猿と魔王の二重奏《タッグマッチ》 作:ジェリド・メサ
「やはり俺を見てはいないのだな。マクギリス…。」
この掛け合いほんと好き。
「みんな、今日の練習はここまでよ」
そう言って私は、今日の練習を締め括った。皆になるべく早く片付けをするように指示しながら、私もみんなの片付けを手伝いに行く。
「ふぅ〜…、今日も疲れたねぇー。友希那もおつかれ〜、紗夜もね〜」
「今日もおつかれ、リサ」
「ええ。今井さんもお疲れ様でした」
「今日のりんりん調子良かったんじゃない?なんかいつもよりもドーンって心に響いてきたよ〜!」
「そうね、そこは私も思ったわ。まだまだ満足は出来ないけれど、この調子よ。燐子」
「そ、そんなこと…。ありがとうございます、友希那さん…。あこちゃんもよく分かったね…」
昔の時とは――結成当初の頃とは違って、このバンドには会話が多く生まれるようになったわ。元々このバンドはただただ高みを目指し、一つの目標のために突き進んできたバンドだった。私情を挟まず、音楽の技術のみを向上させ続けて、そして夢へと至る。そういうためのものだった。けれど皆も、そして自分も。何かしらの思いをこのバンドの中で溢れさせていった結果、一度このバンドはもろくも崩れていった。
けれど、皆の心の内をさらけ出して一度壊れたはずのこのバンドは、新たなRoseliaとなってその骸の内から蘇った。メンバー間の繋がりをより強固なものとして、この5人でのみ奏でられる音を目指す。
練習後の会話が増えていったのも、練習中でも笑顔が見られるようになったのも、きっとこの出来事があってから、やっとの事で絆の重要性に気づいた私達のひとつの回答なのだと、私は思っているわ。
そういったアクシデントを乗り越えながら、私達は数々のライブをして行くうちに…。
「では皆さんも無事に進級出来たようなので、今日は行きますか?」
「そうね、不思議と随分と行っていない気がするわね」
「ま〜たポテトかぁ〜、こりゃぁ〜太っちゃうぞ☆」
「☆を付けてまで言うことじゃ…」
反省会も兼ねていつものファミレスへと、意見が固まった――と思っていたら。
「あー、ごめんなさい…。みんな…、今日はあこ行かなきゃ行けないところがあって…」
「そう…、それなら仕方ないわね」
「……、ポテェ…」
「?氷川さん…」
「あこ…、最近そういうの多くない?何かあったりした…?」
リサはあこに優しく問い掛ける。恐らくは、他のみんなも同じように思っている事を。
そう、最近あこは練習中はいつも通りなのだけれど、その後の反省会だったり、ただの外食の時もあるけれど、そういうのを欠席する事が多くなった。だからそういう時は燐子に頼んで、反省会で出た意見等を代わりに伝えてもらう。
でもそれはバンドのリーダーとしての私。本当はとても心配で、裏で何かあったのではないかと気が気ではない。それでもあこは、反省会に出れない事を負い目に感じているのか、バンド練の前に一人でスタジオを借りて振り返りをしている事が多くなった。そのおかげか、あこのドラム捌きはだんだんとレベルが上がっているのを、私も身に染みて感じているわ。――熱心なのはいいけれど…、でもやっぱり心配になってしまうわ…。
「え?ううん!何か悩みとかじゃないよー!ちょっと行かないと行けないところがあるだけだもん!」
「あー、そっか…。それならいいんだけどね〜…」
「何にせよ、気をつけるのよあこ。最近はおかしな人間も増えてきているから…」
「はい!今日はホントにごめんなさい…、お疲れ様でした!」
そう言ってあこはスタジオを後にしていった。少し話をして見た感じではいつも通りのあこの様だったわ。空元気という風でもなかったし…。
「…どう思う…、みんな?」
「そうですね…、無理をしているとは思えませんでしたが…」
「で、でも…、やっぱり心配です…」
「それはアタシもかな…」
やっぱり心配に思う気持ちはみんな一緒だったようね…。それが分かっただけでも、今のRoseliaが昔とは違っている事が実感出来るわ。きっと前までの私では、それよりも自分の技術が優先だったでしょうから。少しずつでも私達は変わることが出来て――
「そうだ!いっその事、今日あこの後をつけてみない?」
え、何かしらリサ?おかしな事を言わなかったかしら?
「今井さん!さすがにそれは…」
「いえ、私は…賛成です…」
「白金さん!?」
あら、何だか不思議な流れになってきたわね。確かにあこを心配に思う気持ちはみんなと同じ、それならそう言った提案が出てくるのも納得出来るわ。
「そうね、あこが練習後の集まりを一番楽しみにしているのはみんな知っているでしょう?そのあこがそれを欠席してまで行く場所を、私は突き止めたいと思っているわ。みんなは、どうかしら…?」
「友希那の言う通りだよ!」
「友希那さん…。行きましょう…!」
「はぁ…。正直こんなストーカー紛いの事はなるべくならしたくはありませんが…、私も心配ですからね」
よし…、この先の方針は決まったわね。ついさっき出ていったばかりだから、まだ遠くに入っていないハズ。
「まずはあこを見つけるわ。みんなあこを見つけたら連絡して頂戴!それじゃ、行くわよ!」
その瞬間、4つの流星が1つの彗星を追跡し始める…!
★ ☆ ★ ☆
『ゲームスポット・サファリパーク羽丘』は、つい3年前に開店したまだまだ新しい部類のゲームセンターだ。子供も入りやすいように可愛らしい動物の装飾が外装に多く施されている他、店長の趣味で地下にはそれなりの規模を持ったライブハウスを併設している。
さて店内を見ていこう。ライオンの口を模した入口を潜れば、ゲームセンター特有のタバコ臭さがお出迎え――はしなかった。ここは完全分煙制のゲーセンなので喫煙室が設けられているのだ。
一階には前述のような子供に親しみやすいメダルゲームや、カードを集めて戦うようなアーケードゲームなどが多く設置されている。なので親子連れや、小学生くらいの子供をよく見かけたりする。その他には御老人の方々もちらほらと言ったところか。
二階はいかついオッサン達の溜まり場、麻雀コーナーなので無視。
さて、三階だ…。
ここには大きいお友達向けのアーケードゲームが多く並べられている。ガンスト、鉄拳、デシデア、星翼など様々なゲームが、やってくる客を惹き付けるために爆音のデモムービーを流しているためやっぱりうるさい。
――が。
その全てを凌駕しているゲームコーナーが一つ…。この元の作品は好きでも、このゲームは嫌いという人も少なくは無いだろう。ただ、ハマったらなかなか抜け出す事が出来ないという…。
「ヤッタァー!ブッパァー!」
「ブッパ見てから盾余裕でしたわw」
「やっちゃってください!(Z)バーサーカーさん!」
「俺を見ろぉぉぉぉ!!」
まだ他のコーナーの方が静かに聴こえてしまう不思議な異空間。
あこちゃんと同じバンドの仲間だという女性達に――その内の二人くらいは知っている人物だけど。湊友希那と今井リサは俺とクラスが一緒だからな。――このゲームセンターの案内をしていたら、なんか彼女たちの顔がどんどん青ざめていくのが見て取れた。何故かって、そりゃ…。
「ヤッタァー!ブッパァー!」
「ブッパ見てから盾余裕でしたわw」
「やっちゃってください!(Z)バーサーカーさん!」←ここあこちゃん
「俺を見ろぉぉぉぉ!!」
えっと…、まぁ、そういう事だよね…。
★ ☆ ★ ☆
「ねぇ…、たいぞー…。あこってさ、ここにはいつから来てるの?」
アタシは同じクラスであり、ここでバイトしているらしい彼――吉崎泰三、みんなからはたいぞーと呼ばれている――にそう尋ねた。学校でも彼とはよく話をしたりするので、そのままの調子で馴れ馴れしく話を振った。
「んーあー…、これ言っていいのかな…」
「出来れば教えて欲しいわ。お願い、吉崎さん」
友希那も興味があるみたいだね…。まぁそれはそうだよね、私達よりも二つも歳が下なのにこんな場所に出入りしているんだから、何か裏があるのかもって疑っているのかもしれないし…。
「んー、そうだな…。2年半くらい前だったかな…」
「それって…!Roseliaが結成してから…」
「あまり…、時間が経っていませんね…」
Roseliaが結成して少し経ってからこのゲームセンターに通い始めているらしいあこは、このゲームでは相当な腕前がある事や、他の色々なお客と一緒にゲームをするという『交流会』というものに数多く出席しているという事を、アタシ達は初めて知った。
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なんか…、あからさまに戸惑った顔してるんだよなぁ…。湊も今井も…、いやその他のロングのライトグリーンの髪の女の子や、その隣の黒髪ロングの女の子もだけど。いやまぁ、見知った人の新たな一面が発覚すればこうもなるのかもしれないけどさ。
「えっと、それで俺はどうしたらいい?あこちゃん呼ぶ?」
「…いいえ、大丈夫よ。だって、あんなにも楽しそうにゲームしているもの」
「…うん、そうだね〜」
「しかし、本当によかったです…」
「え?何がですか…?あー…えっと、氷川さん…で合ってましたよね?」
「!何故私の名前を…!?」
うろ覚えのままライトグリーンの彼女に問い掛けてみれば、逆に物凄い剣幕で迫られてしまった。すっごいいい匂いがする…、じゃなくってだねぇ!
「あこちゃんに誘われて、Roseliaのライブをさ、何回も見に行ってるからさ、そこで覚えたんだよ…。ちなみに湊が一人で歌を歌ってた頃からね」
「あ…、そうだったんですか…。それは失礼しました、そしてありがとうございます」
「ちょっと待ちなさい。私が一人で歌っていた頃から見ていたの?」
「うん、そうだよ。あこちゃんに一緒にね。隣のあこちゃんが凄い凄いって言っててさ、『いつか湊さんとバンドでもやれたらいいなぁ!』ってよく言ってたんだよ。俺もすっごい鳥肌立っちゃってさぁ〜!それからファンになっちゃったよ」
「……!」
おおぅ、見るからに湊の顔が真っ赤になっていく…。なんか嬉しさと恥ずかしさがミックスされた顔になってるよー。確かに俺もすっごい恥ずい事言ったけども、本人の前で、正面向かって。
「……あ、ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「!聞こえてたの…!?」
「すっごい小さな声だったけどね…」
あ、また顔真っ赤になった。可愛いなこの子、学校じゃあんまり表情変わらなくって、正直怖かったんだけど、全然女の子らしいとこあるじゃんか。なんだか安心した。
「コラ!うちの友希那を口説かないで貰えるかなっ!」
「あははは…、これは失礼しました」
ニヘラと笑いながら今井が茶々を入れてくるのを、軽く左へと受け流していると。その左の方向から、ちっこい少女がやって来た。
「たいぞーさん!あこと固定してくれませんか〜!…あれ?」
「「「「あ…」」」」
「あー…、これはもしかしなくてもやらかしちゃったやつか…?」
ここでで合わせるべきではない5人が集まってしまっていたのだ……。さて果たしてどうなる宇田川あこ!
あこもこういうカッコイイセリフが言ってみたいなぁ!
300年だ…、もう十分に休暇は楽しんだだろう…。アコニカ・カイエル…。とかでいいんじゃないかな…?