【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
少女、相談する
皆で集まる家の中で、アークは仲間達にとある相談をしていた。
『最近、視線を感じる』
最初はただの思い過ごしだと思っていたアークだが、感じ始めた日を境に毎日続いた事によってそれが気のせいでは無いと確信を得た。そこで彼女は仲間であるアスナや姉のシノンへ相談する為に、家でその話を切り出す事とした。
今、家の中には何時もの面々が勢ぞろいしている。アークと長い付き合いのある面々は、彼女の相談を受けて真剣な面持ちで話を始める。誰も彼女の感覚を疑おうともしなかった。だが大きな問題は別に存在する。
「アスナ、あんたじゃないの?」
「確かに何時もアークちゃんの事は見てるけど……シリカちゃんもだよね?」
「そ、そんな事いったらリーファさんもそうですよ!」
「シノンさんもアークちゃんに付きっきりだよね」
「妹を守るのは姉の役目よ」
「……容疑者は4人、か」
犯人と思われる人物が既に4人も存在したのだ。これでは誰が犯人かも分からず、またたとえ犯人が分かったところで何時もの事。お互いを疑い始める中、相談したアークは全員へ意思を示す様に首を横に振った。違う、と。
「皆じゃ、無い……知らない視線」
「何でそう言い切れるのよ?」
「慣れてる。だから、違いが分かる」
常に4人の視線を受けていたアークにとって、その視線はあって当たり前のものだった。だからこそ、『知らない人の視線』を感じ始めた事で相談したのだ。先程まで互いを疑っていた面々が急にまた真剣に、それも何時もの様に楽し気な雰囲気を失くして話し始める。
「お姉ちゃん。その視線に悪意は感じますか?」
「……分からない。でも、多分無い」
「アスナ達みたいなのが湧いたって考えるのが自然ね。あんた、変なのに目を付けられ過ぎなのよ」
「ちょっとリズさん! それだと私達が変な人になっちゃいますよ!」
「あんたらはどっからどう見ても変でしょうが!」
シリカの抗議にリズが思ったままを告げる中、アークはユイから視線の中に含まれる感情で分かるかもしれない事を聞かれ続ける。だが視線を感じても、その思いまでを感じ取れる人物は少ないだろう。少なくとも答えた通りに悪意は感じていなかったアークだが、それ以上の事は何も分からなかった。
「誰かと一緒に居ても視線は感じるのか?」
「ん」
「時間帯とかは分かる?」
「
「悪意が無くても、見られるって色々気持ちが悪いよね……」
「一緒に居る時は良いとしても、1人になった時に何をされるか危ないのが問題ね。アークの場合、ハラスメントコードも切ってる訳だし」
「それこそあんたらが何時も引っ付くからでしょ? こうなったら、解決するまでまた付けておいた方が良いんじゃない?」
「それだとアークちゃんを抱きしめられませんよ!」
アークは常に引っ付く者達が居るせいで、ハラスメントコードをOFFにしている。ONにしていると、うるさい程に何度も警告が鳴り続けるのだ。それこそ下手に操作して通報でもしてしまえば、仲間が消えてしまう。故に切っていたアークだが、リズの言葉を聞いて彼女は言われた通りに操作を始める。……4人から思い直す様に言われるが、そこでアークは告げた。
「解決するまで」
「犯人を捕まえるよ!」
「はい!」
「私も全力で手伝います!」
「妹に手は出させないわ!」
それが4人に火を付けた。アークと再び何時もの日常を取り戻す為に、犯人を捕まえる為に……彼女達の捜査が始まる。
「って事があってね。ユウキにも協力して欲しいんだ」
「うん、分かったよ! アスナの大事な友達のためだもんね!」
アスナはALOで知り合った自分の友達、ユウキに相談を持ち掛けた。アークを見つめる謎の視線。その犯人を捕まえるために。犯人はアスナを始めとした面々とアークの仲を知っている可能性があった。常に見つめているという事は、アークが日頃誰と一緒に居るか見ているという事。そこで考えたのが、自分達が離れてアークの知らない人物に彼女を守ってもらう作戦であった。発案者はリズであり、反対者は多数居た者の強制的に可決。今に至る。
『アークを囮に使うのは確かにあたしも嫌だけど、これが一番手っ取り早いじゃない』
それは尤もな意見であった。ハラスメントコードがONになってから、今までの様なスキンシップを出来なくなった4人は早期解決の為に手段を選ぶ余裕も無い。だが離れた結果、アークが無防備になる事は流石に許せなかった。アーク自身は決して弱くないが、護衛が必要だと思ったのだ。そこで白羽の矢が立ったのは、アスナの知り合いであり『絶剣』の異名を持つインプの少女……ユウキであった。
「それで、アークってどんな子なの?」
「これくらいの小さな女の子で、背中に自分よりも大きな剣を持ってるの」
「その子も剣士なんだ! 強いのかな?」
「うん、それなりには。デュエルだとキリト君と私は勝ち越してるけど、他の皆には勝つ事も多いみたい」
「大きな剣って事は、大剣士って奴だよね? ちょっとワクワクするよ! 同じインプ同士、仲良くなれるかな?」
「あはは、そうかもね。……あれ?」
「? どうしたの?」
「ううん。何でも無い。それじゃあ、アークちゃんをお願い」
「任せて! 僕が絶対に守って見せるから!」
無垢な笑顔とでも言えるユウキの表情と頼もしい言葉を聞きながら、アスナは彼女の元を後にする事にした。会話の中で少しだけ感じた違和感が何かを考えながら。内容はアークについての話だった。アークの特徴を話して、大きな剣を持っている事から大剣士であると知ったユウキが同じ種族だから仲良くなれるかも知れないと楽し気に話す姿に感じた違和感。
「……あれ。私、アークちゃんの種族って言ったかな……?」
一瞬感じた疑問だが、アスナはすぐにそれが気のせいだと結論付ける。ユウキとは知り合って時間が経っており、アークについての話をした事は今回が初めてでは無い。特徴などをはっきり伝えたのは初めてだが、過去に彼女に関して話をした事は何度もあった。その中で種族に関する内容を告げた可能性は十分にあったのだ。信頼出来る友達だからこそ、アスナはそれ以上疑う様な事はしない。
「取り敢えず、ユウキが居てくれればアークちゃんは安全の筈」
それから数日。アークは変わらずに視線を感じていた。アスナ達と毎日顔を合わせるのは変わらず、だが過剰なスキンシップが無くなった事で比較的今までよりも平和な日々になっていた。視線さえ無ければ、疲れる理由の少ない日々。それこそ普通の人が友達と過ごす、普通の時間。
「今までが、可笑しかった」
「まぁ、そうだな」
ALOの家に居れば、誰かの膝の上。学校でも会うのに、ログインすればまずはハグ。そこから離してもらえない事もあり、クエストに出なければALOに居る時間の殆どが誰かと肌を合わせている。アークの呟きにキリトは苦笑いしながらも同意して、彼女の背後に見える光景に見て見ぬふりをした。
「うぅ……アークちゃん……あぁ、抱きしめたいよ……」
「アスナさんは今朝、学校で抱きしめてたじゃ無いですか!」
「シリカちゃんも学校で出来るんだよね? 私なんて、ここで出来なかったら無理なのに……!」
「あんた達は、全く……って、シノンはどこ行ったのよ?」
「お姉ちゃんが、遅れて来るって言ってましたよ?」
「……何か、悪い予感がするわ」
そこにあるのは一種の地獄絵図。アークとの接触が思う様に出来なくなって弱々しく肩を落とす面々の姿があった。リズは頭を押さえながらその光景を眺める中、シノンの存在が無い事に気付いてアークの現実が心配になる。が、本人に恐怖を与えない為にも伝えない事を選んだ。果たして現実で久遠が何をされているか、考えない様にして。
「それで、視線の方はどうなんだ?」
「変わらない。寧ろ、多くなった?」
「そうか……何もして来ないにしても、ずっとは気持ちが悪いよな」
「……ん」
後ろの光景は視線の問題が解決しない限り、続くだろう。それも今より酷くなる可能性が非常に高い。キリトはどうにか解決を早める方法が無いか、再びアークと相談を始めた。