R団の3中隊長と不思議な少女~アローラ編~   作:長星浪漫

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書いているうちにやめどころがわからなくなり今回はかなり長めです


「一番道路のその先で」

 ミモザは〈マラサダショップ〉で四人分のマラサダと手持ち用のマラサダを選んでいた。ギルガルドなどの食事を必要としないポケモンを除いてもかなりの量になった。

 

「お嬢さん、大丈夫かい?」

 

 店員も心配そうだ。だがミモザは「大丈夫なの」とボールからニャオニクスをだした。

 

「にゃおにゃお、手伝ってなの」

「にゃ~お」

 

 一声鳴くと“ねんりき”で袋を持ち上げる。それを見て店員は「ほぉー」と感心した。自分達用のマラサダを持ち、店を出ていった。だが、出てすぐに先ほどのスカル団のうちの二人に行く手を阻まれた。

 

「…」

 

 ミモザは黙って目の前の二人を観察した。男女の二人で格好はほぼ一緒。手持ちのツツケラとヤングースを従えている。相手は自分の圧倒的有利を疑っておらずかなり余裕の表情だ。その証拠にさっきから男のほうが頭をぐりぐり動かしてめっちゃガンをとばしてくる。

 

「HEYヘーイ?うまそうなもんもってんジャン?」

 

 頭の動作に加え両手も動かし始めた。

 

「あたしらの事はわかってんだよね?ね?」

 

 女の方は高圧的にしゃべりかけてくる。

 

「…」

 

 ミモザは黙ったままだったが、その目には少しヤバめの光が宿っていた。そんなこととはつゆ知らず、だんまりをきめこむミモザを「怖じ気づいた」と思った二人はさらに調子づく。

 

「ブルってる?ブルってるんでスカ~!?」

「おとなしくあたしらの人質になりな!!」

 

 二人がツツケラとヤングースをけしかけてきた。ミモザは荷物を持っているので動けない。ミモザはため息をついた。

 

「はぁ…しょうがないの」

 

 ミモザは自分が持っている袋を真上に放り投げた。

 

「ん?」

「スカ?」

 

 スカル団二人の目線が無意識にそちらを向く。ミモザか上半身を低くし、背後に控えていたギルガルドが前に出る。

 

「“きりさく”」

 

 『ブレードフォルム』のギルガルドが剣の体でツツケラとヤングースを一閃、そのまま体の刃がない部分で男のスカル団員の頭を打つ。

 

「あぎゃん!」

 

 不思議な声をあげて男のスカル団員が気絶した。

 

「ちょ、え?…まっ…」

 

 女のスカル団員は目の前の状況についていけずパニックになっていた。すかさずミモザは女スカル団員にタックルし、バランスを崩したところで女スカル団員の右手と胸ぐらをつかみ、体を反転させる勢いで女スカル団員を背負い投げた。

 

「あいだぁ!?」

 

 女スカル団員は背中を思いきりうち痛みに悶える。その間にポケットから銀色に光るものをだし女スカル団員の首もとにあてる。

 

「動かないほうがいいの」

「ひぃ…!」

 

 女スカル団員は首もとにあたるひんやりした鉄の感触に短く悲鳴をあげた。

 

「うわぁ!?」

 

 隣では男スカル団員が首もとにギルガルドの刃が当てられているのに気づき叫び声をあげる。ミモザは無表情で二人に告げる。

 

「おとなしくミモザの言うことを聞けばなにもしないの」

 

 ミモザの言葉に二人は激しく頷いた。

 

 

 

 路地裏での戦いも終わりが近づいていた。

 

「ゲンガー!“きあいだま”!」

「エレキッド!“スピードスター”!」

 

 戦いというよりも一方的な蹂躙だった。スカル団の手持ちは残りわずかなのに対してケンとリョウは無傷だった。スカル団は焦っていた。

 

「お、おい、こいつらただの観光客じゃねぇのかよ!」

「落ち着け!二人がそろそろ来るはずだ!」

「それまでなんとか持ちこたえろ!」

 

 その時、路地裏に入ってくる影が三つ。

 

「やっと来たか!」

 

 スカル団が希望に満ちた顔でその影のほうを見た。するとその表情は一瞬でドーミラーみたいに青ざめた。

 そこにはミモザに付き従うようにスカル団の二人がマラサダの袋を持っていた。その二人をギルガルドと先程ミモザが女スカル団員の首に突きつけたものを預かったクレッフィが刃を突きつけている。

 

「こ、このガキやべぇよ!」

 

 男スカル団員は泣いている。ミモザは二人をそのままにしハリーを睨み付けた。

 

「ハリー?この二人がいなくなったことに気づいてたんじゃないの?」

「…まぁ、一応ね。でもミモザなら大丈夫だったろ?」

「はぁ、おかげさまで…なの」

 

 ミモザはため息をはきながら二人に向き直る。

 

「運んでくれてありがとうなの。その紙袋をそこの男に預けるの」

 

 人質のスカル二人は言われるがまま紙袋をハリーに渡した。渡しおえるとギルガルドとクレッフィから解放した。

 

「もう行っていいの」

「「ひいぃぃ~!」」

 

 スカル団の二人は転げるように仲間の元に走っていった。その姿に一人のスカル団員かわあきれた声をだす。

 

「おいおいお~い!あんなガキ一人になにをてこずって…」

「「お前はあのガキ…あの女の子の怖さを体感してないからそう言えるんだ~!!」」

「え、ご、ごめん」

 

 二人が必死の形相で声を揃えてキレてきたので気圧された団員は思わず謝る。二人の話は続く。

 

「なんの躊躇もなくギルガルドに切りかからせてきたんだぜ!?」

「あたしなんか子供とは思えない力で背中から地面に叩きつけられたかと思ったら、あの子が首もとにナイフを押し付けてきたんだよ!!」

「ああ!それに表情ひとつかえずに『このまま首をかっさばくぞ?』って言ってきたんだよ!」

「そうよ!それでお気にのタンクトップを少しずつ切り始めたのよ!」

「いや、そこまでやってないの」

 

 途中から誇張が入ってきたのでさすがに割り込んできたミモザ。話していた団員二人は「ヒィッ」と小さく悲鳴をあげて話すのをやめる。ミモザは右手を腰にあて左手にフォーク(・・・・)を持って振っている。

 

「さっき首にあてたのはこれなの」

「は?フォーク??」

「う、うそだ!」

「じゃあ聞くけど、首にあてられたものをしっかり確認したの?」

「え?えーっと…」

 

 団員二人は考え込む。しかし、首にあてられていたものがなんなのか確認した覚えはなかった。

 

「あの状況で首に相手に見えないように“ナイフのようなもの”を押しあてれば、相手が混乱しているほどそれを“ナイフ”と思い込んでしまうことがあるの。まぁ、肝が座った相手には通用しないんだけど…効果バツグンだったの」

 

 最後の方は笑いをこらえるミモザ。それを見てオクタンのように顔を真っ赤にするスカル団員二人。衝動的に腰のボールに手をかけようとした瞬間、その手をニャオニクスの“サイケこうせん”が襲う。

 

「きゃあ!?」

「つぅわ!?」

 

 手からボールを落とす二人、一方ケン、リョウ、ハリー、ミモザの四人はエレキッド、スリーパー、ドラピオン、ニャオニクスをくりだし攻撃の体勢をとっている。ケンが進み出てスカル団を睨み付ける。

 

「まだやるか?俺たちは構わないが?」

「くっ!覚えてろ!!」

 

 よく聞く捨て台詞を残しスカル団はそそくさと走っていった。ミモザたち四人は手持ちをボールに戻した。

 

「アローラに着いて早速手荒い歓迎だな」

「肩慣らしにもならなかったぜ」

 

 物足りなそうに笑う二人をあきれた様子で見るミモザ。

 

「いきなり面倒ごとに巻き込まれるのはよくないの。もっと穏便にすますべきなの」

「そんなこと言って、ミモザもかなりやってたみたいじゃん?」

「…」

 

 ハリーにからかわれ「ふぅ…」とため息をついたミモザはおもむろにマラサダが入った袋からマラサダを一つ取り出した。それを片手ににっこり笑う。

 

「ハリーの分のマラサダなの」

「ん?いや、今はいい…」

「ふん!」

「むぐっ!?」

 

 強引にハリーの口に突っ込まれるマラサダ。驚き固まるケンとリョウ。ハリーの顔がみるみる赤くなり汗が吹き出してくる。

 

「辛ーーーーーーーー!!」

 

 ハリーが食べたのはミモザが頼んで作ってもらった《マトマのみ》やタバスコをたっぷり使った激辛マラサダだった。辛さでのたうつハリーを冷たい目線で見下ろしながら

 

「ミモザをからかった罰なの」

 

 《ミックスオレ》をハリーの目の前におきながらほとんど無表情でポツリと呟くと、ケンに残りの袋を渡して路地裏を出ていった。その背中を見ながらケンとリョウは《ミックスオレ》をがぶ飲みするハリーの肩を叩く。

 

「なにしたんだお前?」

「はぁっ、ふぅ…いや、気にしないで…」

 

 先に買っておいた《おいしいみず》も飲み干しやっと落ち着いたハリーはすっくと立ち上がり、ケン、リョウとミモザの後を追った。

 四人は道なりにハウオリシティを進み、ポケモンセンターの前を通りすぎ、ブティックやビーチに気を引かれながらも進み、ハウオリシティはずれのトレーナーズスクールを通りすぎ、一番道路をずっと奥まで進み、吊り橋を渡ってすぐの分かれ道を右に進んだところに目的地はあった。

 

「ここだ」

 

 そこにはポケモンセンターくらいの大きさのログハウスがあった。

 

「で?誰がここにいるんだ?」

「おれは聞いてないな、リョウは?」

「俺も聞いてない、ミモザ?」

「聞いてないの、人の気配はちゃんとしているの」

 

 とりあえず中に入ろうと扉に近づいた時、近くの草むらから何かが“ころがって”きた。

 

「フィフィ、“フェアリーロック”!」

 

 クレッフィを出し動きを止めにかかる。相手はビシッと動きが止まった。幾つか穴の空いた赤い壺のようだった。すぐにハリーが追撃する。

 

「ドラピオン!“シザークロス”!」

 

 ドラピオンの強力な一撃が繰り出される。攻撃を受けた壺のようなものには傷ひとつつかなかった。

 

「ドラピオン!もう一度だ!」

 

 ドラピオンがもう一度“シザークロス”を叩き込む。しかし、やはり傷ひとつつかない。と、ドラピオンの攻撃のあとその赤い壺が急に消えた。

 

「ん!?どこにいった!??」

 

 ドラピオンも辺りを探しているとケンがそれを見つけた。

 

「ドラピオンの左手だ!」

 

 全員が一斉にそこを見ると確かにドラピオンの左手にさっきの壺が“からみついて(・・・・・・)”いた。壺のようなものの穴から黄色い触手のようなものが伸びてドラピオンの左手をがっしりつかんでいる。

 

「ドラピオン!ふりはらえ!」

 

 ドラピオンは必死に左手を振り回すが全く取れない。やがて壺のようなものの正体がわかった。

 

「ツボツボなの!」

 

 ミモザが名前を叫ぶのと同時にツボツボはその顔を見せる。つぶらな瞳をニヤリと歪めながら。そしてどんどん体を伸ばし“からみつく”範囲を増やしていく。

 

「ドラピオン!早く振りほどけ!」

 

 ドラピオンは必死に腕を振り回すがツボツボは全く離れない。それどころかどんどんドラピオンの腕を締め付け始める。

 

「ギーーーー!!」

 

 苦しむドラピオン。ハリーは焦り始める。

 

「どうして振りほどけない!?」

「ツボツボはそんなにパワーはないはず…そうか!」

「“パワートリック”か!!」

 

 “パワートリック”。物理防御と物理攻撃の数値を入れ換える技。ツボツボは攻撃や素早さこそないが、防御力に関してはトップクラスである。その防御力が攻撃力に変化したのならばそれはかなり恐ろしいことになる。

 ツボツボは“パワートリック”に気づかれたのと同時にさらに力を込める。ドラピオンの爪にひびが入る音がした。

 

「ドラピオン!」

「早く攻撃するの!“パワートリック”をしたってことは今の防御力は低いはずなの!」

「わかった!ドラピオン!“つめとぎ”!」

 

 ドラピオンが右腕を研ぎ澄ます。

 

「“どくづき”!」

 

 ドラピオンの鋭い爪がツボツボの黄色い本体を捉えた。その部分が削り落ちる。

 

「よっしゃあ!」

「…あ!まだなの!」

 

 ミモザの言った通りツボツボのダメージを受けた部分が一瞬で治る。

 

「“じこさいせい”!!」

 

 体力を回復する“じこさいせい”。ツボツボへのダメージはすべて回復していた。だが問題はそこではない。

 

「なんでだ!?ダメージがあんまりなかったぞ!?」

「物理防御があまり下がっていないのか…?」

 

 よく見るとドラピオンへのダメージ量が増えているようだった。まるでドラピオンの物理防御が下がったようだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「“ガードシェア”!」

 

 全員がツボツボが発動した技に気づく。ガードシェアはお互いの防御力を足して分け合う技だ。“パワートリック”で下がった防御力を“ガードシェア”でわけあたえたことによりドラピオンの防御力が元々より下がってしまったのだ。

 

「ギギギ…」

 

 ドラピオンがさらに苦しみ始める。腕からミシミシときしむような音をたてはじめる。

 

「しかしここまでの戦術を野生のポケモンができるのか?」

「そもそもツボツボはここまで好戦的じゃないはずだぜ」

「誰かの手持ち?」

「いや、そんなことより俺のドラピオンがヤバイんだけど!?」

「それなら安心するの、もう倒す手だては考えているの」

「え!?」

 

 ハリーはポカンとした表情になった。だが、他の二人は察したようで、マルマインとゲンガーを繰り出した。

 

「突然襲われたからテンパっちまった」

 

 ケンがガシガシと頭をかく。

 

「よく考えたら簡単な方法だった」

 

 リョウがニヤリとハリーに笑いかける。それを見たハリーは二人が出した手持ちでなにかを察した。

 

「早めに対処を頼むぜ!もう体力がギリギリだ!」

 

 少し涙目のハリーの肩を軽く叩きミモザ。

 

「大丈夫、すぐに終わるの」

 

 ミモザが思いきり手のひらを打ち合わせた。その音にツボツボが反応し顔をそちらに向けた。それを見計らってケンとリョウが攻撃を始める。

 

「マルマイン!“ソニックブーム”!」

「ゲンガー!“ナイトヘッド”!」

 

 二匹が放った技はよそ見をしていたツボツボにあたり、防御力を無視してダメージを与える。しかし、“じこさいせい”ですぐに回復してくる。しかし…

 

「…??…!!?!」

 

 体は再生しなかった。何度“じこさいせい”を行っても発動しない。混乱していると後ろからカチャリとなにかが閉まるような音がした。ツボツボがそちらを振り返るとクレッフィが“かいふくふうじ”を発動していた。

 

「防御力無視の技で体力を確実に削り、“かいふくふうじ”で回復をできなくする…こんな簡単なことにすぐに思い当たらなかったなんてまだまだミモザも勉強が足りないの」

 

 ミモザが反省している間にも攻撃は続き、とうとうツボツボかわドラピオンの左手からはずれた。すぐさまハリーはドラピオンを戻した。ツボツボは目を回して文字どおり伸びている。

 

「なんとか終わった…」

「いや、まだだ。念のためツボツボに止めをさしておこう」

 

 ケンがエレキッドを従えツボツボに迫ろうとしたその時、

 

「待つんだなー!その必要はないんだな!」

「誰だ!?」

 

 突然聞こえた声に全員に緊張が走る。それぞれ動ける手持ちを出し四方を見回しているとログハウスの扉が開いていてそこに大柄な一人の男が現れた。ミモザ以外の三人はその人物が誰だかわかると反射的に背筋を伸ばした。

 

「まさかあなたがここにいらっしゃるとは!」

(…誰なの?)

 

 日の入りが近づき真っ赤な夕日を浴びなからその男はツボツボをボールに戻した。そしてのっしのっしと入り口の小さな階段を降りてくる。ケン、リョウ、ハリーの三人はビシッとした姿勢を崩さないが、ミモザはギルガルドとともにまだ警戒している。大男は階段を降りると四人の前に止まり、まるでフランケンシュタインの怪物のような顔をくしゃっとほころばせながら自己紹介をした。

 

「お前たち三人は久しぶりなんだな、そしてその女の子がボスの言っていたボスの養女(むすめ)のミモザなんだな?オデはかつてR団の《デオキシス捕獲作戦》の時に三銃士としてナナシマ襲撃に参加した、オウカなんだな」

「「「お久しぶりです!オウカ様」」」

 

 ケン、リョウ、ハリー三人が声をハモらせて敬礼する。ミモザは警戒したままだが返事を返した。

 

「R団<R.S.E>の一人、ミモザなの」

「よろしくなんだな、ミモザちゃん」

 

 またまたくしゃっと顔をほころばせながら手を差し出してくる。ミモザは恐る恐るその手を握り返した。といっても相手の手が大きすぎてミモザの手を完全に覆ってしまっていたのだが…、ただ、ミモザはその手越しにオウカが自分に対して敵意を持っていないのを感じ取ったのでやっと警戒が解けた。

 オウカは四人の荷物を軽々持ち上げると中に入るように促した。

 

「さっ、中に入るんだな。晩御飯は準備できてるんだな~」

 

 そういうとオウカはのしのしと中に入っていった。ケン、リョウ、ハリー、ミモザの四人もそれに続いて中に入っていった。

 

 




今回登場したオウカは原作のナナシマ編に登場したキャラクターです。
原作ではナナシマの戦いのあと行方不明となっています。次の話で詳しく書く予定ですが、この小説のなかでは「ナナシマの戦いのあとに気絶しているところをサカキに助けてもらった」というオリジナルの設定でいく予定ですので、何卒お願いします。

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