【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、行方をくらます

 アークは困っていた。アスナの攻略会議の日、外に出れないが故に話しかけられたシリカと会話をした事。それが自分の首を絞める事になるとは夢にも思っていなかったからだ。シリカと話の最後にフレンドとなり、2人目の友達に驚きと喜びを感じたアーク。だがシリカはアーク以外にフレンドが居なかった様で、フレンドとなったアークと行動を共にしようとする事が多くなったのだ。不安を感じざる負えない世界で、自分より幼いながらも戦う仲間を見つけたのだから一緒に居たいと思っても不思議では無いだろう。アークはこの時初めて、この世界が現実とは違う故に友達の居ない人が自分以外にも沢山居るのだと理解した。

 

 自分と一緒に居る時以外は外に出ない様にと注意する過保護なアスナ。それだけでも自由が失われているのに、今度は何時でも一緒に居ようとするシリカと出会ったことで1人で居る時間は殆ど無くなってしまったアーク。アスナが攻略会議に参加している間も、シリカは攻略組では無い為ほぼ毎日の様に会いに来るのである。幸いな事は、アスナがシリカと共になら圏外に出る事を許可した事だろう。シリカが確実に安全な場所を回っていると聞き、彼女となら安心だと判断したのだ。故に経験値が少なくとも、レベルを上げる為に外へ出る事は何時でも出来る様になった。が、目的である攻略の妨害は更に遠のいてしまった。そして更に、そんなアークを焦らせる現実があった。

 

「……!」

 

「アークちゃん、どうしたんだろう」

 

『きゅるぅ……』

 

 アスナが攻略に出ているこの日、アークは普段の様にシリカと共に強くなる為に圏外へと出ていた。だが、アスナが攻略に出る前に呟いた一言がアークの頭の中に何度も木魂する。そしてそれが焦りを生み、アークは少々怖い雰囲気を出しながら目の前のモンスターを切り裂き、更に一歩前に出て他のモンスターを倒すために攻撃する。明らかに可笑しいその姿にもう長い付き合いであるシリカが心配そうに呟く。シリカの肩に乗っていたピナもまるで心配するような鳴き声を上げ、2人は唯々戦うアークの姿を見ている事しか出来なかった。

 

『次で50層。ここを超えれば、残りは半分』

 

 現在2人が戦っているのは30層。しかし攻略は現在49層まで進んでおり、次で50層。全100層で成り立つこの世界でそれは折り返し地点であり、単純に考えたアークは残りの時間が今までの時間では無いかと考えた。邪魔すると決めても邪魔することが出来ず、それでもまだ時間はあると何処かで油断していたアーク。だからこそ、半分まで来てしまったという事実に気付いた時、改めてアークは目的を思い出したのだ。そしてそれと同時に1つの覚悟を決める。

 

「……」

 

「あ、アークちゃん? そろそろ、帰ろ?」

 

 モンスターを倒し、剣をしまうアークの姿にシリカは不安を抱えつつも話しかける。既に空は茜色に染まっており、夜になるのも時間の問題だと誰もが分かる。が、アークはシリカの言葉に微かに振り返った後に前を向いて圏内である街とは違う方向へ歩き始める。そんな彼女の行動にシリカは焦りながらもその後を追う。徐々に暗くなっていく空。夜になれば、現れる敵は一部変わる。安全と分かっていても、何が起こるか分からない故にシリカはアークを説得しようとし始めた。

 

「もう暗いよ? また明日、朝になってから来ようよ」

 

「……嫌」

 

「嫌って……帰らなかったらアスナさんも心配するよ?」

 

 アークが明らかに可笑しい事をシリカはここでようやく確信する。アークが帰りたがらず、戦い続けようとする事自体は珍しい事では無かった。しかし、もう保護者と言っても良いアスナの名前が出れば渋々でも止めるのだ。アスナの為と言うよりは叱られないためと言った方がいいが、それでも名前が出れば確実に止める。それが普段のアークであった。だが今日この日、アスナの名前が出た時、アークは静かにシリカへ振り返った。

 

「私は、帰らない」

 

「え……」

 

 シリカは告げられた言葉に一瞬意味が分からず、小さな声を上げた。だが次の瞬間、アークは無言で何かを取り出す。それは輝く結晶であり、使用すれば登録した場所へ飛べる転移結晶と呼ばれる物であった。シリカが我に返るのとアークがそれを使用したのはほぼ同時であり、気付いて名前を叫んだシリカを前にアークの姿はその場から消えてしまう。突然の出来事に困惑し、アークが消えてしまった事に恐怖して焦るシリカ。一体何処へ飛んだのか? それを考えた時、シリカはすぐにメニューを開く。

 

「ふ、フレンドの現在地で! ……う、そ……そんな……」

 

 フレンドであれば相手の現在地が分かる。すぐにそれを思い出して確認しようとしたシリカだが、メニューを開くと同時に『Ark』と言う名前が消えてしまう。名前が消える理由は2つ。その相手が死亡した時か、フレンドを止めた時である。安心出来る事は、アークが転移結晶を使ったのを目の前で見た為に前者では無い事。しかし、アークがフレンドを切った今、彼女が何処に居るのかを知る術がシリカには無かった。

 

「そうだ! アスナさんなら分かるかも知れない! ピナ、急ごう!」

 

 自分では駄目ならば、自分と同じ様にフレンドであったアスナなら分かると考えたシリカはピナに告げると走り出す。肩に乗っていたピナは突然シリカが走り出した事で落ちそうになるも、すぐに鳴き声を上げると飛びながらその背を追い掛け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 49層へとやって来たシリカは自分よりも明らかに強い人達が居る街の中で、アスナの姿を探そうとする。既に時間は夜故に帰って来ている可能性は高く、また女性プレイヤーである故に目立つ存在でもあるアスナ。何よりも攻略組の中では有名人である彼女を探すことはそこまで難しい事では無いだろう。すぐに見つかる、そう思っていたシリカの考えは見事に的中する。が、アスナが見つかった理由は考えていたどれでも無かった。

 

「おい、あれ。あそこに居るの」

 

「血盟騎士団の副団長だ。でも、様子が変だぞ?」

 

 街の中のとある場所に出来た人混み。そこから聞こえて来るざわざわとした声に紛れて聞こえて来た内容にシリカは騒ぎの中心を確認しようとする。背が低い故にジャンプしても見えず、人混みを掻き分けて中へ。そうして見えて来たのは、地面に座り込んでしまって居る探し人……アスナの姿であった。

 

「う、そ……嘘だよね……こんなの、嘘だよね……」

 

 目は虚ろになり、唯呟き続けるアスナの姿にシリカは目を見開いて驚いた。仲間であろう人達がアスナの状態に困惑しながらも何とかしようとしているが、全ての言葉は彼女の耳に入って居ない様子である。一体何が彼女をこんな風にしてしまったのか? 考えた時、シリカだけがそれを理解することが出来た。だからこそ、シリカは近づけない為に声を上げる。

 

「アスナさん!」

 

「! シリ……カ……ちゃん?」

 

「アスナさん! アークちゃんは死んでません! 生きてます!」

 

 シリカの声に野次馬となっていた人々が注目する中、初めてアスナが反応を示した事でその周りに居た人達が驚く。そしてシリカがそのまま言葉を叫んだ時、アスナの虚ろだった瞳に彼女の意思が戻り始めた。座り込んでいた足はすぐに立ち上がり、目に見えぬ程のスピードでシリカの前へと出たアスナ。その肩を掴むと、シリカが余りの勢いと肩を掴まれた驚きに顔を歪める中でもアスナは口を開く。

 

「どう言う事! アークちゃんは、アークちゃんは生きてるの!?」

 

「は、はい! と、とりあえず落ち着いて下さい! アスナさん!」

 

 怖い程の勢いにシリカは怯えながらも落ち着かせる為に告げる。そこで初めてアスナは周りに注目されている事に気付いた様で、逸る気持ちを抑えると一度この場を納める事にした。心配していた者達も何とか戻った事で安心し、その後その場を後にしたアスナとシリカ。2人きりになったところで説明を聞こうとするアスナにシリカはまず自分の目的でもあった事を、答えが分かった上で確認する。

 

「アークちゃんが死んでしまったと思ったのは、フレンドから名前が消えたから。ですよね?」

 

「うん。もしHPが0になって死んでしまったら、フレンドの欄からその人の名前が消える。それは知ってたから。ねぇ、一体何があったの? 今日も一緒に居たんだよね?」

 

 アスナの質問にシリカは頷いた後、今日あった出来事を説明した。何時もと様子が違い、突然帰らないと言って姿を消した事。フレンドを解消して自分の位置が知られない様にしてしまった事を。

 

「何で、どうしてアークちゃんはこんな事を」

 

「分からない。でもアークちゃんはまだ生きてるんだよね?」

 

「はい。フレンドから名前が消えてしまったのはアークちゃんの意思で、死んでしまったからじゃないです」

 

 説明を終え、シリカの言葉を最後に無言になってしまう2人。だがやがてアスナは目を瞑って息を吐くと、切り替わる様に真剣な表情でシリカへ視線を向ける。

 

「探そう。アークちゃんを」

 

「で、でもどうやってですか?」

 

「アークちゃん、何時も戦おうとしてたよね? 強くなりたい、以外にも何か理由があるのかも知れない」

 

「理由、ですか?」

 

「うん。……それが何かは分からない。けどそれはきっとアークちゃんにとって大事な事なんだよ。だから探そう。探し出して、教えてもらうの。あの子の本心を、ね?」

 

 アスナの言葉にシリカは考える。今まで共に居て、それでも分からなかったアークの本心。それを知る為には、アーク本人を見つけなければならない。もしもアスナの言う通りに強くなろうとして外に居続けるならそれはとても危険な事だ。だからこそ、シリカは決める。自分に出来る限界はあるかも知れないが、それでもアークを見つけると。そしてその思いを聞きたいと。

 

「……私はアスナさんみたいに上の階層は探せないけど、自由に動けます。だから行けるところをこれから毎日、探します!」

 

「私も出来る時は彼方此方探して見る。必ず、見つけようね」

 

「はい、必ず!」

 

 2人はアークを探すという目的を新たに決意する。今尚1人で戦い続けているアークはそんな2人の決意を知る由も無く……そして時はまた流れて行くのだった。


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