【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
この世界に閉じ込められてから、あたしは怖くて不安で仕方が無かった。知り合いなんか誰も居なくて、もしも死んじゃったらと思うと外に出る事も出来なくて。あたしは怯える事しか出来なかった。だけど1層のボスが倒されたって聞いた時、初めて外に出る決心をした。怖かったけど、それでもずっと怯え続けるのも嫌だったから。頼れる人なんか誰も居なくて、1人で絶対に安全だと思える場所を選んで戦って、少しずつでも強くなることを目指して。
1人で外に出る様になって少しして、あたしはピナと出会った。ピナはフェザーリドラって言う小さな竜で、この世界で初めて出来た仲間。まだ出会ったばかりだから仲が良いとは言えないけど、それでも今あたしが唯一頼れる存在。攻略組の人達が戦ってるであろう時も、もっと下の層で安全にレベルアップすることを目指してピナと一緒に戦い続けた。……そんなある日、あたしは小さな噂を耳にした。
『攻略組に居る女性が度々幼い子供を引き連れている』
女性ってだけでも珍しいのにその人は攻略組で、そんな人が子供を連れて歩いていたら噂になるのは当然かも知れない。大人の人が沢山居るこの世界で子供は数少なくて、その殆どの子達は1層に留まっている筈だった。女性の知り合いで、攻略の無い日は圏内を歩いているなら可笑しな事じゃ無いと思う。だけど噂の中にはその女性と一緒に圏外へ出たって話もあって、それはつまりその子が『戦っている』って事。攻略組の人が一緒に居ても、外に出るにはきっと勇気がいる。何時死んじゃうかも分からない場所に出るんだから、絶対に。あたしはずっと怖くて、それでもやっと踏み出せた。でもその子はどんな思いで外に出たのか……そう考えると、あたしは一度その子と話をしてみたいと思った。
それは本当に偶然だった。4層から5層に上がる決意をして、長い間滞在するかも知れないからと街の中を回っていた時だった。転移門の傍を通った時、そこに現れたのはフードを被った人。それだけなら気にしないけれど、あたしが気になったのはその身長だった。明らかにあたしより小さくて、周りに居る人がひそひそと話し始める姿にその子が噂の子なんだってすぐに分かる。その子は周りを見渡しながら何処かへ行こうとしているみたいで、少し焦りながらもあたしは意を決してその子に声を掛けた。最初に呼びかけた時、ゆっくりと振り返って見える様になったのはフードの中に見える口周りだけ。何も喋らないで、あたしを見続けていて、あたしはとにかく話がしたくて自己紹介をする事にした。
「あ、あたしシリカって言います! それで、この子はピナです! きゃっ!」
名前を名乗ってあたしの肩に居たピナの紹介をした時、ピナは近づけた私の指に突然噛み付いて来た。最初に比べて仲良くなったピナは、最近こうしてじゃれて来る事があってあたしは驚きながらも指を離す。自己紹介が出来た事で、あたしはその子の返しを待ち続けた。名前を聞けたら良いなって思って、でも返って来た質問はピナの事。
「……モンスター?」
あたしはすぐにピナに危険が無い事を伝えて、そしたらその子は何も言わずに突然ピナに手を伸ばし始めた。ピナは仲良くなる中で噛み付く事が多かったから不味いと思ったけど遅くて、その子の指はピナに噛み付かれてしまう。このままじゃピナを怖がって話をしてくれないかも知れない! そう思って様子を伺っていた時、その子はピナに噛まれたまま要件を聞いて来た。余りにも唐突で、あたしは変な声を上げてしまう。
「ふぇ? ……あ、えっとその……お話したいって思って……」
どうしても緊張してしまって、そんなあたしを見ながら首を傾げる姿にどうすれば良いのか分からなくなってしまう。すると突然またピナがその子の指から口を離してあたしに小さな攻撃をしてくる。まるで落ち着けと言ってるみたいで、あたしはその子の前だけど一度深呼吸する事にした。その子はあたしを何も言わずに待ってくれて、ようやく落ち着けたところで改めてあたしはその子に言う。
「お話したいって思って、声を掛けました」
「そう」
「その……良い、ですか?」
「…………ん」
あたしの言葉に静かに頷いて、大丈夫なのかを聞けば少し考える様に黙った後にもう1度頷いてくれた。この場所で話し続けるのは流石に不味いと思って、あたしは街の中にあるお店に入る事を提案する。プレイヤーの人がやっているお店じゃ無いけれど、本当の喫茶店の様に注文も出来て席に座れる場所。とりあえずお互いに飲み物を注文して、窓側の席に座ってお話をする事に。でもいざお話をしようってなった時、あたしは何を話せば分からなくなってしまう。
「えっと、お名前は?」
「アーク」
「え? あ、あの、女の子……ですよね?」
また緊張してしまいながらも何とか名前を聞こうとした時、あたしは言われた名前に動揺してしまう。まるで男の人の様な名前で、女の子だと思っていたから。でもその子はあたしの質問に頷いた後、徐にフードに手を掛けてそれを外した。見える様になったその姿は間違い無い女の子。真っ黒な黒髪に氷の様に冷たく青い目。無表情なんだけどその姿はとても愛らしくて、単純に言って凄く可愛かった。思わず言葉が出なくなっちゃうくらいに。でもその姿を見た時、あたしはすぐにある事を思い付いた。初対面で少し馴れ馴れしいかも知れないけど、お願いしたい事が。
「あ、あの! お姉ちゃんて呼んでくれませんか! ううん、呼んで!!」
このお願いをした後に向けられたアークちゃんの冷めた目を、あたしはこれから一生忘れる事が出来ないと思う。
アークちゃんとの出会いはあたしにとって凄く大きなものだった。ピナが相棒なら、アークちゃんは親友。あたしが勝手に思ってるだけかも知れないけど、それでもアークちゃんと過ごす時間はこの世界がゲームの世界なんだって、閉じ込められているんだって事を忘れられた。初めて会った時にお願いした事は未だに叶わないけど、それでも良い。何時も静かで無表情で、話す時も淡々としているけど、それがアークちゃんなんだって思えるようになったから。あ! それと、
「こうして、こう。ほら、凄く可愛いでしょ!」
「す、凄いですアスナさん! ほらアークちゃん、アークちゃん! こっち見て!」
アークちゃんを通してあたしはアスナさんっていう人とも出会った。アークちゃんに話しかける切欠になった噂の最初に出て来た攻略組の女の人で、アークちゃんの保護者みたいな人。現実の知り合いじゃ無くて、あたしみたいにこの世界で知り合ったらしい2人はそれでも本当の姉妹みたいで最初は少しだけ羨ましいと思った。でもアークちゃんを理由にすぐに仲良くなれて、今ではこうしてアークちゃんの姿を見て一緒に語り合えるまでになった。そして今日アスナさんが見せてくれたのは、決して髪を縛る事無く降ろしたままリボンを後ろに付け、前も髪留めで左右バッテンを描く様に留めて出来上がったアークちゃんの姿。無表情で冷たい印象があるアークちゃんだけど、リボンと髪留めで親しみやすさと可愛らしさが増して何て言うか……凄く良い。
「遊ばないで」
「遊んで何か無いよ? 本気だから、ね?」
「そうだよアークちゃん! あたし達、本気でアークちゃんを可愛くしたいの!」
「シリカちゃん!」
「アスナさん!」
「……」
冷たい目であたしを見るアークちゃん。でもあたしもアスナさんも、遊んでいるつもりなんて無い。本気でアークちゃんを可愛くして、心から幸せを感じたい。アスナさんの言葉にあたしが、あたしの言葉にアスナさんが互いに名前を呼び合って強い握手をする。アスナさんとあたし、きっと考えてる事は同じなんだ。横から来る凍える様に冷たい視線も、アスナさんと繋げた思いなら何にも寒く無い!
「面倒」
『きゅる?』
諦めた様にアークちゃんが自分の膝に乗っていたピナへ何かを言って撫で始めるのを横目に、あたしとアスナさんはもっと可愛くする方法を話し始める。髪型は何も無いロングでも良いけど、こういった変化も新鮮でかなり良い。後はやっぱり、服装かな?