【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~   作:ウルハーツ

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少女、アスナと再会する

「……」

 

 61層、セルムブルグは小さな小島であり、広大な湖をそこから見渡すことが出来た。夕日が沈もうとする中で見えるその景色は圏内に居る様々な人の目を奪う。そんな中、島を出た圏外からセルムブルグの方角へ視線を向けて同じ様に夕日を見つめる者が居た。フードを被り、手には真っ赤な刀身の剣を持つリズベット武具店へ訪れていた少女である。そしてそんな少女を狙う様に、1匹のモンスターがその背後に近づいていた。

 

「……邪魔」

 

 至近距離まで近づき、少女に襲い掛かろうとしたモンスター。そんな相手の行動と少女が振り返ったのはほぼ同時であり、恐らく少女の視界には自分を襲うモンスターの姿が間近で見えた事だろう。だが驚く様子も無く、少女は何事も無い様にモンスターの横を通り過ぎる。モンスターは襲おうとした体勢から動かず、やがて少女の姿がその場から消えた時、その身体は2つに分かれて消滅するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話ではここで襲われたらしい。ここに来るまでに不審者は見なかったし、移動してる可能性もあるな」

 

 翌日、アスナとキリトは61層の迷宮区を訪れていた。目的は血染めの襲撃者と呼ばれる人物と出会う為。アスナと別れた後、キリトは襲われた現場やその周辺の情報を集めてここまでやって来たのだろう。彼の言葉にアスナは何も言わずにその場を見つめた後、今度は周りを見渡しながら少しだけ心配そうに口を開いた。

 

「もしあの子がここに居るなら、早く見つけないと……」

 

 アスナの中で、アークと言う存在は心の拠り所に近い存在であった。その存在に救われると同時に守ると決め、しかし突然居なくなってしまったが故にその拠り所を失ったアスナ。だがアークやシリカと居た数か月によって心を強くしていた彼女は自暴自棄になる事無く、今までこうして平常心でいられた。……だからこそ、初めて掴んだ手掛かりを絶対にアスナは確かめると決めていた。決して61層の敵は弱く無い。守るべき存在がそんな場所に居るのなら、今すぐにでも見つけなくてはいけない。そう考えて。

 

「調べて分かったけど、襲われた人は攻略組に【加わろうとして】ここを訪れたらしい」

 

「? じゃあ、狙いは……攻略組に戦力を増やさない様にする事?」

 

「正確には分からない。けど、少なくとも加わる事を諦めた人は居る筈だ」

 

 共に並んで歩きながら会話を続ける2人。やがてたどり着いたのは既に攻略されたボス部屋の扉であった。間にモンスターは現れたものの人の気配は無く、2人は顔を見合わせて溜息を吐く。

 

「もう、やっぱりここには居ないのかも知れないな」

 

「そうだね。なら、1つ上の……!」

 

「アスナ?」

 

 この場所には居ないと考え、諦めようとしたキリトとアスナ。だがアスナが喋っていた途中で突然口を閉ざした事にキリトはその名前を呼ぶ。すると突然アスナは口元に人差し指を立てて静かにする事を要求。キリトは訳も分からず、それでも黙り始める。っと、そんな彼の耳にとある音が聞こえて来た。それは固い金属の様なものがぶつかり合う時になる高い音。まるで剣と剣がぶつかり合う様な、そんな音であった。

 

「誰か、戦ってる……!」

 

「行こう! キリト君!」

 

 アスナが黙った事の意味をようやく理解した時、呟いた言葉でアスナもその音が空耳で無いと確信する。そしてその音がする場所へ向けて走り出し、後ろに少しだけ振り返ってキリトを呼んだアスナ。キリトも真剣な表情に変わると、アスナと共にその発生源に向かって走り始める。

 

 2人から少し離れた場所にて、1人の男性が必死な形相で攻撃を防いでいた。相手はモンスターでは無く人間、それも善良な存在である緑色のカーソルが存在する人間であった。顔も容姿も確認出来ない中で分かる事は、小さな身長と真っ赤な刀身の剣のみ。

 

「くそっ、何なんだよ!」

 

「……」

 

 無害な人間を攻撃すれば、忽ちプレイヤーのカーソルはオレンジ色に変化する。それは罪を犯した証であり、緑に戻さない限り街の中に戻れないなどの縛りを与えられてしまう。襲ってくる相手のカーソルは緑。故にその身体に一撃でも加えれば、自分が悪になってしまうが故に男性は攻撃を防ぐ事しか出来なかった。対する相手はその身体に攻撃する事無く、防ぐ武器ばかりを必要以上に攻撃し続ける。何度もぶつかり合う度に目視では確認出来ない場所でその武器の耐久値が間違い無く減少し続けており、0になれば最後その武器は崩壊してしまう。……それが狙いであった。

 

「……」

 

「アークちゃん!」

 

「!?」

 

「! 貰った!」

 

 1人が攻撃を繰り返し、1人が防ぐ事を繰り返す。そんな光景が駆け寄ったキリトとアスナの視界には映った。そしてほぼ反射的に、アスナはその姿に名前を呼んだ。突然聞こえたアスナのその声に反応したのは前者であり、顔は見えないもののアスナの方へと視線を向ける。っと、それを好機と思った男性が剣の腹で真っ赤な剣を力強く押し返した。勢いの乗った攻撃の連続故に反撃できなかったが、止まった事で可能になったのだろう。決して身体に当てる事無くその体を押し返せば、小さな身体は簡単に後ろへと転がる。

 

「……!」

 

「駄目!」

 

 だが転がった体をすぐに立て直し、飛び出す様にして男性へと襲い掛かろうとしたその姿にアスナが2人の間に入り込むと、その攻撃を自分の剣で受け止める。ようやく攻撃から解放された男性は訳が分からないと言った表情を浮かべるが、アスナは攻撃を抑えたまま「逃げて!」と男性に叫ぶ様に告げる。その言葉に困惑しながらも、男性は逃げ出し……その場には鍔ぜり合う2人とキリトのみが残った。

 

「アーク、ちゃん……やっと見つけた!」

 

「……!」

 

「何でこんな事、してるの? もう、止めよう? 一緒に、帰ろ?」

 

「! 嫌っ」

 

 その顔が見えなくても、アスナにはもう目の前の人物がアークである確信があった。キリトも探していた血染めの襲撃者がアスナの探し人であると理解し、その光景を見守り続ける。っと、鍔ぜり合いを続けながらもアスナは優しく語りかける様に口を開く。アークは押す力を弱め様とはしない故に、途切れ途切れになりながらも話すアスナ。だが最後の言葉を言った時、アークは明らかな拒否を示してアスナから距離を取る。

 

「アークちゃんが消えた理由は強くなりたかったから、だよね? どうして? どうして強くなりたかったの?」

 

 自分の身を守るためなら態々上の層へ行く必要が無く、攻略組に入りたいのなら自分に言えば力になれた。しかしアークはそのどちらでも無いと分かる行動をしていた故に、アスナは質問する。っと、アークは持っていた剣をしまって武器を手元から無くす。その行動にアスナは安心した様に笑みを浮かべて近づこうとし、再びアークの手に全く同じ剣が握られた事でアスナは目を見開いた。ゆっくりと自分に向けられる剣。その光景に、アスナは訳が分からず口を開く。

 

「アーク、ちゃん……何で……」

 

「私は……帰らない」

 

「どうして!? お願い、教えて! 私は知りたいの! アークちゃんの事! だから! !?」

 

 弱々しい声で剣を向けられた事に困惑する中、アークが言った言葉にアスナは悲痛な叫びの様に声を上げる。だがその時、アークは剣を片手にメニューを開くと何かを選択した。瞬間、アスナの目の前には1つの画面が現れる。

 

『デュエル申請を受託しますか? 対戦者『Ark』 1VS1 【初撃決着モード】』

 

「私が勝ったら……二度と関わらないで」

 

「! なら、私が勝ったら教えて。アークちゃんの思いも、全部!」

 

 アークの言葉に一瞬で切り替えを行ったアスナは、条件を告げてその画面に現れていた『OK』のボタンをタッチする。瞬間、2人の周りの雰囲気が変化した。2人がこれから行うのは決闘(デュエル)と呼ばれるプレイヤー同士が戦うシステムである。HPをゼロにしてしまっては死んでしまう為、そのルールには【初撃決着】と言うその名の通り最初の一撃を当てた方の勝利という条件が付いており、お互いが承諾しての戦闘故に攻撃をしてもカーソルが変化することは無い。

 

 アスナは持っていた武器、ランベントライトを一度空を切りながらも構える。対するアークも剣を前に向けた状態で柄を両手で持ち、アスナに対峙する。

 

「絶対、教えて貰うから!」

 

「意味ない。貴女には分からない、から」

 

「!?」

 

 アスナの強い言葉に静かに目を瞑って首を横に振った後、突然動き出したアーク。その速さは共に居た頃とは比べ物にならない程であり、アスナは驚きながらもその攻撃を受け止める。強い威力がぶつかり、2人の間を中心に風が吹き抜ける。アークの着ていたコートも大きくはためき、そのフードが偶然頭から外れた事でアスナの目の前に映ったのは、真っ黒な髪を揺らしながら睨みつける幼い少女の碧眼であった。その目に映るのは何処か戸惑うアスナ自身の姿。故にアスナは一瞬不安を感じてしまう。そしてそれを見据えた様に、アークは呟いた。

 

「……貴女には帰りたい場所がある。……だから、私の気持ちは分からない」

 

 デュエルはまだ、始まったばかりである。




実は今作品。今話最後の台詞を使いたいが為だけに生まれました。
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