DOG DAYS~ウチのお兄ぃ様~   作:Rodo

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EPISODE 3【ノエルの憂鬱】

エッシェンバッハ城/中庭渡り廊下

 

 

 

 

 

「まったく、わっちは何度も何度もお前の無茶には付き合いきれん!!早くわっちに楽をさせてくれや」

 

 

「まぁ、まぁ。そう言うなよノエル。幼馴染の中じゃないか」

 

 

「その幼馴染をこき使っているのは何処の何方かえ?『親しき仲にも礼儀あり』と言うです!!」

 

 

「畏れ多くも僕です・・・」

 

 

 

 

カトルの突然の戦興行宣言からはや二時間―――

 

 

 

 

 

クーベルの助けもあり、話を軌道にのせたカトルは一気に話を終結へ加速させた。

 

参加の目的、それに伴う自国の利益、参加方法、参加させる勢力・人数・規模などなど・・・

 

結果として戦興行を行うための案をある程度までまとめていた彼の提案に皆が理解を示す形で事なきを終えた。

 

しかし、依然として現在カトルの横に並んで歩いている幼馴染、ノエル・クグロフはエサを口いっぱいに入れたリスのように顔を膨らませていた。

 

弱冠7歳にしてパスティヤージュ公国の頭脳ともいえる晶術研究学院に入学、10歳で研究員の一員、13歳になった現在では主席研究員として学院を引っ張る立場にあり、晶術の研究とパスティヤージュの発展のために新しい技術開発に勤しんでいる。

 

ちなみに隣国ビスコッティ国立研究学院の主席研究士であるリコッタ・エルマールとはフロニャルド研究発表会で対面して以来の仲良しであり、良き好敵手である。

 

今では日夜、お互いに技術を研鑽し合って毎年開催されるフロニャルド研究発表会で開発したものを披露することが目標になっている。

 

そのおかげか『ビスコッティのリコッタ』、『パスティヤージュのノエル』と言えばフロニャルドで知らない人はいないほどまでに有名人でもあったりするのだ。

 

カトル自身も晶術騎士団に入団したのがちょうどノエルが晶術研究学院に入学した時と同時期である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――閑話休題―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼むから機嫌を直してくれよ~。あの話も進めて欲しいしさ」

 

 

「い・や・じゃ!!そもそも無理難題すぎるがや」

 

 

 

 

話は戻り、今だ絶賛喧嘩中の二人・・・

 

原因はというとカトルがノエルに新しい晶術剣用の武器の製作を依頼していたの

が事の発端であった。

 

元々、普通の武器では晶術剣として使用できないのをこれまでの試験結果から見出していたカトルは旅の途中で出会ったとある刀鍛冶に自分専用の剣を作って貰うようお願いした。

 

 

 

 

その人物とはイスカ・マキシマ―――

 

 

 

 

天下に名を馳せる刀鍛冶で、国宝級の刀を何本も製作している男性である。

 

そんな大層な人物に数年前、作って貰ったのが晶術剣『フロランタン』という二本の剣である。

 

これまで幾度となくカトルの窮地を救ってきた剣ではあるが、その刃こぼれ一つしない出来栄えに勝る武器は作れないとノエルが悲鳴を上げたのだ。

 

周囲が聞けば有名な刀鍛冶の刀にそんじょそこいらの者が作ったものが勝てるはずがないと間違いなく思うだろう。

 

だが、そんな中カトルだけはノエルにこの無理難題を頼み込んでいた。

 

そう、イスカ・マキシマですら製作不可能な武器。それは・・・

 

 

 

 

―――晶術と剣術だけではなく、紋章術も同時に使うことのできる武器

 

 

 

 

現在は武器の特性上、晶術と剣術の組み合わせしか出来ないのだがそれに今度は紋章術を組み込もうとしているのだ。

 

もし、それが本当に可能になれば想像も絶するような攻撃を生み出すことになるに違いない。

 

 

 

 

「お前さんは魔王ヴァレリーにでもなるつもりかえ。そんな力を追い求めたって仕方がないだろうがや」

 

 

「必要なんだよ、今のパスティヤージュには。ビスコッティにもガレットにも勝る力がね」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・」

 

 

 

 

黙り込む二人―――

 

 

 

 

ノエルにはカトルの思いが十二分に理解できたし、彼の思いも分かっていた。

 

 

 

 

(数年前のあの事件がコイツを変えたがや。何もできなかった自分を追い詰め、ここ1、2年で頭角を一気に現し始めて騎士団の頂点まで辿り着いたし、国内でコイツに勝てる奴はもういない。そろそろ俺自身も覚悟を決めないといけないときなんやろうな)

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

 

 

突然、足を止めてため息をつくノエル。もちろんカトルも足を止めた。

 

振り返って彼を見るノエルのその目は何時ものめんどくさそうな目ではなく、何か強い覚悟を感じさせる目であった。

 

 

 

 

「―――次回の戦興行までにお前さんの望み、出来るか分からんがなんとか形にしてみせるがや。これが今、わっちにできる最大限の譲歩じゃ」

 

 

 

 

そう言い終え、完成できるか微妙しゃがと付け加えた。

 

しかし、カトルにはその言葉で十分であった。

 

 

 

 

「ほ、本当か!!やってくれるのかノエル!?」

 

 

「わっちがお前に嘘をついたことがあったかえ?まぁ、楽しみにしときや」

 

 

 

 

そう言ってノエルはカトルに手を振りながら自分の戦場、パスティヤージュ公国・晶術研究学院の自室へと戻っていった。

 

その姿を見たカトルは嬉しさのあまり声を掛けられず、その場で彼に向って頭を下げてでしか感謝の気持ちを伝えることが出来なかった。

 

 


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