ボツ理由:シチュエーションに持ち込むまでの間で力尽きた
-1.園田海未ちゃんとのおしくらまんじゅう
乾燥。悴んで曲がりにくい指先を、ダメ元で擦る。……たいして効かない。圧倒的低温は屋内だろうが極寒を生み出すらしい。我々の住居は東北地方でもないのに、なんでも外の気温はマイナス数度とか。
「昨日以上ですね」
その威力ときたら、つい最近まで「体が鈍りがちな季節だからこそ」……なんて息巻いていた海未の強い心すらをも若干折っていた。
トドメは
「買いに――」
行くか、と提案しかけて言葉を引っ込める。そんな安易に突っ込んでいけるものだろうか? いいやいけない。
「しかしこのままでは……」
彼女が唸る通り、現状を変えなければ震え続けるしかない。食事――は、一時温まるだけで効果切れも早い。こたつ――ああ、そこにあればよかったのにな。引っ越す時に海未が運んでくるか訊いてくれたが、「そんな大きいものめんどくさい」とか突っぱねた己を粛清したい。
一応エアコンの暖房モードを展開してはいるが、微妙に気力を削ってくる肌寒さは未だ拭えず。万事休すなのか……?
「やはり覚悟を決めて、動くしかないのでは?」
「あーそうだねぇ。買いにいくかねー」
ぬるい風が当たる位置に逃避がてら陣取っていたら、いつの間にか防寒具を羽織った海未が外への突撃を促してきた。ちょっと目をキラキラさせている。察するにまあまあ積もってきた雪を眺めるうち、一周回って高揚してきたといったところか。確かに雪が首都圏を染めるのは久しいことだが……。
「決まりですね! さぁ行きましょう!」
「んぁーちょいと待って準備するでぇ」
「あの、寝転がった様にしか見えないのですが」
「こうすることで出かけるだけの力がどんどん湧いてくるんだ。溜まるのは5年後くらいかな?」
そう。玄関方面を指差す彼女と、爺さんのような口調で気だるく返す氷点下の奴隷とには明確な温度差があった。
「往生際が悪いですよ!」
「うぎぎぎ……」
「立ってください~!!」
「い゛や゛だ ぁ゛ぁ゛」
「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「じっとしていては寒いままですよ!」
「ぐおおお、寒くてなにが悪いんだよぉぉぉ」
相反する二人の戦いは加速。やがて痺れを切らした海未がとうとう最強の
とはいえ、もがけばもがくほど行きたくなくなってくるばかり。ささやかな抵抗は続く。
「動きさえすればいいんだ、外に出ていかなくたってじっとしてなきゃいいんだ……っ!?」
そうしてぼやいたところだった。天啓が下りたのは。
「海未」
「やっとその気になりましたか」
「ああ、動こう」
すぐにでも実行すべく、意気揚々とした返事をするとともに海未との距離をゼロまで――互いの体の側面が触れる地点まで詰めた。
「……あの、なぜくっつくのですか?」
「あたためあおう」
逮捕レベルな口上なのはともかく、とっても真面目に切り出す。いまいちピンときていないらしい海未は、突然の大接近にやや不快げに(「やや」とつけたのは我がメンタル予防線)顔を歪める。が、めげるつもりはない。
「回帰ってやつかな? 今しがた……もはや遠い昔に忘れ去られたと言っても過言ではない、幼少の伝統を再び興そうと思い至った」
「えっ?」
「フフフフ……」
まだ察しがつかず、素で首を傾げる海未。間を持たせるため適当に笑ってごまかすものの、早い所彼女にはハッと気付いていただきたい。無駄に格好つけた分恥ずかしいから。
「お、おしくらまんじゅう」
「……なるほど」
微妙に気まずい雰囲気に耐えられなくなったので降参気分のまま小声で告げると、海未は神妙な面持ちになり、やがて俯いた。前髪が瞳を隠したことで感情が読み取れなくなる。
長い沈黙が流れる。さすがの海未も心底反応に困ったのだろうか。あるいは、呆れのあまり物も言えなくなったのかもしれない。今更ながら撤回したくなってくる。普通大人になったらやる機会などあるまいて。おしくらまんじゅう。
そんな焦燥の果てに、一際背中辺りが冷え冷えしてきた頃合いだった。
軽くふらついた。目眩かと頭を押さえてみるも、ぶれる視界の先で原因の正体を知る。
ぐっ、と弱く。けれどもしっかりと反対方向から、熱のある力が体の側面を押してきたのだ。
……少し考えて。今のが現実だったのかどうか見定めるべく、こちらからもおそるおそるやり返してみる。かけた重力は彼女の着る防寒具の膨らみを潰し、人間的な柔らかみへ到達したのち、温もりある摩擦を起こした。
すると、また即座に力が触れ合った部分から加わる。一度目より強く。弾くように、かつ拮抗するように。
我ながら鈍いもんだ。さっきの沈黙はああそうだ、イエスのサインだったのか。何より確証は、海未の頬が示している。
「その手がありましたか……!」
うっきうきになって緩みきった彼女の頬が。暖をとるというよりは、大義名分を得たようなニヤつきは、どこか悪戯っぽい。
「いくぞー?」
「いつでも来て下さい」
「せーのっ」
「「おしくらまんじゅう押されて泣くな! おしくらまんじゅう押されて泣くな! あんまり押すとあんこが出るぞ!!」」
提案者であるこちらはもちろん、海未自身も朧気な幼年期以来だったに違いない。押して返しての応酬は、ひどく拙くて。
「強く、お、押しすぎですっ」
「そうか? 海未が……っ、うおっ、はしゃいでるんじゃなくて?」
「本当に、っん、久しぶりですからっ。だいたい、そういうあなただって!」
でも今日はそれで良かった。彼女の過ごしたかつての冬景色を、垣間見たような気がするから。
「うぉおいやめて倒れる強い強い!」
「ふふっ、だいぶあたたまってきましたね。ここからが本番です!」
「遊び方違うからぁぁぁ」
群青の満開を味わった、そんな真冬の日だった。
後に思いきりバランスを崩して苦笑いを交わしたのもここだけの話。
ピュアにおしくらまんじゅうする海未ちゃんを表現したかった。だがイメージと筆力が足りなかった許せ