は1泊2日。そんなに長く家を離れられないわ」
「1日だけ……大丈夫」
何処か強い意志が含まれた様にも感じるアークの言葉に一瞬動揺しながらも答えたシノン。しかし再び告げるアークの声は何処か弱々しかった。様子がおかしい。その場に居る全員が気付く中、唯一その理由に気付く事が出来たユイが顔を上げる。
「お姉ちゃん……シノンさんに修学旅行へ行って欲しいんですね」
「……ん」
「私に……? ま、まさか私と一緒に居たくないって言うんじゃ……!?」
「違う」
「じゃあ何で! っ! アスナ?」
「ちょっと御免ね、アークちゃん。お姉さん、借りるね」
焦るシノンがアークへ詰め寄ろうとする中、ユイ同様にアークがどうしてそこまでシノンに修学旅行へ行かせたいのかを気付いた事でアスナはシノンの手を引いて違う部屋へ移動する。そして妹に嫌われたかも知れないと焦り恐怖するシノンへアスナは告げた。
「アークちゃん、シノのんに修学旅行へ行って欲しいんだと思う。他ならないシノのんの為に」
「私の、為……?」
訳が分からないと顔を上げるシノンに頷き、アスナは気付いた事を告げる。……それはアークが今後、『修学旅行へ行ける機会が殆ど無い』と言う事実だった。もしもSAOに逃げ込む事が無ければ、小学校の6年生では修学旅行があった筈。だがそれは当然事件もあって不参加となり、今ではSAO生還者の集められた学校に居る為、今後修学旅行の様な行事をアスナ達は知らなかった。
「修学旅行は不安だけど、楽しみでもあると思う。だけどアークちゃんは色々あってもうそんな機会が無いから……今行けるシノのんが自分を理由にそれを諦める事はして欲しくないんだよ」
もしもアークがSAOに逃げ込まなければ、小学校での修学旅行に参加する事が出来たかも知れない。問題を抱えていた為、必ずしもそれが良い思い出になったとは言えないが、それでも2度と修学旅行へ行けるチャンスが無くなったアークからすれば、そのチャンスを自分のせいで姉に逃して欲しくないと思っても不思議では無かった。詩乃もまた、現在の高校で人間関係が良好とは言えない。……だがアスナの言葉を聞いて彼女は弱々しくも何処か決意を込めた様に溜息をついた。
「仕方無いわね」
そう呟いてアスナの元から離れ、アーク達の居る部屋に戻ったシノン。気付けばアークの隣にリーファが座っており、彼女はアークの頭を撫でて笑みを浮かべていた。そして撫でられるアークは心地良さそうに僅か乍ら目を細め、膝に居るユイの頭を撫でる。ユイの表情もアーク同様であり、何とも和やかな光景がそこにはあった。が、シノンが来た事でアークは手を止める。リーファも気付き、ユイもアークの手が止まった事でシノンが戻って来た事に気付いた。
「行くわ、修学旅行」
「! ……ん」
「その代わり、定期的に連絡するから必ず出なさい。他にも……」
シノンの言葉に驚いた様子で目を見開いたアークだが、すぐに無表情に戻って頷いた。するとシノンは修学旅行へ行く条件として様々な内容を語り始める。最初はそれに頷いていたアークも徐々にジト目になる中、こうしてシノンの修学旅行が決定した。
「それじゃあ、シノのんが居ない日は私がアークちゃんと一緒に居てあげるね?」
「絶対、アスナと2人っきりになっちゃ駄目よ」
アスナの言葉にシノンがアークへ釘を刺す。……そんな中、2人の会話を聞いていたリーファは何かを企む様に目を細めた。
数日後。アークとシノンが居ないALOの家で、複数人の女子と1人の男子が集まっていた。居るのはアスナ・シリカ・リズベット・リーファ・キリトの5人とアスナの肩に座るユイの計6人。全員が1つのテーブルを囲む様に座る中、業とらしく咳払いをしたリーファが立ち上がる。
「それでは! 詩乃さんの修学旅行中、久遠ちゃんを誰の家に泊めるのか決める会議を始めます!」
そう。これは詩乃が修学旅行へ行くと決まった事で決めなければいけない事を決める会議をする為に集まった面々である。と言ってもリーファの言葉に分かり易く反応を示したのはアスナとシリカのみ。リズベットはやれやれと言った様子で首を横に振り、キリトは様子を見守るだけ。ユイも現実世界での話故に参加出来る訳が無く、実質この戦いは3人で争われる内容である。
「まずは立候補者から。……久遠ちゃんと一緒に過ごしたい人!」
≪はい!≫
リーファの言葉に手を上げたのは誰もが予想した通り、アスナとシリカ。そして喋るリーファ本人であった。だがそこでアスナが不思議そうにリズベットへ声を掛ける。
「リズは良いの?」
「いや、私は別に……」
「リズさん! これはチャンスなんですよ!」
「そうですよ! 想像してみてください……久遠ちゃんを抱きしめて眠れる時間を……」
リーファに続くシリカの言葉にその場に居る全員が一斉に想像する。小さな姿のユイを除いてこの場に居る誰よりも現実世界で幼く小さな女の子。SAOの頃から癒し効果があるとされており、それは現実世界でも変わらない。故にそんな彼女と一緒に眠る事が出来れば……安眠間違い無しの疲れも吹っ飛ぶ事請け合いである。因みに効果には個人差がある。
「……悪くないわね」
「でしょ?」
「でも場所はどうするのよ? 久遠の家にでも行く訳?」
「私はどっちでも良いかな」
「あたしは久遠ちゃんの家に泊まります!」
「お兄ちゃん、家は呼んでも大丈夫かな?」
「まぁ、大丈夫じゃないか?」
「お姉ちゃんとお泊り……羨ましいです」
アスナは何方でも。シリカは久遠の家に。リーファは自宅に招待するつもりの様で、リズベットはそれを聞いて自分は泊まりに行く側かも知れないと結論付ける。が、問題はまだ他にもあった。
「なぁ、そもそも久遠は誰かの家に泊まったり誰かを家に泊める気があるのか?」
「そこは大丈夫。今まで私がお泊り会をしたいって言い続けて来たから、いざ出来るとなってちょっと楽しみにしてるみたい」
「久遠ちゃんの意思は問題無し。後は私達の誰かって事なんだよ」
「確か修学旅行は来月なんですよね? 皆さん、用事は無いんですか?」
シリカの質問に久遠と過ごそうとしている全員が頷いて答えた。となればやはり後は『誰が久遠と一緒に過ごすか』が問題となる。
「いっそ、何処かに全員で集まれば良いんじゃないか?」
≪……≫
「あ、あんた達……まさか変な事考えてたんじゃないでしょうね!」
キリトの尤もな意見に黙り込んだアスナ・シリカ・リーファの3人。明らかに誰かが居ては不都合な事がある様子を見せており、それに気付いたリズベットは頭を抱える。最初は一緒に寝て癒し効果、等と話していたアスナ達の本音が僅かに見えた瞬間であった。
誰かと2人きりにしてはいけない。それに気付いたリズベットはリーファから主導権を奪う様な形で話を進め始める。そして最終的に決まったのは、普段キリトとリーファしか殆ど居ない桐ヶ谷家に全員で集まる事。リーファが母親に必ず許可を取ると意気込み、キリトはまだ遠いその日に唯一の男子故に肩身の狭い思いをする事になりそうだと察して重々し気に溜息をつくのだった。