【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、お泊り会を終える【終】

 久遠は珪子の守りもあって無事に1人でお風呂を満喫する事が出来た。彼女が出て来れば次に決まっていた者が入り、やがて全員が入浴を終えれば残るは就寝のみ。だが、当然すぐに眠る気などこの場に居る全員が無かった。唯一の男子である和人は入浴を終えたら自室へと戻ってしまい、物を退かしてリビングに5つ敷かれた布団の上に5人は座る。

 

「それじゃあ、何しますか? 枕投げでもしますか?」

 

「いや、流石に色々あるからぶつかったら不味いんじゃないの?」

 

「そうですね。出来ればしないで貰えると……後でお母さんに怒られちゃうので」

 

 枕を手に質問する珪子。だが周りを見渡しながら里香が言えば、直葉は頬を掻いて頷きながら続けた。少し残念そうに枕を降ろした珪子は、何かしたい事は無いかと久遠へ質問しようとする。だが、彼女は声を掛けようとしてそれを止めた。

 

「……」

 

「久遠ちゃん、眠そうだね」

 

 目を開こうとしては徐々に閉じながら船を漕ぐ久遠の姿に明日奈はゆっくり近づくと、彼女を5つ敷かれた布団の中央へ横にさせた。抵抗も無く寝かされるその姿に全員が大きな声を出さない様にし乍ら眺め、やがて横になった事で久遠は完全に寝付いてしまう。……余り表情では分からないが、久遠もお泊り会を心底楽しみにしていた。家に来てからVRMMOとは違う遊びを只管続け、料理を皆で作って、普段は味わえない時間を過ごした彼女は本人も知らぬ内に疲労を溜めていたのだろう。

 

「可愛ぃ~!」

 

「そうだね。本当に、可愛い……」

 

「頬、突いても大丈夫ですかね?」

 

「止めなさいよ。……どうする? 肝心の久遠が寝たんだから、私達も寝る?」

 

 全員でのお泊り会。主催は違えど、ある意味彼女達にとっての主役は久遠だった。その彼女が眠ってしまった以上、騒ぐ訳にも行かない。里香の言葉に3人は顔を合わせると、頷き合って眠る事にする。……が、ここで問題が発生する。久遠の寝ている場所は中央の布団。明日奈、珪子、直葉の3人がその左右に寝ようとするが、綺麗に3人が同じ場所へ入ろうとしてしまったのだ。

 

「……ここは私とお兄ちゃんの家です。私が優遇されても良いと思います」

 

「年長者は敬うべきだよ。私が久遠ちゃんの隣で寝たいな」

 

「誰の家とか年齢とかは関係ありません! 妹の隣はお姉ちゃんのものです!」

 

 数時間前の入浴前と同じ様に3人が火花を散らし始める中、里香はやれやれと首を横に振って一番端の布団で横になる。そして始まる第2回じゃんけん大会。明日奈は始める前に先程のじゃんけん結果を反映すれば良いと提案するも、珪子と直葉に『それはそれ、これはこれ』と一蹴されてしまう。そして何度かのあいこを経て、珪子と直葉が互いに明日奈から左右の布団を勝ち取った。

 

「うぅ……久遠ちゃん……」

 

「アークちゃんの隣~♪」

 

「すぅ……あぁ、良い匂い。普段見れない無防備な寝顔が最高~!」

 

「あんた達、怖いわよ」

 

 自分が出したじゃんけんの手を悔やみながら、里香とは反対側の端にある布団へ入った明日奈。そんな彼女とは対照的に優越感を感じ乍ら久遠の左右にある布団へ入った2人の危ない言動に里香は危機感を覚える。絶対に2人より先には眠らない様に決めて、何時でも寝れる体勢になれば……4人の牽制し合いが始まった。

 

「まだ寝ないんですか?」

 

「珪子ちゃんこそ、もう眠いんじゃないの?」

 

「私は別に……リズさんも夜更かしは駄目ですよ」

 

「あんた達が言うんじゃないわよ。私はあんたらが完全に寝るまで見張ってるわよ」

 

「皆さん、とにかく寝ましょうよ」

 

「そう言う直葉ちゃんだって寝ようとしてないみたいだけど?」

 

 他の全員が寝て起きているのが自分1人になれれば。そんな事を考える3人と、それを察して警戒する里香は中々寝付く事が出来なかった。だが時間が経つ毎に意識が徐々に薄れていき、まず最初に寝てしまったのは珪子だった。次に直葉が倒れる様に眠りに付けば、明日奈と里香が薄い意識ながら何とか意識を保ち続ける。

 

「……里、香……もう、限界……でしょ?」

 

「あんた、こそ……とっと、と……寝なさい、よ」

 

 何時寝落ちしても不思議じゃない2人。しかし到頭里香が眠りについてしまい、1人起きる事が出来た明日奈は喜び安心する。……そして次に彼女が気付いた時、陽は昇り切っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和人が目を覚ましてリビングへやって来れば、そこには並んだ布団に色々な体勢で眠る4人の姿があった。明日奈、珪子、直葉、理香。久遠の姿はそこに無く、キッチンで何か音が響いた事で和人はそこへ顔を出した。

 

「もう起きてたのか。おはよう、久遠」

 

「おはよう。……朝ご飯、食べる?」

 

「いや、皆が起きてからにするよ」

 

「ん……分かった」

 

 前日から冷蔵庫の中身については自由に使って良いと言ってあった為、中にあった物を使って久遠はフレンチトーストや卵焼き。ソーセージにサラダ等の朝食を準備していた。美味しそうな光景に多少空腹を感じ乍らも、1人で食べる訳にはいかないと我慢した和人。リビングのテーブルを前に飲み物を用意して座りながら適当に時間を潰して居れば1人、また1人と彼女達は目を覚ます。

 

 既に朝食の準備が終わっていた事に驚いてから、各々が久遠へお礼を言って皆で食べ始めれば、賑やかな時間が始まる。修学旅行へ行った詩乃が帰って来るのは今日の夕方。その時までには和人に家へ送って貰う事にして、久遠はもうしばらく桐ヶ谷家で皆と過ごすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る。走る。修学旅行を終え、駅で解散する事になった詩乃は自分に声を掛けて来る相手など気にも留めずに自宅へ向けて走り続ける。普段から高校での時間が終わると共に即自宅へ走って帰っているため、自然と詩乃は体力が付いていた。普段よりも長い距離故に息を切らしながらも、渋滞で混む道路などをすり抜けて最短距離を最速で帰宅。我が家の鍵を開けて中へ入れば、既に帰って居る証とも言える久遠の靴を目にした。

 

「久遠!」

 

 今すぐに部屋へ飛び込んで抱きしめたい。そう思って部屋へ向かおうとした詩乃だが、自分が帰って来たばかりだと気付いてまずは洗面所へ。念入りに手を洗って嗽もして、今度こそ彼女は久遠の居るであろう部屋へ向かった。ノックをすれば聞こえて来る求め続けた声。彼女は扉を開けると、久遠の姿を見つけて容赦無く飛び込んだ。

 

「っ! お姉ちゃん、お帰り」

 

「ただいま、久遠。あぁ~久遠。クンクン」

 

 ベッドへ押し倒される様にして突撃された久遠は驚きながらも姉を出迎える。日数で言えば1日だが時間で言えばそれ以上ぶりの久遠に詩乃は容赦無くその小さな身体を抱きしめて匂いも嗅ぎ始める。久遠はまるで犬の様に鼻を鳴らす姉の姿に少し遠い目をして引き剥がそうとするが、まるで二度と離さないとばかりに抱きしめる力を更に強くされた事で諦めるしかなかった。

 

 それからしばらく。ようやく離れた詩乃にお泊り会がどうだったかを聞かれた久遠はVRMMOとは違う遊びをした事や一緒に料理をした事等を話した。途中お風呂での一件も話しそうになったが、面倒な事になりそうと悟って久遠は黙る事にする。そして色々な話をした後、最後に彼女は纏める様に詩乃へ告げる。

 

「色々あった……けど、楽しかった」

 

「そう……良かったわね」

 

「また何時か、したい」

 

「…………どうしてもしたいなら、私も同行する。それが嫌なら諦めなさい」

 

「別に、嫌じゃない。……ありがとう」

 

 今の今までお泊り会を許さなかった詩乃の言葉に久遠は驚きながらも最後に薄く笑みを浮かべてお礼を言った。……詩乃はお泊り会での出来事を無表情乍らも何処か楽しそうに語る彼女を見て、その時間が本当に楽しかったんだと感じる事が出来た。だからこそ、その楽しみを奪う事はしたくなかったのだ。例えその相手が少々警戒する相手だとしても、頭ごなしに否定しようとは思わない。故に詩乃は次の条件を提示しながらも、止め様とは考えなかった。

 

「ところで……修学旅行、どうだった?」

 

「……え?」

 

 久遠の質問に思わず戸惑ってしまった詩乃。久遠がお泊り会で遊んだ事や楽しかった事等を語る様に、次は自分が語る番なのだと詩乃は悟る。……だが、詩乃には殆ど修学旅行での記憶は無かった。明るい内から真っ暗になる時まで、必要な時以外は常に久遠の事ばかりを考えていた為に。当然風景も、何をしていたかも記憶は無い。それでも何とか取り繕いながら話をする詩乃の姿に久遠は察してしまい、無意識にジトっとした目を彼女へ向けてしまうのだった。




2020年 5月12日追記

常時掲載

【Fantia】にて、主にオリジナルの小説を投稿しています。
また、一部二次創作の先行公開や没作の公開もしています。
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