【完結】ソードアート・オンライン ~幼き癒し人~ 作:ウルハーツ
振るわれた2本の剣がぶつかり合い、火花を散らす。体格差を考えれば有利な筈のアスナだが、ぶつかり押し合うその力は互角。故に驚きながらも負けずに押し続けた時、突然アークはその力を緩めて手前に引き始める。急な事で前に一瞬よろめいたアスナだが、今までの経験と咄嗟の判断によってすぐ横に武器を構えた時、アークの剣が吸い込まれるようにアスナの持つランベントライトとぶつかる。
「(強い……!)」
今までの行動は数秒間に起きた出来事。ゲームの世界だからこそ出来る事であり、戦いの経験を積んだ者だからこそ出来る動きであった。アスナとアークの問題であり、2人の決闘故に何もせずにジッと見続けていたキリトは目の前の光景に内心驚いていた。攻略組を目指す者達を倒すのだから弱いとは思っていなかった。が、その強さは彼の想像していた以上だったのだろう。
「!」
『閃光』の異名を持つ程に素早い攻撃を行えるアスナだが、続けられるアークからの攻撃に攻めに転じる事が中々出来ずにいた。アーク自身も分かっているのだ。アスナの持つ攻撃の速さで攻められれば、無傷ではいられないと。そして初撃決着故に1度でも受ければ敗北となってしまうからこそ、攻撃出来る隙を与えた時点で自分の負けになると。だからこそ、アスナが攻撃に転じられない様に攻撃を行い続けるアーク。ソードスキルも使用後の硬直を考えて決められる時以外は使えず、アスナは攻め時を。アークは決め時を探り続けていた。
秒なのか分なのか、お互いに分からない程に時間が経過した時だった。意を決した様にアスナはアークが振り下ろした攻撃を剣で受けるのではなく、弾き返す。それはパリィと呼ばれる行為であり、タイミング良く弾く事で相手に大きな隙を作る事が出来る戦闘技術である。決して簡単に出来る事ではなく、パリィされたと同時にアークは隙を作らない様に距離を取ろうとする。不意ならば大きな隙を作っていた筈だが、いつかされる事は想定していたのだろう。だが離れようとしたアークにアスナが一気に迫る。
「これで!」
「! させない」
ランベントライトを輝かせて接近するアスナとアスナの接近速度から逃げられないと悟り、同じ様に赤い剣を光らせるアーク。そしてお互いに振るった剣が触れ合った時、技と技のぶつかり合いによって地面が大きな風圧と共に土煙を発生させる。攻撃を当てる事が勝利に繋がる為、連撃を放ったアスナと、それを相殺する為に連撃で対応しようとしたアークのぶつかり合う甲高い音が何度も響き渡る中。やがて静かになると同時に煙がゆっくりと晴れていく。2人の姿を確認できる様になった時、キリトが見た光景は……
「私の勝ち、だよ」
「……」
アスナの突き出しているランベントライトが防ぐ様にして構えられている赤い剣の刀身を貫き、その奥に立つ持ち主であるアークの肩を貫いていた。ゲームの世界故に痛みはない筈だが、それでも側から見れば痛々しい光景だろう。アスナの側で勝利を告げる表示が現れる中、貫かれた剣の刀身がその先から崩れていく光景を感情の無い瞳で見つめるアーク。勝者と敗者が決まった事で戦いは終わり、アスナはランベイトライトをしまうと同時に虚空を見ていたアークをその腕の中に抱きしめ始める。……アークの瞳に一瞬、微かに光が戻った。
「私はね、アークちゃん。貴女に救われたんだよ」
「ぇ……」
「この世界に閉じ込められて、自暴自棄になって。でもあの日アークちゃんに出会ったから、私はこうしてここに居られてる」
「…………」
「だから今度は私が救いたい。知りたいんだ、貴女の事を」
迷宮区から外に出たアスナのすぐ隣にはフードを被ったアークが下を向いてついて来ていた。逃げる気は無い様だが、まるで逃がさないとばかりにその片手はアスナに握られているアーク。そしてそんな2人の前を歩いているキリトはここに来るまでの間、2人を守る様に現れるモンスターを倒し続けていた。やがて圏内へと辿り着いた時、キリトはアスナに振り返る。
「俺はここで。今回の件は上手く誤魔化しておくよ」
「うん。キリト君、ありがとう」
「あぁ」
キリトはアスナに言った後に何も言わないアークを一度見てからその場を去る。気を利かせたのだろう。アスナはキリトにお礼を言った後、再び歩みを再開すると61層の宿屋を探し始める。その際、絶対に風呂の付いた部屋でなければ納得しないのはアークが入っていない事を想定しているからなのだろう。例え汚れなくとも、1日1回は湯に浸かりたいと思うアスナには大事な事である。
「まずはお風呂に入ろ? 話はそれからだよ」
宿屋を無事に見つけ出し、アスナはそう言って部屋の内装を確認した後にアークを連れて浴室へと入る。着ていた服をメニュー画面から操作して脱ぎ、下着の姿になった後にアークに振り返ったアスナは微笑みを浮かべながら声を掛ける。
「ほら、アークちゃんも脱いで? 一緒に入ろうよ」
「…………分かった」
アスナの言葉に悩む様に無言で居たものの、諦めた様に了承するとアークも同じ様に脱ぎ始める。フード付きの服故に隠れていた肌が一瞬にして下着姿になった時、アスナは目に見えてその表情を笑顔に変えた。無表情のままアスナと目を合わせられないのか少しだけ逸らされる碧眼は浴室の中を彷徨い、細く白い精巧な人形の様に綺麗な腕が下着で隠された胸などを更に恥ずかしそうに隠す。アスナがその時感じた思いをアスナ自身、この時まだ理解出来なかった。だが後にアスナは知る。今目の前にある存在に感じた感情は世間一般に『萌え』と言うのだと。
アークの手を引いて浴室の中心に入った時、下着姿から完全なる裸になった2人。何気なくアスナが暖かいお湯を出しながらアークに視線を向ければ、その柔肌が視界に映る。大事な部分は奇跡的に暖かいお湯が上げる湯気に隠れて見えないものの、その光景だけでアスナは幸せを感じ始めていた。明らかにアークに対して普通で無い感情ばかりを感じているアスナだが、それを指摘できる者はこの場に誰もいなかった。
「あ、アークちゃん。洗ってあげようか?」
「自分で洗う」
その身体に正当な理由で触れる為、そして長い間洗われていないであろう事から気分的に溜まっている汚れを落とす為に提案したアスナだが、簡単にそれは断られてしまう。一緒に過ごしていた時期の間も同じ様に提案したことがあるアスナだが、今と同じ様に尽く断られていた。無理に触れようとすれば場所が場所な為に同性であっても『ハラスメントコード』が出てしまう為、断られればアスナは見ている事しか出来なかった。
「……」
「……」
「…………見過ぎ」
「ちゃんと洗ってるか確認しなくちゃ心配だもん」
アークの身体を洗う事を諦めたアスナは洗っている姿を唯ジッと見続け始める。小さな手で自分の腕を洗うその姿は確かに微笑ましいものだが、視線を感じたのかアークが指摘すれば動揺する事も無くさも当然の様に答える。目を細めてジト目になりながらアスナを見るも、微笑み返すだけで止める気はなく、アークはやがてため息をついて自分の身体をしっかりと洗い続けた。
その後アスナも自分の身体を洗い、湯に浸かった2人は気分的にも完全に綺麗になって入浴を終える。そして宿屋のベッドに向かい合う様に座った2人。先ほどの様にほのぼのとした雰囲気は無く、アスナは真剣な表情で口を開いた。
「約束通り、教えて。アークちゃんが抱えてる事。どうしてそこまでして強くなりたかったの?」