【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
それはとても珍しい日だった。アスナが家の事情でALOへ帰宅後即座にログイン出来ず、その他のメンバーも各々の事情でALOへ入って来れない。詩乃も放課後になれば即座に帰宅していたが、この日は面倒事を抱える教員に捕まってしまった事で手伝う事が決まってしまう。……その結果、アークは1人でALOの世界へやって来ていた。
「誰も居ない」
アスナやキリトからは遅れるというメッセージが来ており、他の面々もINしていない事に気付いたアークはしばらくの間、家で誰かが来るのを待ち続けた。だが1時間程時間を潰しても来ない事で、ログアウトする事も考えたアーク。しかし戻ったところでやはり皆が居ない場所でやれる事は無い。故に考えた末、アークは1人でクエストを受ける事にした。
アークが受けたクエストの内容は至極単純。モンスターを討伐するものであり、その姿に似合わない武器を駆使してアークは戦場を駆けた。SAOの時期を含めて長い間VRMMOの世界で戦って来たアークの強さは下手な大人をも凌ぐ程。1人で出来るクエストだと考えて受けた事もあり、最後まで余裕でクリアする事が出来る。
「……つまらない」
しかしアークは心にポッカリと穴が開いた様な気分だった。普段、鬱陶しいと思う程にスキンシップを取って来る皆が居ないだけで孤独になった様な気分を感じる。如何に友達の存在が大きいのかを改めて知ったアークは、気分を紛らわせる為にと難しいクエストへ挑む事にする。1人では厳しいクエストをやれば、寂しいと思う余裕は無くなると考えて。……人によっては楽しくなかった場合、ゲーム自体を止めるのが普通だ。だがそれをアークはしなかった。それは誰かがその内来るかもしれないという無意識の期待があったからなのだろう。
「っ!」
挑んだクエストの敵はアークの想像以上に強かった。1人で挑むには厳しい相手。それを前にして、確かにアークの余裕は無くなった。だが寂しさは埋らない。何時だって誰かが傍に居て、一緒に戦ってくれて居たから。それが当たり前なんだと思っていたアークは、寂しさを振り払って敵へ挑む。
「……ぁ」
しかし無理に別の事を考えようとして、手に力を込めたアークは自分よりも大きな大剣を扱い切れなかった。初歩的なミスで大剣が手から零れ、そんな彼女の前でモンスターが攻撃のモーションを取る。SAOと違い、この世界での死は現実に影響しない。だがそれでも自身の命を刈り取ろうとするモンスターの姿に、アークは声にならない悲鳴を上げた。そしてモンスターはアークへ致命的な一撃を与える……筈だった。
「はあぁぁぁ!」
突然現れた1人の少女が紫の光を輝かせながら、アークへ攻撃しようとしたモンスターに目にも留まらぬ連撃を浴びせる。思わぬ場所からの連撃にモンスターは回避する行動も取れずに全てを受け、体力を減らした事で遂には消滅。その頭上に『Congratulation!』の文字が浮かび上がる。
「ふぅ。……大丈夫だった?」
「……」
勢いで揺れていた紫色の長い髪が落ち着く中、助けに入った少女は振り返りながらアークへ問い掛ける。だがアークはそれに答える事が出来ぬまま、その少女を見つめていた。
「えっと……」
「……あり、がとう」
「え? あ、うん!
「ん。助けてくれた、から」
少し不安げに再び聞いた少女へアークは頷いて答えながら、地面に転がった大剣を拾う。そしてそれを慣れた様子で背中へ戻せば、再び少女と向き合った。
「僕はユウキ! 君の名前は?」
「アーク」
「アークか……えへへ、よろしくね!」
互いに自己紹介をした時、ユウキは人懐っこい笑顔でアークへ手を差し出す。それが握手の手だと分かったアークが握れば、更にユウキの笑顔が輝き始めた。そして自分を見つめるその姿に、ふと感じる違和感。まるでその視線を知っている様な気がしたアークは、ユウキと目を合わせる。
「ユウキとは、初対面……?」
「そうだけど? あれ、僕達って何処かであってるかな?」
「会ってない……筈」
首を傾げながら答えるユウキの姿を見て、アークは気のせいだと思う事にした。
その後、ユウキからの誘いで一緒にクエストをやる事になったアークは最終的に彼女とフレンド登録も済ませる事になった。新しい友達の名前にアークは無表情ながら、薄く喜んでその名前を確認する。……一方、ユウキもフレンドリストに追加されたアークの名前を見て笑顔だった。
「やっと……やっとフレンドになれた……えへへ」
「? ユウキ?」
「これから沢山、一緒に遊ぼうね!」
「ん。よろしく」
「アークちゃん。今日は」
「今日は、約束がある」
「……ぁ」
数日後。何時もの様にALOの世界で集まった面々。そして何時もの様にアスナがアークを誘い始める。その誘いに乗れば聞いていたシリカやリーファが続けて名乗りを上げるのが様式美であり、たとえクエストに行く気が無くても家の中でまったり出来る。……その筈だった。
まるで興味が無いようにアスナの誘いを断って、家から出て行ってしまうアークの姿にアスナの身体が真っ白に染まる。それを見ていた者達もアークの様子に驚いており、家から居なくなってしまったアークについての話が始まった。
「最近、アークちゃんの付き合いが悪い気がします」
「この前も約束があるって何処かに行ったわよね。家では普段と変わらないけど」
「学校でもあんまり変わらないわよ。アスナに抱き着かれて、付き纏われてるわね」
「ここで一緒に過ごせないと、私は
シリカ、シノン、リズベット、リーファの順に話をする。考える事は皆同じであり、そんな中キリトの肩に乗っていたユイが何かに気付いた様子で4人の前に飛び出した。
「お姉ちゃんは最近、同じプレイヤーの方と一緒に居るみたいです」
「ユイちゃん、調べたの?」
「はい。お姉ちゃんに悪い虫さんが付いてしまっていないか、確認しました!」
「同じプレイヤーか……。まさかの彼氏が出来た、とかだったりしてな」
≪……≫
「ちょっとキリト! ヤバい事言わないでくれる!?」
「わ、悪い……」
それは軽い冗談のつもりだったのかもしれない。だがその言葉は途轍もない爆弾であり、彼の言葉を聞いたリズとユイ以外は黙り込んでしまう。だが真っ白だったアスナが動き始めると、何も言わずに3人へ視線を向けた。そして目だけで語り合った彼女達は、無言で家を後にする。何をしに外へ出たのかは、考えるまでも無いだろう。
「どうすんのよ! あれ、止まんないわよ!?」
「不味い事になったな……」
「因みにお姉ちゃんと一緒に居る人は女性ですよ」
「もう言っても遅いわね。それに、それで止まる理由にはならないでしょうし……面倒な事にならないと、ってのは無理ね。絶対」
ユイの言葉を伝えたところでどうにもならないと察したリズは頭を抱えながら、彼女達を追う様に家を出る。キリトも自分が爆弾を着火してしまった事に責任を感じて家を出れば、普段賑わう家の中は静寂に包まれる事になった。
「あ! アークー! お待たせ!」
「ん。今来たところ。待ってない」
「そう? なら良かった! ……えへへ」
「?」
「今の、なんか付き合ってるカップルみたいだなぁ~って思って」
街の中で約束の相手、ユウキと合流したアークは彼女の言葉に先程の会話を思い出して納得する。恋愛などの創作物にありがちな、男女のデートを始める際に行われる会話。アーク自身はそれに憧れも何も抱いていないが、ユウキは違うのか少しモジモジとし始める。そこで、アークは彼女の言葉へ乗っかり始めた。
「ユウキは、どっち?」
「え? う~ん。そりゃヒロインが良いかなって思うけど、アークの方が似合いそうだよね。ってなると、僕は彼氏の方なのかな?」
「そう。……じゃあ、エスコート。お願い」
「へ? あ、うん! 僕に任せて!」
新しく出来た友達だからこそ、アークはユウキとの時間を多く過ごす様になった。決してアスナ達の事を忘れた訳では無い。だが学校で一緒なアスナ達や、家で一緒なシノンよりも、この世界でしか会えないユウキを優先しているのだ。……ある意味一番不幸なのは、ユウキと同じ立場のリーファである。
「クエストも良いけど、今日は何処かでゆっくりしよっか?」
「ん」
自然と差し出したユウキの手を掴んで、アークは歩き始める。そしてその場から2人が離れて数分後、同じ場所に怖い雰囲気を醸し出す4人の少女達が現れる事は誰も知る由が無かった。