【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、アスナとすれ違う

「ひぃ!」

 

「……」

 

 空へと舞い上がり、地面へと刺さる武器を横目に腰を抜かす男性。そんな姿を見降ろし、まるで血に濡れた様に真っ赤な刀身の剣を手にするのはフードを被った背の小さな子供であった。誰が見ても異様としか思えない光景は、当事者である2人しか意味を理解出来ないだろう。決して剣を振り上げる事無く子供が真っ直ぐに男性へと向けた時、男性は向けられた剣と微かに見える子供の自分を見下ろす綺麗だが恐ろしい碧眼にその表情を恐怖で歪ませながら背を向けて走り出す。地面に刺さった武器は消滅し、残るのは男性のみ。子供はそんな姿を追う事も無く、見えなくなるまで見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、リズベット武具店へ! って、アスナか。いらっしゃい」

 

 48層、リンダースのとある店の扉が開かれれば笑顔を見せて出迎える少女。しかしその扉が完全に開かれた時、現れた客の姿を確認するや否やその表情に笑みは崩さないものの、その口調は少々フレンドリーに変わる。

 

「おはよう。早速何だけど、修理お願い出来るかな?」

 

「良いわよ。じゃ、ランベントライトを貸して」

 

 入店したお客であるアスナと少女の年齢は近い様で、故に崩した口調で会話をする2人。アスナは少女に用件を告げると、言われた通りに1本の細い剣を取り出す。少女が青い柄を手に引き抜けば、見えるのは真っ白な刀身。メニューを開き、何かを確認しながら作業に入るその姿を横目にアスナは店の中を回る。そこまで広くは無く、だが決して狭くも無い店の中のガラスケース、そのオブジェクトの中や壁には鍛冶屋である少女が作った作品が沢山並べられていた。

 

「結構耐久値が減ってるわね。そんなに時間は掛からないと思うけどどうする? 待ってる?」

 

「うん。何かもう、リズが作ってくれたそれ以外、使え無さそうだから」

 

「嬉しい事言ってくれるわね。じゃ、始めるわよ!」

 

 リズと呼ばれた少女。その正式な名はリズベットと言い、アスナは愛称で彼女を呼んでいた。そしてそんな彼女が作業に入ろうとするのを見ながら、やがて奥へと入って行く姿を見送るアスナ。リズとの仲は良い為、店の中にまで入る事を許されているアスナだが……中に入る事は無く、並んでいる武具を前にメニューを開く。そこには1通のメールが表示されていた。

 

「シリカちゃんから。……」

 

『アスナさん。昨日は連絡出来なくて御免なさい。1日中40層を回って、宿屋に戻ったらそのまま眠っちゃったみたいです。今のところ手掛かりは何もありません。今日は41層に行ってみたいと思います!』

 

「無理しないでね。私も今日は50層近くを探して見るよ……うん。送信」

 

 そこに書かれていた内容を読み、やがて返信を書いてシリカへと送ったアスナは窓の外に見える景色に目を細める。既にデスゲームが始まって1年半が経ち、攻略は59層まで進み、数日前まで突然近くで起きた圏内事件をとある人物と共に解決していたアスナ。攻略組では既に【閃光】と呼ばれ、誰からも頼られる程の存在になった彼女は未だに1人の少女をこの世界で探し続けていた。1層で出会い、その存在によって心を救われた1人の少女を。

 

「お待たせ。……また例の子の事でも考えてるの?」

 

「あ……うん。まだ見つかって無くて。今、何してるかな? って」

 

「どんな子か知らないけど、まだ生きてるんでしょ? なら絶対に見つかるわよ。はい、これ」

 

「そう、だね。うん。ありがとう、リズ!」

 

 アスナが預けた剣を手に戻って来たリズは様子の違うその姿にすぐに考えている事を見抜いた様に言った。アスナがとある人物を探している事をリズは本人の口から聞いて知っていたのだ。その相手の容姿や名前などは聞かされていないが、余程アスナにとって大事な存在である事だけは理解出来ていた。だからこそ、長く聞かされ続けて尚今でも探しているというその存在が気になりながらも元気づける様に告げた時。アスナは目を瞑ってから切り替えた様にして剣を受け取ると、代金を払ってお礼を言った後に店を飛び出す様に出て行ってしまう。何処に行くかは明白であり、リズは笑みを浮かべながらも溜息を吐いた。……その時、三度扉が開かれ鈴の音がなる。

 

「ようこそ、リズベット武具店へ……またあんた?」

 

 アスナが入って来た様に笑顔で出迎えていたリズだが、入って来たその姿を確認すると同時にその声が呆れを含み始める。アスナ同様、そのお客も常連に近い存在でありながらその用件が非常に特徴的な内容故にリズは何処か落胆しながらも決して嫌そうな顔はしなかった。

 

「で、今回は何本?」

 

「……」

 

 下半身まで続く長いコートを着たまま近づき始めるそのお客はやがてカウンターに立つと、メニューを開く。そして指で触れる度に現れ始める真っ赤な剣。それは1本や2本では無く、13本という驚きの本数であった。少々顔を引き攣らせながらも1本を手にその詳細を調べ始めるリズ。やがて出た結果に震え始めると、怒気を含んだ口調で話し始める。

 

「どうすれば3日でこんな耐久値になるってのよ! 乱暴に扱い過ぎよ!」

 

「……」

 

「あんた、一体どんな戦い方してんのよ? 私よりかなり小さいし、何層を回ってる訳?」

 

「……」

 

「まただんまり。はぁ、まぁしっかり代金は払ってくれるからやるけど、もう少し武器の事も考えなさい。直せれば良いけど、折れたらもう戻って来ないんだから」

 

 身長が低く、微かに見えるフードの隙間から自分よりも年下であると断定しているリズはお説教をする様に言う。しかし返って来る返事は無く、諦めた様に溜息を吐きながら武器を回収するリズ。鍛冶屋故に武器への思いが強いリズにとって、明らかに武器に無茶をさせている相手の戦い方が許せるものでは無かった様だ。だが何を言おうとも使うのは自分では無く目の前の存在故に、また来る可能性を考えながらも修理を始める為に店の奥へと入って行く。そしてその間、武器を預けたお客は店の中の武器を見て回る様に歩き始める。するとしばらくして、とある武器の前でその足を止める。それは壁に掛けてあり、明らかに自らの身長よりも長く強大な大剣であった。

 

「そんなの、あんたには絶対使えないわよ?」

 

「……そんな事、無い」

 

 アスナの時と違って本数はあったものの、素早く仕事を熟して戻って来たリズ。店の中で飾ってある巨大な剣を見上げているその姿に気付くと、剣を抱えながらも少し馬鹿にした様に告げる。だがそれに反応を示した事でリズは思わず持っていた剣を落としそうになった。実は今まで一度も声を聞いた事が無かったリズだが、今聞こえて来た声が明らかに女の子のものである事に予想はしていたものの間違い無く衝撃を受けたのだ。

 

「な、なら持ってみる?」

 

 動揺を隠せないながらも必死に普段通りにしながら少女に剣を持つか聞いてみる。今度は返事をしなかったが、それでも頷いて答えた少女。リズは持っていた剣をカウンターに乗せると、壁に掛けてあった大剣を持つ。並べてある物は全てリズが作ったものであり、彼女も重そうにしながらそれを少女に手渡そうとする。だが自分の背よりも大きな剣を簡単に持てる訳が無く、両手で柄と刀身を支えながらも渡された剣の重みに前へ後ろへとよろめき始めた少女。下手に落とせば大剣が傷つき、周りに当てれば他の物が壊れる故にリズも冷や冷やしながらその光景を見続ける。っと、やがて少女はバランスを持ってしっかりと地に足を付けた。

 

「ふぅ。は? ちょ、何してんのよ!?」

 

「持て、る……から、振れ、る……!」

 

 フラフラな姿が安定したために安心したリズ。しかし次に行った少女の行動は、柄を両手で持って大きく振り上げる事であった。圏内故に斬られても傷を負う事も痛みも無いが、それでも大きな剣が振り上げられれば恐怖するのは当然。しかも持つ手はプルプルと震えており、そのまま振り下ろせば勢い余って店の床を抜いてしまう可能性すらあった。故に焦って止めようとするリズだが、時既に遅く少女は大剣を天高く突き上げて……振り下ろした。途端、リズベット武具店に悲鳴が木魂するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「血染めの襲撃者?」

 

「あぁ。何でも攻略組を狙って現れるらしい」

 

「レッドプレイヤー……なの?」

 

「いや、それがどうも違うみたいなんだ」

 

 ある日、攻略会議を終えてアスナはとある青年と話をしていた。先月共に圏内事件を解決し、今では【黒の剣士】と呼ばれているソロプレイヤー……キリト。1層の頃、アークと出会った次の日に出会った存在であると同時に彼に沢山の助言を受けているアスナは彼の事を信頼していた。そんな彼に攻略会議の後に話があると言われ、やって来たとある店で聞かされた内容にアスナは首を傾げた後に真剣な表情で質問する。しかしアスナの質問にキリトは首を横に振った。

 

 アスナが言ったレッドプレイヤーとは、この死んだらお終いの世界で人を殺そうとする者達の事。だがキリトの説明では、その存在は決して殺しをしようとはしないとの事であった。HPを削ろうとはせず、狙うのは武器の耐久値。壊れるまで打ち合いを行い、戦う手段を無くさせて撤退を強制させる。容姿も性別も大きく深いフードに隠されており、分かるのは子供である事と襲われた者が見たその人物の碧眼。そして血の様に赤い刀身の剣を扱うという事だけ。

 

「子供……碧眼……」

 

「なぁ。俺はアスナが探してる奴の事を知らないけど、子供でこの辺りを歩ける奴はそういないと思うんだ」

 

「そう、だね。……ねぇ、キリト君。その人が現れたのは、何処なの?」

 

 聞かされた内容にあった子供の特徴に探し人であるアークの姿を思い浮かべたアスナ。リズの場合は早々圏外に出ない事から話をしていなかったが、キリトの場合は攻略組故に圏外へ出る機会も多く、その為彼はアークの特徴を聞いていたのだろう。はっきり断言はしないが、可能性はあるのではないかと暗にアスナへ促す。他に探せる手掛かりも無く、攻略組の妨害は放って置ける内容でも無いだろう。故にアスナは決める。その人物に出会い、その正体と目的を確認すると。キリトもその意思を理解したのか、頷き返すと最後に現れたと言う場所をアスナに伝える。

 

「61層の迷宮区だ」

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