【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、桐ヶ谷家で皆と過ごす

 普段VRMMOで遊ぶ事が殆どの久遠達にはトランプで遊ぶ事自体が殆ど無かった。それ故か、思った以上に楽しむ事の出来た面々。ならこれは? と花札を始め他のアナログゲームを用意し始め、気付けば全員は夢中で遊び続けていた。……気付けば空も茜色に染まり、そろそろ夕食の準備を始めるべき時間。久遠は手に持ったカードを伏せたまま出して相対する相手を見回す。

 

「プレゼント……いる? いらない?」

 

「アークちゃんからなら何でも欲しい!」

 

「私も欲しいな」

 

「うんうん!」

 

「……全く、分かり易いわね」

 

「ははっ……だな」

 

 理不尽に敗北や勝者の決まるカードゲーム。久遠から質問された事に生き残っていた珪子、明日奈、直葉の3人全員が『いる』を選択すれば、久遠は微かに笑みを浮かべてカードを表にした。そして告げる。

 

「『いる』を選んだ人は……敗北」

 

 その瞬間、久遠の勝利が決まる。3人が負けた事でカードをテーブルに置いて悔しがり乍らも何処か楽しそうにする中、久遠は里香がカードを纏める姿を見てから外の景色に気付いた。

 

「夕飯……作る」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「わ、私もやります!」

 

「和人と直葉は寛いでなさい。流石に5、6人もキッチンに居たらお互い邪魔になりそうだし。一応、お世話になるんだから」

 

「そんな事言ったら俺達にとって皆はお客なんだけどな」

 

「まぁ、でもお言葉に甘えます。あ、見てても良いですか?」

 

「……好きにしなさい。唯、邪魔になるんじゃないわよ」

 

 久遠の一言から予め借りる事を話し合っていた桐ヶ谷家のキッチンへ向かう3人。そんな彼女達を追う前に里香が和人達へ告げれば、直葉から返って来た言葉にその目を僅かに細めながら返した。現実では数える程しか会っていない直葉だが、ALOの世界ではもう何度も会って一緒に時間を過ごしている。故に彼女の好きなものを理解出来ていた里香。ある意味当然の反応であった。

 

 自分の住む家で4人の少女が料理を作る。そんな早々お目に掛かる事の無い現状に和人はクラスメイトに知られたら命が危なくなりそうだと思いながら、徐々に鼻息を荒くしてキッチンを覗き込む直葉の姿を見つめる。

 

「久遠ちゃん、やっぱり手慣れてるね」

 

「家では交代で料理する……大丈夫」

 

「包丁を翳しながら言うんじゃないわよ! 危ないでしょうが!」

 

「うぅ……アークちゃんの方が料理出来る。こんなんじゃお姉ちゃんって呼んで貰えないよ……」

 

「我が家のキッチンでまさか美少女たちのキャッキャウフフが見れるなんて……!」

 

 少々後半にアクの強さを感じて思わず頭を抑えた和人。それから1時間近く、キッチンは賑わい続けた。直葉もずっと眺め続け、そうして無事に完成した夕食は6人分でお泊り会と言う事もあって中々に豪華な物だった。和人と直葉は普段1人か互いに一緒に食べる事が殆どで、3人以上で食卓を囲む事が余り無い。それ故か物静かな久遠を中心に周りで騒ぐ珪子や明日奈の声は何処か慣れなくて……だが決して不快には感じなかった。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

「?」

 

「また、出来ると良いね。お泊り会」

 

「……あぁ。そうだな」

 

 静かに料理を食べる久遠。その左右で久遠へ頻りに話し掛ける明日奈と珪子。稀に暴走する2人を止める里香。学校では見慣れた光景でも、家で見ればやはり別物。和人はそんな光景を眺め、直葉の言葉に優しい笑みを浮かべて頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風呂が沸いたみたいだな」

 

≪!≫

 

 一斉に夕食の片づけを短時間で終わらせ、その間にお風呂に入る順番を決めた6人は再びリビングでカードを手に遊んでいた。だが和人の一言で目を光らせた何時もの3人。何も言わずに3人の間で無言の会話が交わされ、突然手を振り上げると……掛け声を始める。

 

≪最初はグー! じゃんけんポン!≫

 

 出された手は全員が同じ物。故に再び繰り返される中、久遠は目の前の光景に首を傾げて和人と里香へ視線を向ける。前者は苦笑いを浮かべ、後者は溜息をつきながら状況が理解出来ていない久遠へ告げた。

 

「多分、あんたと一緒に誰が入るか決めてるのよ」

 

「……」

 

 里香の言葉で一気に久遠の視線が冷める中、久遠と一緒にお風呂へ入る人物を決めるじゃんけんは決着していた。勝者は明日奈であり、珪子と直葉が肩を落とす目の前で喜びを露わにする彼女へ……久遠は静かに近づいて、告げた。

 

「1人で入る」

 

「へ!? で、でもせっかくのお泊り会だし……それに1人ずつだと時間も掛かるよ?」

 

 確かに1人ずつ入るとなればかなり時間が掛かる為、明日奈の言葉も尤もである。だが久遠は出来る事なら1人で入りたかった。決して3人が嫌いな訳では無い。唯、普段から1人で入る事が出来ない為に今日この時が1人でゆっくり入る事の出来る数少ないチャンスだったのだ。それを逃す訳には行かなかった。故に久遠は少し考えた後、直葉の元へ。

 

「……1人は、駄目?」

 

「ううん! 全然良いと思うよ!」

 

「直葉ちゃん!?」

 

 家主の1人である直葉の許可を得た久遠。振り返って決まったとばかりに明日奈へ視線を送る中、焦った様子で明日奈は口を開いた。

 

「恥ずかしがらなくても良いんだよ? ゲームの中じゃ何度も一緒に」

 

「何時も一緒……だから今日は1人。問題無い」

 

「っ! で、でも……! そうだね、分かった」

 

「?」

 

 少々墓穴を掘った明日奈だが、彼女は一瞬何かを閃いた様に顔を上げて久遠の言葉に納得した様子を見せ始めた。当然違和感を感じた久遠だが、明日奈が本当に納得したと思った彼女は1番最初に入る事になっていた故に荷物を手にリビングを後にしようとする。が、そんな久遠へ里香が声を掛ける。

 

「ちょっと久遠。こっちに来なさい」

 

「?」

 

「よく聞きなさい。………………分かった? 安全に入りたいなら、それくらい我慢するのよ」

 

「……分かった」

 

 何かを耳打ちで久遠へ告げた里香。その内容に久遠は僅かに目を閉じて思考した後、頷いた。そしてその足は真っ直ぐに珪子の元へ。

 

「何を言ったんだ?」

 

「見てれば分かるわ。明らかに明日奈は何か企んでるし、警戒するに越した事は無いのよ」

 

 気になった和人が里香へ質問すれば、返ってきた言葉と彼女が向ける視線の先を見て和人は事の成り行きを見守る。

 

「アークちゃん?」

 

「……はぁ…………珪子、お姉ちゃん(・・・・・)

 

「!?」

 

「お風呂の間……守って」

 

「……ぉねぇ……ちゃん……い、今アークちゃんがあたしをお姉ちゃんって……! 任せて! 絶対にあたしがアークちゃんのお風呂の時間は守ってあげる! だからもう1回! もう1回だけお姉ちゃんって呼んで!」

 

「……珪子お姉ちゃん、お願い」

 

 途轍もなくテンションの上がる珪子の姿に里香が静かに「効果覿面ね」と呟く中、喜びの舞すら始めそうな珪子をそのままに久遠はリビングを後にする。そして残された珪子は久遠の出て行った浴室へ行く為に必ず通る扉の前で立ち塞がった。

 

「ここは誰も通しません!」

 

「……そんな……」

 

 妹絶対守るウーマン(お姉ちゃん)と化して強くなった珪子を越えるのはかなり難しいと誰もが分かる。故に明日奈は目の前で扉を守る彼女を見て、元凶であろう里香を恨めし気に見つめ始めた。が、里香は「諦めなさい」と告げるのみ。……普段から明日奈と珪子に引っ付かれ、ALOで一緒に過ごした経験上、姉である詩乃にも家では引っ付かれていると察していた里香。これは彼女なりの普段自由が無さそうな久遠へ贈る優しさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行先で順番にお風呂を済ませた詩乃はその日泊まる部屋で携帯を見つめていた。部屋は相部屋であり、一緒に居る人物も決して仲が悪い訳では無い。だが良いとも言えず、殆どが互いに不干渉であった。故にジッと携帯を見つめる詩乃の姿は少々不気味であり、だが相部屋の少女がそれを言う事は無い。

 

「っ! 来た!」

 

 突然の通知音。相部屋の少女は詩乃が誰かからの返事か何かのお知らせを待って居たと理解する。そして何度か画面を操作していた詩乃は……突然顔を上げて少女と目を合わせた。

 

「少し、良いかしら?」

 

「へ? あ、うん。どうしたの?」

 

「私と一緒に今から撮る写真に写って欲しいの。妹に送りたいから」

 

「妹さんに? うん、別に良いよ」

 

「ありがとう」

 

 不気味な姿が妹と関係する内容だと知り、少女は一気に詩乃を優しいお姉さんなのだと思う様になる。そして彼女のお願いを聞いて一緒にツーショットの写真を撮影。「助かったわ」と告げて再び離れた詩乃の姿に今度は先程と同じ姿だが、もう不気味と思う事は無くなった。

 

 詩乃は久遠へツーショットの写真を送信する。そして同時に今何をしているのかを教えて欲しいとも送った。すると返って来たのは1枚の写真。それを見た瞬間、詩乃の表情は歪んだ。今度は見る者が怖がる様な表情では無く、その顔を見た誰もがこう思うだろう。『何か厭らしい想像をしている』と。……送られて来たのは、現在入浴中である久遠の自撮り。湯に浸かって少し離れた距離から浴槽へ平行になる様に撮られている為、写っているのは露出された鎖骨や肩より上だけである。

 

「あぁ、久遠……ぅぇへへ……」

 

「あ、朝田さん……?」

 

 トリップしてしまった詩乃の耳に少女の声は届かない。その後、写真を見ては厭らしく笑う詩乃の姿に少女はまた別の意味で怯える事になるのだった。

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