【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、世話好きアスナに困る

 初めて世界に入った時、アークは攻略する者の妨害をすると決意した。故に強くなる必要があり、毎日ソロでモンスターを倒す為に圏外へと足を進める……筈だった。

 

「スイッチ!」

 

「……」

 

 剣を手に、掛けられた声に反応を示さず後ろへと下がるアーク。そして入れ替わる様にして前へ出たのは数日前に知り合ったアスナであった。アスナはレイピアを手に鋭い突きを放つと、その切っ先は2人が対等していたモンスターの身体に突き刺さる。と同時にモンスターは消滅。その場に残るのは静寂のみであった。

 

 強くなる為に外へ出る。それは当然の行為だが、アスナはそれを簡単に許しはしなかった。勝手に外に出ればすぐに自分の元へと現れ、外に出る時には必ず自分に声を掛ける事と注意を受ける。それはまるで過保護な保護者の様であり、アークはそんな彼女の存在に複雑な想いを抱いていた。友達と呼べる存在の居なかったアークにとって今現在唯一呼べる友達、アスナ。その繋がりを切りたくはないが、自由に動けない事には不満を抱いていた。

 

「ふぅ、そろそろ帰ろっか?」

 

「……分かった」

 

 既に空は茜色に染まり始め、アスナはレイピアを鞘に戻しながら振り返って言う。アークは空を見た後に最近では見慣れて来た景色を見つめた後、静かに答える。2人が現在居る場所、そこは始まりの街がある1層では無かった。アスナと出会った次の日、アークは久々に早い時間に宿屋に戻った事で深く寝入ってしまっていた。起きたのは既に昼を過ぎていた時間であり、その日は結局街で外に出る準備だけをして終了。翌日、圏外で1人モンスターを狩っていたアークの元にフレンド機能を活かして現れたアスナが告げたのは1層のボスを攻略出来たと言う内容であった。1月近くクリアされていなかったボスが遂に攻略された。その内容に驚きを隠せなかったアークだが、アスナはそんな姿を嬉しさの余り言葉が出ないと解釈する。だがアスナの中に何か心境の変化があったのか、以降アークの傍に基本居る様になったのだった。

 

「……このままじゃ……」

 

「? どうしたの?」

 

「何でも無い」

 

 アークは1人危機感を覚える。攻略出来ないと誰もが思い始めていた1層が攻略された事で、様々なプレイヤーがボスを倒すために立ち上がってしまった。勢いがついた事で数日が過ぎた後に2層も攻略され、その勢いが収まらなければ数年で世界から解放されてしまう。それを止める為にも強くなろうとするが、攻略に加わっているアスナと共にでは上手く行く訳が無かった。強くなった分、共に居る彼女もまた強くなるのだ。更にアスナは攻略に参加している事でそれ以上に強くなる。そして何より、攻略組の妨害をする事もアスナが普段から一緒では出来ないのだ。

 

「はぁ……」

 

「……」

 

「明日は攻略会議があるから、一緒に居られないんだ」

 

 現れるモンスターを時々倒しながら、徒歩で帰る2人。何も喋らないアークを横に、アスナは小さく溜息を吐くと聞かれた訳でも無いのに告げる。ほぼ一緒故に解放される事で少しだけ安堵するアークだが、彼女が次に言う事はすぐに予想出来る為に歓喜とまではいかなかった。

 

「絶対に1人で外に出ちゃ駄目だからね! もし出たらお説教だよ?」

 

 過保護過ぎるアスナはアークが1人で出る事を許さない。フレンドの機能が相手の場所を簡単に記してしまう為、内緒で外に出る事も出来なかった。一度アスナの忠告を無視して外に出た事があるアーク。その結果、アークはアスナのとある行為によって反省せざる負えなくなってしまった。決して苦しい事でも辛い事でも無いが、それでも余り嬉しくは無いアークにとって面倒な行為である。

 

「そろそろ圏内だね。ご飯食べて、お風呂入って、明日に備えなきゃ」

 

「面倒」

 

「駄~目。1日1回はお風呂に入らなくちゃ」

 

 ゲームの中でも空腹を感じる事が出来る為、食事はしなくてはいけない行為だ。しかしお風呂に関しては余りアークは興味が無い様であり、一切入っていなかった。だがアスナと共に行動する様になって以降、アークがお風呂に入らないと知ったアスナは泊まっている宿屋をほぼ強制的に変更。何処で知ったのかお風呂のある宿屋へ泊まる様にさせ、それでも入ろうとしなかったアークを入れる為に一緒に入る様になっていた。アスナが居なければきっとお風呂に入る事をしないアーク。だがアスナが居る内は、許されない事であった。

 

「毎回1層に戻るのも大変だし、次の攻略が済んだらそろそろ新しい宿屋を探そうよ」

 

「何処でも良い」

 

「私が良く無いの。誰か良い宿屋知ってる人が居ると良いんだけど」

 

 現在2人が狩りをしている場所は5層。攻略は7層まで進んでおり、未だに2人は1層のとある宿屋に泊まっていた。層を移動する事はそんなに大変な事では無いが、それでも新しい拠点を考えてもそろそろ良い頃合いと感じたのだろう。アスナの言葉に興味無さげにアークは返すが、その対応に少々不機嫌そうにアスナが言うと呟きながら考え始める。攻略をするアスナ達の事を攻略組と呼び、アスナはそんな仲間の中に宿屋に詳しい者が居ないかと淡い期待を抱き始めていた。

 

 見えて来た街を前にアスナは考え事を止める。そして何を思ったのか、突然アークの片手を掴む。

 

「? 何」

 

「逸れない様に、ね?」

 

「……」

 

 決して多い人混みでは無く、そうそう逸れる事は無さそうな環境だが、アスナはさも当然の様に告げる。断る事も可能なアークだが、笑顔を見せて自分の手を引くアスナの姿にそれをする事は出来なかった。

 

 この世界で女性プレイヤーとは目立つ存在であり、故にアスナの姿は非常に目立つものであった。だが彼女が目立てば必然的に、そんなアスナに手を引かれる存在も目立つ。既に攻略組の中で力を見せ始めていたアスナが普段共に居る存在として、アークは知られていた。しかしその容姿はフードを被っている為分からず、分かる事と言えば少女であり子供であるという事だけであった。

 

 街の中を歩き、転移門と呼ばれる層を移動出来る場所へと辿り着いた2人。アスナがその前に立って「転移!」と言えば、手を繋いでいたアークも含めてその場から消える。到着したのは1層であり、そこから宿屋に向けて2人はまた行動を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスナの居ない日、外に出る事の許されないアークは宿屋の中で暇を持て余していた。宿屋の中で行える事は少なく、溜息を吐いた後にアークは徐に立ち上がる。ベッドの上に微かに乗っていた黒髪は下に落ち、メニューを開いて何時ものフード付きのコートを着用すれば、簡単に晒されていた容姿は隠れる。完全にその姿は外出している時のものであり、アークは窓の外を見た後に宿屋から外に出た。1層のはじまりの街から少しだけ離れた村の宿屋に泊まっていたアーク。まず最初に向かったのははじまりの街であり、到着するとすぐに転移門を使用。向かった先は昨日狩りをしていた5層であった。

 

「……?」

 

 転移してすぐ、視線を感じて周りを見渡すアーク。プレイヤーの姿は数える程だが、その中の数人がアークの姿を見て驚いていた。普段アスナと居る為に、1人で居る姿が珍しかったのだろう。中には話しかけようか迷っている者も居る中、アークに話しかけたのはアークが気付いていない別の人物であった。

 

「あ、あの!」

 

「……」

 

 背後から掛けられた声にアークは静かに後ろを振り返る。そこに立って居たのは1人の少女であり、何処か不安そうにしながらも少女は口を開いた。

 

「あ、あたしシリカって言います! それで、この子はピナです! きゃっ!」

 

 ツインテールを揺らしながら突然自己紹介を始めた少女、シリカ。そんな彼女が続けて紹介したのは小さな青い竜であった。じゃれているのか、自己紹介と同時に噛まれるその姿をアークは何も言わずに見つめる。まだ不安そうな姿を見せるシリカはアークの返しを待っている様で、しばらく無言が続いた後に初めてアークは反応を示す。

 

「……モンスター?」

 

「あ……えっと、ピナは色々あって、襲ったりはしないから安心してください!」

 

「……」

 

 圏内にモンスターは入れない。そんな常識を覆す様な光景にアークが質問すれば、シリカがすぐに安心させる為に必死な様子で伝える。その言葉を受けて黙っていたものの、静かにピナへ手を伸ばそうとしたアーク。何をするのかと少しシリカが焦る中、やがてアークの指がピナの身体に振れる。その瞬間、ピナは一瞬で反応してアークの指に噛み付いた。痛みは無く、唯指を噛み続けるピナの姿にフード越しに目を細めたアーク。目の前の光景にシリカはオロオロしながらも、何も出来ずに事の成り行きを見守っていた。

 

「何の用?」

 

「ふぇ? ……あ、えっとその……お話したいって思って……」

 

 アークはピナに指を噛まれたまま、顔だけをシリカに向けて質問する。突然の事に一瞬困惑し、すぐに我に帰ったシリカは恐る恐るといった様子でその内容を告げる。何が彼女をそうさせたのか、アークは分からず首を傾げるのだった。

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