【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
このデスゲームに閉じ込められて後少しで1月。何時この世界から脱出することが出来るのか、私には何も分からない。だけど分かる事もあった。それは私がもう元の世界に戻れたとしても、今までの様に過ごす事は出来ないと言う事。
それから私の視界に映るものは全て灰色に見えて、何もかもがどうでも良くなってしまった。考える事も止めて、唯圏外でモンスターを倒して……私は私自身を見失いかけていた。だけどそんな時、私はある女の子と出会った。顔も名前も分からないし年だって私より小さい事しか分からない。でもこの世界で出会ったのなら、きっとあの子も私達と同じ。
最初はその姿を見て気になった所から。私よりも小さな子供が危険な場所へ入って行くのを見て、追い掛けて。女の子だと分かった時、私は思わず安心してしまった。今思えば酷い事なのかも知れない。自分よりも小さな子が、こんな恐ろしい境遇の中に居る事に安心するなんて。……だけど私は私よりも小さな女の子が戦っている姿を見た時、見えていた光景が色付いた様な気がした。
この世界に来て絶望しか無かった私の心は彼女の存在に光の様を感じた。毎日我武者羅に戦い続け、日々を過ごして居た私にとってあの女の子は私が私で居られるたった1つの希望。そんな気がして、私は見失ってしまったあの子を探し続ける。でも迷宮区は広くて、簡単に見つけ出す事は出来なかった。
もし、もしもあの子が私の様に自分を見失っていたら。そして何も考えずにモンスターを倒す為にここへ来たのなら……放って置けない。だから私は見失ったあの子を探して、迷宮区を駆け抜ける。出て来るモンスターは一様に外よりも強くて、でも気を付ければ何とか出来る。あの子を見つけて『守ってあげる』為に、私はここで倒れる訳には行かない!
「はぁ!」
私は装備していた『プレーン・レイピア』を抜いて、目前の敵を倒す。きっと現実ならもっと恐ろしい形で絶命して、消える事も無くそこに死骸が残る筈。だけど何もその場に残さずして消えるその光景を見ると、この世界がゲームの中なんだと思い知らされる。
今まで私は街に戻る事なんて考えもせずに何日も続けて外に居た時があった。だからこそ、こうして相手の事を思えた時。もしもあの子が私と同じ事をしていた可能性を考えると、私は自分がしていた事がどんなに恐ろしい事なのか理解した。強くなれると言う意味では良いかも知れなくても、常に周囲に気を配り続けて戦い続ける何て……きっと心が持たない。
「! 居た!」
迷路の様な構造の迷宮区。その曲がり角を曲がった時、私の視界についさっきまで話をしていたあの女の子の姿が映る。剣を構えながら数体のモンスターに囲まれているその姿はピンチにしか見えなくて、私は一気に駆け出すとその内の1体を倒すために攻撃を仕掛ける。そして突然現れた私に顔は見えないけれど、明らかに驚いている彼女の横に立って私も武器を構えた。
「何で……」
「言ったでしょ? 放って置けない、って。強くなりたいのは私も同じ。でもそれで無理して死んじゃったら、駄目だよ」
「……」
私は周りに居るモンスターを見てやっぱりこの子が無理していたのだと確信できた。1人で相手にするには明らかに厳しい現状。もし勝てたとしても、満身創痍になってしまいそうで、そこを襲われでもしたらきっとやられてしまう。表情が分からないせいで彼女が何を思っているかは分からないけれど、私はまず間に合ったことに安心出来た。そして次はこの場所を打開する為に、横に並ぶのではなく少女の後ろに立つ。
「背中は任せて!」
「はぁ……分かった」
自分でも危ないと思っていたのかも知れない。私が言った言葉に彼女は聞こえる声で溜息を吐いて、でも了承してくれる。と同時に私達目がけて迫って来たモンスターに私と彼女は一緒に駆け出す。……そこからは少し大変だった。お互いに今日出会ったばかりだからチームワーク何て何も無い。一緒に戦って居るけれど、戦闘は別々で、それでも何とか倒しきった後。私は何日も外に出るつもりでいた事から多めに用意していたポーションを取り出して、彼女に1つ差し出す。
「はい、大丈夫?」
「平気。気にしないで」
「駄~目。ほら、飲んで?」
「……」
彼女は受け取るのを拒否しようとする。だけど私にはしっかり、HPゲージがオレンジ色になっているのが見えた。だから例え嫌がられても、私は彼女に飲ませる覚悟でもう1度差し出す。飲まなければ何時までも私がこうしていると分かったのか、彼女は受け取ってくれるとフード越しにそれを飲み始めた。そして飲むために少し顔を上げた時、見えてなかった彼女の姿が微かに見える。何かこうして居ると、素直になれない妹を相手にしてるみたいで少しだけ心が軽くなった気がした。
「そっか……そう言う事なんだ……」
「?」
女の子だからじゃない。自分と同じ境遇だからじゃない。この生きるか死ぬかの世界で、こんな優しい気持ちになる事に。癒されている事に、私は安心して居たんだ。色の無かった世界が綺麗になって、消えかけていた私が戻って来た。そしてそれはきっと彼女のお蔭。……なら私がしたいことは決まった。彼女を守って、彼女を助けて。そして彼女をこの世界から解放してあげる。
決してこれは彼女の為じゃ無い。私は私の意思で、彼女を守ってあげたいから。彼女の存在は私の癒しになって、私はこの世界でも進んで行ける。その為に。そしてこの目的を叶える為に、まずは
「私と一緒に行かない?」
「行かない」
彼女の心を開く必要がありそう。
彼女と出会うついさっきまで同じ様な事をしていた私が言える事では無いけれど、定期的にしっかりと街に戻って補給をする事は大事な事。死んでしまったら終わりのこの世界で、準備や道具の補給は絶対。だからこそ、目の前で籠ろうとする彼女に一緒に街へ戻る様に説得する事にした訳だけど……。
「危ないから、ね?」
「……しつこい」
頑として彼女は移動しようとしてくれない。お節介なのも重々承知しているけれど、私も決めた以上絶対に彼女を守りたい。だから私は分かる様に溜息を吐くと、少女の傍から離れずにその場で待機する。何時敵が出て来るかも分からないから、座ったりはしない。傍で待機して居る私にフード越しでも分かる程に非難の目を向けて来るけれど、彼女が動かないのなら私も動く気は無い。
「何で、私に構うの?」
「心配だからだよ?」
「さっきも言った……1人で良い」
「うん、聞いたよ。だからこれは私のお節介」
「……」
敵も出て来ない中、突然彼女から掛けられた言葉に内心で驚きと嬉しさを感じ乍ら私は答える。そして何故か人を拒む彼女に私は笑顔で初めて話をした時に言われた言葉を思い出して、返した。表情は見えないけれど、でも私の言葉に何かを考える仕草を始めた彼女はやがて歩き始める。今の場所に留まるのではなく、何処かに行くつもりらしい。だから、私もついて行く。
「何処に行くの?」
「……しつこいから、帰る」
「ふふ、そっか。私はお節介だから、ちゃんと帰るか最後まで一緒について行くね?」
「はぁ……勝手にして」
彼女の向かう先を聞いた時、私は嬉しく思った。この世界に来て今日は何度も感情が動いてる。私のせいにされてしまったけれど、それでも帰る辺り。やっぱり素直になれない妹みたいで可愛く見える。……本当に鬱陶しいと思っているんだろうけど
それから私と彼女は一緒にはじまりの街まで徒歩で戻る為に歩き続けた。道中に出て来る敵は彼女がまるで獲物を私に取られる前に取るかの様に倒していって、それでも複数の時は私も加勢に入って。ちゃんと安全である街の中に入るまで。そしてそこまでたどり着けば私が一緒に居られる理由は無くなってしまうけれど、私は絶対にしておきたい事があった。
「えっとこの辺に……あった!」
「? フレンド……友達?」
1人でゲームをして居た私にその機能を使う時が来るとは思ってなかったけれど、それでもその存在だけは知っていた。『フレンド』。本来なら相手がゲームをしているのか、何処に居るのかを確認出来る機能。だけど今ではこのフレンド機能が相手の無事をすぐに確認出来る術となっている筈。無事に生きているのなら相手はログイン状態で、相手の名前が無くなってしまった場合それは……死んでしまったと言う事だから。
説明書に書いてあったと思うけど、彼女も初めて見る表示だったらしい。流石にフレンドの意味は分かったみたいで、フード越しに首を傾げる彼女に私は笑顔で頷く。彼女は少し悩み続ける様にそれを見続けて、やがて『OK』を選択してくれた。そして私のフレンドリストに初めて乗る名前、『Ark』。アークで間違い無いと思うけど……女の子にしては変わった名前かな?
「これで私と貴女はお友達。改めて、私はアスナ。よろしくね?」
「友達……! くお……じゃ、無い。アーク。よ、よろしくお願い、します」
ようやく聞けた彼女の名前。それに嬉しく思うと同時に今までと明らかに違う彼女の反応に思わず抱きしめたくなってしまう。『友達』って所に凄い反応したみたいで、私の名前にフード越しに目をキラキラさせてそうな雰囲気を出す彼女は私の自己紹介に緊張した感じで答えてくれる。……何はともあれこれで彼女の場所は把握出来る。この後私は彼女が泊まっている宿屋(私と場所は違った)にまで着いて行って、その建物の中に入るのを確認した後に別れる。そして私も宿屋に戻ろうとして……ある言葉にその足を止めた。『攻略会議』と言う明日行われるらしい言葉に。