猿と魔王の二重奏《タッグマッチ》   作:ジェリド・メサ

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サボっていた

池袋のバーサーカー


『許されざるいのち』



苦味と甘さ

 

 

今の時代にはそこそこ珍しい、知る人ぞ知る落ち着いた雰囲気の喫茶店。

 

『羽沢珈琲店』

 

ここの店長が長年に渡って研究を重ねて編み出したという、オリジナルのコーヒーを喉に注ぎ込んでいく。

 

――めっちゃ美味いんですけど……!

 

偶に家にいる時に飲むぐらいなので、別にコーヒーにうるさい訳じゃないけど、それっぽい雰囲気を醸し出しながらまたコーヒーを一口啜る。あー……、これやばいわ……。

 

スーパーでよく見かける少し高めのコーヒーなんかじゃ、比べるのも失礼に当たるレベルだろう。それよりも安価でかつその数倍も美味いコーヒーなのだ。あぁ……、俺の身体にきっつい苦味と、その奥にある旨味が染み込んでくるのを感じた。

 

いやごめんなさい正直舐めてましたわ。あの、なんだ……。巷で流行ってんのか知らんけどスターバックスなんたらとかで飲めるやつが、コーヒーじゃねぇんだってすっげぇ実感出来たわ。この味覚えちゃったらあそこに二度と行けなくなるわ。

あー、あれだ。次郎とかのラーメンがラーメンって名前の食い物じゃなくって、『次郎』っていう次元を超えた食い物っていうアレと同じ感覚がする。次郎を下に見る訳じゃないが、長年の経験が蓄積された味だって感じたな……。いやーすっげーわ――

 

 

「何コーヒー飲んで落ち着いてんだあんた、いや確かに美味しいんだけどさ」

 

「あー……、うん」

 

「そろそろ話して欲しいんだけどな……、あことの関係を、さ」

 

赤毛の女の子の威圧感もりもり、かつ静かな言葉によって一気に現実に引き戻された俺。

 

あこちゃんの案内の元、やって来た喫茶店の奥の方へと案内された俺とあこちゃん。そこに加えて店の入口で鉢合わせた赤毛の女の子とピンク髪の女の子も一緒に。赤メッシュと灰色の髪の女の子は付いてこなかった、興味無さそうな顔してたしそういう事でしょ。

 

しっかし、話せって言われてもなぁ……、もはや未来見えたぜこれ。多分返答に関係なくたんこぶ出来るやつだわ。やっぱりエピオンのゼロシスじゃ未来は見えても、敗北する未来しかを見せてくれないみたいですね……。

 

 

なに、バカ正直にゲーム友達ですってか?そう言えってのか。年齢差幾つあると思ってんだ、2つだぞ!?うーん、……あんまり差が無かったな。

でもそれだけ言ったところで信じてくれるかな…?多分無理臭いぜこの空気感じゃ。さっきからガンガン視線ぶつけてきてる女の子二人が、だんだんと目付きを強ばらせてるんだもん。

 

あ、でも席の反対側に座ってる赤毛の子はともかく、その隣に座ってるピンク髪の子はただ楽しんでるだけっぽい。目が笑ってるのを顔全体を硬直させることで、なんとかカバーしようとしてるのがバレバレ。

 

「!………!」

 

「えぇ……?」

 

目を動かすだけで盗み見ていたってのに、何故か気づかれてしまった。むむっとした顔でこちらを睨んで――見つめてくる。睨んでいるつもりかもしれないけど、迫力が全く無かったのでただただ可愛いだけ。あとおっぱいも大きい。すごいなー。

 

「えっと……、……あのね!お姉ちゃ――」

 

「あこは静かにしてろ。あたしは今、こいつと話してるんだ」

 

「あ……、うん……」

 

なんとかフォローを入れようとしたと思われるあこちゃんは、俺が今対面しているお姉ちゃんによって会えなく先落ち。一人でこの強敵と立ち向かわなければならないのは、結構精神を使いそうだよなぁ……。

 

これからの身の振り方を気を付けなきゃ最悪の場合、未来が消え失せそうな予感がガンガンする。あれだ、脳ミソが本能的にヤバいって警告してくれてるわ。

 

「あー、えっとね。俺とあこちゃんは……」

 

「「………」」

 

対面の二人の視線が集まる。加えて少し離れた所から、さっきの赤メッシュの女の子と灰色の髪の女の子にも見られている事に気付く。高速で活動を始める心臓をなんとか抑えつつ、言葉を吐き出していく。

 

「えっと、一緒に……、ゲームをしてる……友人、です!」

 

「「………」」

 

言葉を紡いでいる最中でも最善の発言を考えながら、相手に熱意を込めて伝えていく。あこちゃんと付き合う上で、決してやましい意図を持ってはいないという事を伝える為に……!

 

自然と強ばっている顔。バイトが終わってから着替えた筈なのに、極度の緊張による汗で背中に服が張り付いている。ペタペタしていて、とても気持ちが悪い。それ以上にこの状況の方が嫌だけど。

 

 

赤毛の子と見つめ合うこと数秒。

 

 

「……あこ、ホントか?」

 

「う、うん!ホントだよ!あこがよく行ってるゲーセンのバイトしてて、すっごく優しくしてくれるんだよ!」

 

やっとこっちに流れが来たので必死に弁解してくれるあこちゃん。あ、ありがたい……!まるで天使や……!

それを聞いて二人はまた顔を合わせて、こそこそと何かを話している。さっきよりも切羽詰まったような顔をして。……なんで?

 

ほ、ほら!やっぱり変な人じゃなさそうだよ?

そんな事は分かってる!けど……、あたしよりさきにあこに男ができるなんて信じたく無かっただけなんだよ!

それを言うなら私もなんだけど!

 

なんか、それ程命の危機を感じる必要は無かったかも知れん。こいつら残念な会話してるわ。いや、そんなキリッとした顔でこっち見んなって。さっきの会話が聞こえてないと思って仕切り直そうとするな、ばっちぇ聞こえてっから。

 

「あこ、本当だな?そいつに変な事されてないのか?」

「も〜っ!!お姉ちゃん心配しすぎだって!たいぞーさんはいい人なんだよ?」

「たいぞーって……、あんたの事か?」

「話の流れ的にそういう事だよ。吉崎泰三、ここの近所の羽丘の学生と、さっきもあこちゃんが言ってた通りゲーセンのバイトをしている、三年生だよ。以後、よろしくね?」

 

最後の一言を言い切ってから、二人の顔がみるみるうちに変色していく。そりゃもう鮮やかに、血気盛んに俺に食ってかかっていた時の赤みがかった顔は、見るも無残な青色になってしまった。いかにもやってしまった……!みたいな表情も添えて。

 

「は、羽丘の……、三年生……なんですか……?」

 

ピンク髪が恐る恐る尋ねてくる。その顔からは、「できれば聞き間違いであってください!」っていう願望が見て取れる。

 

「うん、そこの羽丘の三年生だよ」

 

 

その直後、店内は二つの悲鳴にも聞こえる声の謝罪で、瞬く間に凍り付いたのだった。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

「へぇ〜、巴ちゃんもバンドやってるんだね」

「そうなんです。ここに居るひまりと、あっちに居る蘭とモカ、それとここの手伝いをしてるつぐみと一緒にやってます」

「……で、そのバンドでドラムを叩いてる巴ちゃんに憧れて、あこちゃんも始めたんだ……って言ってたよね?」

「はい!覚えててくれたんですねっ」

 

その後なんだかんだで、普通にお茶会が始まった。詳しく話を聞いてみれば、俺の事をそこまで深くは疑っていなかったらしく、どちらかと言えば――。

 

「――それでそれで、あこちゃんとはどういう関係なんですか!?」

「ホントにただのゲーム友達だって。それ以上でもそれ以下でもないってのに……。ね、あこちゃん?」

「うぇ!?あ、えっとぉ……、はい……」

「……ん、あこどうした、具合悪いのか?」

「う、ううん!大丈夫だよっ」

「ホントに大丈夫?あこちゃん」

「だ、大丈夫ですっ!お気になさらずっ!」

 

そう、そっちの方を疑っていたらしい。俺があこちゃんの男なんじゃないか、悪い男に引っ掛けられてしまったのではないかと、妹の為を思っての行動だったって説明を受けている。まぁ完全に許してはあげないけど、それでも妹思いのいいお姉さんだっていう認識にはなったかな。

 

途中からあこちゃんの様子がおかしくなっちゃったけど、なにかあったのかな。本人が大丈夫って言ってるから、大丈夫なんだろうけど。

 

「あ、そうだ!いい機会なので、これを」

「!これは……」

「はい、私達のライブのチケットです!」

「この日って予定空いてますか?今日のお詫びって訳じゃ無いですけど、是非来て欲しいです」

 

手渡されたのは白い無地の封筒、その中身は彼女達のバンド――Afterglowのライブのチケットが収められていた。

 

「いいの?今日知り合ったばかりの怪しい男に渡しちゃって……」

「もう怪しいなんて思ってませんよ」

 

赤毛の女の子――宇田川巴はそう言いながら笑みを浮かべる。

 

「あこちゃんも来れるー?」

「はい!予定はばっちり空いてます!」

「じゃああこちゃんにもプレゼントだよ〜!」

 

隣ではピンク髪の女の子――上原ひまりがあこちゃんに、俺と同じように白い封筒を手渡していた。その中にはやはり彼女達のライブのチケットが。

 

「楽しみにしてますねっ!」

「うん、期待しててね!」

 

なんか……、微笑ましいな…。

 

「吉崎先輩も予定が空いていればで大丈夫なので」

「泰三でいいよ、苗字で呼ばれるとむず痒く感じる。呼び捨てでもいいから」

「い、いえ!流石に先輩なので……」

「じゃ泰三先輩って呼んでよ。だから俺も、ってか既に呼んでるけど巴ちゃんって呼ばせてもらうから」

「は……、はい、分かりました」

 

内心ドキドキしながら会話を進める。一日の間にこんなに長い時間女の子と話したのなんて、小学校以来だぞ……。なんか変な事とか言ってないよな?大丈夫だよな……?

 

「あ、じゃあ私も泰三先輩って呼ばせてもらってもいいですかぁ?」

「うん、いいよ、ひまりちゃん」

 

ひまりちゃんは巴ちゃんと比べて、グイグイと自分のパーソナルスペースに連れていくタイプの人間らしい。正直奥手の俺にはこれぐらいに来てくれた方がやりやすいや。

 

「巴ちゃん、ひまりちゃん!終わったよ〜!」

「おっ、つぐ!お疲れさん」

「つぐ〜!今日もおつかれさま〜!」

 

そこに、今日のお仕事を終えてさっき接客をしてくれた羽沢つぐみちゃんが席へとやって来た。慌ててきたって感じが満載で、さっきエプロンの下に着ていた服のままだった。

 

「はははっ、つぐ。服着替える時間ぐらい待ってるから、着替えていいぞ?」

「ほらほら、私達の事は気にしないでいいからっ」

「う、うん……。すぐ着替えてくるね!」

 

そうしてとたたたと、これまた慌てた様子で店の中へと入っていった。

 

「仲、良いんだね」

「アタシ達5人は昔っからずっと付き合いがありましたからね」

 

そう語った巴ちゃんの顔はその事を心の底から嬉しく思っているのか、自然と口元が緩んでいた。

 

 

★ ☆ ★ ☆

 

 

さっきまで机の向こうにいた二人は、つぐみちゃんに連れられて何処かへと――バンド練習だって言ってたし、スタジオにでも行ったのだろう。少し離れた席にいた赤メッシュと灰色の髪の女の子も一緒に。

 

「何かに夢中になっている奴ってのは、やっぱ輝いて見えるもんだよなぁ……」

 

ポツリと口をついて出た言葉は、誰にも届くこと無く遥か彼方の空へと消え去る。

 

 

決意を決めた俺は、止まっていた足を再び動かし始める。

 

後少しで見えなくなってしまいそうな夕陽が、陰として俺を映してくれる。足取りは軽い。

 

 

行先なんて――

 

「オラァン!!ゲリラ固定大会じゃァ!」

 

『ウェェェェェイッッ!!!』

 

俺が生きる糧にしてるのは、これを置いて他にはないわけだし。

 

まー、そういう事だよね。




眠気に襲われながら必死に書きまちた。



誤字あればおしえちぇ

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