【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
ユウキから告白されて数日。何時もの皆が集まる家に、アークの姿は何処にも無かった。代わりにそこに居たのは、まるで通夜の様に重く暗い雰囲気を出す少女達。
「はぁ、何よこの空気」
目の前の光景に頭を抱えながらリズベットが呟けば、それを聞いていたキリトは声に出さず苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
現在、アークは外出中である。そしてその目的は
『まず、は……お付き合い……して、から』
ユウキからの告白に普段は余り変わらない表情、その頬を僅かに染めてアークは返事をした。今まで誰かと付き合った事など一切無かったアークにとって、無表情が崩れる程にその出来事は衝撃的だったのだ。そして同時に結婚する前には人によって月日が異なるものの、付き合う期間が必要と彼女は思っていた。
結婚に性別は関係ない。この世界では同性での結婚も可能だったから。その上、たとえ男性がアークに結婚を申し込んだとしても彼女は頷く事をしないだろう。過去に起きた一件から、キリト以外の男性には恐怖を今でも感じてしまうのだから。……そんな中、突然された仲の良い同性からの告白をアークは受け入れた。
「アークちゃん、意外に押しに弱かった……。先に私が告白してれば……」
「認めない。認めないわよ。アークは、久遠は私の妹なんだから」
「うぅ~、ぴなぁ~!」
「今頃、アークちゃんはユウキさんとデート中で……もしかしたらそのままえっちな事とかしちゃったり! 見たいけど、見たくない様な……にゃあぁぁぁ!」
「……地獄絵図、だな」
告白を受け入れると思っていなかった4人。アスナは先に告白していれば可能性があったのかもしれないと後悔して、シノンは妹を渡さないとこの場に居ないユウキへ敵意を向ける。シリカは相棒のピナに泣きながら抱き着いて苦しさから抵抗される中、リーファは2人が絡む百合な光景を想像して複雑な思いに叫んでいた。
その光景は正にキリトが告げた通り、地獄絵図であった。
「でも、流石に意外だったわよね。まさか告白を受けると思わなかったわ」
「知らない相手じゃないからな。ただ、心配もある」
「えぇ、そうね。……今は健全に付き合ってるけど、ちょっと前まで
「例の視線は彼女だったみたいだからな。好きな子を目で追ってしまうって奴だろう」
「目で追うどころか本当に追い掛けてたんだから、結局同じよ」
アークが気にしていた視線の主がユウキである事は既に周知の事実となっていた。だからこそ、リズベットは微かに不安を募らせる。誰かを慕う微笑ましい行動も、度を越せば危ないものとなるのは当然の話。ユウキはそれにギリギリ足を踏み入れていたのだから。
「……見過ぎ」
「えへへ。もう、遠慮しなくて良いんだって思うとつい」
街の中を歩くアークとユウキ。何度も通ったその道を歩くのに迷いは無く、手を繋いでご機嫌な様子を見せるユウキの視線はジッとアークに固定されていた。周りの景色を一切目に映さず、歩く途中でぶつかりそうな人物は気配で躱し、何時如何なる時もアークへの視線を外さない。
ユウキと一緒に居る時、アークは常に彼女に見られていた。視界から絶対に外さず、買い物の時だって店主には視線を向けずに横目で支払いを済ませる。ユウキに取ってアークは常に見ていなくてはいけない存在となっているのだろう。今まで視線を感じていた事もあり、多少慣れていたアークだが……少し怖くも感じていた。
「昨日は一度も見れなかったから、目の保養をしておかないと。明日会えるか分からないしね!」
「大げさ」
「大げさなんかじゃないよ! 僕にとっては大事な事だから!」
付き合う様になって1つ、アークはユウキと約束を取りつけた。
『一緒に居る時以外、自分を見に来ない』
今までの様に過ごす中で感じた不気味な視線の正体が分かったとしても、常に視線に晒されるのは気味が悪い事だ。そこでアークがユウキに取りつけた約束がそれだった。ユウキは少々悩んだ末にそれを受け入れて、アークを探して見続ける行為をしなくなった。その代わり、こうして一緒に居る時はまるで焼き付けるが如く見ているのである。
ユウキは視線に関する問題さえ無ければ、アークにとって一緒に居て過ごし易い相手だった。
面倒と感じない程の距離感。どんな事でも楽しそうに話して、楽しそうに聞いてくれる。クエストに行けば頼もしく、何より真正面から好意を伝えて来た相手。アークはユウキに対して悪い感情を殆ど抱いていない。視線の問題さえ除けば、好印象しか無い相手だった。
「あ、そう言えばこの前の服って今持ってる?」
「ん。ある」
「それじゃあ、この後一緒にクエストへ行こうよ! それで、アークはあの服で!」
「分かった」
見た目の違いや一部長さの違いがあれど、殆ど御揃いと言っても過言ではないユウキがアークに買ってあげた服装。自分と同じ様な姿をするアークの姿を見るのはユウキにとって幸せな事でもあった。それはまるで、自分を好いて真似をする子供の様にも見えるのだ。
「(って、こんな事考えてるのがバレたら不味いよね)」
アークが嫌がる事。その一つに子供扱いされる事があるのをユウキは知っている。アスナ達との関係を見ていればそれは一目瞭然で、過度なスキンシップと子供扱いはアークの好感度にマイナスなのだ。たとえこの世界がゲームであったとしても、相手は本物の人間。アークの好感度を上げ、下げない様にユウキは内心でしっかり気を配っていた。
「良い? 私達が争ってる場合じゃないの。このままじゃユウキにアークちゃんを奪われちゃう」
アスナの言葉を聞いて、真剣な面持ちでシリカ、シノン、リーファが頷いた。彼女達はアークがユウキと付き合い始めてしまった事実にショックを受けていたが……まだ間に合うと遂に協力関係を組み始める。全てはアークを取り戻す為に。
「あれ、放っといたら不味いわよね?」
「……まずは話を聞いてみよう。最悪不味い様なら、止めるぞ」
「はぁ。頼むから、ゲーム内で友達を通報とかさせないでよ……!」
「私も、お姉ちゃんのお友達を通報したくないです」
不穏な空気を感じたリズベットとキリト。最悪の場合は危険なユーザーとして通報する事も視野に様子を伺う事にする。因みにその時になった場合、ユイが協力する事になるので一番やりたくないのは彼女だろう。だがアークに危害が及ぶなら、彼女はそれも辞さない覚悟だった。
「それで、どうするのよ? 今から告白したって、意味ないわよ。私の場合は姉だから余計ね」
「そもそも、あたし達が告白したって受け入れてもらえなかったかもしれません」
「私の場合も『百合が見たいんだなぁ~』とか思って流されてたかも。間違いじゃないんだけど、本心が伝わらない可能性が高いよね」
「そうなんだよね……日頃の行いって奴なのかなぁ。ただアークちゃんが好きなだけなのに」
「……その好きが大分歪んでるのに気付きなさいよ」
話を聞いていたリズベットは思った事をそのまま呟いた。幸い4人には聞こえていない様だが、キリトはそんな彼女の言葉を聞いて頬を掻く。
アスナはアークに間違い無く深い愛情を抱いている。過去の出来事で自分の心を救い、支えとなり、自分を助けようとしたアークに対して。守りたい、支えたい、愛でたい撫でたい抱きしめたい一緒に居たい。愛情が深すぎて危険な香りがしていた。
シリカはアークを妹にしようとしていた。今でも変わらないが、それは愛情よりも妹を愛でようとする気持ちが強い。姉妹はどんな時でも一緒だと言い張ってピッタリくっ付こうとする姿は見た目に差があれど何方が姉なのか……どちらも違うのだが。
シノンはシリカとは違い、本当に血の繋がった妹だ。そして自分が過去に追い詰めた事や、どんな時でも自分の味方で居たかったという本心を聞いて家族愛を強くした。独占欲が強く、結果誰よりも歪み気味で現実において2人暮らしな久遠が心配になるのは致し方ない事である。
リーファは元々百合を好きと称してアークと周りの絡みを見て楽しんでいた。だが気付けば好きな絡みが限定され、アークと自分がイチャイチャするのを目的に行動している。百合好き自体は健全だが、アークに関しては譲ろうとしなくなっていた。
「改めて考えると、アークの周りは危険過ぎないか?」
「愛情が深すぎる。傍に居たがる自称姉。独占欲の強い姉。百合好きの不埒目的。で、今一緒に居るのは元ストーカー? 何でこう、アークって変質者ホイホイなのよ」
「……今後、何も無いと良いんだけどな」
「パパ。それはフラグって言うらしいですよ?」
今後のアークが心配になる中、呟いたキリトの言葉にユイが反応する。リズベットもジト目を向ける中、彼女が思う事は一緒だった。
「アーク!」
「! スイッチ……っ!」
御揃いの恰好をしてユウキと共にクエストへ挑むアーク。
たとえ周りが危ない人物ばかりだとしても、それが日常と化しているアークは変わらぬ楽しい時間を過ごしているのだった。
常時掲載
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