猿と魔王の二重奏《タッグマッチ》 作:ジェリド・メサ
あれのメインバリバリウザすぎでクサイ。
――ここまでは良好な、実に良い試合展開だ。
敵低コストのライトニングなんたらを先落ちさせて残り耐久がミリの30横ムチオバケを、耐久にまだまだ余裕のある自分の高機動30全裸が追う展開。こちらの低コストであるインチキZアシスト呼出機は後ろでゲロビによる援護と、飛び上がる下格で卑怯に立ち回っている。
敵からすればどちらを狙うにせよリスクが伴う、加えてこちらの2機とも覚醒が半分溜まっていていつでも割ることが出来るのだ。ほぼ勝ち確ゲーと思われる。
しかし懸念すべきポイントもある。それはと言えば――。
「ハイ・バァァァァストォッ!!」
「来たぞ!避けろ艦長ッ!」
「あぁ〜^^イクイクイクゥ!!!E覚ぽきたしたぁ〜!」
「その着地、甘々ゾ?」
「ぎゃあああッ!無理無理カタツムリィ!」
油断していた相方に一出撃につき一回限りの超高火力ゲロビが見事にぶっ刺さり、それに気を取られた我が全裸もムチオバケの急接近からの格闘コンボを頂戴仕って、仲良く耐久を減らしてしまう。
「相方耐久14ッ!?うせやろ!?こんな局面で……」
「ここで覚醒していくゥ!」
「待って!助けて!待ってください!お願いします!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
「相方君!?」
「じゃあ俺、ギャラ貰って帰るから……(覚醒終了)」
「お前よーやった!それでこそ男や!」
敵低コストの2回目の覚醒をモロに貰った相方に金色が死に際に殺人アシストで一矢報いるが、流れるように先落ち。こうなると今度は、耐久が黄色になっている自機が狙われる展開になってしまう。
「覚醒吐いてぶっ殺してくる!」
「おっけ、援護する!」
「順落ちはヤバい!」
対面の瀕死30ムチ野郎が決死の覚醒を使って攻め立てて来る。さすがに捌けないと判断してこちらも覚醒を割って逃げの体勢。せめて相方が戻ってくるまでは耐え忍ばなければ……!
「やべやべ……。さすがに危なッ!?おいそのムチ当たってねぇよ!!おい!?」
「はいありがとございましたー、約250ダメしっかり頂きまぁす!」
「はー!相方やるYOOOOO!!!」
「覚醒落ち……、こりゃ終わったなー……」
えー、はい。終わりました。
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「惜しかったですね……、さっきの対戦」
「いやー、あの局面の格チャ撃つ判断は流石としか言えないわ……。作戦負けだよ」
「艦長さんの巻き返しも凄かったんですけど……」
「いやぁ〜、申し訳ナス!ガード間に合わんかった!」
「いいよいいよ、次だよ」
結局、覚醒を失った全裸が狙われてあえなく敗北。今は空き待ちしていた後ろの面々と交代して、リプレイモニターでプチ反省会with我らのアイドルあこちゃん。
残念そうな顔をしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねたり、手をわちゃわちゃさせたりして、いろいろとさっきの試合の感想を言ってくれるあこちゃんは、どうしても天使に見えてしまう……。これは仕方の無いことだ。
――あこちゃん自身は大魔王を自称しているみたいだし、PNにもその片鱗が溢れ出ているが。
まぁそれはそれとして可愛い(真理)。
「あっ!台空きましたよ!たいぞーさんあことやりましょ!」
「うん、いいよー。こんな格チャでワンチャン作られる相方は解雇じゃ解雇!」
「オォン!?聞き捨てならねぇなァ?」
「け、ケンカはやめてくださぁ〜いっ!」
「大丈夫あこちゃん、ジョークだよ。じゃ、また後で頼むわ」
「おうよ、こちらこそだぜ」
さっきの相方である艦長と一芸やり合った所で、今度はあこちゃんとの固定試合。あこちゃんは美しい白い翼を持った30機体を、それを見てから俺は全部乗せの境地である25機体を選択。このままオンラインの渦の中へと繰り出していく。
ちなみになぜあこちゃんにその機体を選んだのか聞いてみたところ、「翼が天使みたいでカッコイイじゃないですかっ!」とのこと。
おまかわ定期。
マッチングした相手の機体は最近のアップデートで修正の入った黒塗りの武闘格闘機と、これまた最近のアップデートで追加された新機体の中世の騎士風の機体。詰まるところ、相手のコンセプトは両前衛だ。相手のペースに乗せられてしまわないように落ち着いてプレイしなければ……。
「疑似タイの状況だけは避けよう!」
「わっかりました!あこが高コス中心に見ますね!」
「了解っ、じゃあこっちは騎士中心に見るけど要所要所でダブロしよう」
「了解ですっ!」
そうして、満足してホームのゲーセンを離脱出来たのは、時計の単身が6の文字を指し示そうとする頃になってしまった。
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「今日も固定、ありがとうございましたっ!」
「ううん、こちらこそ。頼りになったよ〜」
「ホントですかっ!?」
「うん、ホントホント。今日の艦長よりも良かったよー」
ゲーセンの集いも終わり、夜道をあこちゃん一人で帰らせるような事はしない俺は、責任を持って家まで送り届ける任務を遂行している。報酬はあこちゃんとの会話を楽しむ権利、ありがとうございます……!
「ただ、あこちゃんは低コスト乗ってる時敵を追いすぎる癖があるから、そこはやっぱり直した方が良いね。高コスの方からしてみれば、安心して前張れないからね」
「あぅ……。わ、わかりましたっ!頑張ってみます!」
「うんうん、その意気だよ」
こうやってアドバイスをしてあげると次固定する時にはだいたい直ってる事が多いから、どんどんあこちゃんも上手くなっていってるのがよく分かる。やっぱりあこちゃんには何かしらのセンスがあるのかもしれないなぁ……、単に迷惑掛けたくないって思ってるだけかもしれないけど。
「あ、それで話は変わるんですけど……」
「うん、どうしたの?」
妙に改まった雰囲気のあこちゃんに、自然と俺の表情も強ばってしまう。それと同時にどのような話題がの飛んでくるのか、少し気になる気持ちもあるけど。
「ら、ライブの日程が決まりましたっ!」
おおっ、ついにか……!
やっとあこちゃんのドラム捌きが、また見れる日が来るとは!
「だ、だから……、えっと、見に来てくれませんか……?」
心配そうな、不安そうな顔でお願いをしてくるあこちゃん。そんな顔しなくたって絶対いくって!
「大丈夫だよ、何があっても予定合わせて行くから。だから最後まで練習に気を抜いちゃダメだよ?」
「……っ!う、うんっ、あこ頑張る!」
「よしよし、頑張れ頑張れ」
わしわしとあこちゃんの頭を片手で撫でる。女の子特有のサラサラとした毛ざわりがなんとも……。おっと、やり過ぎるのもあこちゃんに「子供じゃないですっ!」って感じに怒られかねないからな。
「はい、おしまい」
「あっ……」
そう思って頭の上から手をどけると、あこちゃんは残念そうな顔を浮かべる。また今度、それもライブが終わったらね。彼女にそう伝えてあげると、もっともっと頑張ると言って、笑顔を見せてくれる。あー、ほんと可愛い、なんかまるで心が浄化されるような感覚になれる……!
「お〜い!あこー!」
「あっ、おねーちゃんっ!」
そろそろ家に到着しそうという所で、あこちゃんのお姉さんである巴さんが出迎えとして前から歩いて来ていた。
「泰三さん、今日もあこをありがとうございます」
「いやいや、こっちも色々助かってるから」
軽く挨拶をしてから言葉を交わして、後は巴さんが大丈夫だと言うからここでお別れという訳だが。
「たいぞーさん!またねーっ!」
「うん、またね」
やっぱり、どうも名残惜しく感じている俺がいる事は、自分でも感じている。
――いや、それってさ。ただ単にチンパンプレイが楽しすぎるだけじゃね?
やっとの事で少尉5に上がったけど、そっからがキツすぎてやばい……。
少尉と中尉の壁の厚さが半端じゃないわ……